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結ばれた手と手
掲げられたもの・8
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全員ユウから視線を外さず、ジリジリと慎重に。前後左右、完全にユウを包囲する形へ。
小鬼族達はこの不可解な人間の子供は何かしらの罠なのではないと警戒していた。
彼らに包囲されつつも、ユウはまったく動じた様子がなかった。小柄とはいえ異形の化物に囲まれているにも関わらず、だ。この場に第三者がいたならばこの娘は恐怖を感じないのかと目を疑ったことだろう。
実際、ユウは恐怖を感じてはいなかった。それは今に限ったことではない。
野盗に襲われた時もそう、もちろん初めて小鬼族の姿を見た時も。この世界に召喚されて、まだ一度も彼女は恐怖という感情を抱いていない――。
「ほら、今日も持ってきてん。お腹空いてるんやろ?皆の分にはちと足りんかもしれんけど、そやったらまた持ってくるから」
そう言って、また干し肉を差し出す。
差し出された小鬼族はそれをまじまじと見やった。
「魔族領からここまでよぉ逃げてきたなぁ。でももう大丈夫。うちが守ってあげる。うちこれでも勇者やさかい、王様に頼んでどっか静かに暮らせるところを用意してもらうわ。リンちゃんのパパやし、それぐらいの我がまま聞いてくれるやろ」
言葉が通じるかどうか、というのはあまり大きな問題ではない。重要なのは、争うつもりがないということが伝わるかどうか。
小鬼族はそれが食べ物だと分かると生唾を飲み込んだ。奇しくもユウが干し肉を差し出したのは昨日出会った個体と同じ小鬼族だった。彼はまだ若く、獲物の配当がもっとも最後であり量も少ない。故にいつも空腹だった。
昨日はそれが食べ物だと認識するような余裕すらなかった。だが今は違う。相手は無力な人間の子供一人。反撃してきてもこんな子供に何ができる?
物陰に昨日の騎士が隠れていないとも限らないが、少なくとも今はあの恐ろしい気迫は感じない。ならば、この人間の狙いがなんだとしてもこの肉を手にとって問題はないのではないか。
おずおずと伸ばされる枯れ枝のような指先。
ユウはそれを微笑んで受け入れた。その刹那。
――気が付くと冷たい地面に横たわっていた。倒れ込んだ拍子に入り込んだのか、口の中に土が入り込んで不快な異物感に吐き気がした。
同時に、後頭部がカァッと熱くなる。それで自分が後頭部を殴られたのだと分かった。少しすると自分の鼓動に合わせて殴られた場所がズキズキと強く痛みだす。
暗転した視界に光が戻ってくると、自分を取り囲む小鬼族達の姿が見えた。ユウが渡した干し肉を取り合って喧嘩をしているように見える。
(ああ……失敗したんか……)
少し靄がかかった意識の中で、ユウは自分が交渉に失敗したことを知った。
血は出ているだろうか。ほとんど無意識に、ユウは自分の頭部を触ろうと腕に力を込めた。だがそれは、小鬼族達には起き上がろうとしているように思えたらしい。喧嘩をやめてユウに向き直る。
ユウは顔だけ起こして、依然警戒する小鬼族達に弱弱しい笑みを見せた。
「そんな、怖がらんでも、ええやんか……うちは、仲よぉしたいだけやねん……」
彼女の言葉は届かない。その姿は、彼らには命乞いをしているように見えたかもしれない。
また、棍棒が振り上げられた。例え無力な人間の子供だとしても、それが命乞いをしていようとも、彼らにそれを振り下ろさない道理はなかった。
それが魔族だ。人間の敵だ。彼らに慈悲は存在しない。人間が彼らに対してそれを持たないように。
今度は正面から振るわれようとする棍棒。その軌跡を目で追いつつ、ユウは死ぬかもしれないなと思った。
