剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

文字の大きさ
19 / 115
結ばれた手と手

掲げられたもの・7

しおりを挟む
 閉じた瞼に光を感じ、彼女は目を覚ました。

 鳥のさえずりも聴こえない曇り空。紗幕しゃまく越しの日の光がデマリ村を照らし、そこで暮らす人々にまた新しい一日の始まりを告げる。

 ベッドから上半身を起こしたセラは、しばし額に手を当てて動きを止めた。眉間には不機嫌そうなしわは寄っている。寝起きが極めて悪いのだ。

 しばらくその体勢でじっとしていたセラだが、やっと起きる決心がついたのか、瞳を開く。

 そしてなんとなしに隣のベッドに視線をやり、硬直。

 ――そこにいるはずの人影がない。

 寝ぼけていた頭に急速に血が廻っていく。今まで彼女より早くユウが目覚めていたことなどなかった。考えうる最悪の事態が頭を過る。

 ダルさの残る身体に鞭打ち、ベッドから跳び降りる。ユウの寝ていたベッドに手をかざすが、熱が籠っていない。用を足しに行っているわけではない。そこから起きてしばらく時間が経過している。予感は確信に変わった。

 勢いよく戸を開くと廊下に騎士の姿があった。

「おっと!なんだ、どうした?」

 日課である朝の鍛錬に行くところなのだろう、すっかり朝の支度も終えている様子のレイが突然開いた扉に目を白黒させている。

 なぜ気付けなかった。

 自責の念に押しつぶされそうになりながらも、絞り出すようにセラは叫んだ。

「――ユウがいないッ!!」




 朝靄に濡れた森の中を彼女は歩いていた。湿ったの土の香りと草木の吐息、深く息を吸い込むとひんやりとした空気が慣れない森歩きで火照った身体を冷やしてくれる。

 少し立ち止まって空を見上げる。灰を撒かれたような空はそれでも確かに光を届けてくれる。そろそろ二人が起きる頃だろうか。

 夜が明ける前に宿を抜け出したユウは、再び横転した馬車までやってきた。ユウが一人で向かうことに村の出入り口を警備していた自警団は少なからず疑問を抱いたようだが、レイの指示だと言うと問題なく通してくれた。

 デマリの人々にとっては騎士と行動を共にしているこの異装の少女は得体の知れない存在だった。

 見たことのない髪、瞳の色。言葉の不思議ななまり。しかも昨日はスライムを連れ歩いていたという。そして何よりも、一の騎士団ナイツ・オブ・ザ・ワンと魔法師を連れ歩いているという護衛の厳重さ。村人達が何かしら特別な地位にある人物なのではないかと邪推するのも無理からぬことだろう。仮にどこかの貴族の令嬢だった場合、門を通してくれなかったとあとで難癖をつけられて首を跳ねられたらたまったものではない。

 薄明かりの中、馬車までやってきたユウは馬の血の痕を辿った。レイが言っていた血の跡を辿ればねぐらの場所が分かるという言葉を覚えていたのだ。

 もっとも、馬を持ち去ったのは小鬼族ゴブリンではないだろうというレイの考えまでは読み取れていない。馬を襲った何かの存在など頭から抜け落ちてしまっていた。

 最初は太く、濃いライン。それが距離を経るごとに細くなっていく。次第にそれも消えかかってくるが、馬という大きな動物の死骸を引き摺った跡は早々消えるものではない。

 街道からそれほど離れることなく、ユウは目的の場所まで辿り着いた。

 森の中、不意に拓けた場所。そこにぽっかりと口を開けた洞穴があった。馬を引き摺った跡がその奥の暗闇へと続いている。

 洞穴の前に広がる拓けた空間には布の切れ端や木くず、破れた革袋などが散らばっている。ここが小鬼族のねぐらだというのは間違いない。

 ユウが洞穴に近づくと、踏みしめた落ち葉が音を鳴らした。その音を聞きつけ、洞穴に入らなくともユウが探していた者達が暗闇の奥から姿を現す。

「――こんな朝早くにごめんなぁ」

 ユウが語り掛けるが、それに返答はない。

 洞穴から出てきた小鬼族は四体。いずれも武器らしい武器は棍棒のみ。微妙な体格差や個体差はあるが、ユウにはその中のどれが昨日あった小鬼族なのかは見分けがつかなかった。

 小鬼族の一体が何やら隣の小鬼族と言葉を交わす。高く、かすれた声。今まで聞いたことのない不思議な言語で、ユウにはさっぱり理解できない。

 ただ小鬼族達が困惑しているのは見てとれた。人間が報復にくるのは分かる。だが、こんなひ弱そうな子供が来るのは不可解だ、と。

「昨日はゴメンな。剣向けられてたら、そりゃ怖いよなぁ。でも今日は丸腰やさかい」

 そう言ってユウは両手を上げて見せる。

 その様子を見やった小鬼族達は、武器を構えつつゆっくりと動き始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...