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天に吠える狼少女
第四章 招かれざる者・8
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「……まさか、人間をかばうとは。相当毒されているようですね」
哀れみさえ籠った視線が地に蹲る同胞に向けられる。その視線を向けられた魔族は、瀕死の重傷を受けながらも凄絶な笑みを浮かべた。
「――コイツァ、俺の娘だ。父親が無鉄砲な娘の面倒見るのは当然だろうが」
「……そうですか」
細長い指先がテヴォへと向けられた。指先で指し示さなくとも精密に魔法をコントロールできるのは先の魔力の刃で明らか。この動作はいわば、相手に圧力を加えるためだけの牽制だ。
「選びなさい。後ろの同族達にこの場にいる人間全てを殺すよう命じ、魔族領に来るか。この場で全員死ぬか」
無慈悲に、冷徹に。長指族はそう迫る。この場で、自分達で、人間と決別し魔族陣営に加わるならそれでいい。逆にそれができないのなら、その程度のこともできないような魔族は必要ないと。
「――ッ」
傷の痛みとは別に、狼人族の族長は呻いた。答えなど決まりきっている。だからこそ呻く。
娘を殺すなど、できるわけがない――
「何、アホな事言ってんのやッ!」
だからこそ、こんな選択を提示されている父親を見てあの小さな勇者が声を上げないはずがなかった。
「何が起きてんのか、いまいちよぉ分からんけど、あんたは狼人族の人らを仲間にしに来たんちゃうんかッ!?それが、なんでそんな話になんねん!」
セラに肩を掴まれながらだが、飛び出さんばかりにそう叫ぶ黒髪の少女にラチラサの視線が向く。
「黒髪……」
そんな髪色の人間は初めて見る。そしてふと先の記憶が蘇る。今足元に転がる人間共はこの子供の事を何と言っていたか。
そう確か、勇者、と。
「――この子供が勇者?こんな人間の小娘が界律魔法を……?」
俄かには信じがたい。だが、もし本当だとすれば。
魔族にとって最大の脅威は今、目の前にある。
その長い指先がゆらりと動いた。勇者との距離はおよそ十メイトル、そんな距離は長指族にとってないに等しい。その魔法という死の指先は視界に映るほぼ全てに届く。外見に加えて、その魔法の射程こそが彼女らが長指族と呼ばれる所以。
「させるかよォッ!」
ラチラサの意図を察したディナが吠えた。魔法による攻撃を防ぐ最良の方法は何か。答えは簡単だ。使わせないことである。
強力無比な攻撃手段である魔法の最大の欠点はその発動に呪文の詠唱という前準備が必要な点だ。だからこそその欠点を埋めるために戦場において魔法師は単独では行動せず、護衛の兵士を伴う。先ほどからラチラサが用いている圧縮言語も少しでもその欠点を補うために編み出された技術だ。
一方で、ディナの用いる練魔行にはそれがない。
即座に魔力を両足に集中、硬化ではなく筋力の制限を解除。その潜在能力を開放し、その膂力でもって爆発的な初速の踏み込みを行う。
矢の如く飛び出したディナ。それに気付いたラチラサの視線が向く。
額の紅い宝石が怪しく揺らめいた。
「!?」
突然ディナは失速、何の兆候もなく眼前から吹きつけた暴風に髪が逆立った。髪どころかその身体すら宙に浮く。身体全体を包み込む、その生き物の吐息のような生々しい温度。まさしくそれは生命を司る力。
ただ単純な、魔力の放射――
しかしそれは量の桁が違った。魔力というのは本来物質的な質量を持たないエネルギーだ。だからこそそれに質量を持たせるには一工夫加える必要がある。ディナがレイとの組手で用いた魔力打などは多量の魔力を圧縮することで衝撃を与えるほどの質量を持たせている。今ラチラサが用いた技も言ってしまえばそれの規模を大きくしただけだ。だが人の身体を浮かすほどの衝撃を与えるためにいったいどれほどの魔力を圧縮する必要があるか。
