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天に吠える狼少女
第五章 天に吠える狼少女・4
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「なぁに、多少苦しかろうが、あのクソ親父は頑丈さだけが取り柄なんだ。ちょっとやそっとの痛みじゃ参ったりしねぇさ。だから、少しでも可能性があるのなら、頼む……」
娘は、レイ、セラ、そしてユウと順に見た。もうその瞳は自分を見失ってはいない。
父親と同じ、その黄色の眼光に決意を湛えて娘は父の救済を願った。
「……よし、分かった。ユウ、どうすればいいか分かるか」
意外にも、真っ先にそう答えたのは殺すのが一番の救いだと明言したレイだった。
「正気?あの肉塊に“人間と共に生きていく可能性”を与えられたとして、それで大人しくなるとも自我を取り戻すとも分からないのよ?ユウを危険に晒して、やるだけ無駄かもしれないのよ」
それは形だけの否定。優しい魔法師の顔にはすでに苦笑が浮かんでいる。
「正気、じゃないのかもな。そもそも、“勇者特区”を作ってもらうためにエルガス王を説得しにいった時から。ユウに全てを賭けると誓ったあの時から。俺達はちっぽけな可能性にずっと手を伸ばし続けてる」
こんな幼い少女が世界を救うなど。そしてそれを心から信じているなど。これが正気の沙汰と言えようか。
けれども確かにレイは、セラは、この少女の行く末に確かな可能性を見たのだ。そのあまりにも小さな可能性に命を賭けようと誓ったのだ。
ならば、この少女が少しでも可能性があるというのなら。自分達はその可能性を少女が掴み取る手助けをしよう。
「そう……そうね。やれるだけやってみましょう」
そしてセラは、その物憂げな瞳を勇者に向けた。
「どうすればいいの?勇者様」
「二人共……ありがとう」
気の抜けるような、どんな時であっても緩んだあの笑顔が浮かんだのは一瞬。すぐにその表情は険しく引き締まり地面をのたうつ肉塊へと向いた。
「リンちゃんママが言っとったけど、たぶんうちが界律魔法を発動するには条件がある。一つは相手に触れることやと思うけど、もう一つは……」
自分の手の平を見つめて考える。かつて二度起きた、界律魔法が発動した時に発生する“界脈”。あれが起きた時、相手に触れた以外にどんな要素があったか。
アー……
ユウの足元でさくらもちがぴょんぴょん跳ねた。この薄桃色の塊をかばった時、触れた以外にどんな条件が満たされていたのか。他のスライムに触れても何も起きなかった。さくらもちだったから界律魔法は発動した。その差はいったいなんだ。
「……相手も、うちと同じ事を想ってくれてること、かな」
手を結び合う。宥和し、融和する。それは一方的な感情では為しえない。
そんな当たり前のこと。
「でも、昨日族長と握手した時には何も起きなかったじゃない」
その指摘にはレイがいや、と頭を振る。
「それは必要なかったからじゃないか?もともとここの狼人族は、隠れながらではあるが教皇の庇護下で人間と共に生きていた。可能性を生み出すまでもなかったということだろう」
であるならば、肉塊と成り果て破壊を撒き散らすことしかできなくなった今ならば。可能性が皆無になった今だからこそ。
「なら条件は満たしてるはずや。親父さんは人間と仲良ぉしたいと思ってくれてる。あとはうちが触ればええだけや!」
結論は出た。勇者とその護衛二人は顔を見合わせて頷いた。
そしてユウはディナに向き直る。
「正直、ほんまにできるかどうかは分からん。でも、やれるだけやってみよか!」
そうして突き出された小さな拳。その華奢な手が、今はなんと頼もしいことか。
一瞬潤みかけた瞳を隠すようにディナはニッと口の端を吊り上げる。少年のような笑みを浮かべ、小さな拳に自分の拳を合わせた。
「頼んだぜ、勇者!」
娘は、レイ、セラ、そしてユウと順に見た。もうその瞳は自分を見失ってはいない。
父親と同じ、その黄色の眼光に決意を湛えて娘は父の救済を願った。
「……よし、分かった。ユウ、どうすればいいか分かるか」
意外にも、真っ先にそう答えたのは殺すのが一番の救いだと明言したレイだった。
「正気?あの肉塊に“人間と共に生きていく可能性”を与えられたとして、それで大人しくなるとも自我を取り戻すとも分からないのよ?ユウを危険に晒して、やるだけ無駄かもしれないのよ」
それは形だけの否定。優しい魔法師の顔にはすでに苦笑が浮かんでいる。
「正気、じゃないのかもな。そもそも、“勇者特区”を作ってもらうためにエルガス王を説得しにいった時から。ユウに全てを賭けると誓ったあの時から。俺達はちっぽけな可能性にずっと手を伸ばし続けてる」
こんな幼い少女が世界を救うなど。そしてそれを心から信じているなど。これが正気の沙汰と言えようか。
けれども確かにレイは、セラは、この少女の行く末に確かな可能性を見たのだ。そのあまりにも小さな可能性に命を賭けようと誓ったのだ。
ならば、この少女が少しでも可能性があるというのなら。自分達はその可能性を少女が掴み取る手助けをしよう。
「そう……そうね。やれるだけやってみましょう」
そしてセラは、その物憂げな瞳を勇者に向けた。
「どうすればいいの?勇者様」
「二人共……ありがとう」
気の抜けるような、どんな時であっても緩んだあの笑顔が浮かんだのは一瞬。すぐにその表情は険しく引き締まり地面をのたうつ肉塊へと向いた。
「リンちゃんママが言っとったけど、たぶんうちが界律魔法を発動するには条件がある。一つは相手に触れることやと思うけど、もう一つは……」
自分の手の平を見つめて考える。かつて二度起きた、界律魔法が発動した時に発生する“界脈”。あれが起きた時、相手に触れた以外にどんな要素があったか。
アー……
ユウの足元でさくらもちがぴょんぴょん跳ねた。この薄桃色の塊をかばった時、触れた以外にどんな条件が満たされていたのか。他のスライムに触れても何も起きなかった。さくらもちだったから界律魔法は発動した。その差はいったいなんだ。
「……相手も、うちと同じ事を想ってくれてること、かな」
手を結び合う。宥和し、融和する。それは一方的な感情では為しえない。
そんな当たり前のこと。
「でも、昨日族長と握手した時には何も起きなかったじゃない」
その指摘にはレイがいや、と頭を振る。
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であるならば、肉塊と成り果て破壊を撒き散らすことしかできなくなった今ならば。可能性が皆無になった今だからこそ。
「なら条件は満たしてるはずや。親父さんは人間と仲良ぉしたいと思ってくれてる。あとはうちが触ればええだけや!」
結論は出た。勇者とその護衛二人は顔を見合わせて頷いた。
そしてユウはディナに向き直る。
「正直、ほんまにできるかどうかは分からん。でも、やれるだけやってみよか!」
そうして突き出された小さな拳。その華奢な手が、今はなんと頼もしいことか。
一瞬潤みかけた瞳を隠すようにディナはニッと口の端を吊り上げる。少年のような笑みを浮かべ、小さな拳に自分の拳を合わせた。
「頼んだぜ、勇者!」
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