17 / 115
結ばれた手と手
掲げられたもの・5
しおりを挟む
それは、今までユウがレイに対して抱いていた印象を全て拭い去るほどに冷たい声色だった。
人が変わった、というより人ではなくなった。彼は魔族に相対するその瞬間から人の形をした一振りの剣になっていた。
意志薄弱な者ならば聞いただけで身が竦むような冷たい声色を受けて、それでもユウは引かなかった。それほど強い意思を持ってそこに立っているのか、それとも声色に秘められた殺意に気づけぬほど鈍感なのか。
「魔族ってのは言葉が分かるんやろ?やったらまずは話をして、なんでこんなことしたんやって聞かんと!」
「人間の言葉を解すわけじゃない。それに、人間を襲うのはこいつらにとっての狩りだ」
未だ硬直している小鬼族から目を離さず、レイは続ける。
「こいつらは生産性を持たない。奪うことでしか生きられない。だから人を襲う。そんなやつとどこに話をする余地がある?」
「やったら!なおさらやんか!うちらが助けてあげたら人を襲うことはないってことやろ!?」
さしもの騎士も、その言葉には呆れを通り越して落胆を隠しきれなかった。
「魔族領が嫌で逃げてきたんやろ?やったら保護してあげたらええやん!食べ物の作り方が分からんのやったら教えてやったらええ!それぐらいケチケチすることないやんか!」
声を荒げて小鬼族をかばうユウを見て、レイは彼女には根本的な理解ができていないのだと分かった。
彼女は魔族が人間をどう思っているのかを理解していない。
だからこそのこの行動なのだろう。レイとセラが見ている前で、ユウは小鬼族に身体を向けた。
突然前に出てきた人間の子供に小鬼族が困惑しているのは誰の目から見ても明らかだった。どうすればいいのか分からず、されど動けば殺されるという状況は変わらないので動けずにいる。
「なぁ、お腹が減ってたんか?やったらうちが分けてあげるさかい、もうこんなことはせんといて欲しいねん」
そう言ってユウは腰に吊っていた麻袋から一欠けらの干し肉を取り出した。最初から彼女はこうするつもりだった。そのつもりで宿屋から食料を持ってきていたのだ。
干し肉を手にし、一歩、二歩と小鬼族に近づいていくユウ。
「ちょっとレイ!」
後ろでセラが声を荒げる。このままでは危険だと思ったのだ。
「……………」
だが騎士は動かない。ユウがあまりにも無謀で無茶な行動をしようとしているにも関わらずだ。
レイは昨日のことを思い出していた。昨日起こったありえない奇跡を。
駆除するしかなかったはずのスライム達はその場から逃げることで難を逃れた。それは結果としてユウのスライム達を助けたいという願いに沿った形である。
それがレイには、ユウがスライム達を操ったように見えた。それが命令という絶対的な行動指示という形であったかどうかはともかく、ユウの意思がなんらかの形で彼らの行動に影響を与えたのは確かだと思っている。
ユウには魔物を操る力があるのかもしれない。だが、もし、それがそれ以上の力なのだとしたら。
魔物ではなく魔族をも手懐けるような力だったとしたら。
あり得ない話ではないはずだ。勇者は世界を救う運命にある者なのだから、彼女がどんな力を持っていたとしても不思議はない。そうであるならば彼女が不自然に魔物や魔族に肩入れするのも頷ける。それらが御しうる存在であると分かっているからこそ歩み寄っていくのではないかと。
でなければこんな薄気味悪い生物に対話を試みるなどするだろうか、と。
レイは騎士だった。それゆえに、誰よりも人間と魔族との争いが終結し、罪のない人々の命が奪われることのない世界の到来を願っていた。
だから期待してしまった。だから動かず静観を決めた。
それが間違いだった。
鈍い音が響いた。
遅れて干し肉が地面に落ちる音。
「――ッ!」
ユウが干し肉を持っていた右手を抑えて蹲った。
人が変わった、というより人ではなくなった。彼は魔族に相対するその瞬間から人の形をした一振りの剣になっていた。
意志薄弱な者ならば聞いただけで身が竦むような冷たい声色を受けて、それでもユウは引かなかった。それほど強い意思を持ってそこに立っているのか、それとも声色に秘められた殺意に気づけぬほど鈍感なのか。
「魔族ってのは言葉が分かるんやろ?やったらまずは話をして、なんでこんなことしたんやって聞かんと!」
「人間の言葉を解すわけじゃない。それに、人間を襲うのはこいつらにとっての狩りだ」
未だ硬直している小鬼族から目を離さず、レイは続ける。
「こいつらは生産性を持たない。奪うことでしか生きられない。だから人を襲う。そんなやつとどこに話をする余地がある?」
「やったら!なおさらやんか!うちらが助けてあげたら人を襲うことはないってことやろ!?」
さしもの騎士も、その言葉には呆れを通り越して落胆を隠しきれなかった。
「魔族領が嫌で逃げてきたんやろ?やったら保護してあげたらええやん!食べ物の作り方が分からんのやったら教えてやったらええ!それぐらいケチケチすることないやんか!」
声を荒げて小鬼族をかばうユウを見て、レイは彼女には根本的な理解ができていないのだと分かった。
彼女は魔族が人間をどう思っているのかを理解していない。
だからこそのこの行動なのだろう。レイとセラが見ている前で、ユウは小鬼族に身体を向けた。
突然前に出てきた人間の子供に小鬼族が困惑しているのは誰の目から見ても明らかだった。どうすればいいのか分からず、されど動けば殺されるという状況は変わらないので動けずにいる。
「なぁ、お腹が減ってたんか?やったらうちが分けてあげるさかい、もうこんなことはせんといて欲しいねん」
そう言ってユウは腰に吊っていた麻袋から一欠けらの干し肉を取り出した。最初から彼女はこうするつもりだった。そのつもりで宿屋から食料を持ってきていたのだ。
干し肉を手にし、一歩、二歩と小鬼族に近づいていくユウ。
「ちょっとレイ!」
後ろでセラが声を荒げる。このままでは危険だと思ったのだ。
「……………」
だが騎士は動かない。ユウがあまりにも無謀で無茶な行動をしようとしているにも関わらずだ。
レイは昨日のことを思い出していた。昨日起こったありえない奇跡を。
駆除するしかなかったはずのスライム達はその場から逃げることで難を逃れた。それは結果としてユウのスライム達を助けたいという願いに沿った形である。
それがレイには、ユウがスライム達を操ったように見えた。それが命令という絶対的な行動指示という形であったかどうかはともかく、ユウの意思がなんらかの形で彼らの行動に影響を与えたのは確かだと思っている。
ユウには魔物を操る力があるのかもしれない。だが、もし、それがそれ以上の力なのだとしたら。
魔物ではなく魔族をも手懐けるような力だったとしたら。
あり得ない話ではないはずだ。勇者は世界を救う運命にある者なのだから、彼女がどんな力を持っていたとしても不思議はない。そうであるならば彼女が不自然に魔物や魔族に肩入れするのも頷ける。それらが御しうる存在であると分かっているからこそ歩み寄っていくのではないかと。
でなければこんな薄気味悪い生物に対話を試みるなどするだろうか、と。
レイは騎士だった。それゆえに、誰よりも人間と魔族との争いが終結し、罪のない人々の命が奪われることのない世界の到来を願っていた。
だから期待してしまった。だから動かず静観を決めた。
それが間違いだった。
鈍い音が響いた。
遅れて干し肉が地面に落ちる音。
「――ッ!」
ユウが干し肉を持っていた右手を抑えて蹲った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる