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第二章 島
①
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………暗い………。
明るすぎる白い光に包まれ……そして、暗い闇……。
光から闇へ……その激しい落差を感じることもなく、深く意識が墜ちる。
………どの位の時が過ぎたのだろう………。
………背中が冷たい………。
コンクリート?……シアタールームの床で無いのは確かだ。
すると声が聞こえる……。
「……君………葵君…」
………誰だ?………。
「葵君………おい!しっかりしろ!葵君!」
必死に葵を呼び掛ける声がする。
呼び掛ける声に反応し、葵は少しづつ目蓋を開ける。
「……歩……さん?」
葵を呼び掛けた声の主は歩だった。
「良かった……気がついたみたいだね、座って少し休んでて、けだるさが残ってるはずだから……」
歩の言うように、葵は体が少し重く感じた。
目を覚ました葵を確認すると、歩は有紀に声を掛ける。
「有紀、そっちはどうだ?」
有紀の方には倒れている愛美と容子、そして、その隣に座りこんでいる順平がいる。
有紀は歩に言った。
「二人共……共に呼吸、心音、脈拍は正常だ。じきに目覚めるだろう」
有紀は順平に言った。
「順平……恐らく二人共大丈夫だが……一応目覚めるよう、呼び掛けてくれ」
「わかりました」
順平はけだるそうだ。順平も目覚めて間もないのがわかる。
有紀は順平に二人を託し、倒れている堂島夫婦の所へ向かった。歩も別で倒れている船長の山村とその助手の椿の元へ向かう。
葵の元へ九条と美夢が寄ってきた。どうやら九条と美夢も無事だったようだ。
「葵……大丈夫?これ……一体どういう事?」
美夢も少しだるそうだ。
葵は立ち上がって言った。
「それをこれから考える……少し辺りを見てくる」
「葵君っ!危険だぞ!」
九条が葵を制止しようと言ったが、葵は言い返した。
「今のところは大丈夫でしょう……危険ならば僕らは今頃とっくに危害を加えられてますよ」
そう言うと葵は行ってしまった。
九条は呆れた様子で美夢に聞いた。
「彼はいつもこうなのかい?」
美夢は申し訳なさそうに九条に謝った。
「すみません……後できっちり怒っておきます」
九条は苦笑いで言った。
「まぁ……彼の言う通り、僕らは全員気絶してたわけだからね……今の状況が危険なら、葵君が言うように、とっくに危害を加えられてる」
九条と美夢の元に歩が来た。
九条が歩に聞いた。
「どうだった?」
「皆は一応無事だ……って、葵君は?」
「彼はもう行ったよ」
歩は美夢に聞こえないよう九条と会話する。
「やれやれだな……俺は葵君を追うよ。今のところ危険は無さそうだか、流石に一人で行動さす訳にいかないからな」
「皆にどう説明するんだ?」
「九条は船長にこの状況を確認してくれ……まぁ、恐らく船長もわからないだろうが……」
「で、僕にどうしろと?」
「船長と口裏を合わせて、ここが目的地だと……うまいこと誤魔化してくれ。演説は得意だろ?」
「演説は関係ないだろ…」
「皆が混乱するのはなるべく避けたい……そうなると、リーダーシップのある船長とお前でこの場をおさめるのがベストだ」
九条は仕方ないといった表情で言った。
「あまり気は進まないが……了解した。じゃあ……葵君は頼んだぞ」
「ああ……体調に異常があれば有紀に言え……あいつは信用して大丈夫だ」
そう言い残して、歩は葵を追った。
一方の葵は倒れていた場所から敷地の端の方まで来ていた。
敷地その物はリゾート地にしては広くない、むしろ狭いくらいだ。
この位置からでも、皆か居ることがわかる。
………およそ150m程か………。
先程確認したが、皆がいるところがおそらくこの丸い敷地の中心で、高さ3m程の時計台がそびえ立っている。
その時計台を中心に、回りに十二戸の小さなコンクリートの建物が建っている。
更にその外側四方向に四つの施設が……一つは……プールか?
