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第二章
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しおりを挟むおかしい。最近エレンの様子が変だ。
騎士寮の食堂で昼食を食べ終えたリヒャルトは目の前に座って食事を続けているエレンを頬杖をしながら見続ける。
あの貴族のパーティーから数週間が経過した。
例のご令嬢や想いを寄せてきた女性達からのファンレターが減り本人であるエレンは穏やかな生活を送っている。
普通の人間が見たら何も変わらない様子のエレン。だが彼と仲の良いリヒャルトはその違いに気付いていた。
違いその壱、影達と仲良くなっていること。
影との訓練時は早めに行く事が定着したのだが、やたらとエレンだけに話かけてくる影が増えた。皆と仲良くなりたいリヒャルトはエレンだけに話しかける影を見て不思議に思っていた。ずっとエレンと一緒に行動をしている筈なのにどうして今迄関わりのない影もエレンにだけ話しかけてくるのだろうと。
違いその二、風呂の時間が合わない。
騎士寮では各部屋にシャワー室があるわけではなく共同の大浴場が備われている。日頃行動を共にするので自然と夜の風呂を共にする事が多いのだが最近滅多に風呂で鉢合うことがない。あれだけ一緒に湯船に浸かっていたのにエレンだけがあの場にいない。
違いその三、夜中に部屋に居ない。
最近は忙しい為外での夜の飲み会が減った。
軽く部屋で飲みたい時は必ず誘いに乗ってくれるエレンだったのに度々部屋飲みに誘っても返事がない。疲れて眠っているのか、出かけてるのか。
そして現在ーー。
エレン以外のいつもの騎士四人が酒場で呑んでいた。勿論エレンも誘ったのだが部屋に居なかった。何だか寂しい。いつも一緒にいて当たり前の人がいない事が、それが親友だと思っている友達だから寂しい。
「ねぇ、最近エレンがどこ行ってるか誰か知ってる?」
「リヒャルトなら知ってると思っていた」
腕を組みながらリヒャルトを見たウィルフレッド。彼も知らないのかと悩んでいる。エレンの事を気にしていたのはリヒャルトだけでなく、全員が思っていたのだ。
「まさか、女でも出来たのか?」
ルークの言葉に首を傾げる全員。
まさかそんな・・・でも余計な虫が寄り付かなくなり本命に遠慮する事無く接する事が出来ているのかもしれない。
「好きな女がいるなら教えてくれればいいのに・・・俺達友達でしょ?なんか寂しい~」
唇を尖らしたリヒャルトは頬を膨らまし酒を飲んだ。
「どんな人でしょうね」
「あのエレンが入れ込む相手が想像出来ない」
首を傾げるノエルとウィルフレッド。
数多の女が近付いて来てもさらっと受け流してしまうエレン。そんな彼が自ら足を運び会いに行ってる相手とはどんな人物か。
「相当な美女かな?」
「聖女様のように慈愛に満ちた人かも知れませんね」
「意外な人物かもしれないぞ。私達に相談しないのだから見た目はそれ程で中身が良いとか」
「どんな人物だろうがエレンが好きになった人なら俺達は支えてやればいい」
まだエレンが女の所に行っているかも定かではないのにどんな人物か想定し盛り上がる仲間達。殆どした事がない恋話に花を咲かせ酒が進む。ルークとノエルの酔いが回って来たところでケラケラとリヒャルトが笑った。
「案外まだ口説いてる段階で手こずってたりして」
それはないだろうと笑う仲間達。
今迄エレンから話しかけた女は皆瞳をハートにして誘いに乗る者ばかり。そんな彼を断る女なんてこの世にいるのだろうか。
「やっぱ今の無し。エレンが手こずる相手なんてリリーしか思いつかな・・・・・・」
自分で発言しておいてハッとなったリヒャルト。全員も同じ事を思ったらしく、瞠目し体を固まらせた。
「「「・・・・・・。」」」
一気に酔いが冷めた騎士達。
ありえない話では無い。あの貴族のパーティー以来、影の訓練時リリーに対するエレンの視線が少し気になっていた。今迄と変わらない様に見えるがふとした時にエレンを見ると彼はずっとリリーを見ているのだ。
まさかとは思うが、エレンは今リリーの家にいるのでは?
***
結局いても立ってもいられずリリーの家前に来てしまった騎士達。近くのショーン酒場が繁盛していて騒々しい中、こんな夜中に女性宅をアポ無しで訪ねようとしている自分達に罪悪感が込み上げてきた。
だがしょうがない。
リリーには申し訳ないが気になって眠れそうにない。エレンがリリー宅に居なければそれでいいのだ。直ぐに悩みが解決し素直に彼の恋を応援出来る。
どうか居ませんように。
コンッ コンッ
ノエルが慎重に扉をノックした。
暫く待つが不在のようで返事がない。
よかった。リリーは仕事なのかもしれない。
という事はエレンの相手はリリーじゃない。
珍しく全員で安堵のため息を吐き帰宅しようと振り返った時。
ガチャッ 玄関が開いた。
「あれ?皆どうしたの?」
エレンだ。エレンがリリーの部屋から出てきた。
驚愕し口を開け体が動かなくなってしまった騎士達。
対してエレンはきょとん顔で騎士達を見た。
「全然入ってこないから影じゃないと思ったけどまさか皆だったなんて・・・ちょっと待っててリリーに入れていいか聞いてくるね」
パタンと玄関扉が閉まりまた直ぐに開いた。
「いいって。どうぞ入って」
笑顔のエレン。
中に入りリリーを探すと、彼女は寝ているのだろうかベッド上に布団を被り丸まっている物体があった。
「一昨日から寝てないみたいで僕が来てすぐ寝ちゃったんだ。今お茶淹れるね」
テキパキと茶の準備をするエレンはどこに何が置いてあるのか既に把握済みのようで慣れた手つきでお茶を淹れている。
そんな彼を見た騎士達は不信感を抱いた。
冷めた目付きでエレンを睨んだウィルフレッドが低い声を出す。
「エレン、そこに正座しろ」
「え・・・?」
硬い床の上で正座をさせられているエレン。そんな彼を囲い腕組みをして見下ろす騎士達。
「えーと、僕はどうして怒られているんでしょう」
「自分の胸に聞け」
ウィルフレッドが怒っている。
エレンは仲間達からの圧の強さにシュンと俯いた。
「まさか貴様、ヤったのか?」
「リリーを手篭めにして自分だけ贔屓される気ですか」
「まさか、そんなんじゃないよ」
ルークとノエルの鋭い視線を受けたエレンは自信無さ気に空笑いし頭をかいた。
「じゃあ何でリリーのとこに来てるの?最近頻繁に会いに行ってるでしょ」
リヒャルトはムスッとしエレンを見下ろした。
「ああ、それはー・・・・・・」
ぽりぽりと彼らから視線を外したエレンは今迄の経緯を説明し始めた。
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