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天に吠える狼少女
序章 祈り・4
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少女の呟きに教皇が答えた。彼女の態度を気を害した様子はない。
「我らローティス教も人の営みである以上、ああいった俗世的な者も必要だ。こと金銭にまつわる事柄なら彼奴ほど厳格なものはローティス教にはおるまい。それに、彼奴とて正式な手順でもって枢機卿の座についた信徒だ、多少ずれていたとしてもその信仰心は本物だ」
「金にがめついって言えよ」
と、少女は肩を竦める。
「でもよ、あいつ、多分勝手に動くぜ」
「うむ……」
教皇は思案するように黙した。その表情には少しばかりの呆れが浮かんでいる。
そんな様子の教皇につかつかと歩み寄った少女は、まったく臆した様子もなく、手の平を上に向けて何かをよこすような仕草。
「そんなことより、だ」
少女が何を要求しているのか悟った教皇は、懐からあの魔族が所持していたという組紐を取り出してその手の平の上に載せた。先ほどの枢機卿とは対照的、無駄の肉が一切なく女性的な丸みすら乏しい骨ばった手だ。
組紐を受け取った少女は食い入るようにそれを見聞すると、やがて沈痛な面持ちで呟いた。
「……間違いない」
「そうか……」
組紐を手の中に、そのまま手を組んで少女は祈った。その右腕には、今しがた受け取った組紐と同じ物が結ばれていた。
教皇も黙したまま瞳を閉じ、祈る。
二人の人間が、魔族の死に、祈りを捧げていた。それも片や大陸中の人々の尊敬と畏敬を一身に受ける教皇が、だ。このことが知れ渡れば、いったいどれほどの騒ぎになるか。極彩色の光に満たされた聖堂内に静謐な時間が訪れた。
どれほどそうしていたか、祈りを終えた教皇が重々しく口を開いた。
「――限界やも知れぬ。あの森は彼らには狭すぎる。公になるのも時間の問題だ」
「……ああ」
少女は組紐を握りしめた。
「そうなる前に、なんとかしねぇと……」
少女の言葉に教皇が頷く。
「“勇者特区”……今、この時期、勇者が召喚されたのはローティスの思し召しに他ならぬ。彼の者と話をせねばならん」
教皇は身体ごと少女に向き直った。
「その役目、お前を除いて適任はおるまい」
その言葉を聞いて少女は不適に笑った。悪戯っぽい笑顔が男勝りな顔立ちに実によく似合う。
「任せろ。あいつらはあたしの家族だ。あたしがなんとかするさ」
力強いその言葉を聞いて、教皇は一つ頷くと今一度極彩の窓を見上げた。
信者達もいない静かな日に、その目を覆わんばかりに鮮やかで巨大な睡蓮の花から注ぐ光を身に受けることが彼は好きだった。
いくつもの花弁が並び、重なり、一つの花となる。彼の花が表すモノは世界。数多の生命が折り重なりつつも一体となり、それを形成する様。数多の花弁が絶妙なバランスで調和し、一つとなっているからこそ、その花は美しい。
そしてそれこそが、ローティス教が真に目指すべき世界の在り方である。
「我らローティス教も人の営みである以上、ああいった俗世的な者も必要だ。こと金銭にまつわる事柄なら彼奴ほど厳格なものはローティス教にはおるまい。それに、彼奴とて正式な手順でもって枢機卿の座についた信徒だ、多少ずれていたとしてもその信仰心は本物だ」
「金にがめついって言えよ」
と、少女は肩を竦める。
「でもよ、あいつ、多分勝手に動くぜ」
「うむ……」
教皇は思案するように黙した。その表情には少しばかりの呆れが浮かんでいる。
そんな様子の教皇につかつかと歩み寄った少女は、まったく臆した様子もなく、手の平を上に向けて何かをよこすような仕草。
「そんなことより、だ」
少女が何を要求しているのか悟った教皇は、懐からあの魔族が所持していたという組紐を取り出してその手の平の上に載せた。先ほどの枢機卿とは対照的、無駄の肉が一切なく女性的な丸みすら乏しい骨ばった手だ。
組紐を受け取った少女は食い入るようにそれを見聞すると、やがて沈痛な面持ちで呟いた。
「……間違いない」
「そうか……」
組紐を手の中に、そのまま手を組んで少女は祈った。その右腕には、今しがた受け取った組紐と同じ物が結ばれていた。
教皇も黙したまま瞳を閉じ、祈る。
二人の人間が、魔族の死に、祈りを捧げていた。それも片や大陸中の人々の尊敬と畏敬を一身に受ける教皇が、だ。このことが知れ渡れば、いったいどれほどの騒ぎになるか。極彩色の光に満たされた聖堂内に静謐な時間が訪れた。
どれほどそうしていたか、祈りを終えた教皇が重々しく口を開いた。
「――限界やも知れぬ。あの森は彼らには狭すぎる。公になるのも時間の問題だ」
「……ああ」
少女は組紐を握りしめた。
「そうなる前に、なんとかしねぇと……」
少女の言葉に教皇が頷く。
「“勇者特区”……今、この時期、勇者が召喚されたのはローティスの思し召しに他ならぬ。彼の者と話をせねばならん」
教皇は身体ごと少女に向き直った。
「その役目、お前を除いて適任はおるまい」
その言葉を聞いて少女は不適に笑った。悪戯っぽい笑顔が男勝りな顔立ちに実によく似合う。
「任せろ。あいつらはあたしの家族だ。あたしがなんとかするさ」
力強いその言葉を聞いて、教皇は一つ頷くと今一度極彩の窓を見上げた。
信者達もいない静かな日に、その目を覆わんばかりに鮮やかで巨大な睡蓮の花から注ぐ光を身に受けることが彼は好きだった。
いくつもの花弁が並び、重なり、一つの花となる。彼の花が表すモノは世界。数多の生命が折り重なりつつも一体となり、それを形成する様。数多の花弁が絶妙なバランスで調和し、一つとなっているからこそ、その花は美しい。
そしてそれこそが、ローティス教が真に目指すべき世界の在り方である。
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