葵は右の人差し指でクルクル髪の毛を回しながら呟いた。
「なかなか面白い……」
すると葵のほうに歩が駆け寄った来た。
「葵君!」
「歩さん……先程はどうも」
なにくわぬ葵の態度に、歩は少し怒った様子で言った。
「どうもじゃないよ!まぁいい、一応俺も同行させて貰うよ」
「ええ、どうぞ。だが皆はいいのですか?」
「あっちは九条に任せた……皆を混乱させない為にはあいつが適任だ。それに有紀にもいるからね」
「今……一番最悪の状況は混乱して各々がパニックになることです。それに先程の有紀さんの言動から察するに、医療に携わっている人間でしょう……懸命な判断です」
「ああ……葵君のいう通りあいつは優秀な内科医だ……信用できる。で、何かわかった?」
「さっぱりです……ただ……」
「ただ?」
「この円形の敷地に、十二戸小さな建物に四つの施設……それに外側を見てください」
歩は葵に、言われた通り外側を見た。敷地を、水面が囲い広がっている。
「海か?でもそれにしても……」
歩も違和感に気づいたのか、葵が答えた。
「ええ、波がありません。あと空を見て下さい」
歩は空を見た。
雲が一つもなく、快晴と呼ぶにふさわしいくらいだ。
違和感を感じない歩に葵が言った。
「気がつきませんか?回りは東西南北、水平線で陸地が一つも有りません……そして、こんなにも明るい……」
歩はようやく葵の伝えたい事がわかった。そして、それと同時に表情が凍りついた。
葵は不敵な笑みで答えた。
「そうです……太陽が何処にもないんです」
敷地の回りは水面で囲まれていて、360度水平線だ。陸地が見えない水平線で、この明るさ……太陽が何処にも見当たらないのは……あり得なく、ここは明らかに異質だ。
葵は歩に聞いた。
「尋ねたい事があります」
「なんだい?」
「最初に起きていたのは誰ですか?」
「九条だ……それから俺を九条が起こして、有紀、美夢ちゃんに……葵君と順平君その後は……ほとんどかわらないなあ」
「そうですか……」
考え込んでいる葵に歩は言った。
「なぁ、葵君……これって主催者のサプライズって、事は……ないよなぁ?」
葵は少し考えて答えた。
「なくはないですが……不可解な事が多々あります。これを見て下さい」
そう言うと葵は自分のスマホを歩見せて言った。
「時刻は午後1時40分を過ぎたところです」
葵は時計台の方を指差し、言った。
「時計台の下に僕らの荷物が置いてあります」
確かに葵の言うように、時計台の下には自分たちの荷物が確認できる。
葵は更に続けた。
「僕たちがシアタールームに入ったのが午後1時過…気を失ったのか1時10分過ぎ……まだ30分程しか経っていません。歩さん、あなたも気付いているのでしょう?」
葵は歩の微かな望みを絶ちきるように言った。
「仮に一番最初に起きていたと言う九条さんが、主催者とグルだったとしても、一人で僕たちを運び出し、御丁寧に荷物まで運び出すなんて事は……たった20~30分では不可能です」
歩は項垂れた様子で言った。
「やっぱりそうだよねぇ……どう考えても普通じゃないよね」
葵は更に追い討ちをかける。
「もう僕らの乗っていた船も見当たりませんからね」
歩は言った。
「それは俺も気付いていたよ……九条に起こされた時には既に船はなかったよ」
葵は歩に言った。
「とにかく一度皆の所へ戻りましょう」
「そうだね……時間はたくさん有りそうだし、『島』の探索はそれからでも遅くないしね」
「島と呼ぶには……人工的過ぎますが……辺りは水面なので島でいいでしょう……」
葵と歩は一度皆が集まっている時計台に戻る事にした。
皆のいる時計台に葵と歩が、戻って来た。
いち早く美夢が葵に駆け寄る。
「何してたのよ!かってな行動はだめでしょっ!」
「すまない……だが、なかなか良いリゾート地だぞ……プールもあった」
葵は美夢を心配させないよう、あえて自分が思う不可解な事は言わなかった。
九条と船長の山村も、歩の方に向かい何かしら話している。
すると歩が葵を呼んだ。
「葵君……ちょっと……」
葵は美夢に有紀や、順平のいる所で待つ様に指示し、歩達の方へ向かった。
