罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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澪の章 寡黙なクラス委員長

澪、補給中

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 翌日——手土産のクッキーを持って澪の家へ向かっていると、途中で澪が立っているのに気づいた。

 今日の彼女は白の半袖のブラウスに膝丈くらいまであるグレーのスカートを履いている。
 澪は僕に気がつくと笑顔を浮かべながら小さく手を振ってくれていた。

 僕は笑顔を綻ばせながら彼女に向かって小走りで向かう。

「澪、おはよう」

「彼方くん、おはよう……」

「澪どうしたの?こんなところで……」

「彼方くんに家の場所教えてなかった……」

 澪に言われ彼女の家の場所をよく知らなかったことを今更ながら思い出す。

 そう言えば、送る時もいつも家の近くまでだったな……。

「でも、それならメールで住所を送ってくれればよかったんじゃ……」

「わたしが早く彼方くんに逢いたかった……」

 澪は顔を赤くしながら僕の胸へと頭をポンと置く。

「澪……」

 彼女の行動に驚きながらも僕はそっと澪を抱きしめる。
 澪の体温と髪の甘い香りが、僕の胸の奥をじんわりと満たしていく。


 僕たちはどのくらい抱き合っていただろう……、突然澪のスマホが鳴り始めると、彼女はビクっと驚きながらも電話に出る。

「もしもし……?」

『もしもし?澪今どこにいるの?彼方君を迎えに行くって言ってから中々帰ってこないから心配してるのよ……!』

 僕は耳を澄ますと電話の向こうから澪のお母さんの声が聞こえてくる……。

「え……、あ……うん、ごめん……」

『それで、今澪はどこにいるの?』

「いま……?いま彼方くんと一緒……」

『まさか彼方君とキスしたり、抱き合ったりしてイチャイチャしてるんじゃないでしょうね?』

「ち……違うよ……!そんな事してないよ……!」

『そう……?兎に角早く彼方君と一緒に帰ってきなさい』

「うん……分かった……、それじゃあ……。もう……、お母さんったら……」

 電話を切った澪は、顔を真っ赤にしながら小さく文句をこぼした。

 僕は自分のスマホを見ると10時30分を少し過ぎていた。
 どうやらこの場に長居してしまっていたようだ。

(そりゃお母さんも心配するよね……)

「と……兎に角彼方くん行こ……」

「うん……、あ、これ手土産のクッキー。今朝僕が作ったんだ」

「ありがとう……、後で一緒に食べたい」

 クッキーを澪に渡すと、彼女はそっと僕の手を握った。
 そのぬくもりを感じながら、僕たちは並んで澪の家へと歩き出した。


 ◆◆◆


 澪と手をつないで歩いた先は、県営住宅が並ぶ静かな団地だった。
 どうやらこの中の一室に澪の家があるようだ。

「彼方くん、こっち……」

 僕は澪に手を引かれる形で彼女の後をついていく……。

 県営住宅の建物の一つへと入り、3階まで階段を登るとそこで澪は立ち止まった。

「ここがわたしの家……」

 グレーの塗装が少し剥げた鉄製の扉。
 その表札には、静かに「柊」の文字が刻まれていた。

「彼方くん、入って……」

 澪が玄関にドアを開けると僕は緊張しながら中へと入る。

「あらあら、彼方くんいらっしゃい!」

「お……お邪魔します……!」

 玄関に入るとすぐに澪のお母さんが出迎えてくれる。
 昨日会った時の険しい表情とは違い、今日はにこやかな笑顔を僕へと向けていた。

「お母さん……、これ彼方くんからもらった。彼方くんの手作りのクッキー……」

「まあそんな……、わざわざありがとうね彼方くん……。澪、彼方くんに上がってもらって」

「うん……、彼方くんわたしの部屋に行こ…!」

 澪からクッキーを受け取ったお母さんは少し申し訳なさそうな顔をする。
 そして僕は澪の案内で彼女の部屋へと通された。


 初めて訪れる彼女の部屋……。
 ベッド、机、本棚、タンス、ローテーブル——澪の部屋には必要なものがきちんと揃っていた。

 そしてそのどれもが彼女が好きだと言っていたグレーで統一されている。

 それまあいいのだけど……、その澪は今なぜか僕の腕の中にすっぽりと収まっていた。

 澪は僕を座布団に座らせると、何の前触れもなくすっと腕の中に収まってきた。

「あの……澪さんこれは一体どういう状況ですか……?」

「今、彼方くん成分を補給してるの……」

 補給って……僕は栄養ドリンクか何かかな……?
 それに僕成分って……。

「そんな事しなくても学園とかで会えるわけだし……」

「学園でしか・・あえない……。だから補給が必要……」

 ……そうですか。

 僕は苦笑しながらも今の状況を受け入れる。

「ねえ……彼方くん……」

 澪は目を閉じると顎を上げる……。
 どうやらキスがご所望らしい。

「澪……」

 僕も目を閉じると澪へと顔を近付ける……。
 そしてもう少しで2人の唇が触れそうな、その瞬間——。

「澪~、お菓子持ってきたわよ……て、あら……?私お邪魔だったかしら?」

 突然聞こえてきた声に僕と澪は部屋の入り口へと目をやると、お盆を手にした澪のお母さんが、ニヤニヤとした笑顔で部屋の入口に立っていた。

「お……お母さん……!急に来ないでよ……!」

「そういうのなら部屋のドアくらい閉めておきなさい。ほんと、若いっていいわねぇ~」

「も……もう……!お母さん……!」

 澪のお母さんはお菓子と飲み物をローテーブルの上へと置くと去っていくと、澪は顔をあかくして頬を膨らませていた。

 ……この空気、僕にどう処理しろっていうんだ。
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