罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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おまけ

おまけエピソード ──柚葉──

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 元旦。
 柚葉先輩に誘われて、僕は街の神社へ初詣に向かっていた。
 けれど、境内は人でごった返していて、先輩の姿が見つからない。

「あれ……柚葉先輩、どこだろう……?」

 待ち合わせは11時。今は11時10分。
 さすがにもう来ているはずなんだけど……。

 僕は周囲を見渡すが、それらしい姿は見当たらない。

(いくら人が多くても、あのブロンドの髪なら目立つと思うんだけどな……)

「お~い!彼方っ!」

 人混みの中を歩いていると、柚葉先輩の声が聞こえてきた。
 でも、肝心の姿が見えない。

「おい!彼方、こっちだ!」

「柚葉先輩……?」

 辺りをキョロキョロと見回していると、服の袖を引かれた。
 振り向くと、そこにはブロンドの髪をアップにまとめ、振袖姿で頬を膨らませて僕を睨む柚葉先輩がいた。

(……先輩の背が低くて気づかなかった)

「おい彼方……今、すごく失礼なこと考えてただろ?」

 ギクッ……!

「そ、そんなことありませんよ! ただ、柚葉先輩がいつもと違う格好だったから分からなかっただけで……!」

「……そうか?」

 柚葉先輩は訝しげな目で僕をじっと見つめてくる。
 相変わらず鋭い人だな……。

「と、とりあえずお参りしましょう!」

「その前に、何か言うことがあるんじゃないのか? ……今日はちょっと気合い入れてきたんだからな」

 顔を少し赤らめながら腕を組み、僕を見つめてくる柚葉先輩。
 僕は改めてその姿を見つめる。

 淡い黄色の振袖に、きゅっと締められた桃色の帯。
 その帯には、僕が修学旅行で買った根付けがついていた。
 普段の制服姿とはまるで別人のようで、思わずドキッとしてしまう。

「えっと……すごく似合ってると思います」

「そ、そうか! 彼方にそう言ってもらえると、初めての着付けに苦労した甲斐があった」

 僕の言葉に、先輩は満足そうに微笑んだ。
 きっと、メイド長の志乃さんに手伝ってもらったんだろうな。
 涙目になりながら着付けされている先輩の姿が、なんとなく目に浮かぶ。

「それじゃ、改めてお参りに行きましょうか」

「そうだな。それと彼方、今日は彼氏としてしっかりミレイをエスコートするんだぞ」

「はい!」

 差し出された先輩の手を取って、僕たちは本殿へと向かった。


 本殿の前に着くと、賽銭箱の前には長蛇の列ができていた。

(これは……かなり待ちそうだな)

 僕は財布から小銭を取り出し、銭形平次よろしく投げようとした——そのとき。

「おい彼方、それはマナー違反だろ?」

「でも、他の人も投げてますよ?」

 周囲を見渡すと、確かに何人かは投げている。

「だからって真似していいわけじゃないだろ。どこに飛ぶか分からないし、誰かに当たったらどうするんだ?」

「それは……まあ、確かに……」

「だから、ここは大人しく並ぼう」

「……分かりました」

 僕は素直に従い、列に並ぶことにした。


 数十分後、ようやく拝殿の前にたどり着いた。

「やっと着いたか……」

「いや、待とうって言ったの柚葉先輩ですよね……?」

 疲れたようにため息をつく先輩に、思わず苦笑する。
 まあでも、思った以上に時間がかかったな……。

 僕は小銭を入れ、鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。
 心の中で、願いごとを唱える。

(今年も……いや、これから先も、ずっと柚葉先輩と一緒にいられますように……!)

 横目で見ると、目を閉じて祈る先輩の横顔に、思わず見惚れてしまった。


「彼方は、何をお願いしたんだ?」

 参拝を終えた先輩が尋ねてくる。

「そ、それは秘密です!」

(恥ずかしくて言えるわけないよ……!)

「じゃあ、柚葉先輩は何をお願いしたんですか?」

「秘密だ。言ったら叶わなくなるだろ?」

 ニカッと笑う先輩に、僕の心臓が跳ねる。
 ……この人は、本当にずるい。


「さて、次はおみくじだな!」

 参拝を終えた柚葉先輩は、すっかりご機嫌だった。
 僕たちは境内の隅にあるおみくじ所へと向かう。

「彼方、先に引いてみろ」

「え、僕からですか?」

「当然だろ。彼氏なんだから、運勢くらい先に見せてくれ」

「うう……わかりました」

 僕は箱の中に手を入れ、一本のおみくじを引き抜く。
 開いてみると——

「……末吉、ですね」

「ふむ、微妙だな」

「うっ……」

「まあ、彼方らしいといえばらしいな。地味にコツコツ、って感じだ」

「フォローになってませんよ……」

 よく見ると、恋愛運は“まあまあ”。  
でも金運は“ねだられる、紐を締めよ”と書かれていた。

(……心当たりがありすぎる)

 僕が肩を落としていると、柚葉先輩もおみくじを引く。

「さて、ミレイの運勢は……おっ、出たぞ!」

「どうでした?」

「……大吉だ!」

「えっ、すごいじゃないですか!」

「ふふん、当然だろ? ミレイは“持ってる女”だからな!しかも恋愛運は“溺愛される”、金運は“望めば叶う”と書かれているぞ!」

 先輩は得意げに胸を張り、僕をちらりと見てくる。

「つまり、今年はミレイの言うことを聞いていれば、彼方にも運が回ってくるってことだな」

「えぇ……そんな理屈あります?」

「あるに決まってるだろ。さあ、おみくじを結んで、次は屋台だ!あ、彼方。あのたこ焼き、ちょっと見ていこうか」

 先輩は僕の手を引いて、境内の屋台通りへと歩き出した。


 たこ焼きの他にりんご飴、甘酒に鶏卵焼き……。 
 僕たちはいろんな屋台を巡って、すっかり満腹になっていた。
 もちろん、僕のお金で。

(……おみくじ、当たってる)

「彼方、難しい顔をしてどうしたんだ?ほら、笑わないと新年早々、運気が逃げるぞ」

「そ、それは……まあ、はい」

「ふふっ……素直でよろしい」

 僕が笑みを浮かべると柚葉先輩は、どこか満足げに微笑んだ。


 ◆◆◆


 帰り道。
 神社の石段を降りながら、僕はふと尋ねた。

「そういえば、柚葉先輩のお願い事……本当は何をお願いしたんですか?」

「……秘密だって言っただろ?」

「でも、ちょっとだけ気になります」

 すると先輩は、僕の耳元に顔を寄せて、そっと囁いた。

「……“彼方と、ずっと一緒にいられますように”ってな」

「っ……!」

 僕の顔が一気に熱くなる。

「な、なんでそんなことを……!」

「ふふっ、初詣くらい、素直になってもいいだろ?」

 そう言って、先輩は僕の首に腕を回し、そっとキスをしてきた。

(いきなりだなんて……やっぱりこの人には敵わないな……)

 冬の空気は冷たいのに、唇から伝わる先輩のぬくもりが、心の奥までじんわりと染み込んでいく。

(来年も、再来年も……この人と、こうして笑っていたいな……)

 こうして、僕と柚葉先輩の新年は照れと笑いと、少しの勇気で始まった。
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