歩が葵に言った。
「九条が上手く誤魔化してくれたようだよ」
葵が言った。
「どの様に?いや、それより……山村船長……ここは何なんですか?」
山村は少し混乱しているのか、訳がわからないといった表情で言った。
「私にもさっぱり……」
葵が言った。
「でしょうね……聞いていた話と違う……もしくは、そもそも何も知らないと、いったところですか……」
九条が驚いた表情で言った。
「葵君の言う通りだよ、よく分かったね……船長は何も知らないらしい……」
葵は淡々と言った。
「まず一つは……船長や助手のスタッフまで気を失っているのは変です」
九条が興味津々で聞いた。
「それと?」
「船長はコックなども兼任してました……なら船長か料理を創っている間、誰が船を操縦しますか?」
歩が少し目を広げて言った。
「そうか……オートパイロットか!」
葵が言った。
「そうです。おおかた主催者に「オートパイロットが目的地まで運んでくれる。だから接客業を重視しろ」と言われたって、ところでしょう」
山村が言った。
「はい、月島様の仰る通りです。先程九条様にもご説明しましたが、私も助手の一ノ瀬も書類選考だけで採用されましたので、オーナーとは会った事がないのです」
歩は不思議そうに言った。
「よく、怪しまなかったねぇ……」
山村は少しためらって、少し暗い表情で言った。
「恥ずかしながら、報酬額が良かったものですから……」
九条が山村の気まずそうな様子を察して言った。
「これ以上はヤボだ……よそう」
葵が言った。
「山村船長……方位磁針を見せてもらっていいですか?持っているでしょう?」
山村は驚いた様に言った。
「え、ええ……持ってますが……よくおわかりになりましたね…」
葵は山村から方位磁針を受け取り、淡々と答えた。
「いくらオートパイロットとはいえ、トラブルがないとは言いきれませんから……他の業務を行いながら方角をチェックするには、常に携帯しなければいけませんからね」
山村から受け取った方位磁針は、懐中時計のように蓋がついている。
葵は蓋を開け、方角を確認したが、すぐに異変に気付いた。
「やはり……」
そう言うと葵は三人に方位磁針を見せた。
三人には驚き、そして歩が言った。
「これはっ!?」
磁針は方向を示す事なく、クルクル回っている。
葵はクルクル回っている方位磁針を見て、興味津々だが、他の三人にの表情には緊張感がある。
山村が恐る恐る言った。
「これは……どういう事ですか?」
葵は「あまり詳しくない」と前置きしたうえで、考えられる可能性を言った。
「方位磁針のN極S極は、両磁極を結ぶその方向を、その地点の向きに沿わせようと回転動作を起こします。それは地球に地磁気が……つまり地球が持つ磁気があるからです」
葵は緊張感のある三人をよそに、話を続けた。
「僕の知識の範囲ですが、考えられる可能性は…いまのところ、二つあります」
山村はまたもや、恐る恐る聞いた。
「な、何ですか?」
葵は楽しいといった表情で答えた。
「一つはこの島に磁力が集中している……もしくは、島じたいが様々な磁力で構築されている……」
そして葵は少しためて不敵な笑顔で言った。
「二つめは地磁気じたいが、ここには存在しないか……です。それほどにこの島は異質といえます」
三人は葵の表情を見て、おそらく同時に思っただろう……。
葵は何故こんなにも楽しそうなのか?と……島も葵の言うように確かに異質かもしれないが、この月島葵という青年も異質だと思っただろう。
緊張感の残る表情で九条が言った。
「確かに……地球場には方位磁針が役に立たない場所が多々あるようだか……」
葵が言った。
「それは秘境の地や、磁気性の高い岩などかある一部の場所です。だが……この島は明らかに人工的です」
葵の言うように、この島の建造物は明らかに人工的だ。
葵が言った。
「あと、お持ちの携帯電話などを確認して下さい」
九条が言った。
「僕のは……カバンの中だ」
「俺は持っているよ」
歩はそう言うと、ジャケットの内ポケットから、スマホを取り出した。
