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天に吠える狼少女
第三章 自然と共に生きる者達・11
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「おっちゃんの言う自由は、自分達だけが生きていく話やんか。そうやなくて、他の種族のためになんかして、自分達が困った時は相手にも助けてもらう。めっちゃ困るようなことが起きたら、皆でそれに立ち向かう。自分らだけやなくて、皆で生きていく。うちが作りたいのはそういう場所や。そのために協力してくれんかって頼みに来とんねん。あんたらのこと守ったりますよって、そんな偉そうなこと言いにきてへんよ!」
話すうちに次第にユウの言葉に熱が籠る。
勇者だから、それだけではこんな言葉は出まい。世界を救うため、そんな大層なことのためでもない。これはユウの、彼女自身の願い。この世界に来て芽生えた彼女自身の望みだ。全ての種族が手を取り合って生きていく世界。お互いを傷つけあうことのない、争いのない世界。そんな当たり前の世界。
「そんなてめぇ勝手な願いで、俺達に生まれ持った生き方を変えろってのかい」
「せや」
「てめぇみたいな考えの人間は多くねぇだろ。俺達魔族を目の仇にしてるやつはごまんといるはずだ。つまり森の外に出れば人間共にいつ殺されるか分からねぇ。俺達に命を賭けろってことだ。その意味をちゃんと分かってんだろうな?」
「そんな人らが来たら、うちが説得する。やから大丈夫」
あまりにも楽観視が過ぎる。例え勇者といえど、こんな少女の説得にいったいいかほどの効力があるというのか。魔族を憎む者の多くは魔族に何かを奪われた者達だ。そういった者たちにとって狼人族だ小鬼族だなどという区別などあるまい。魔族は魔族。すべからく斃すべく存在。そんな深く苛烈な憎しみをこんな少女がどうにかできるものか。
だがその黒瞳は、一切の不安も迷いもない。
「――話にならねぇ。俺はこの森から出ていくつもりはねぇ」
「親父!」
叫んで、ディナははたと気付く。場に満ちていた緊張感が消えていた。
「だが、行きたいやつを連れていく分にゃあかまわねぇ。若ぇのの中にはそれでも行きたいやつはいるだろう。ディナ、この嬢ちゃんを連れてきたのはオメェだ。オメェがそいつらの面倒を見てやれ。族長の娘としてな」
そう言って、ニッと歯茎を見せる。人間の子供が見れば泣いてしまいそうな笑顔。
一瞬あっけにとられた様子のディナだったが、やがて何か苦い物でも食べたかのように顔を顰める。
「このクソ親父……最初からそう言うつもりだったな?」
その言葉にはユウもぽかんとしてテヴォを見やる。
「若いのが何人か森を出たことで、このままじゃいられねぇってのは分かってた。この場所もいずれ教皇以外の人間に知られるだろうしな。そうなりゃいやがおうにも変わらにゃならん。どのみちこのままじゃいられねぇのさ。そんな時に誰でもねぇ、てめぇの娘が持ってきた話だ。乗るしかねぇだろ」
なんということはない。父は娘を信用しているのだ。その提案を最初から無下にするつもりなどなかった。
「だが分かったと言う前に訊くべきところはある。俺ぁそれを訊いただけだ。正直、皆で生きていく云々はどうなるか分からん。だが、その勇者の嬢ちゃんは本気でそれを為そうとしてるみてぇだ。嘘偽りなくな。だから、任してもいいと思った」
「でも、おっちゃんは行かへんって……」
「俺みてぇな年寄りはもうここじゃねぇどこかになんていけねぇよ。この場所に根が生えちまってる。無理に引っこ抜けば枯れちまうぜ。もうここは俺達にとって故郷なんだよ」
魔族領にいた頃を知る狼人族達は、すでにもうこここそが理想の地なのだ。誰にも支配されることなく、誰も支配することなく自然に生きられる場所。今さらどこかに行こうとは思わない。
話すうちに次第にユウの言葉に熱が籠る。
勇者だから、それだけではこんな言葉は出まい。世界を救うため、そんな大層なことのためでもない。これはユウの、彼女自身の願い。この世界に来て芽生えた彼女自身の望みだ。全ての種族が手を取り合って生きていく世界。お互いを傷つけあうことのない、争いのない世界。そんな当たり前の世界。
「そんなてめぇ勝手な願いで、俺達に生まれ持った生き方を変えろってのかい」
「せや」
「てめぇみたいな考えの人間は多くねぇだろ。俺達魔族を目の仇にしてるやつはごまんといるはずだ。つまり森の外に出れば人間共にいつ殺されるか分からねぇ。俺達に命を賭けろってことだ。その意味をちゃんと分かってんだろうな?」
「そんな人らが来たら、うちが説得する。やから大丈夫」
あまりにも楽観視が過ぎる。例え勇者といえど、こんな少女の説得にいったいいかほどの効力があるというのか。魔族を憎む者の多くは魔族に何かを奪われた者達だ。そういった者たちにとって狼人族だ小鬼族だなどという区別などあるまい。魔族は魔族。すべからく斃すべく存在。そんな深く苛烈な憎しみをこんな少女がどうにかできるものか。
だがその黒瞳は、一切の不安も迷いもない。
「――話にならねぇ。俺はこの森から出ていくつもりはねぇ」
「親父!」
叫んで、ディナははたと気付く。場に満ちていた緊張感が消えていた。
「だが、行きたいやつを連れていく分にゃあかまわねぇ。若ぇのの中にはそれでも行きたいやつはいるだろう。ディナ、この嬢ちゃんを連れてきたのはオメェだ。オメェがそいつらの面倒を見てやれ。族長の娘としてな」
そう言って、ニッと歯茎を見せる。人間の子供が見れば泣いてしまいそうな笑顔。
一瞬あっけにとられた様子のディナだったが、やがて何か苦い物でも食べたかのように顔を顰める。
「このクソ親父……最初からそう言うつもりだったな?」
その言葉にはユウもぽかんとしてテヴォを見やる。
「若いのが何人か森を出たことで、このままじゃいられねぇってのは分かってた。この場所もいずれ教皇以外の人間に知られるだろうしな。そうなりゃいやがおうにも変わらにゃならん。どのみちこのままじゃいられねぇのさ。そんな時に誰でもねぇ、てめぇの娘が持ってきた話だ。乗るしかねぇだろ」
なんということはない。父は娘を信用しているのだ。その提案を最初から無下にするつもりなどなかった。
「だが分かったと言う前に訊くべきところはある。俺ぁそれを訊いただけだ。正直、皆で生きていく云々はどうなるか分からん。だが、その勇者の嬢ちゃんは本気でそれを為そうとしてるみてぇだ。嘘偽りなくな。だから、任してもいいと思った」
「でも、おっちゃんは行かへんって……」
「俺みてぇな年寄りはもうここじゃねぇどこかになんていけねぇよ。この場所に根が生えちまってる。無理に引っこ抜けば枯れちまうぜ。もうここは俺達にとって故郷なんだよ」
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