罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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由奈の章 甘えたがりな義妹

初めて本当の恋と向き合えた日

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 二階へと上がった僕は由奈の部屋のドアをノックする……が、返事がない。

「由奈……?いるなら部屋のドアを開けてほしい……」

 僕はドアの向こうにいると思われる由奈へと声を掛けるも返事がない……。

「由奈……開けるよ……?」

 ドアを開けると、部屋の空気が重く沈んでいた。
 ノートやペンが床に散らばり、ベッドの上には膝を抱えてうずくまる由奈。
 僕の心臓が、ぎゅっと音を立てた気がした。

「由奈……」

「来ないで……」

 僕は由奈へと近寄ろうとすると由奈の声が聞こえた……。
 しかしそれは僕に対する明らかな拒絶だった。

「由奈……どうしたの……?」

「あたし……もういや……」

「何が嫌なの……?」

「あたし……彼方さんの恋人になれて嬉しかった……でも……彼方さんの事を思えば思うほどどんどん欲張りになって……。彼方さんが他の人女の子と話しているのを見ただけでイライラして……心がモヤモヤして……トゲトゲして……。こんなあたし……彼方さんの恋人にふさわしくないよ……。欲張りで、嫉妬深くて……自分でも嫌になるくらい……」

「そんな事……!」

「来ないで……!」

 僕は由奈へと再び近寄ろうとすると再び拒絶の意思を向けられ、僕は立ち止まってしまう。

「あたしは彼方さんにあたしだけを見ててほしかった……、他の人に笑顔をむけないでほしくなかった……、あたしだけに優しくしてほしかった……、ね……?引くよね、こんなの……。あたし……自分でもここまででワガママだったなんて知らなかった……」

 由奈はかおをあけまると、自嘲気味な笑みを浮かべていた。
 その目には散々泣いていたのか、目を真っ赤に腫らしていた……。

 僕は言葉が出なかった。
 由奈の不安が、こんなにも深かったなんて——僕は、気づいていなかった。

「由奈……僕は由奈のことが……」

「分かってる……!それは分かってるの……。でも……彼方さんは優しいから……他の女の子に言い寄られたら簡単になびいてしまうんじゃないかって……。そんな不安があたしに付きまとって……」

「そんなこと、絶対にしないよ!僕の恋人は——由奈だけだ。誰が何を言っても、僕が好きなのは……由奈だけだよ」

「……うん……分かってる……。信じてた……信じたかった……。でも……心が勝手に不安になって……。彼方さんが他の子と笑ってるのを見るたびに……胸が痛くなって……。やっぱりあたしは妹としか見られていないんじゃないかって怖くなって……」

 由奈の声は震えていた。  
 その姿が、今にも壊れてしまいそうで——僕は、ゆっくりと近づいた。

「由奈……」

 一歩、また一歩……。 
 由奈が拒絶するかもしれない……そう思いながらも、僕はそっと腕を伸ばした。
 そして、彼女の肩に触れた瞬間、由奈は小さく震えた。
 僕は、静かに抱きしめた。

「……ごめん。そんな不安を抱えてたなんて……知らなかった。本当に、ごめん」

「……彼方さんは悪くないよ……。全部、あたしが悪いの……。でも……不安で……信じたかったのに……信じきれなくて……。ごめんなさい……」

 由奈は僕の胸に顔をうずめて、涙を流した。  
 僕は何も言わず、ただ静かに、何度も由奈の頭を撫でた。


 あれからどのくらい経っただろう……、由奈は泣き止み、今は僕の腕の中に体を預けていた。

「由奈……落ち着いた……?」

「うん……でも……彼方さん、本当にごめんなさい……」

「僕の方こそ由奈を不安にさせてごめんね……」

 僕はそう言うと少しだけ力を入れて由奈の体を抱きしめると、由奈の体が少しピクっと震えた。

「ううん……、でも……やっぱりまだ不安だよ……」

「どうすれば由奈の不安をぬぐえる……?」

 僕は由奈へと問うと、由奈は少し顔を俯かせたかと思うと、少しだけ顔を赤くして僕を見つめる。

「あたしが、彼方さんのものだって……ちゃんと感じさせてほしい。もう不安にならないように…」

「由奈……それは……」

 由奈の言っている意味が分からないほど僕は鈍感じゃない。

「彼方さん……お願い……」

 僕の腕を握る由奈の手が震えていた……。

「分かった……」

 僕はそっと由奈の頬に手を添えて、彼女の目を見つめた。
 由奈は、少しだけ目を閉じて——僕は、静かに唇を重ねた。
 そして、彼女をぎゅっと抱きしめる。
 その震えが、少しずつ僕の腕の中でほどけていくのを感じた。


 ◆◆◆


 日が暮れて、由奈の部屋には静かな影が落ちていた。  
 僕と由奈が部屋を出て階段を下りると、ソファには亜希が座っていた。
 頬に当てられていたタオルは外されていたけど、そこはまだ少し赤くて——目だけが、僕たちをじっと見ていた。

 由奈はソファへと座っている亜希の前へと立つと、頭を下げ謝罪した。
  
「……お姉ちゃん、ごめんなさい!」

 亜希は由奈の言葉をただじっと見つめる……。
 その表情からは彼女が何を考えているのかまではうかがい知ることができなかった。

「……由奈、それは何に対しての謝罪?」

「全部……。お姉ちゃんを叩いたことも、八つ当たりしたことも……。心配してくれたのに、あたし……あたし、最低だった……」

 由奈の声は震えて、涙がぽろぽろと落ちる。
 その様子を亜希は黙って見つめていたが、やがてため息をついた。

「まあ……反省してるなら、いいわ」

「……ありがとう、お姉ちゃん」

 亜希はぼそっと言うと、由奈は涙を流しながら肩を震わせていた。

「でも、彼方にはちゃんと言っておきたいことがあるのよね……」

「え……?僕……?」

 涙を流している由奈を他所に、亜希はじっと見つめると、 立ち上がって僕の前へと歩み寄る。
 そして——

「で、聞くけど……彼方……あなた由奈に手、出したでしょ……?」

 その声は静かで、でも鋭かった。  

 ギク……!

 僕は一瞬、息が止まった。

「え……いや、その……」

「その顔、完全にアウトじゃない」

 亜希の目が、じわじわと鋭くなる。

「中学生よ? 同意があっても、世間はそう甘くないわよ」

「わ……わかってるよ。本当は何もしない……つもりだったけど……その……つい……」

「"つい"でも手を出した時点でアウト。由奈のこと、大事にしてるのは分かるけど、ちゃんと責任持ちなさい。それと……今度由奈を泣かせたら許さないわよ……?」

 亜希に睨まれた僕は深く頷く他なかった……。

「……はい」

「よかったわね、由奈。これからは彼方が一生由奈を大切にしてくれるって」

「ホント……?彼方さん……」

 亜希の言葉にさっきまで泣いていた由奈の顔がパアっと明るくなる。

「え……?いや……それは……」

「何……?責任も取るつもりがないのに由奈に手を出したの……?」

「取ります!責任、ちゃんと取りますっ!」

 僕は何度もうなずいた。
 亜希の視線が痛いくらいに刺さる。

 でも——それでも、由奈を守りたいと思った。

「よろしい」

 まあでも……、そうだよね……僕は由奈のこときちんと守っていかないと……。

「これからも、よろしくね……彼方さん」

 由奈が笑った。

 その笑顔は、泣き疲れたあとにようやく戻ってきた“本当の笑顔”だった。
 僕は、その笑顔を守ると心に決めた。
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