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第二章
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まだ日が出ていない早朝にとぼとぼとした足取りで寮に帰る三人。
彼らは三人とも一睡も出来なかった。
あの後すやすやと眠るリリーの寝顔を見ながらシャワー室での彼女を思い出してしまい心臓の音がうるさくて眠れなかった。
リリーとキスをしてしまった。リリーの胸を触ってしまった。リリーの中に指を入れてしまった。リリーを苛めてしまった。キスが凄く気持ちよかった。
ぐるぐると三人それぞれ思い悩み耳を赤く染め思い出している。
眠りについてから四時間も経たないうちにリリーは起きて仕事に向かってしまった。まだ寝てていいと言われたが残っても仕方が無いのでこうして誰もいない早朝の道を三人で歩いている。
一番深刻に悩んでいたのはリヒャルトだった。
親友の想い人に手を出してしまった。
絶対にやってはいけない事だ。
「・・・ごめん!二人がリリーの事好きなの知ってるのに手出して本当にごめん!」
殴られる覚悟で謝ったリヒャルト。
言われた二人はきょとん顔で動きを止めた。
「・・・僕リリーのこと好きなの?」
「俺が彼女のことを・・・?」
「・・・・・・え??」
信じられないと瞠目したリヒャルトは慌てて二人に問い出した。
「エレンはリリーの事が好きだからずっと会いに行ってたんでしょ?ウィルもリリーの事が好きだからキスしたんでしょ?」
ふむ。と腕を組み考え込んだ二人は次いで顎に手を当て首を傾げた。
「これが好きって感情なのかな?懐かなかった猫が懐いてくれて嬉しい気持ちというか・・・一緒にいる時間が長ければ長いほど懐いてくれるから一緒にいる時間を作りたいとは思うけど・・・これって好きってこと?」
・・・それが好きなんじゃないの?え?好きってそういう事じゃないの?違うの?
「キスくらいどうって事ないだろう?影では仕事の一環でもある訳だし実際彼女は気にしていない。そんな事を言うならリヒャルトだってしたし、またしたいと強請っていたじゃないか。彼女の事が好きなのか?」
「え・・・あれ?・・・俺の勘違い?なんか、ごめん」
ウィルフレッドに淡々と話されたリヒャルトは狼狽えた。どうやら二人はリリーの事が好きではない・・・らしい。そして自分に向けられた質問に戸惑った。
リリーの事が好き?
娼館の時からリリーの事は気になっていた。会っていくうちにどんどん惹かれ興味が湧き目で追うようになった。でもエレンとウィルフレッドがリリーとキスをしたと聞いた時、多少の嫉妬はあったけど怒りが込み上げてどうしようもない程にはならなかった。それに四人でシャワー室にいた時もリリーの可愛さに夢中になったけど独占したいと思わなかった。そばにいたいとは思う。またキスがしたいとも思う。
「・・・・・・。」
三人はお互いの言葉に悩み頭上に?を浮かべながら騎士寮へ戻るため足を進めた。
(((・・・好きってなんだ?・・・)))
遅咲きの初恋が芽生えるのはいつになるのでしょう。
***
ー 数時間後 ー
結局考えに至らず騎士の訓練場へやって来た三人。あの後自室に戻り仮眠を取ろうとしたが好きとは何なのか悩み込み目が覚めてしまい訓練の時間となってしまった。
彼らは女性から非常にモテてきた生活を送っていた。好かれる事はあっても自分から好いた事がなかった。だから女性はグイグイ来るタイプか、大人しいながらも裏ではがっついて来る女性かの二パターンしか知らない。リリーとティアラや影達のように自分に興味のない女性が新鮮だった。
新鮮だから興味が湧くのだろうか・・・。
それに、強いから?