電波は……当たり前のように圏外だ。
歩は葵に言った。
「時計台の時刻ともあってるし……特に異常は……」
歩は「異常は無い」と、言いかけたところで、目を疑った。
そんな歩の反応に満足したのか、葵は言った。
「気が付きましたか……」
歩は不思議そうに言った。
「どうして?……」
明るすぎる白い光に包まれ……そして、暗い闇……。
光から闇へ……その激しい落差を感じることもなく、深く意識が墜ちる。
………どの位の時が過ぎたのだろう………。
………背中が冷たい………。
コンクリート?……シアタールームの床で無いのは確かだ。
すると声が聞こえる……。
「……君………葵君…」
………誰だ?………。
「葵君………おい!しっかりしろ!葵君!」
必死に葵を呼び掛ける声がする。
呼び掛ける声に反応し、葵は少しづつ目蓋を開ける。
「……歩……さん?」
葵を呼び掛けた声の主は歩だった。
「良かった……気がついたみたいだね、座って少し休んでて、けだるさが残ってるはずだから……」
歩の言うように、葵は体が少し重く感じた。
目を覚ました葵を確認すると、歩は有紀に声を掛ける。
「有紀、そっちはどうだ?」
有紀の方には倒れている愛美と容子、そして、その隣に座りこんでいる順平がいる。
有紀は歩に言った。
「二人共……共に呼吸、心音、脈拍は正常だ。じきに目覚めるだろう」
有紀は順平に言った。
「順平……恐らく二人共大丈夫だが……一応目覚めるよう、呼び掛けてくれ」
「わかりました」
順平はけだるそうだ。順平も目覚めて間もないのがわかる。
有紀は順平に二人を託し、倒れている堂島夫婦の所へ向かった。歩も別で倒れている船長の山村とその助手の椿の元へ向かう。
葵の元へ九条と美夢が寄ってきた。どうやら九条と美夢も無事だったようだ。
「葵……大丈夫?これ……一体どういう事?」
美夢も少しだるそうだ。
葵は立ち上がって言った。
「それをこれから考える……少し辺りを見てくる」
「葵君っ!危険だぞ!」
九条が葵を制止しようと言ったが、葵は言い返した。
「今のところは大丈夫でしょう……危険ならば僕らは今頃とっくに危害を加えられてますよ」
そう言うと葵は行ってしまった。
九条は呆れた様子で美夢に聞いた。
「彼はいつもこうなのかい?」
美夢は申し訳なさそうに九条に謝った。
「すみません……後できっちり怒っておきます」
九条は苦笑いで言った。
「まぁ……彼の言う通り、僕らは全員気絶してたわけだからね……今の状況が危険なら、葵君が言うように、とっくに危害を加えられてる」
九条と美夢の元に歩が来た。
九条が歩に聞いた。
「どうだった?」
「皆は一応無事だ……って、葵君は?」
「彼はもう行ったよ」
歩は美夢に聞こえないよう九条と会話する。
「やれやれだな……俺は葵君を追うよ。今のところ危険は無さそうだか、流石に一人で行動さす訳にいかないからな」
「皆にどう説明するんだ?」
「九条は船長にこの状況を確認してくれ……まぁ、恐らく船長もわからないだろうが……」
「で、僕にどうしろと?」
「船長と口裏を合わせて、ここが目的地だと……うまいこと誤魔化してくれ。演説は得意だろ?」
「演説は関係ないだろ…」
「皆が混乱するのはなるべく避けたい……そうなると、リーダーシップのある船長とお前でこの場をおさめるのがベストだ」
九条は仕方ないといった表情で言った。
「あまり気は進まないが……了解した。じゃあ……葵君は頼んだぞ」
「ああ……体調に異常があれば有紀に言え……あいつは信用して大丈夫だ」
そう言い残して、歩は葵を追った。
一方の葵は倒れていた場所から敷地の端の方まで来ていた。
敷地その物はリゾート地にしては広くない、むしろ狭いくらいだ。
この位置からでも、皆か居ることがわかる。
………およそ150m程か………。
先程確認したが、皆がいるところがおそらくこの丸い敷地の中心で、高さ3m程の時計台がそびえ立っている。
その時計台を中心に、回りに十二戸の小さなコンクリートの建物が建っている。
更にその外側四方向に四つの施設が……一つは……プールか?
