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天に吠える狼少女
第二章 紅髪の異端審問官・11
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「――じゃ、お先にッ」
言うや否やディナが奔った。数十歩分の距離が一瞬にして詰まる。だがディナの射程に入るより先に銀の輝きが閃いた。
地面と水平に薙ぎ払われた長剣の一閃。ディナの方から見れば盾の陰から不意に現れる奇襲攻撃だ。盾を常に前方に構えるのは防御のみならず長剣を隠す陰を作るため、見えざる位置から放たれる高速の一撃はユウの元いた世界に存在する居合いという技術に似ている。
ディナの身体が霞んだ。後の先をとったレイの一撃を上体をグッと下げることで回避、そのままレイへと肉薄する。顔面を盾に擦るほどの密着、一瞬、レイの視界からディナが消える。盾が生み出す死角を利用できるのは持ち主だけではない。
「ツァッ!」
盾を左手で掴み無理矢理こじ開けた隙間にディナの右中段蹴りが捻じ込まれた。ここまで接近すればレイの持つ得物はもはや不利。リーチの長さを生かせない。
剣を持つ左手が折り畳まれて脇腹をブロック、蹴りを受けた下膊部がビリビリと痺れる。そのレイよりも一回り小さい体躯から放たれたとは思えない重い一撃。
すぐさまレイは背後に一歩下がると即座に転身、移動のベクトルを真逆に変え、突進。蹴りを放ち体勢の崩れたディナを殴りつけるように盾で強打する。長剣と盾を一体として扱うのがレイの戦闘スタイル。盾に攻撃力はないと見限る者は打ちのめされたあとでその認識が誤っていたと知ることになる。
「チッ」
ディナはこれを両腕を交差させて防御、ガツンという硬質な音を響かせながら後方に下げられる。そしてそこは長剣の間合いである。即座にまた横薙ぎの一閃が振るわれた。敵の攻撃を受けてからの反撃で一気に決める。これもまたレイの基本的な戦闘スタイル。だがそれは、彼女もまた同じだった。
レイはこの一撃で決着するかと思った。後方に弾かれて不安定な姿勢のディナに、レイの高速の一撃が回避できるとは思えない。しかし彼女の瞳を見た瞬間、レイは妙な違和感を感じる。その瞳は未だありありと闘志を燃やしていた。回避できないことは彼女にも分かるだろうに、なぜ――
ガキィンッ!
寸止めするつもりだった長剣が、自分から当たりにいったディナの右腕に弾かれた。響く音は金属に斬りかかったような硬質な音、腕に伝わる手応えもそれと同等。
不適な笑みを浮かべたディナが反撃のために前に出ようとした、が、すぐに思い留まる。弾かれた瞬間にすぐに剣を引き戻したレイは後方へ引きつつもすでに臨戦態勢を整えていたからだ。数歩分の距離を挟み相対する二人、状況は最初とまったく同じとなる。これほどの攻防をこなしていながら二人とも息の一つも乱していないので、余人は時間が巻き戻ったかのような錯覚を受けるかもしれない。
レイは隙無く構えつつ、視線を細めて呟いた。
「……練魔行か」
言うや否やディナが奔った。数十歩分の距離が一瞬にして詰まる。だがディナの射程に入るより先に銀の輝きが閃いた。
地面と水平に薙ぎ払われた長剣の一閃。ディナの方から見れば盾の陰から不意に現れる奇襲攻撃だ。盾を常に前方に構えるのは防御のみならず長剣を隠す陰を作るため、見えざる位置から放たれる高速の一撃はユウの元いた世界に存在する居合いという技術に似ている。
ディナの身体が霞んだ。後の先をとったレイの一撃を上体をグッと下げることで回避、そのままレイへと肉薄する。顔面を盾に擦るほどの密着、一瞬、レイの視界からディナが消える。盾が生み出す死角を利用できるのは持ち主だけではない。
「ツァッ!」
盾を左手で掴み無理矢理こじ開けた隙間にディナの右中段蹴りが捻じ込まれた。ここまで接近すればレイの持つ得物はもはや不利。リーチの長さを生かせない。
剣を持つ左手が折り畳まれて脇腹をブロック、蹴りを受けた下膊部がビリビリと痺れる。そのレイよりも一回り小さい体躯から放たれたとは思えない重い一撃。
すぐさまレイは背後に一歩下がると即座に転身、移動のベクトルを真逆に変え、突進。蹴りを放ち体勢の崩れたディナを殴りつけるように盾で強打する。長剣と盾を一体として扱うのがレイの戦闘スタイル。盾に攻撃力はないと見限る者は打ちのめされたあとでその認識が誤っていたと知ることになる。
「チッ」
ディナはこれを両腕を交差させて防御、ガツンという硬質な音を響かせながら後方に下げられる。そしてそこは長剣の間合いである。即座にまた横薙ぎの一閃が振るわれた。敵の攻撃を受けてからの反撃で一気に決める。これもまたレイの基本的な戦闘スタイル。だがそれは、彼女もまた同じだった。
レイはこの一撃で決着するかと思った。後方に弾かれて不安定な姿勢のディナに、レイの高速の一撃が回避できるとは思えない。しかし彼女の瞳を見た瞬間、レイは妙な違和感を感じる。その瞳は未だありありと闘志を燃やしていた。回避できないことは彼女にも分かるだろうに、なぜ――
ガキィンッ!
寸止めするつもりだった長剣が、自分から当たりにいったディナの右腕に弾かれた。響く音は金属に斬りかかったような硬質な音、腕に伝わる手応えもそれと同等。
不適な笑みを浮かべたディナが反撃のために前に出ようとした、が、すぐに思い留まる。弾かれた瞬間にすぐに剣を引き戻したレイは後方へ引きつつもすでに臨戦態勢を整えていたからだ。数歩分の距離を挟み相対する二人、状況は最初とまったく同じとなる。これほどの攻防をこなしていながら二人とも息の一つも乱していないので、余人は時間が巻き戻ったかのような錯覚を受けるかもしれない。
レイは隙無く構えつつ、視線を細めて呟いた。
「……練魔行か」
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