哀れみさえ籠った視線が地に蹲る同胞に向けられる。その視線を向けられた魔族は、瀕死の重傷を受けながらも凄絶な笑みを浮かべた。
「――コイツァ、俺の娘だ。父親が無鉄砲な娘の面倒見るのは当然だろうが」
「……そうですか」
細長い指先がテヴォへと向けられた。指先で指し示さなくとも精密に魔法をコントロールできるのは先の魔力の刃で明らか。この動作はいわば、相手に圧力を加えるためだけの牽制だ。
「選びなさい。後ろの同族達にこの場にいる人間全てを殺すよう命じ、魔族領に来るか。この場で全員死ぬか」
無慈悲に、冷徹に。長指族はそう迫る。この場で、自分達で、人間と決別し魔族陣営に加わるならそれでいい。逆にそれができないのなら、その程度のこともできないような魔族は必要ないと。
「――ッ」
傷の痛みとは別に、狼人族の族長は呻いた。答えなど決まりきっている。だからこそ呻く。
娘を殺すなど、できるわけがない――
「何、アホな事言ってんのやッ!」
だからこそ、こんな選択を提示されている父親を見てあの小さな勇者が声を上げないはずがなかった。
「何が起きてんのか、いまいちよぉ分からんけど、あんたは狼人族の人らを仲間にしに来たんちゃうんかッ!?それが、なんでそんな話になんねん!」
セラに肩を掴まれながらだが、飛び出さんばかりにそう叫ぶ黒髪の少女にラチラサの視線が向く。
「黒髪……」
そんな髪色の人間は初めて見る。そしてふと先の記憶が蘇る。今足元に転がる人間共はこの子供の事を何と言っていたか。
そう確か、勇者、と。
「――この子供が勇者?こんな人間の小娘が界律魔法を……?」
俄かには信じがたい。だが、もし本当だとすれば。
魔族にとって最大の脅威は今、目の前にある。
その長い指先がゆらりと動いた。勇者との距離はおよそ十メイトル、そんな距離は長指族にとってないに等しい。その魔法という死の指先は視界に映るほぼ全てに届く。外見に加えて、その魔法の射程こそが彼女らが長指族と呼ばれる所以。
「させるかよォッ!」
ラチラサの意図を察したディナが吠えた。魔法による攻撃を防ぐ最良の方法は何か。答えは簡単だ。使わせないことである。
強力無比な攻撃手段である魔法の最大の欠点はその発動に呪文の詠唱という前準備が必要な点だ。だからこそその欠点を埋めるために戦場において魔法師は単独では行動せず、護衛の兵士を伴う。先ほどからラチラサが用いている圧縮言語も少しでもその欠点を補うために編み出された技術だ。
一方で、ディナの用いる練魔行にはそれがない。
即座に魔力を両足に集中、硬化ではなく筋力の制限を解除。その潜在能力を開放し、その膂力でもって爆発的な初速の踏み込みを行う。
矢の如く飛び出したディナ。それに気付いたラチラサの視線が向く。
額の紅い宝石が怪しく揺らめいた。
「!?」
突然ディナは失速、何の兆候もなく眼前から吹きつけた暴風に髪が逆立った。髪どころかその身体すら宙に浮く。身体全体を包み込む、その生き物の吐息のような生々しい温度。まさしくそれは生命を司る力。
ただ単純な、魔力の放射――
しかしそれは量の桁が違った。魔力というのは本来物質的な質量を持たないエネルギーだ。だからこそそれに質量を持たせるには一工夫加える必要がある。ディナがレイとの組手で用いた魔力打などは多量の魔力を圧縮することで衝撃を与えるほどの質量を持たせている。今ラチラサが用いた技も言ってしまえばそれの規模を大きくしただけだ。だが人の身体を浮かすほどの衝撃を与えるためにいったいどれほどの魔力を圧縮する必要があるか。
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