群がる女性は皆か弱い。守らなければと必然的に思ってしまうが影となると話は別だ。むしろ自分達より強い。
そもそも影達の距離感が異常過ぎて自分達の感覚が狂ってしまったのだ。平然と誰とでもキスをしているし体関係だって堂々としている。
そうだ。影達のせいで分からなくなってしまったのだ。自分がおかしいわけではない。
結果影達のせいだと結論付けた三人はリリーの事が好きかどうかは置いておくことにした。
そんな三人に近付いて来たのはルークとノエルだ。二人とも酷くゲッソリしている。そう言えば昨日レンとロビンに連れて行かれたと思い出した三人は二人に向かって両手の平を合わせて頭を下げた。
「待て!勘違いするな。掘られてないぞ」
「「「ご愁傷さまです」」」
「後ろは守りましたってば!」
ギャーギャーと吠え始めた二人は聞いてもいないのに細かく内訳を始めた。
娼館に訪れた四人は二組に別れ娼婦一人を相手にした。乗り気じゃない騎士側は渋々影側の言う事を聞く事にした。顔が良い客が来たと大喜びの娼婦が調子に乗り食い気味に積極的に責めようとして来たところ影側のS気が炸裂し娼婦がドM化する現場を目の当たりにしたらしい。
「そいつのちんぽしゃぶりながらもっと善がれ。腰動かすの止めんなよ」
「ひゃいっご主人さまぁ~!!」
そして娼館を出た後四人で酒場へ移動した。強制的に酒を飲まされたルークとノエルはレンとロビンがいかに相手がリリーだったらと熱弁している。そこにシルヴィとメルも加わった。
「うっ女のあそこって不味いのな」
舌を出しながら手で拭うメルに強い酒を渡したシルヴィ。
「はいコレ消毒。相手によるよ。リリーさんのは甘酸っぱくて美味しくて癖になる」
「さっきの女がイクまでの事をリリーにしたら五回くらいイっちゃうんじゃない?」
「あ~それはあるかも~。でもメル、リリーさんの前で雑魚って言っちゃダメ。本人気にしちゃうから」
「ノエルとルークが相手でもリリーすぐイクのかな?今度相手してみてよ」
メルの発言にブハッと酒を吹き出したルークとノエルはゴホゴホとむせ顔を赤くした。
「この二人はリリーさんにキスする度胸もないんだよ?キスくらいどうって事ないのにね~仲間の騎士達はもうリリーさんとキスしちゃってるかもしれないのにね~貧乏くじ引くタイプだよね~」
「キスしてリリーに嫌われたらどうするんですか!?」
揶揄うシルヴィにカッとなったノエルが怒鳴った。そんな彼の言葉を聞いてきょとん顔の影達。
「キスくらいであいつが怒るか?」
「あ。そうか、ノエルはキスしたら子供が出来ちゃうと思ってるんだね」
「うわっ童貞?」
ビッキィイと青筋を立てたノエルは持っていたグラスを握り割った。それを見たルークはひいぃっと顔を青ざめた。
「それじゃあ俺とキスしよっか。慣れればリリーとキスしやすくなるでしょ。その堅い考え解してあげる」
「うわっ!やめ!やめてーーー!!」
ロビンにキスをされたノエル。
かなりのイケメン同士がキスをしているのを見て盛り上がる酒場。じりじりと後退するルークの腕をロビンがガッシリと掴みルークもロビンの餌食になった。
そしてノエルとルークは彼らにより試練を与えられた。それはリリーとキスをする事。キスをしなければ掘ると脅された。その後朝まで呑みに付き合わされた二人は魂を抜かれたようなおぼついた足取りで騎士の訓練場へ顔を出した。
そして現在
「頭が痛い・・・」
「失ってはいけない物を失った気分だ」
ズーンッと落ち込む二人の背中を撫でながら慰める三人。
「リリーとキスしなきゃ掘るって脅されているんです。どうしよう嫌われたくない」
「お前達なら私達の気持ちを理解してくれるだろう?」
「「「・・・・・・。」」」
言えない。
この二人が苦痛の時間を味わっていた時にリリーとキスして楽しい時間を過ごしていましたなんて死んでも言えない。
三人の態度を見た二人は変に勘を働かせ徐に立ち上がり冷めた表情で彼らを見下ろした。
「まさか僕達が酷い目にあっていた時にリリーとイチャイチャしてないですよね?」
「なんだその態度は。まさか三人とも既にキスをしたと言うのか?」
二人の唯ならぬオーラを受けた三人は自然と正座をしてしまった。そうですと肯定した態度に眉間に深く皺を寄せた二人はぷるぷると怒りで震えている。
そんな彼らに近付く一人の人物がいた。
「エレン・オルレアン今いいか?」
話しかけてきたのはオリヴァー・クロノス。
クロノス公爵家の嫡男である彼はジョンが率いる騎士団の三番隊隊長を務めており容姿端麗で少し日焼けした肌に黒髪で空色の瞳を持った美丈夫だ。騎士五人の先輩でもある彼がエレンに話しかけて来たので五人は咄嗟に姿勢を正した。
「お前の恋人は息災か?」
突然の質問に困惑するエレン。
「恋人なんていませんけど」
「・・・そうか、別れたのか。不躾な質問をしてすまなかった。彼女は平民と言っていたがどの辺りに住んでいる方だ?」
「平民・・・あっ」
リリーの事かとエレンは驚愕した。
オリヴァー・クロノス公爵家があの時の貴族パーティーに参加していてもおかしくはない。どうして気付かず正直に恋人がいない等と言ってしまったんだと後悔したエレン。
「どうしてクロノス様が彼女の事を?」
「・・・いやいい。別れたのなら良かった。邪魔をしたな」
オリヴァー・クロノスの姿が見えなくなったのを確認したエレンは勢い良く仲間達を見た。
「どうしよう!リリーのこと狙ってる!?」
「まさか。クロノス公爵家が平民だと知っていて手を出すわけないだろう」
「それより恋人がいないとがバレてこれから大変な事になるんじゃないか?」
「僕の事はどうだっていいよ。リリーが心配・・・」
わあわあ騒いでいるエレン達の会話を壁に背を預け聞いていたオリヴァー・クロノス。
(彼女の名前はリリーというのか。やっと名前が知れた・・・あいつと一緒か?)
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