【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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 暫く進んでジャングルを抜けた。優秀な騎士達は初日でコツを掴んだらしく、スムーズに木と木に飛び移りながら移動が出来た。それでも影にとっては亀の速度だ。

「だいぶ時間がかかったな」

ジャックがぼやいた。尻目に少し呼吸が乱れている騎士達を一瞥し前を見る。すると問題を発見してしまい溜息を吐いた。

「なんだあれはっ」

視界の先に見える光景に驚愕するルーク。

賊が村を襲っていた。
相手が女子供関係無しに賊が剣を振っている。
許しを乞う姿に迷うこと無く嘲笑い命を奪っていく賊に騎士達の表情が怒りに満ちた。

「あれは任務外だ。お前らどうしたい?」

振り返ったジャックは憤怒している騎士達よりもその背後にいる自分の部下達が、既に覆面を被り戦闘準備万端の姿に苦笑した。

「まずはお前らが行け。少し経ってから加勢する」

ジャックの合図に騎士達は駆け出した。
鞘から剣を抜き村人を襲う賊の前に立ちはだかる。

剣戟の声が響きおよそ四十人の賊に対し五人の騎士は優勢だ。

しかし、多勢に無勢。
大人数に囲まれたウィルフレッドが肩を斬られてしまった。傷は浅い。怪我を気にせず無性に戦い続けるウィルフレッド。

賊が一人の女の子を人質にとった。
賊の醜い罵声が辺りに響き、男の持つ刃が女の子の首筋に当たる。

動けなくなった騎士達はどうする事も出来ずに剣を地面へ置いたその時ーー。

ズシャッ!!

颯爽と影が現れ賊を一掃した。
いつの間にか人質をとっていた男は倒れている。他の賊達も立っている者は誰ひとりいない。賊達の代わりに立っているのは覆面を被り返り血を浴びた影達だった。

自分達も返り血を浴びている。
だが覆面で顔が隠れているせいか彼らの統一された異様な雰囲気に味方である筈の騎士達までもがゾクリと背筋を凍らせた。

たった一瞬。何の抵抗をする事も出来ず本当に一瞬で死んでいった賊達。

命を助けてもらった少女も影達を見て泣き出してしまった。咄嗟にリヒャルトが少女に近付き慰める。

「この人達は味方だから恐いけど恐くないよ」

「ちょっとそれフォローになってないから」

文句を言った一人の影。覆面を被っているから誰かはパッと見分からないが口調と体格でシルヴィだとわかる。

「ウィルフレッド!大丈夫か!?」

ルークの叫びに驚く周囲。
ウィルフレッドが賊に斬られた箇所を押さえ倒れ込んでいた。

少女を抱え込み急いで駆け寄るリヒャルト。
ウィルフレッドの顔から血の気が引き、唇の血色が悪い。酷い汗のかきように刃に毒が仕込まれていたと察した。

「っ・・・リリー!」

ノエルが咄嗟に叫びリリーを呼んだ。
彼女なら何とかしてくれる。そう思ったのだ。
瞬時に現れたリリーは状況を確認すると覆面を外し直ぐに行動をとった。

ウィルフレッドの上半身を脱がし肩に布を巻き締め付け止血をする。傷口に顔を近づけ直接血を吸い上げて吐き出す対応を取ったリリーに慌てる騎士達。処置をされているウィルフレッドでさえ力の出ない腕でリリーを突き離した。

「や・・・めろ・・・」
「そんな事をしたら貴様にまで毒が回るぞ!」

ルークがリリーの肩を掴み引き離そうとするが彼女はそんな彼の頭を軽く撫で、逃げようとするウィルフレッドの肩を掴み行為を続けた。

何故今頭を撫でる?
何故それを続ける?
自分も毒がまわるかも知れないのだぞ
意味がわからん・・・!!

困惑するルークは焦っていた。
仲間を救いたい。だが知識が足りない。
彼女にも毒が回るかもしれない。それは嫌だ。
でも、だからといって代わりに血を吸う行為は出来なかった。公爵家である故の責務が彼を襲う。こんな所で死ぬ訳にはいかない。だがみすみす幼少期から知るウィルフレッドを死なす訳にもいかない。何も出来ない自分が悔しい。
握り拳に爪が食い込み、血が垂れる。


シルヴィが薬草を持って現れた。
まずは飲み薬を作りウィルフレッドに渡した。
彼は意識がある為自力で薬を飲む事が出来た。
次いで塗り薬を作りリリーに行為を止めさせ傷口に薬草を塗っていく。更に薬草の葉を被せ包帯を巻いて処置を終えた。

リリーの口元は血だらけだ。
所持していた水を含みうがいをして吐き出す。
血の味は不味い。
後味が残る口の中を変えたくてリリーはリヒャルトに舌を出しながら無表情で近付いた。

まだ飴持ってる?