その瞬間、彼女の脳裏に過去の記憶が蘇る。走馬燈というものが実在するのかと驚く間もなく、彼女の意識は本来彼女が生まれた世界へと回帰した。
小鬼族達はこの不可解な人間の子供は何かしらの罠なのではないと警戒していた。
彼らに包囲されつつも、ユウはまったく動じた様子がなかった。小柄とはいえ異形の化物に囲まれているにも関わらず、だ。この場に第三者がいたならばこの娘は恐怖を感じないのかと目を疑ったことだろう。
実際、ユウは恐怖を感じてはいなかった。それは今に限ったことではない。
野盗に襲われた時もそう、もちろん初めて小鬼族の姿を見た時も。この世界に召喚されて、まだ一度も彼女は恐怖という感情を抱いていない――。
「ほら、今日も持ってきてん。お腹空いてるんやろ?皆の分にはちと足りんかもしれんけど、そやったらまた持ってくるから」
そう言って、また干し肉を差し出す。
差し出された小鬼族はそれをまじまじと見やった。
「魔族領からここまでよぉ逃げてきたなぁ。でももう大丈夫。うちが守ってあげる。うちこれでも勇者やさかい、王様に頼んでどっか静かに暮らせるところを用意してもらうわ。リンちゃんのパパやし、それぐらいの我がまま聞いてくれるやろ」
言葉が通じるかどうか、というのはあまり大きな問題ではない。重要なのは、争うつもりがないということが伝わるかどうか。
小鬼族はそれが食べ物だと分かると生唾を飲み込んだ。奇しくもユウが干し肉を差し出したのは昨日出会った個体と同じ小鬼族だった。彼はまだ若く、獲物の配当がもっとも最後であり量も少ない。故にいつも空腹だった。
昨日はそれが食べ物だと認識するような余裕すらなかった。だが今は違う。相手は無力な人間の子供一人。反撃してきてもこんな子供に何ができる?
物陰に昨日の騎士が隠れていないとも限らないが、少なくとも今はあの恐ろしい気迫は感じない。ならば、この人間の狙いがなんだとしてもこの肉を手にとって問題はないのではないか。
おずおずと伸ばされる枯れ枝のような指先。
ユウはそれを微笑んで受け入れた。その刹那。
――気が付くと冷たい地面に横たわっていた。倒れ込んだ拍子に入り込んだのか、口の中に土が入り込んで不快な異物感に吐き気がした。
同時に、後頭部がカァッと熱くなる。それで自分が後頭部を殴られたのだと分かった。少しすると自分の鼓動に合わせて殴られた場所がズキズキと強く痛みだす。
暗転した視界に光が戻ってくると、自分を取り囲む小鬼族達の姿が見えた。ユウが渡した干し肉を取り合って喧嘩をしているように見える。
(ああ……失敗したんか……)
少し靄がかかった意識の中で、ユウは自分が交渉に失敗したことを知った。
血は出ているだろうか。ほとんど無意識に、ユウは自分の頭部を触ろうと腕に力を込めた。だがそれは、小鬼族達には起き上がろうとしているように思えたらしい。喧嘩をやめてユウに向き直る。
ユウは顔だけ起こして、依然警戒する小鬼族達に弱弱しい笑みを見せた。
「そんな、怖がらんでも、ええやんか……うちは、仲よぉしたいだけやねん……」
彼女の言葉は届かない。その姿は、彼らには命乞いをしているように見えたかもしれない。
また、棍棒が振り上げられた。例え無力な人間の子供だとしても、それが命乞いをしていようとも、彼らにそれを振り下ろさない道理はなかった。
それが魔族だ。人間の敵だ。彼らに慈悲は存在しない。人間が彼らに対してそれを持たないように。
今度は正面から振るわれようとする棍棒。その軌跡を目で追いつつ、ユウは死ぬかもしれないなと思った。
その瞬間、彼女の脳裏に過去の記憶が蘇る。走馬燈というものが実在するのかと驚く間もなく、彼女の意識は本来彼女が生まれた世界へと回帰した。
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