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結ばれた手と手
掲げられたもの・5
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それは、今までユウがレイに対して抱いていた印象を全て拭い去るほどに冷たい声色だった。
人が変わった、というより人ではなくなった。彼は魔族に相対するその瞬間から人の形をした一振りの剣になっていた。
意志薄弱な者ならば聞いただけで身が竦むような冷たい声色を受けて、それでもユウは引かなかった。それほど強い意思を持ってそこに立っているのか、それとも声色に秘められた殺意に気づけぬほど鈍感なのか。
「魔族ってのは言葉が分かるんやろ?やったらまずは話をして、なんでこんなことしたんやって聞かんと!」
「人間の言葉を解すわけじゃない。それに、人間を襲うのはこいつらにとっての狩りだ」
未だ硬直している小鬼族から目を離さず、レイは続ける。
「こいつらは生産性を持たない。奪うことでしか生きられない。だから人を襲う。そんなやつとどこに話をする余地がある?」
「やったら!なおさらやんか!うちらが助けてあげたら人を襲うことはないってことやろ!?」
さしもの騎士も、その言葉には呆れを通り越して落胆を隠しきれなかった。
「魔族領が嫌で逃げてきたんやろ?やったら保護してあげたらええやん!食べ物の作り方が分からんのやったら教えてやったらええ!それぐらいケチケチすることないやんか!」
声を荒げて小鬼族をかばうユウを見て、レイは彼女には根本的な理解ができていないのだと分かった。
彼女は魔族が人間をどう思っているのかを理解していない。
だからこそのこの行動なのだろう。レイとセラが見ている前で、ユウは小鬼族に身体を向けた。
突然前に出てきた人間の子供に小鬼族が困惑しているのは誰の目から見ても明らかだった。どうすればいいのか分からず、されど動けば殺されるという状況は変わらないので動けずにいる。
「なぁ、お腹が減ってたんか?やったらうちが分けてあげるさかい、もうこんなことはせんといて欲しいねん」
そう言ってユウは腰に吊っていた麻袋から一欠けらの干し肉を取り出した。最初から彼女はこうするつもりだった。そのつもりで宿屋から食料を持ってきていたのだ。
干し肉を手にし、一歩、二歩と小鬼族に近づいていくユウ。
「ちょっとレイ!」
後ろでセラが声を荒げる。このままでは危険だと思ったのだ。
「……………」
だが騎士は動かない。ユウがあまりにも無謀で無茶な行動をしようとしているにも関わらずだ。
レイは昨日のことを思い出していた。昨日起こったありえない奇跡を。
駆除するしかなかったはずのスライム達はその場から逃げることで難を逃れた。それは結果としてユウのスライム達を助けたいという願いに沿った形である。
それがレイには、ユウがスライム達を操ったように見えた。それが命令という絶対的な行動指示という形であったかどうかはともかく、ユウの意思がなんらかの形で彼らの行動に影響を与えたのは確かだと思っている。
ユウには魔物を操る力があるのかもしれない。だが、もし、それがそれ以上の力なのだとしたら。
魔物ではなく魔族をも手懐けるような力だったとしたら。
あり得ない話ではないはずだ。勇者は世界を救う運命にある者なのだから、彼女がどんな力を持っていたとしても不思議はない。そうであるならば彼女が不自然に魔物や魔族に肩入れするのも頷ける。それらが御しうる存在であると分かっているからこそ歩み寄っていくのではないかと。
でなければこんな薄気味悪い生物に対話を試みるなどするだろうか、と。
レイは騎士だった。それゆえに、誰よりも人間と魔族との争いが終結し、罪のない人々の命が奪われることのない世界の到来を願っていた。
だから期待してしまった。だから動かず静観を決めた。
それが間違いだった。
鈍い音が響いた。
遅れて干し肉が地面に落ちる音。
「――ッ!」
ユウが干し肉を持っていた右手を抑えて蹲った。
人が変わった、というより人ではなくなった。彼は魔族に相対するその瞬間から人の形をした一振りの剣になっていた。
意志薄弱な者ならば聞いただけで身が竦むような冷たい声色を受けて、それでもユウは引かなかった。それほど強い意思を持ってそこに立っているのか、それとも声色に秘められた殺意に気づけぬほど鈍感なのか。
「魔族ってのは言葉が分かるんやろ?やったらまずは話をして、なんでこんなことしたんやって聞かんと!」
「人間の言葉を解すわけじゃない。それに、人間を襲うのはこいつらにとっての狩りだ」
未だ硬直している小鬼族から目を離さず、レイは続ける。
「こいつらは生産性を持たない。奪うことでしか生きられない。だから人を襲う。そんなやつとどこに話をする余地がある?」
「やったら!なおさらやんか!うちらが助けてあげたら人を襲うことはないってことやろ!?」
さしもの騎士も、その言葉には呆れを通り越して落胆を隠しきれなかった。
「魔族領が嫌で逃げてきたんやろ?やったら保護してあげたらええやん!食べ物の作り方が分からんのやったら教えてやったらええ!それぐらいケチケチすることないやんか!」
声を荒げて小鬼族をかばうユウを見て、レイは彼女には根本的な理解ができていないのだと分かった。
彼女は魔族が人間をどう思っているのかを理解していない。
だからこそのこの行動なのだろう。レイとセラが見ている前で、ユウは小鬼族に身体を向けた。
突然前に出てきた人間の子供に小鬼族が困惑しているのは誰の目から見ても明らかだった。どうすればいいのか分からず、されど動けば殺されるという状況は変わらないので動けずにいる。
「なぁ、お腹が減ってたんか?やったらうちが分けてあげるさかい、もうこんなことはせんといて欲しいねん」
そう言ってユウは腰に吊っていた麻袋から一欠けらの干し肉を取り出した。最初から彼女はこうするつもりだった。そのつもりで宿屋から食料を持ってきていたのだ。
干し肉を手にし、一歩、二歩と小鬼族に近づいていくユウ。
「ちょっとレイ!」
後ろでセラが声を荒げる。このままでは危険だと思ったのだ。
「……………」
だが騎士は動かない。ユウがあまりにも無謀で無茶な行動をしようとしているにも関わらずだ。
レイは昨日のことを思い出していた。昨日起こったありえない奇跡を。
駆除するしかなかったはずのスライム達はその場から逃げることで難を逃れた。それは結果としてユウのスライム達を助けたいという願いに沿った形である。
それがレイには、ユウがスライム達を操ったように見えた。それが命令という絶対的な行動指示という形であったかどうかはともかく、ユウの意思がなんらかの形で彼らの行動に影響を与えたのは確かだと思っている。
ユウには魔物を操る力があるのかもしれない。だが、もし、それがそれ以上の力なのだとしたら。
魔物ではなく魔族をも手懐けるような力だったとしたら。
あり得ない話ではないはずだ。勇者は世界を救う運命にある者なのだから、彼女がどんな力を持っていたとしても不思議はない。そうであるならば彼女が不自然に魔物や魔族に肩入れするのも頷ける。それらが御しうる存在であると分かっているからこそ歩み寄っていくのではないかと。
でなければこんな薄気味悪い生物に対話を試みるなどするだろうか、と。
レイは騎士だった。それゆえに、誰よりも人間と魔族との争いが終結し、罪のない人々の命が奪われることのない世界の到来を願っていた。
だから期待してしまった。だから動かず静観を決めた。
それが間違いだった。
鈍い音が響いた。
遅れて干し肉が地面に落ちる音。
「――ッ!」
ユウが干し肉を持っていた右手を抑えて蹲った。
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