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早瀬ヒカルの恋 〜 帰国
しおりを挟む羽田空港からミチコを本宅近くまで 送る。
俺が彼女と行動しているところは 本宅の人間には見られたくなかった。また何かと言いがかりを母に突きつけてくるかもしれない。
少なくとも 俺を慕ってくれるミチコに嫌な思いはさせられ無い。
「休みの間に遊びにおいで…」
と、ミチコに 兄らしい誘いの言葉をかけ そのまま鎌倉の実家に戻った。
父が他界したあと長らく割烹小料理屋を閉めていたが、一人息子が天下のT大学医学部で優秀な成績?で2学年のカリキュラムも終えられた。
俺は 池田チハルのおかげで 三年に進級する事ができた。いつか 出会う事が有れば、この借りをかえそう。
約束通り2年間の〝外遊〟を許してくれた母は、覚醒したかのように稼業に精をだしはじめた。
割烹小料理屋は 本宅からの手切れの旅館を改装し、新たに割烹料理旅館として 地元から都内に至る政財界、また黒崎総合病院と関わる医療関係者からの隠れ家的存在として、鎌倉で次第に知名度を上げていた。
旅館の正面を避け母屋に近い裏手からそっと自宅に入ったつもりでいたが、
「女将さァ~ん!坊っちゃま、お帰りになりましたああぁっ!」
見つけられた仲居さんに 口止めするまもなく大きな声で報告される。見つかってしまってからは、母親といわず ヒカルを幼い頃から大切に育てた仲居頭から 板長に至るまで皆がこぞって仕事の合間に母屋をいそいそと出たり 入ったり、俺の身の回りの世話を焼きだした。
…フゥ …たしかに ‘坊や’だ… darn! クッソッ!!
「クック、クッ ワァ―、ハッハハハハァ! 」
母は俺が帰国するのを見越して 入れ替えられたばかりの青畳に大の字になり大きく伸びをする。
悔しいが 俺はまだまだ 子どもだ…
4月から大学に戻ろう…
多分、アイツは、アメリカの何処かで今も研究してる筈…いやひょっとしたら何処かの病院で医者を続けている筈だ…
俺とアイツの繋がりは もはや 医学しか無い。
だったら 上等じゃね? ララハート.ミラーPhDに追いついてやろうじゃん…
帰国後半月近く経っても、自室に篭りきりの息子の姿に…何かしらあった事を母親 早瀬カヲルは感じている。…
…これほど、余裕のない ヒカルさん…初めてだわ…大学受験ですら、ここまで酷く無かった…何があったのかしら?
母親として心配は しつつも日々の女将業に忙殺される。
幾度か黒崎ミチコが鎌倉に遊びに訪れていた。ミチコと過ごすその時だけは、唯一 息子が安らいでいる様子だった。
「お兄さまぁ、今日 旅館の方で アメリカの方々が沢山来てましたけど…」
ミチコは頻繁に鎌倉に来て俺の部屋で、蔵書の医学書の原書を読み込んでいる。
彼女は飛び抜けて優秀だ。今年9月にはUCLAの医学部に進学が決まった。
「ああ…観光だろ?……ミっちゃん 、気をつけないと通訳に駆り出されるからね…」
俺は、いつか必ず アイツがいる医療界へリベンジしてやる。
復学の準備については、2年余りのブランクを埋めてみせる。見知らぬぺーぺーな学生を蹴散らしてやろうじゃない…
俺の意気込みを知ってか知らずか、ミチコは難しい医療用語や解釈は俺の解説を求めながら原書を読み進む。
…ミッちゃん 君は本当の意味で俺のホワイトナイトだよ…
タッ 、タッ、 タッ
(…ほうら… おいでなすった! いつもの事ながら 笑える…)
専用の通訳が帯同していてもネイティブな英語を正確に日本語に伝えられず間違った料理が出て トラブルになった事も何度かある。
「ヒカルさん お願いします!」
女将である母親が ヒカルに手を合わす。
「あっ お母さん!今日は ミっちゃんがバッチリ通訳してくれますよ」
ヒカルは悪戯っぽくミチコを見る。、
「 何言ってるんですかっ! ヒカルさん…ミチコちゃんに そんな事お願いする筋 で無いことぐらいわかって …」
母は未だ、本宅のへの遠慮と長い間虐げられてきたせいか、卑屈な感情を引きずったままだった。
「いえ 叔母さま 私…… 行って参ります。ご覧になって…お兄さまの意地悪な顔! 私…負けたくございません!」
黒崎ミチコは 花柄の可愛らしいワンピース姿で、もしその容貌が老け顔でなければ、まだあどけなさが残る学生だった。
「いえ、ダメですよ間違って出たお料理が原因ですから…えらくご立腹で…ミチコちゃんにそんな場所…」
「お母さん 、ミッちゃんがやるって言うのだからやらせて下さい、俺も様子見てます 大丈夫ですよ」
「ミっちゃん 行こうぜっ」
俺は 度胸試しとばかりにミチコの手を取った。
宴会場の入り口で大柄な黒人男性が、通訳に早口でまくし立てている。 白人 黒人 ヒスパニック系と入り乱れた人種がそれぞれ勝手気ままに英語 ラテン語 地方訛りで話し、騒然となってきた頃
女将がミチコを連れて 部屋に入る。
「Wow! オカミサマァ」
誰かがへんな日本語を叫び部屋が静まり返る。秀麗な女将に注目する。
…………………………………
女将の挨拶と 不手際を詫びる言葉を 黒崎ミチコがネイティブでありながらも ハイソサエティな言葉で同時通訳する。一同はミチコの綺麗な発音に聞き惚れる。
…ポカホンタス⁈………………
黒人の客は ベジタリアンだったが、肉が出たと言って怒っていた。
ソイミートだと ミチコの落ち着いた通訳で納得し誤解もその場でとける。
小さなトラブルも 大勢が寄ると収集がつなかい事態となる。
医師を目指す ミチコの度胸試しは一応合格…と部屋の外で立ち聞きしていた俺も安心した。
(…あいつ 俺が思ってる以上に、度胸据わってるじゃん!)
出番が無くなったが、妹の将来が楽しみになってきた。
団体客は、女性 男性含め十数名の、アメリカからの観光客と顧客名簿に印されていた。彼等は一泊して帰って行った。
ミチコも二日逗留したあと帰宅した。
しばらく旅館も利用客が少なく落ち着いてきたので、親子の会話に時間を割くことが出来るようになった。
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