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結ばれた手と手
掲げられたもの・10
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棍棒がユウの顔面を打ち据えることはなかった。
もはや見慣れた薄桃色が寸前で小鬼族を突き飛ばしたのだ。その痛みを伴わない体当たりが見た目以上の重量と衝撃を内包していることをユウはよく知っている。
砂埃を上げて小鬼族が地面にごろごろと転がった。まるで初めてユウとそれが邂逅したあの時のように。
「さくらもち……」
小鬼族を突き飛ばしたそのスライムの名をユウが呟く。昨日宿で留守番をさせて以降、目に入ってはいたが気にしている余裕もなく意識の外へと追いやってしまっていた。
しかしたとえユウが構ってくれなくとも、このスライムはずっとユウの側にいた。今朝ユウが宿を抜け出した時も、当然のように彼女の後を付いてきていたのだ。
困惑したの小鬼族だった。突き飛ばされた一匹は派手には吹っ飛びはしたものの大きな怪我はない。だが、地面に座り込んだ状態のまま、突然現れた小さな魔物に目を白黒させている。
それは彼らにとってもあり得ない光景だった。
魔族達にとってさえ何を考えているか、どういう行動原理をしているか分かっていないスライムが明らかに人間に味方するような素振りを見せている。
このスライムはいったいなんなんだ?
この人間はいったいなんなんだ?
二つの疑問が小鬼族達の動きを止めた。彼らの言語が頭上を飛び交い、騒然とする場の中心にいて、ユウは遠くの方から草木を掻き分け走ってくる足音を聴いた。
「ユウーーーーッ!!」
次いで響いた声に小鬼族達は喋るのをやめて一斉に声のした方向に振り向いた。
ユウと同じように血の跡を辿り、勇者の護衛がやってきたのだ。
洞穴前の広場へと進み出たレイはそこにユウがいることに一瞬安堵しつつも、すぐに怒りに眉根を寄せた。地面に這いつくばった状態のユウを見て、何があったのかある程度察したのだ。
レイから遅れること数秒、セラもそこへと辿り着く。少し息の上がった様子の彼女も小鬼族へと怒りを隠そうとしなかった。呼吸が乱れていなければすぐにでも呪文を口にしかねない。
「――説教は後だ。今はこいつらの首を落す」
恐ろしく無機質で冷たいその声色が小鬼族達の背筋を凍らせた。その一言だけ付近一帯の温度が数度下がったかのような錯覚を受ける。
背中からスラリと抜き放たれた長剣が曇天の元で鈍い輝きを放った。その輝きに今までどれほどの数の魔族が飲み込まれたのだろうか。
「や、めて……!レイ君……!まだ、ちゃんと話せてないからッ……」
掠れ、途切れがちの声。叫ぶというにはあまりに弱弱しく。血こそ見える範囲では流れていないが、額には脂汗が浮かび、時折引き攣ったように頬が痙攣している。
加えて地面に這いつくばったその体勢、ユウが負傷していることは明らかだった。そしてその原因が小鬼族だろうということも。
騎士が噛みしめた奥歯がギリッと音を立てた。
「――どうして、どうしてそんなになってまでこいつらをかばう!?こいつらは魔族だぞ!俺達人間の敵だ!それは昨日と今日で身をもって知ったはずだッ!」
最初の一回ぐらいなら、魔族のことをよく知っていないということで済ませることもできたかもしれない。だが今は違う。言葉の通じる相手ではないと分かっていたはずだ。いや、たとえ言葉が通じたとしても話し合いに応じるような連中ではない。
一度武器を振るわれた相手にどうしてこうも無防備に近寄っていける?こんな醜悪な化物に話し合いで和解しようなどどうして考えられる?
もはや見慣れた薄桃色が寸前で小鬼族を突き飛ばしたのだ。その痛みを伴わない体当たりが見た目以上の重量と衝撃を内包していることをユウはよく知っている。
砂埃を上げて小鬼族が地面にごろごろと転がった。まるで初めてユウとそれが邂逅したあの時のように。
「さくらもち……」
小鬼族を突き飛ばしたそのスライムの名をユウが呟く。昨日宿で留守番をさせて以降、目に入ってはいたが気にしている余裕もなく意識の外へと追いやってしまっていた。
しかしたとえユウが構ってくれなくとも、このスライムはずっとユウの側にいた。今朝ユウが宿を抜け出した時も、当然のように彼女の後を付いてきていたのだ。
困惑したの小鬼族だった。突き飛ばされた一匹は派手には吹っ飛びはしたものの大きな怪我はない。だが、地面に座り込んだ状態のまま、突然現れた小さな魔物に目を白黒させている。
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このスライムはいったいなんなんだ?
この人間はいったいなんなんだ?
二つの疑問が小鬼族達の動きを止めた。彼らの言語が頭上を飛び交い、騒然とする場の中心にいて、ユウは遠くの方から草木を掻き分け走ってくる足音を聴いた。
「ユウーーーーッ!!」
次いで響いた声に小鬼族達は喋るのをやめて一斉に声のした方向に振り向いた。
ユウと同じように血の跡を辿り、勇者の護衛がやってきたのだ。
洞穴前の広場へと進み出たレイはそこにユウがいることに一瞬安堵しつつも、すぐに怒りに眉根を寄せた。地面に這いつくばった状態のユウを見て、何があったのかある程度察したのだ。
レイから遅れること数秒、セラもそこへと辿り着く。少し息の上がった様子の彼女も小鬼族へと怒りを隠そうとしなかった。呼吸が乱れていなければすぐにでも呪文を口にしかねない。
「――説教は後だ。今はこいつらの首を落す」
恐ろしく無機質で冷たいその声色が小鬼族達の背筋を凍らせた。その一言だけ付近一帯の温度が数度下がったかのような錯覚を受ける。
背中からスラリと抜き放たれた長剣が曇天の元で鈍い輝きを放った。その輝きに今までどれほどの数の魔族が飲み込まれたのだろうか。
「や、めて……!レイ君……!まだ、ちゃんと話せてないからッ……」
掠れ、途切れがちの声。叫ぶというにはあまりに弱弱しく。血こそ見える範囲では流れていないが、額には脂汗が浮かび、時折引き攣ったように頬が痙攣している。
加えて地面に這いつくばったその体勢、ユウが負傷していることは明らかだった。そしてその原因が小鬼族だろうということも。
騎士が噛みしめた奥歯がギリッと音を立てた。
「――どうして、どうしてそんなになってまでこいつらをかばう!?こいつらは魔族だぞ!俺達人間の敵だ!それは昨日と今日で身をもって知ったはずだッ!」
最初の一回ぐらいなら、魔族のことをよく知っていないということで済ませることもできたかもしれない。だが今は違う。言葉の通じる相手ではないと分かっていたはずだ。いや、たとえ言葉が通じたとしても話し合いに応じるような連中ではない。
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