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天に吠える狼少女
第五章 天に吠える狼少女・6
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ガアアァッ!
動くものに反応してその巨腕が振るわれた。まだ視力は機能しているのか、それとも他の感覚器官か。いずれにせよそれが何かを認識することはできていまい。
「セヤッ!」
一閃。レイの超人的な技量によって凄まじい切れ味となった長剣が肉塊の右の肘から先を一撃で切断した。切り離された肘から先がボトリと地に落ちて血溜まりを作る。あまりテヴォの身体を傷つけたくはなかったが、仕方ない。
だが――
「――やはり、無駄か」
レイが呟くより早く、その右腕がボコボコと泡立ち肉膨れする。そうして肉を突き破って骨が生え、それを肉が覆い、瞬く間に腕が元に戻ってしまった。多少形が歪なのは元の形を忘れかけているからなのか。
この肉塊は治癒魔法が肉体を再生し過ぎているが故の姿。過剰なまでの回復力は腕を斬り落とした程度すぐに再生させてしまう。部位を落すことに意味はない。効果があるとすれば頭だ。治癒魔法の核にして肉体の運動を司る脳を破壊すればさしもの肉塊も再生せずに崩壊する。だが崩壊させないために今レイ達は尽力しているのだ。
「クソ親父!目ぇ覚ましやがれッ!」
ディナが躍りかかり、技術も何もない正面からの突撃でその拳を肉塊の胸ぐらに叩き込んだ。自分の親に対してとは思えないような、練魔行で硬化された鉄の拳。肋が粉砕する感触が素手を通して伝わってくる。が、すぐにそれを押し返す怖気を誘う肉の感触を感じて飛び退く。
グルアッ!
飛び退いたディナを追撃せんと歪な右腕が振るわれた。無造作なその一撃もその膂力を持ってすれば必殺の一撃である。
即座に硬化した両腕を交差させてブロック、突き抜けるような重い衝撃に再びディナの身体が吹っ飛ぶ。
「ッ!?」
その吹っ飛んだ先を予想し、ディナは青ざめた。そこには間合いをとって機会を窺っていたユウがいる。
(やべッ――)
激突する未来に戦慄したディナと、反応すらできずにいたユウの間に黒い影が割り込んだ。
「よっと!」
引き絞られた細身の身体を黒い体毛に覆われた体躯が受け止める。テヴォと比べれば一回り小さいが、それでも十分にガタイのいい狼人族の一人が飛び込んできたのだ。ディナもよく見知った集落の男衆の一人。
「なんだかよく分からねぇが、その嬢ちゃんに触ってもらえば族長は助かるかもしれねぇんだな?」
気づけば他の男衆達も前へと歩み出ていた。皆一様に暴れ狂う肉塊と化した族長を痛ましく思い、そしてまるで動けなかった自分達の不甲斐なさに憤るように拳を握りしめていた。
「ああなっちまったやつは、自分の力量も分からねぇ弱いやつだ。だがよ、ああなっちまうってわかって、てめぇの娘のために上位魔族を殴り飛ばした族長が弱いもんかよ。俺達の族長は強い。族長は俺達の誇りだ!失ってたまるかってんだ!」
応ッ!!
一人の言葉に残りの狼人族達が声を合わせた。
「ここは俺らに任せてくれや!いくぞォッ!!」
動くものに反応してその巨腕が振るわれた。まだ視力は機能しているのか、それとも他の感覚器官か。いずれにせよそれが何かを認識することはできていまい。
「セヤッ!」
一閃。レイの超人的な技量によって凄まじい切れ味となった長剣が肉塊の右の肘から先を一撃で切断した。切り離された肘から先がボトリと地に落ちて血溜まりを作る。あまりテヴォの身体を傷つけたくはなかったが、仕方ない。
だが――
「――やはり、無駄か」
レイが呟くより早く、その右腕がボコボコと泡立ち肉膨れする。そうして肉を突き破って骨が生え、それを肉が覆い、瞬く間に腕が元に戻ってしまった。多少形が歪なのは元の形を忘れかけているからなのか。
この肉塊は治癒魔法が肉体を再生し過ぎているが故の姿。過剰なまでの回復力は腕を斬り落とした程度すぐに再生させてしまう。部位を落すことに意味はない。効果があるとすれば頭だ。治癒魔法の核にして肉体の運動を司る脳を破壊すればさしもの肉塊も再生せずに崩壊する。だが崩壊させないために今レイ達は尽力しているのだ。
「クソ親父!目ぇ覚ましやがれッ!」
ディナが躍りかかり、技術も何もない正面からの突撃でその拳を肉塊の胸ぐらに叩き込んだ。自分の親に対してとは思えないような、練魔行で硬化された鉄の拳。肋が粉砕する感触が素手を通して伝わってくる。が、すぐにそれを押し返す怖気を誘う肉の感触を感じて飛び退く。
グルアッ!
飛び退いたディナを追撃せんと歪な右腕が振るわれた。無造作なその一撃もその膂力を持ってすれば必殺の一撃である。
即座に硬化した両腕を交差させてブロック、突き抜けるような重い衝撃に再びディナの身体が吹っ飛ぶ。
「ッ!?」
その吹っ飛んだ先を予想し、ディナは青ざめた。そこには間合いをとって機会を窺っていたユウがいる。
(やべッ――)
激突する未来に戦慄したディナと、反応すらできずにいたユウの間に黒い影が割り込んだ。
「よっと!」
引き絞られた細身の身体を黒い体毛に覆われた体躯が受け止める。テヴォと比べれば一回り小さいが、それでも十分にガタイのいい狼人族の一人が飛び込んできたのだ。ディナもよく見知った集落の男衆の一人。
「なんだかよく分からねぇが、その嬢ちゃんに触ってもらえば族長は助かるかもしれねぇんだな?」
気づけば他の男衆達も前へと歩み出ていた。皆一様に暴れ狂う肉塊と化した族長を痛ましく思い、そしてまるで動けなかった自分達の不甲斐なさに憤るように拳を握りしめていた。
「ああなっちまったやつは、自分の力量も分からねぇ弱いやつだ。だがよ、ああなっちまうってわかって、てめぇの娘のために上位魔族を殴り飛ばした族長が弱いもんかよ。俺達の族長は強い。族長は俺達の誇りだ!失ってたまるかってんだ!」
応ッ!!
一人の言葉に残りの狼人族達が声を合わせた。
「ここは俺らに任せてくれや!いくぞォッ!!」
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