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第三章
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しおりを挟む月日が流れ仕事もプライベートも順調に過ごしたリリー。ユリウスと五人との関係も順調で穏やかに平和な日々を送っていた。
そんなある満月の夜。
眩しくて眠れないくらいの満月の光が窓から騎士団団長であるジョンを照らしていた。
「・・・ついに卒業出来なかったね。残念だよ」
その表情はとても暗く辛そうだ。
***
騎士五人は王宮の地下にある会議室に呼び出された。リリーと初めて出会った場所だ。入室の許可を得て中に入ると上座に団長のジョンが真剣な面持ちで待ち構えていた為身を引き締める五人。テーブルを挟んで左右に別れ、ジョンが喋るのを待つ。
薄暗がりの部屋で緊張感が漂う中、影のリーダーであるジャックとリリーが突然現れた。ジャックは影の衣装を着用し顔だけ顕にしている。リリーは影の衣装ではなく初めて潜入捜査を一緒に行った時の黒いドレスとヒールを履き着飾っていた。
「会議を始める。今夜君達には長年影が潜入捜査を続けていた麻薬売買を行っている大物組織を潰してもらう。裏口から中に入り薬物と金と帳簿を確保し主犯であるロードニー伯爵家の嫡男であるレオナルドを捕らえるんだ」
ロードニー伯爵家。
その名を知っているリヒャルト以外の四人が驚愕した。ロードニー伯爵家と言ったら領民に好かれ人当たりが良く好印象の貴族だ。そんなロードニー伯爵家の長男であるレオナルドは紺色の髪に琥珀色の瞳を持った美丈夫で温厚な性格をしている。幼少期の頃から繋がりのある男が麻薬取引の主犯だなんて信じられないと驚きを隠せない。
「この男はかなりのやり手だ。影が長年潜入捜査を続けていても現物と帳簿を見つけられなかった。だがやっと尻尾を掴めたんだ。だが奴は几帳面で慎重な男だ。毎回隠し場所を変え常に自分の目の届く場所に置く。君達はリリーが奴の相手をしている間に指定した場所へ辿り着きブツを押収してもらう。見つけたらこの笛を鳴らすんだ」
ジョンは彼らの目の前に細くて小型の呼び笛を投げ渡した。
「それからこれは影が開発した小型の盗聴器。リリーが身につけているネックレスからレオナルドを盗聴する。リリーが引き付けると言っても限界はあるからね。それでターゲットの様子を伺いながら行動するように。ターゲットとリリーの声は聞こえるがこちらからの声は届かないよ。それを耳に付けなさい」
指示通り動いた五人は盗聴器を耳に付けた。
「ターゲットはリリーみたいな体型の女性が好きだ。リリーがどんな事をされても君達は押収品を確保しターゲットを捕らえるまでリリーを助けてはならない。これを守らなければ厳重処分とする」
「それってつまり・・・」
エレンがまさかと青ざめた表情で呟いた。
「そう。リリーが男の相手をして時間を稼ぐ」
「そんな!他の方法はないんですか!?」
食らいつくノエルに鋭い眼差しを向けたジャック。
「お前らにはいくらでも時間があったはずだ。なんの為にジョンがお前達をリリーにあてがったのか・・・無意味だったな」
「初めての相手は敵じゃなくて好きになった人にしてもらいたかったんだけど、完全な誤算だったよ。リリーおいで」
ジョンは初めからこの日を想定し、リリーに五人を近づけさせたのだ。可愛い妹の初めてが敵である事が嫌だった。だから彼女に良い男を会わせ、あわよくば処女を散らして欲しいと願っていたが今日まで彼らがリリーの初体験を奪うことは無かった。
ジョンの指示に従ったリリーは無表情のまま五人の横を通った。
「・・・覚悟は出来てる?」
無言で頷く彼女だったが皆が思っている程悲観的にはなっていない。むしろめちゃくちゃ痛そうだと痛みを想定しそちらの覚悟を決めていた。ユリウスや五人だったら優しくしてくれるだろうけどターゲットが変な性癖の持ち主だったり前戯無しで挿れるタイプだったらめちゃくちゃ痛そうだ・・・終わったら誰か慰めてくれればいいのに。その程度にしかリリーは思っていない。
