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天に吠える狼少女
第二章 紅髪の異端審問官・13
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盾の陰からしなるように振るわれた拳をディナは咄嗟に右腕でブロック、振るわれた腕には先ほどまで握られていた得物がない。この距離では逆に不利と悟った瞬間に何の迷いもなくレイは長剣を手放していた。
(殴り合い上等ッ――!!)
しかし無手での戦闘はディナに分がある。だからこそフェアになるように組手の最初に武装を促した。攻防の最中にレイが武器を落したというのなら、それはディナが落させたということ。何の問題もない。そもそも、まだレイには盾がある。それが一防具の枠に収まらない武装であることをすでにディナは知っている。
盾が動いた。次に来るであろう衝撃に備えてディナがガードを固めようとする、が――
クンッ
ディナの体躯が不意に横に流れた。己の意思でない重心移動にさしものディナも体勢を崩す。先ほどガードしたレイの左腕がそのままディナの右腕を掴んで横に引っ張ったのだ。
(練命行――)
自由に動く左腕で顔面を庇い、腕を硬化。盾による殴りに備えたディナ。だが、来るはずの攻撃が来ない。そして盾の背後にレイの姿がないことに気づく。
盾を動かしたのはフェイク、注意を盾に集中させるため。密着しているが故、ディナの視界はほぼ全て盾で覆われてしまっていた。
レイの姿が見えずとも、相変わらず腕は掴まれている。つまり、すぐ側にはいるということ。それで見えないということは……。
ディナが気づくより先に長剣のように鋭い一撃が不安定な体勢の彼女の両足を払った。ディナの腕を引きつつ限界まで姿勢を下げたレイが地面を削り取るように低く蹴りを放ったのだ。引っ張られる腕とは逆に両足が刈り取られたことでディナの体躯が大地と水平に浮く。
一瞬の浮遊感。刹那の攻防でありながら、空を飛んでいるかのようだ、とディナは妙な感慨を覚えた。
が、次に待っているのは地面との熱い口づけだ。その来るべき衝撃に備えてディナは身構る。その身体が文字通り、空を泳いだ。掴まれた腕が強く引かれて若い異端審問官の身体は遠心力のまま螺旋を描く。
そして――
手放した盾がバタンと音を立てて多くの巡礼者によって踏み固められた街道の路面に転がった。それを保持していたはずの腕は今は別のものを抱えている。布地越しでも分かる。乙女と聞いて想起するような柔らかさとは無縁の内臓が収納されているのかどうかすら疑わしいほどに絞り込まれた腰回り。
「――これで満足してくれないか」
頭上から降る声。吐息が髪にかかるほどの至近距離。身体全体に伝わってくる体温。口づけをしたのは大地ではなく、革鎧に包まれたレイの厚い胸板だった。片腕一本で振り回されたディナはそのままレイの懐へと抱き留められたのである。掴まれた腕はそのままに、レイの右腕はディナの腰に回されている。さながら舞踏会での踊りの一幕。
一瞬、何が起こったのか分からず呆然としていたディナだったが、状況を理解すると苦笑。
「……これでも教皇領じゃ負けなしだったんだが、参ったよ」
その優美な体勢とは裏腹に、これほどの密着姿勢ではディナも攻撃しようがなかった。このまま体重をかけて押し倒されればそれを逃れる術はない。もっとも、相手が並みの暴漢であるならばいかようにもで逃れる手段はある。が、この場合相手は並みではない。間違いなく、最上級だ。
「あんたにだったらこのまま抱かれてもいい」
(殴り合い上等ッ――!!)
しかし無手での戦闘はディナに分がある。だからこそフェアになるように組手の最初に武装を促した。攻防の最中にレイが武器を落したというのなら、それはディナが落させたということ。何の問題もない。そもそも、まだレイには盾がある。それが一防具の枠に収まらない武装であることをすでにディナは知っている。
盾が動いた。次に来るであろう衝撃に備えてディナがガードを固めようとする、が――
クンッ
ディナの体躯が不意に横に流れた。己の意思でない重心移動にさしものディナも体勢を崩す。先ほどガードしたレイの左腕がそのままディナの右腕を掴んで横に引っ張ったのだ。
(練命行――)
自由に動く左腕で顔面を庇い、腕を硬化。盾による殴りに備えたディナ。だが、来るはずの攻撃が来ない。そして盾の背後にレイの姿がないことに気づく。
盾を動かしたのはフェイク、注意を盾に集中させるため。密着しているが故、ディナの視界はほぼ全て盾で覆われてしまっていた。
レイの姿が見えずとも、相変わらず腕は掴まれている。つまり、すぐ側にはいるということ。それで見えないということは……。
ディナが気づくより先に長剣のように鋭い一撃が不安定な体勢の彼女の両足を払った。ディナの腕を引きつつ限界まで姿勢を下げたレイが地面を削り取るように低く蹴りを放ったのだ。引っ張られる腕とは逆に両足が刈り取られたことでディナの体躯が大地と水平に浮く。
一瞬の浮遊感。刹那の攻防でありながら、空を飛んでいるかのようだ、とディナは妙な感慨を覚えた。
が、次に待っているのは地面との熱い口づけだ。その来るべき衝撃に備えてディナは身構る。その身体が文字通り、空を泳いだ。掴まれた腕が強く引かれて若い異端審問官の身体は遠心力のまま螺旋を描く。
そして――
手放した盾がバタンと音を立てて多くの巡礼者によって踏み固められた街道の路面に転がった。それを保持していたはずの腕は今は別のものを抱えている。布地越しでも分かる。乙女と聞いて想起するような柔らかさとは無縁の内臓が収納されているのかどうかすら疑わしいほどに絞り込まれた腰回り。
「――これで満足してくれないか」
頭上から降る声。吐息が髪にかかるほどの至近距離。身体全体に伝わってくる体温。口づけをしたのは大地ではなく、革鎧に包まれたレイの厚い胸板だった。片腕一本で振り回されたディナはそのままレイの懐へと抱き留められたのである。掴まれた腕はそのままに、レイの右腕はディナの腰に回されている。さながら舞踏会での踊りの一幕。
一瞬、何が起こったのか分からず呆然としていたディナだったが、状況を理解すると苦笑。
「……これでも教皇領じゃ負けなしだったんだが、参ったよ」
その優美な体勢とは裏腹に、これほどの密着姿勢ではディナも攻撃しようがなかった。このまま体重をかけて押し倒されればそれを逃れる術はない。もっとも、相手が並みの暴漢であるならばいかようにもで逃れる手段はある。が、この場合相手は並みではない。間違いなく、最上級だ。
「あんたにだったらこのまま抱かれてもいい」
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