剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

文字の大きさ
72 / 115
天に吠える狼少女

第二章 紅髪の異端審問官・12

しおりを挟む
 その呟きにディナは眉を顰め、

「おいおい、これでもローティス教の異端審問官だぜ。練魔行じゃくて、練命行って言ってくれ」

 そしてまだまだこれからと右腕を前に出して構え直す。その腕、さきほどレイの長剣ロングソードの一撃を弾いた場所は血どころか服が裂けてもいない。無論、衣服の下に仕込まれた鉄板が露出しているというわけでもない。

 練魔行、もとい練命行は極めて会得者の少ない秘儀である。その本質は魔法以外での魔力の有効利用にある。生命力たる魔力を自身の身体の一部分に集中、筋力や皮膚の硬度など肉体を一時的に賦活する。それは魔法以上に繊細な魔力操作であり、極めた者は一瞬だけ魔力の防壁を纏うことで自身の硬化した皮膚と合わせて刃すらも弾くという。

 だがこの練命行、ほんの少し魔力の調整を誤っただけで破滅へと至る危険を孕んでいる。というのも、基本的に肉体に作用する魔法は禁忌とされているからだ。用いれば魂の形が歪み、生き物としての形を維持できなくなると言われている。錬命行はその境界線を越えないギリギリに位置する。変化ではなく引き出す。その者の持つ潜在能力を引き出すことが練命行の極意。つまり潜在能力が高くなければまともに効果を実感することはできないということだ。

 その潜在能力を高めるために、練命行を修めんとする者は自身の肉体を限界まで責め抜くと言う。その修行はまさしく苦行だ。魔力の認識という魔法師の第一歩を踏み出しておきながら、それの修行ではなく肉体の鍛錬に生涯の多くを費やすことになる。それをいったいどれほどの者が看過しえようか。

 しかしレイの目の前にはその地獄の責め苦を耐え抜いた少女が確かにいる。修道服のような衣装の下にはその証拠たる極限まで絞り込まれた肉体が秘められているに違いない。女の身、それもその歳で異端審問官という職に就いているのだから何かしら理由があるのだとは思っていたが、まさか錬魔行、もとい練命行とは。

 なお自然であることを主教義とするローティス教は魔法というものをあまり好ましく思っていない。魔力によって自然に干渉し、通常はあり得ざる事象を引き起こすのが魔法であるからだ。しかし、今や人々の生活を支える重要な技術となりつつある魔法を頭ごなしに否定したりはしない。それはいわば火と同じ物。それがなければ人々は未だに夜の闇に怯え動物的な生活を送っていただろうが、それを得たが故に多くの森が焼かれ、多くの命が失われることになった。魔法も同じ、人々の生活を豊かにもするし容易く人の命を奪いもする。安易な使用は控えるべき、というのがローティス教の見解だ。

 故にディナは自分の技術を練命行と呼称することに拘る。曲がりなりにも異端審問官、体裁の問題だ。

(……ふむ)

 ディナの会得している技術が分かったところで、レイはどうやってこの場を収めるか考えた。寸止めを考えた速度で剣を振るえば練命行による硬化で防がれて有効打にならない。かといってディナが感知しえないほどの速度とタイミングで、つまり練命行が発動するよりも速く剣を振るえば寸止めはできない。寸止め前提、そんな生半可な攻撃が通るほどディナは甘くない。

 彼女は強い。しかし手心を加えたり自ら負けを認めれば彼女は怒るだろうし、武闘家としての自尊心プライドを傷つけてしまうかもしれない。やると言ったからには全力で勝ちにいかなければ彼女に失礼だ。

 それにもちろん、レイにも一の騎士団ナイツ・オブ・ザ・ワンとしての誇りがある。例え組手と言えど、ラドカルミア最強の精鋭部隊がそうそう負けるわけにはいかないのだ。

「じゃあ、そろそろもっかいいくぜッ!」

 再びディナが疾駆、レイが反射的に盾を構えた。また盾を押しのけてくるようなら今度はその前に盾で体勢を崩す。

 しかしまた盾まで肉薄したディナはそのまま右腕を振りかぶり攻撃体勢に入った。盾という体術で打ち砕くにはあまりにも強固な守りに狙いを定め、全霊の一撃を叩き込む。

「斥ッ!!」

 裂帛の気合いと共に放たれた掌底を盾が受け止める。厳密には、受け止めたかに思われた。

 衝撃は盾ではなくその後ろ、盾で隠れているはずのレイの胸を打った。大きなダメージになるようなものではなかったにしろ、予想だにしない衝撃にさしものレイも一瞬呼吸が止まり、体勢を崩して後ろへと後ずさる。

(魔力を飛ばしたのか――!)

 盾を隔てて胸を打ったその攻撃の正体を、直感的にレイは悟る。その不可視の打撃は呪文もなしにただ放たれた魔力の塊だ。ある意味魔法師以上に魔力の扱いに長けた彼女だからこそできる芸当。物質的な障害を透過し、実際の打撃からワンテンポ遅れて顕現する打撃の前では盾は意味を為さない。

 下がるレイにディナが追い縋る。追撃を行わせないために、不安定な姿勢ながらも放たれた長剣の突きをレイの右側面に回り込むように回避、常に盾に密着する形、常にレイの死角に移動する動き。

「斥ッ!!」

 再び盾越しの一撃、見えざる拳がレイの肩を打ち、盾を持つ右腕が衝撃に引かれる。それに合わせてディナはさらに肉薄。内に入れば入るほど長剣はその大きさが仇になり振れなくなる。対してインファイトこそディナの徒手空拳がもっとも生きる距離。

 故にレイは――

「――ッ!?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...