チート無しっ！？黒髪の少女の異世界冒険記

八章 決意する少女

壮大な夫婦喧嘩

　その女性は歳は私より少し上くらいだろうか、赤いショートヘアの髪に龍のような角を生やし、ドラゴンの翼と尻尾を生やした女性で、鎧を身に纏い、手には地面に突き立てたヘビーアクスを持っていた。

　村の戦士かなにかだろうか……？

　彼女が何者かは分からないけど、少なくとも見た目からしてドラゴンと関係があるのは間違い無さそうだ。

「えっと……、あなたは……？」

「アタイはカレン。見ての通り龍人族ドラゴニュートだ。そして、あそこで暴れまわっているドラゴンの父とワイバーン母の間に産まれた娘だ」

　……は？

「へ……？は……？」

　突然のことで頭がフリーズを起こす。

　え……？この女性はあそこで未だに激戦を繰り広げているドラゴンとワイバーンの娘で、人でドラゴニュート……？

「カレンの言っていることは本当だ。ドラゴニュートは竜の姿と人の姿、どちらにもなれる種族らしい。で、あそこで暴れまわっている二人は今、壮大な夫婦喧嘩をしている最中って訳だ。まったく迷惑な話だ……」

　夫婦喧嘩……。
　壮大過ぎる夫婦喧嘩だ……。

「娘としてはあの傍迷惑なケンカを止めたいと思っているんだが、流石に一人では分が悪い……。そこでお前、手を貸しやがれ」

「え……？私……？」

「お前以外誰がいるんだ？」

　デスヨネ～……。

「で……でも私にドラゴンやワイバーンと戦ったことないよ……っ！？」

「大丈夫だ。倒せとは言わない、ぶん殴って正気に戻させればいい」

「いやいやいやいや……っ！！」

　いや、ドラゴンをぶん殴れってあーた……！

　私のこのか細い腕で殴りかかろうものなら逆に食べられて私の人生お終いになるでしょうがっ！！

「お前冒険者だろ？見た所強そうだがな。そう言えばお前の名前を聞いてなかったな。名前はなんて言うんだ？」

「え……？カナ……だけど……」

「よし！それじゃあカナ行くぜっ！！」

「え……？」

　カレンは私の身体を掴むと、有無も言わさずそのまま軽々と私を背負い、彼女の身体が光ったと思ったら巨大な赤いドラゴンへと変身し、あっという間に私を乗せたまま大空へと羽ばたくと物凄い速度で空を飛び始めたっ！

「うわあぁぁぁぁ……っ！？」

　突然のことで私は慌てふためきながらカレンが変身したドラゴンの首へとしがみつく……！

　ドラゴンと化したカレンの身体は大きく、体長は頭の先から尻尾の先まで入れると７メートルくらいはあり、横幅は翼を広げると１０メートルはあるだろう。

　私は振り落とされないようにしがみつき、遙か上空を顔に物凄い風圧を受けながら耐えていた……っ！

　死ぬ……！死ぬぅぅぅぅーーー……っ！！！

『カナ！そろそろ二人の所に辿り着くっ！殴る準備をしやがれっ！！』

「無理！無理だからぁぁぁぁぁーーーー……っ！！」

　私は涙目になりながら必死に訴えるがカレンは聞く耳を持ってくれない。

　上空へと飛び上がっているカレンは彼女の両親だというドラゴンとワイバーンを目掛け急降下を開始するっ！

『それじゃあ……！行くぜぇっ！！』

「お願いだから私の話を聞いてーーーーっ！！！」

　カレンは急降下を始め、今まで以上の風圧に襲われた私は遂に振り落とされ、彼女の父親であるドラゴンの頭の上へと向かって落下していく……っ！

「きゃあぁぁぁぁぁーーーーーー………っ！！！」

　助かるためにはどうにかして落下速度を落とさなければならない……！
　でもどうやって……っ！

　その時、ふと元いた世界で見たフライングボードを思い出した。

　うまく行けば助かるかも……っ！！
　一か八か……！

　私は目を閉じて心を落ち着かせ、明鏡止水を発動させる……。

　我ながらよくこの状況で発動させれたと思うが、この絶望的とも言える状況下がかえって私の心を落ち着かせてくれた。
　そして……。

「水よ、大気の精霊よ！我が手に集い刃と成せっ！『ウォーターブレード』っ！！」

　私の放ったいつもよりも高出力のウォターブレードはドラゴンカレンの父親の脳天に直撃する！

　暫くウォターブレードを放っていると段々と落下速度が弱まり、あとは威力を調整させながら地面へと降りたのだった。