罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

文字の大きさ
114 / 223
澪の章 寡黙なクラス委員長

澪の食欲の理由

しおりを挟む
 生徒会長と別れたあとも、澪は買い食いを続けていた。  
僕はその姿を、ただ静かに眺めていた。

「このうどんも美味しい……。彼方くんは食べなくていいの……?」

「僕は澪がおいしそうに食べてるのをみてるだけで十分だよ」

 お腹がいっぱいというのもあるけど、どんなものでも美味しそうに食べる澪の姿に、僕は目を奪われていた。

「……そんなに見つめられると照れる」

 見つめられ、顔を少し赤くする澪に僕は微笑みかける。

「やだ……、僕は澪の彼氏だから澪がおいしそうに食べるところを見るのは僕の特権だ」

「……彼方くんって意外と意地悪」

 澪は頬を膨らませながらもうどんをすする。

「そう言えば澪って嫌いな食べ物ってあるの?」

「……強いて言えば辛いもの。激辛とか無理」

 なるほど。

「甘い物とかは?」

「甘いものは好き……いくらでも食べれる……」

 澪は甘いのが好きなのか……。
 それを聞いた僕はとある意地悪な質問を思いついた。

「じゃあ……甘いものと僕、どっちが好き……?」

 僕は澪へと質問をすると、彼女はじっと僕を見つめる……。

「彼方くんってやっぱり意地悪……。でも……、どちらかと言われると彼方くんのほうが好き」

 澪は顔を赤らめながら、そっと上目遣いで僕を見つめてきたくると、今度は僕の顔が赤くなるのを感じる。

(見事なカウンターをくらってしまった……)

 僕の思っていたことが分かったのか、澪はふふっと笑みを浮かべた。

「あ……!お兄ちゃんだ!」

 と、その時由奈ちゃんの声が聞こえると、彼女は僕へと向かって走ってくる。

「由奈ちゃん?」

「えへへ、お兄ちゃん探したよ!どこに行ってたんだよ!……ところでその人は?」

 由奈ちゃんは頬を膨らませながら僕へと文句を言ったあと、澪へと視線を向けると、すこしだけ彼女の顔が曇ったような気がした……。

「わたしは柊澪……、彼方くんの彼女……」

「か……彼女……?」

 由奈ちゃんは一瞬言葉を失い、僕と澪を交互に見つめる。

 その瞳には、驚きと戸惑い——そして、隠しきれない寂しさが滲んでいた。

「うん……。彼方くんと付き合ってる……。これがその証拠……」

「え……?澪……っ!?」

 澪は僕のネクタイを掴むと自分の方へと引っ張った。
 そして……。

「ん……」

 澪は突然僕へとキスをする。
 今日の彼女のキスは……ほんのり鰹出汁の味がした……。

 澪の唇が離れたあと、僕は一瞬何も言えなかった。
 由奈ちゃんもまた突然の事にこの場を失っていた。 
 
「……彼方くんの味、好き」

 澪はそう言って、僕の唇にそっと舌を滑らせたあと、澪は無表情のまま器を置いた。

 澪の唇が離れたあと、僕はただ呆然としていた。
 けれど、彼女の瞳の奥に何か揺れるものを感じていた。

(み……澪に唇を舐められた……)

 僕の心臓がドキドキと高鳴るのを感じる……。
 由奈ちゃんは何か言いかけるも、言葉を飲み込むと、目を伏せたまま唇を噛んでいた。

「……そっか。澪さんって、そういう人なんだね」

 由奈ちゃんは少しだけ笑ってみせたけど、その笑顔はどこか寂しげだった。

「ごめん、由奈ちゃん……。驚かせちゃったよね」

「ううん。お兄ちゃんが幸せなら、それでいいよ……。そ……それじゃあ邪魔しちゃ悪いからあたしはもう行くね……!」

 由奈ちゃんはそれだけを言うと少しさみしげな笑顔を浮かべたままこの場を走り去っていった。

「……澪、何でさっきあんなことしたの?」

「……ごめんなさい、でも彼方くんが、わたしのものだって……誰にも渡さないって、伝えたかったの……」

 僕は澪へと問うと彼女は顔を俯かせままそれ以降何も言わず、うどんをすすっていた。
 僕はその瞳の奥に、彼女の心の空腹を感じていた……。


 ◆◆◆


 夕暮れの屋上。
 沈む太陽が、澪と僕を静かに染めていた。

「彼方くん……さっきは驚かせて本当にごめんなさい……」

「まあ……、ビックリはしたけど大丈夫だよ」

「……彼方くんにわたしの話を聞いてほしい」

 澪は僕に背を向け、ゆっくりとフェンスへと歩いていった。
 その背中が、少しだけ遠く感じる。

 僕は彼女の後ろをゆっくりと歩きながら澪が口を開くのを待つ……。

「わたしは幼い頃からこんなんじゃなかったの……、昔の私は、活発で、元気で——賑やかな女の子だった」

 澪はポツポツと話し始める……。

「でも……わたしのお父さんはわたしがはしゃぐたび怒鳴られて、時には手をあげられることもあった……。それが嫌でわたしはいつしか今の性格になってしまった……」

 僕は信じられなかった……澪にそんな過去があったなんて……。
 そして、彼女を虐待していた父親に対して激しい憤りを感じる……。

「そんなわたしを助けたいとお母さんはお父さんとが離婚……、でも……わたしの性格は治ることはなかった……。それは付属中学に入っても一緒で男子からはよくからかわれていた……。それがお父さんとに怒鳴られたりしていた過去と重なってすごく嫌で……怖かった……」

 そう言えば付属中学に入った頃……澪は男子からいじめられてたな……。
 僕がその時澪を助けたんだっけ……。

 その時の光景は今も覚えている。

「そのころからだった……食欲が止まらなくなったのは……。わたしは……心の中に空いた穴を埋めるように、私は食べることにしがみつくようになった……。本当は嫌なのに……、いっぱい食べないといけないの嫌なのに……。でも食べないと満たされなくて……さみしくて……悲しくて……」

 澪は自分の肩を抱きしめるようにして、静かに涙をこぼした。

「澪……」

 僕はそっと澪の体を抱きしめる……。
 彼女の小さな体が震えていた……。

 さっき感じた澪の心の中空腹感……多分澪は愛情に飢えているんだ……。
 本当はお父さんからも愛されたかった……でも、愛してもらえなかった……。

 その想いが付属中学の頃に目覚めてしまったんだ……。

「彼方くんおねがい……わたしの心を満たして……」

 澪がそっと僕を押し倒し、唇を重ねてくる……。
 そのキスは、言葉よりも深く澪の心を伝えていた。

「澪……」

「わたしを……愛してほしい……」

 澪の心の空白が、少しでも埋まるように——僕は、彼女の唇に何度も想いを重ねた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

処理中です...