葵は右の人差し指でクルクル髪の毛を回しながら呟いた。
「なかなか面白い……」
すると葵のほうに歩が駆け寄った来た。
「葵君!」
「歩さん……先程はどうも」
なにくわぬ葵の態度に、歩は少し怒った様子で言った。
「どうもじゃないよ!まぁいい、一応俺も同行させて貰うよ」
「ええ、どうぞ。だが皆はいいのですか?」
「あっちは九条に任せた……皆を混乱させない為にはあいつが適任だ。それに有紀にもいるからね」
「今……一番最悪の状況は混乱して各々がパニックになることです。それに先程の有紀さんの言動から察するに、医療に携わっている人間でしょう……懸命な判断です」
「ああ……葵君のいう通りあいつは優秀な内科医だ……信用できる。で、何かわかった?」
「さっぱりです……ただ……」
「ただ?」
「この円形の敷地に、十二戸小さな建物に四つの施設……それに外側を見てください」
歩は葵に、言われた通り外側を見た。敷地を、水面が囲い広がっている。
「海か?でもそれにしても……」
歩も違和感に気づいたのか、葵が答えた。
「ええ、波がありません。あと空を見て下さい」
歩は空を見た。
雲が一つもなく、快晴と呼ぶにふさわしいくらいだ。
違和感を感じない歩に葵が言った。
「気がつきませんか?回りは東西南北、水平線で陸地が一つも有りません……そして、こんなにも明るい……」
歩はようやく葵の伝えたい事がわかった。そして、それと同時に表情が凍りついた。
葵は不敵な笑みで答えた。
「そうです……太陽が何処にもないんです」
敷地の回りは水面で囲まれていて、360度水平線だ。陸地が見えない水平線で、この明るさ……太陽が何処にも見当たらないのは……あり得なく、ここは明らかに異質だ。
葵は歩に聞いた。
「尋ねたい事があります」
「なんだい?」
「最初に起きていたのは誰ですか?」
「九条だ……それから俺を九条が起こして、有紀、美夢ちゃんに……葵君と順平君その後は……ほとんどかわらないなあ」
「そうですか……」
考え込んでいる葵に歩は言った。
「なぁ、葵君……これって主催者のサプライズって、事は……ないよなぁ?」
葵は少し考えて答えた。
「なくはないですが……不可解な事が多々あります。これを見て下さい」
そう言うと葵は自分のスマホを歩見せて言った。
「時刻は午後1時40分を過ぎたところです」
葵は時計台の方を指差し、言った。
「時計台の下に僕らの荷物が置いてあります」
確かに葵の言うように、時計台の下には自分たちの荷物が確認できる。
葵は更に続けた。
「僕たちがシアタールームに入ったのが午後1時過…気を失ったのか1時10分過ぎ……まだ30分程しか経っていません。歩さん、あなたも気付いているのでしょう?」
葵は歩の微かな望みを絶ちきるように言った。
「仮に一番最初に起きていたと言う九条さんが、主催者とグルだったとしても、一人で僕たちを運び出し、御丁寧に荷物まで運び出すなんて事は……たった20~30分では不可能です」
歩は項垂れた様子で言った。
「やっぱりそうだよねぇ……どう考えても普通じゃないよね」
葵は更に追い討ちをかける。
「もう僕らの乗っていた船も見当たりませんからね」
歩は言った。
「それは俺も気付いていたよ……九条に起こされた時には既に船はなかったよ」
葵は歩に言った。
「とにかく一度皆の所へ戻りましょう」
「そうだね……時間はたくさん有りそうだし、『島』の探索はそれからでも遅くないしね」
「島と呼ぶには……人工的過ぎますが……辺りは水面なので島でいいでしょう……」
葵と歩は一度皆が集まっている時計台に戻る事にした。
皆のいる時計台に葵と歩が、戻って来た。
いち早く美夢が葵に駆け寄る。
「何してたのよ!かってな行動はだめでしょっ!」
「すまない……だが、なかなか良いリゾート地だぞ……プールもあった」
葵は美夢を心配させないよう、あえて自分が思う不可解な事は言わなかった。
九条と船長の山村も、歩の方に向かい何かしら話している。
すると歩が葵を呼んだ。
「葵君……ちょっと……」
葵は美夢に有紀や、順平のいる所で待つ様に指示し、歩達の方へ向かった。
歩が葵に言った。
「九条が上手く誤魔化してくれたようだよ」
葵が言った。
「どの様に?いや、それより……山村船長……ここは何なんですか?」
山村は少し混乱しているのか、訳がわからないといった表情で言った。
