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結ばれた手と手
掲げられたもの・15
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年老いた母、それはその言葉通り、年齢を経た雌の小鬼族である。
小鬼族の生態として一匹の雌を中心にした群れを形成することが知られている。群れを構成する小鬼族のほとんどはその雌の子供であり、彼らに守られてその雌は新たな子を産み、生涯を子育てに費やす。幾度にも及ぶ出産に耐えられるようにその身体は通常の小鬼族よりも強靭であり、群れを取りまとめるリーダーとして知能も高い。当然寿命も長く、普通の小鬼族と違って進んで戦うこともないので外的要因で命を落とすことも少ない。
そんな小鬼族の雌の中でもとりわけ長く生き、閉経して母としての役目を喪ったのが年老いた母である。
子育てから解放された彼女らはその過ごした歳月から得た知識で新たな母を助け、群れの危機には魔法を用いて戦う用心棒としての役目を持つという。魔法という力を得た彼女らは小鬼族としては破格の戦闘能力を持ち、小鬼族だけだと思って襲い掛かった人間が返り討ちにされたという話は少なくない。
「レイ、気を付けて」
「言われるまでもない」
油断なく長剣を構えなおしたレイに向かって、セラの腕に抱かれたユウが叫んだ。
「やめてッ……!もし、もし言葉が分かるなら、うちと話をさせてっ……」
その言葉に、レイよりも先に彼女が反応した。
「――ナンダ、人間」
高く、そして皺がれた声だった。だが確かにその小鬼族はそう言った。確かな叡智を湛えた瞳をユウの方へ向けながら。
相手に会話をする意思があると見てとったユウは、思いの丈を口にした。
「貴女は、争うことが嫌で、魔族領から逃げてきたんとちゃうんか……?やのに、やのになんで人間を襲うんや……!そんなことしたら、人間が怒るって分かるやろ……!争いになるのは目に見えてる……。せっかく逃げてきたんやから、なんで平和に、平穏に暮らそうとは思わんのや……!」
年老いた母の白濁した瞳が値踏みするように細められる。
「意味ガ、分カラナイ。我ラハタダ、生キタダケ」
レイが一歩距離を詰める。彼の技量ならばもはや年老いた母との距離はゼロに等しい。呪文の一遍でも口にしようものなら即座にその首を落せる距離。
「我ラノ言葉、生キルコト、奪ウコト、同ジ言葉。生キルタメ、人間カラ奪ウ。当然ノ事」
年老いた母が逃げる様子はなかった。もはや逃げられる距離ではないと悟っているのかもしれない。ユウとの会話に応じているのは死を先延ばしにするための時間稼ぎか。
「やったら……!生きることができんのやったら、もう人間は襲わへんのやな……!?」
ユウが叫ぶ。興奮して痛みを感じなくなってしまっている。前に出ようとするのをセラが抱きしめて抑える。
「ユウ!落ち着きなさいッ」
魔法師の制止にも耳を貸さない。絞り出すように言葉を紡ぐ。
「うちが勇者の権限でなんとかしたるッ!そしたら、争わず、平和に……!」
勇者の提案を、年老いた母が素直に承諾することはなかった。
「奇妙ナ人間。オ前ガ何者カ、我ラハ知ラナイ。タダ、確カナノハ――」
年老いた母が視線を動かした。もう動かない肉塊となった熊へと。
「人間ワ生キルタメ、動物ヲ狩ル。我ラハ生キルタメ、人間ヲ襲ウ。何モ変ワラナイ。平和ナド、ナイ」
それは明確な拒絶だった。人間が魔族を敵視するように、魔族も人間を敵視している。敵からの施しなど受けられないということか。あるいは彼女らにもプライドや誇りというものがあるのかも知れない。
それともただ単にユウの言葉を信用していないのか。人間の小娘の戯言と思われているのかもしれない。
小鬼族の生態として一匹の雌を中心にした群れを形成することが知られている。群れを構成する小鬼族のほとんどはその雌の子供であり、彼らに守られてその雌は新たな子を産み、生涯を子育てに費やす。幾度にも及ぶ出産に耐えられるようにその身体は通常の小鬼族よりも強靭であり、群れを取りまとめるリーダーとして知能も高い。当然寿命も長く、普通の小鬼族と違って進んで戦うこともないので外的要因で命を落とすことも少ない。
そんな小鬼族の雌の中でもとりわけ長く生き、閉経して母としての役目を喪ったのが年老いた母である。
子育てから解放された彼女らはその過ごした歳月から得た知識で新たな母を助け、群れの危機には魔法を用いて戦う用心棒としての役目を持つという。魔法という力を得た彼女らは小鬼族としては破格の戦闘能力を持ち、小鬼族だけだと思って襲い掛かった人間が返り討ちにされたという話は少なくない。
「レイ、気を付けて」
「言われるまでもない」
油断なく長剣を構えなおしたレイに向かって、セラの腕に抱かれたユウが叫んだ。
「やめてッ……!もし、もし言葉が分かるなら、うちと話をさせてっ……」
その言葉に、レイよりも先に彼女が反応した。
「――ナンダ、人間」
高く、そして皺がれた声だった。だが確かにその小鬼族はそう言った。確かな叡智を湛えた瞳をユウの方へ向けながら。
相手に会話をする意思があると見てとったユウは、思いの丈を口にした。
「貴女は、争うことが嫌で、魔族領から逃げてきたんとちゃうんか……?やのに、やのになんで人間を襲うんや……!そんなことしたら、人間が怒るって分かるやろ……!争いになるのは目に見えてる……。せっかく逃げてきたんやから、なんで平和に、平穏に暮らそうとは思わんのや……!」
年老いた母の白濁した瞳が値踏みするように細められる。
「意味ガ、分カラナイ。我ラハタダ、生キタダケ」
レイが一歩距離を詰める。彼の技量ならばもはや年老いた母との距離はゼロに等しい。呪文の一遍でも口にしようものなら即座にその首を落せる距離。
「我ラノ言葉、生キルコト、奪ウコト、同ジ言葉。生キルタメ、人間カラ奪ウ。当然ノ事」
年老いた母が逃げる様子はなかった。もはや逃げられる距離ではないと悟っているのかもしれない。ユウとの会話に応じているのは死を先延ばしにするための時間稼ぎか。
「やったら……!生きることができんのやったら、もう人間は襲わへんのやな……!?」
ユウが叫ぶ。興奮して痛みを感じなくなってしまっている。前に出ようとするのをセラが抱きしめて抑える。
「ユウ!落ち着きなさいッ」
魔法師の制止にも耳を貸さない。絞り出すように言葉を紡ぐ。
「うちが勇者の権限でなんとかしたるッ!そしたら、争わず、平和に……!」
勇者の提案を、年老いた母が素直に承諾することはなかった。
「奇妙ナ人間。オ前ガ何者カ、我ラハ知ラナイ。タダ、確カナノハ――」
年老いた母が視線を動かした。もう動かない肉塊となった熊へと。
「人間ワ生キルタメ、動物ヲ狩ル。我ラハ生キルタメ、人間ヲ襲ウ。何モ変ワラナイ。平和ナド、ナイ」
それは明確な拒絶だった。人間が魔族を敵視するように、魔族も人間を敵視している。敵からの施しなど受けられないということか。あるいは彼女らにもプライドや誇りというものがあるのかも知れない。
それともただ単にユウの言葉を信用していないのか。人間の小娘の戯言と思われているのかもしれない。
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