罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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柚葉の章 ロリっ子で不器用な生徒会長

彼方不在の生徒会室

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 ──柚葉──

 10月に入ったある日の放課後、私は生徒会室で業務をこなしながら、空いたままの彼方と律の席を、ぼんやりと見つめる。

 2人は修学旅行に行っている。
 彼方がいないせいか思うように仕事が捗らない……。

「はぁ……」

 私はため息をつきながら書類に目をやる。

「ミレイ、またため息?生徒会室に来てからもうこれで10回以上してるわよ?今日だけで累計したらもう数えるのが面倒になるくらいよ」

 私のすぐ近くで会計の姫野が苦笑しながら私を見る。

「……私はそんなにため息をついてたか?」

 姫野は苦笑しながら、ペンをくるくると回す。

「うん。しかも、彼方くんの名前が出るたびに、ちょっと顔が緩んでるし」

「そ、そんなことは……!」

 私は慌てて否定するけれど、書記の春野は苦笑する。

「如月先輩って、意外と分かりやすいですよね。普段は完璧主義で隙がありませんけど、御堂先輩のことになると、途端に“彼女モード”になりますよね」

「……彼女モードってなんだ」

 私は春野をジト目で見つめると、姫野がクスッと笑う。

「ミレイって彼氏成分が足りないと不調になるよね、今みたいに」

「それは……否定できないかもしれない」

 私は目の前に手が止まったままのペン先と、進まない書類に視線を落とす。

 たかが3日ほど修学旅行に行ってるというだけなのに、彼方がいないだけでこんなにも空気が違う。  
 生徒会室の静けさが、いつもよりずっと広く、冷たく感じる。

 彼方と出会う前は何とも思わなかったが、彼方と付き合うようになってから、彼方がいないだけで、こんなにも胸が空っぽになるなんて……。

「……彼方、今頃何してるんだろうな」

「確か律先輩が言ってましたけど、修学旅行って京都でしたよね?観光地巡ってる頃でしょうか?」

「……そうか、京都か」

 私は手元のペンを止め、窓の外に目を向ける。  
 夕暮れの光が差し込む生徒会室は、どこか寂しげで、彼方の笑い声が聞こえないことが、こんなにも静寂を際立たせるなんて思わなかった。

「彼方、ちゃんとご飯食べてるかな……」

「心配性だなあ、ミレイ。御堂くん、しっかりしてるじゃない」

 姫野が笑いながら言うけれど、私は首を横に振る。

「……あいつの事は分かってるつもりだけど、それでもやっぱり心配なんだ」

「それってもう彼女と言うより、お母さんレベルじゃないんですか?」

 春野がくすくすと笑う。

「み……ミレイは彼方の彼女として気にしているんだ!彼女なら彼氏の事が気になるのは当然だろう」

 そう言いながらも、私は自分の言葉に少しだけ照れくさくなる。

 そのとき、机の上に置いていたスマホが震えた。  
 画面を見ると、彼方からのメッセージだった。

――清水寺なう。舞台からの景色、すごいですよ。柚葉先輩にも見せたかったですよ――

 その一文に、思わず笑みがこぼれる。
 けれど同時に、胸がきゅっと締めつけられる。

(……ずるい。そんなこと言われたら、もっと会いたくなるじゃないか)

 私はスマホを握りしめ、しばらく画面を見つめたあと、短く返信を打つ。

――帰ってきたらゆっくり写真を見せてくれ。……あと、彼方成分もたっぷり補給させろ――

 送信ボタンを押したあと、私はふっと笑みをこぼす。

「……よし、もう少し頑張るか」

 彼方がいない間も、私は私の場所でちゃんと立っていよう。  
 そう思いながら、私は再び書類に目を落とした。
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