「私にもさっぱり……」
葵が言った。
「でしょうね……聞いていた話と違う……もしくは、そもそも何も知らないと、いったところですか……」
九条が驚いた表情で言った。
「葵君の言う通りだよ、よく分かったね……船長は何も知らないらしい……」
葵は淡々と言った。
「まず一つは……船長や助手のスタッフまで気を失っているのは変です」
九条が興味津々で聞いた。
「それと?」
「船長はコックなども兼任してました……なら船長か料理を創っている間、誰が船を操縦しますか?」
歩が少し目を広げて言った。
「そうか……オートパイロットか!」
葵が言った。
「そうです。おおかた主催者に「オートパイロットが目的地まで運んでくれる。だから接客業を重視しろ」と言われたって、ところでしょう」
山村が言った。
「はい、月島様の仰る通りです。先程九条様にもご説明しましたが、私も助手の一ノ瀬も書類選考だけで採用されましたので、オーナーとは会った事がないのです」
歩は不思議そうに言った。
「よく、怪しまなかったねぇ……」
山村は少しためらって、少し暗い表情で言った。
「恥ずかしながら、報酬額が良かったものですから……」
九条が山村の気まずそうな様子を察して言った。
「これ以上はヤボだ……よそう」
葵が言った。
「山村船長……方位磁針を見せてもらっていいですか?持っているでしょう?」
山村は驚いた様に言った。
「え、ええ……持ってますが……よくおわかりになりましたね…」
葵は山村から方位磁針を受け取り、淡々と答えた。
「いくらオートパイロットとはいえ、トラブルがないとは言いきれませんから……他の業務を行いながら方角をチェックするには、常に携帯しなければいけませんからね」
山村から受け取った方位磁針は、懐中時計のように蓋がついている。
葵は蓋を開け、方角を確認したが、すぐに異変に気付いた。
「やはり……」
そう言うと葵は三人に方位磁針を見せた。
三人には驚き、そして歩が言った。
「これはっ!?」
磁針は方向を示す事なく、クルクル回っている。
葵はクルクル回っている方位磁針を見て、興味津々だが、他の三人にの表情には緊張感がある。
山村が恐る恐る言った。
「これは……どういう事ですか?」
葵は「あまり詳しくない」と前置きしたうえで、考えられる可能性を言った。
「方位磁針のN極S極は、両磁極を結ぶその方向を、その地点の向きに沿わせようと回転動作を起こします。それは地球に地磁気が……つまり地球が持つ磁気があるからです」
葵は緊張感のある三人をよそに、話を続けた。
「僕の知識の範囲ですが、考えられる可能性は…いまのところ、二つあります」
山村はまたもや、恐る恐る聞いた。
「な、何ですか?」
葵は楽しいといった表情で答えた。
「一つはこの島に磁力が集中している……もしくは、島じたいが様々な磁力で構築されている……」
そして葵は少しためて不敵な笑顔で言った。
「二つめは地磁気じたいが、ここには存在しないか……です。それほどにこの島は異質といえます」
三人は葵の表情を見て、おそらく同時に思っただろう……。
葵は何故こんなにも楽しそうなのか?と……島も葵の言うように確かに異質かもしれないが、この月島葵という青年も異質だと思っただろう。
緊張感の残る表情で九条が言った。
「確かに……地球場には方位磁針が役に立たない場所が多々あるようだか……」
葵が言った。
「それは秘境の地や、磁気性の高い岩などかある一部の場所です。だが……この島は明らかに人工的です」
葵の言うように、この島の建造物は明らかに人工的だ。
葵が言った。
「あと、お持ちの携帯電話などを確認して下さい」
九条が言った。
「僕のは……カバンの中だ」
「俺は持っているよ」
歩はそう言うと、ジャケットの内ポケットから、スマホを取り出した。
電波は……当たり前のように圏外だ。
歩は葵に言った。
「時計台の時刻ともあってるし……特に異常は……」
歩は「異常は無い」と、言いかけたところで、目を疑った。
そんな歩の反応に満足したのか、葵は言った。
「気が付きましたか……」
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「どうして?……」
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