そう言っているようなリリーの雰囲気に理解したリヒャルトは抱えていた少女を地面へ降ろし、ポケットから飴を取り出してリリーの口の中へ自ら入れた。

「ん。」

リリーなりの礼の言葉を言い、彼女はルークへ近付いた。唇を噛み締めて下を向いているルークの握り拳をゆっくりと解いていく。爪が食い込み血が出てしまっている。大した傷ではない。だがリリーは所持していた瓶の中から塗り薬を出すと、ルークの手の平へ塗布をし軽く包帯で巻いた。

リリーはルークの気持ちが理解出来る。
何も出来ない情けなさを。
だから今回リリーは「大丈夫」と言わなかった。
ただ彼の頭をぽんぽんと撫でただけ。

俯いていたルークが顔を上げるとリリーと目が合った。無表情で何も言わない彼女が何を考えているのか分からない。それでもルークは視線を逸らす事が出来なかった。

先に視線を外したのはリリーだった。
彼女はウィルフレッドに近付き物陰へ彼を引き摺るとエレンの時同様、自身の膝の上にウィルフレッドの頭を乗せ額を撫でている。

自然と近くに寄り添う騎士達。
変わらずリリーの顔がウィルフレッドの血で汚れている。そんな事どうでもいいかの様に気にせずリリーはウィルフレッドが落ち着くように頭を撫で続けた。

そんな彼らの近くにシュタッと小さな影が現れた。覆面を被っている影の正体はメルだ。

表情は読めないが彼はリリー達の様子を一見し顔を顰めた。水に濡らした布を手に持っているメルは不機嫌なまま、血で汚れたリリーの顔を拭い綺麗にしていく。

「・・・何でリリーがここまでするの?こんな弱い奴ら邪魔なだけじゃん。こいつ貴族でしょ?貴族なんて皆死ねばいいんだ」

憎悪が込まれた言い方に騎士達は黙る。ここに居る騎士達は貴族の中でも身分で誰かを迫害等しない者達だ。ルークの様に貴族としての責務に重圧を感じる者もいるが、貴族だから、平民だからと言って差別はしない。

メルの言葉に嫌悪感が込み上げるが言い返す事が出来ず黙り込む騎士達。

リリーは平然とメルの頭を撫でた。

「この人達は赤ちゃんなの。赤ちゃんは大人が面倒見るものでしょう?」

リリーの言葉にきょとんとするメルと騎士達。そばで聞いていたシルヴィはニヤニヤしている。

貴族とか平民とか関係ない。
この人達は赤ちゃん。

赤ちゃんというワードに妙に納得してしまったメルは顎に手を置いて考え込んだ。そんなメルの頭に手の平を乗せ、わしゃわしゃと撫でるシルヴィ。

「こいつらは赤ちゃんでメルはまだ子供ってことだよ~ん!」

「うるさい!・・・怪我人の介護、死体の処理、村人達の食料の確保。暇なら手伝えよ」

メルが騎士達に伝えシルヴィと共に姿を消した。

リリーから赤ちゃん呼ばわりをされた騎士達は複雑な表情をしている。

だが昨日も今日も仲間を救ってくれた彼女に何も言えずリヒャルトは少女を抱えこの子の親探しへ向かった。

ルークも今こそ活躍する時だと意志をかため村人の元へ向かう。

残ったエレンとノエルはリリーを見つめていた。

まだ何かあるのかと首を傾げるリリー。

いつも仮面の様な笑顔のエレンはその顔を歪めた。赤ちゃんと思われていたなんて思ってもみなかったから。言いづらそうに頬をかき目を逸らした。

「・・・昨日はありがとう」

きっとリリーは何も言わないだろう。
エレンはそれだけ言うとリリーの反応も見ずに去った。

「リリー・・・すみませんでした。僕が貴女を呼んだばかりに・・・気分が悪くなったら直ぐに教えて下さい。看病しますから」

咄嗟にリリーを呼んでしまったがまさか彼女が毒を吸うとは思ってもみなかったノエル。自分のせいで彼女が倒れないか心配なのだ。

だがリリーは何とも思っていなかった。
舌の痺れ具合からして大した毒では無い。
シルヴィが用意した薬草も的確だった。
二三時間で治まるはずだ。
経験でわかる。心配しなくても大丈夫。

リリーはノエルに問題ないと分からせる為に彼の頬に手を添え「大丈夫」だと頷いた。


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