「なるべく引き伸ばすんだ。最後までさせないように時間を稼いで。これアフターピル。行為後に飲めば妊娠しないから」
ジョンから白くて丸い丸薬を受け取ったリリーはそれをパーティー用のイブニングバッグに入れ時計を見た。
リリーは先にパーティーに参加しレオナルドを口説く。そして彼と共にパーティー会場から退場し彼の所有している館にて行為を行う予定だ。その館に押収品が隠されている。
間もなくパーティーが開催される。
時間だと目で合図をしたリリーをジョンが抱きしめた。その姿を見たジャックが舌打ちをした。
「過保護すぎだろ」
影で働く以上初体験の相手が敵である事は珍しくない。むしろリリーが今まで経験していないという事が稀なのである。
「自分だって散々悩んでたくせに・・・」
そもそもリリーに男をあてがってほしいとジョンに頼んだのはジャックからだ。昨晩までリリーの相手をしなかった五人とユリウスに対し苛立っていたくせにとジョンは内心でジャックに文句を言った。
「・・・健闘を祈る・・・“散”」
一瞬でジャックとリリーの姿が消えた。
結局リリーは五人と目を合わせないまま。
苦渋の思いで彼らはジョンが広げた地図を見て作戦会議を始めた。
何がなんでも最後までさせない。
その闘志を胸に抱いて。
***
パーティー会場に到着したリリーは煌びやかな眩いシャンデリアが近くに見える二階からターゲットを探していた。
おかしい。情報ではもう会場に来ているはずなのにその姿が見えない。
「・・・失礼、お嬢様。君はエレン・オルレアンの元恋人ではございませんか」
突然話しかけられて驚くリリー。近付いてくる気配なんて全く無かったのにその男はすぐ後ろに立ち、穏やかな笑みを浮かべていた。紺色の髪に琥珀色の瞳をした美丈夫。この男がターゲットのレオナルド・ロードニー伯爵家の長男だ。
「以前パーティーで見かけた時から貴女の事が気になっておりました。宜しければ少しお時間を頂けませんか?」
にこやかに笑うレオナルド。
ターゲットから話しかけてくれるとは好都合だ。リリーは演技でニコッと笑い彼の誘いに乗った。
***
・・・おかしい。この男、全然離れない。
貴族はこのようなパーティーの場合様々な参加者と話し交流を深めることが一般的だ。一度挨拶をしたらひとまず離れ、暫く経ってから偶然を装い再び会う計画だったのだがレオナルドはリリーの隣にずっと立っている。いったい何を考えているんだと探りをいれよう。
「他の方のところには行かなくて宜しいのですか」
「おや?僕を追い払おうとするんだね。生憎僕は一度決めたら最後まで甘やかしたいタイプなんだ」
甘やかしたい?いったい何を言ってるんだ。
彼の思考回路が謎だが興味を持たれているなら存分に利用させてもらおう。
「君はどんな風に甘えてくれるんだろうね」
「・・・それなら、いっぱい甘えさせてください」
レオナルドの小指を軽く握り頬を紅潮させ彼を見上げた。瞠目した彼の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「驚いたな・・・君はエレン・オルレアンの事はもういいの?捨てられたって聞いたけど」
エレンに捨てられた。巷ではそう噂されているのか。初めて知った噂に納得した。普通なら伯爵家と付き合ってフラれるのは平民の方だろう。エレンはカッコイイし女性に人気だからな。
「男と女は星の数ほどいますから」
一階で賑わい踊る人集りを見ながら呟いた。
その横顔は悲壮感を感じられず素っ気なく見える。
「君は・・・猫みたいだね」
猫か。ユリウスにも猫みたいだって言われた事があるな。
「猫は気まぐれですから」
尻目に彼を見て微笑むと、レオナルドは顎に手を置き徐に笑った。
「捨てられたのはエレン・オルレアンの方かもしれないね。君みたいな女性は魅力的だ・・・ますます、欲しくなったよ」
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