【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第三章

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 日も暮れて警戒しながら帰宅したエレンは夕飯を作っているリリーに抱きついた。

「エレンお帰り。リヒャルトは?」

「ただいま。変な虫に絡まれて駆除してるよ」

変な虫?魔獣だろうか・・・。

鍋の中をお玉でクルクル回す。
エレンはリリーの頭にキスをした後、頬や唇にキスをしてきた。

甘えたい気分なのだろうか。
甘やかしてやろうと鍋の火を止め、彼に向き合いキスを返す。こうするとエレンは本当に嬉しそうに笑うのだ。

「せっかく二人きりだからもっと深いキスがしたいな」

瞳に熱を込めた視線が送られて来る。
それでもリリーはぐっと堪えた。

「だめ。舌絡めるともっとしたくなっちゃう。でもえっちはしてくれないんでしょ?」

「・・・うん。赤ちゃんのこと気にしちゃう」

「だからダメ。産んで落ち着いたらいっぱいしよ?」

クッと歯に力を入れたエレンはリリーを強く抱き締めた後、その力を緩め背後からリリーを抱きしめながら鍋のお玉をクルクル回した。

「今日のご飯はシチュー?」

「うん。シチューと肉。リヒャルト早く帰って来ないかな」

「虫を連れて来なければいいんだけどね」

「その虫って魔獣なの?」

「魔獣よりも厄介だよ」

いったいどんな虫だ?
考えていたら玄関の扉が開いた。
リヒャルトが肩で呼吸をしながら中に入ってくる。相当走って来た様子だ。

エレンは背後から抱き着いたまま離れない。
身動きが取れないのでその場で両手を広げリヒャルトにおいでと合図をする。

「お帰りリヒャルト」

「ただいまー。まじで疲れた~」

ヨロヨロとした足取りで近付いてくるリヒャルトの隣を何かが通り過ぎ、勢いよく腕を広げたリリーに飛び付いた。

その余りの速さに驚く隙もなくリリーはリヒャルトではない何者かに抱き着かれ、背後に居たエレンが飛ばされる。

抱き締めて来た人物に後頭部を押さえつけられ顔も体も密着した状態で顔を確認する事が出来ない。いやそれよりも強い力で抱き締められ、お腹の子が心配だ。

リヒャルトがその人物を背後から引き剥がそうとし、立ち上がったエレンが正面からリリーをその人物から離そうと腕をとる。

漸く顔が離れその人物の顔を見る事が出来た。

「ウィル!?」

どうして彼がここにいるんだ。
驚愕しているリリー。ウィルフレッドは犬が怒っているような表情でリヒャルトとエレンを睨見つけた。

「離せ!」

「撒いたと思ったのにどうやってついて来たの!?」

「リヒャルトのバカ!リリーに会わせたくなかったのに」

「そりゃ俺も同じだよ!ウィル!リリーを見ないで。リリーは上の部屋に行ってくれる?」

リヒャルトがウィルフレッドの目に手を当て視界を遮る。リリーはエレンに背中を押され階段に進められるが唯ならぬ状況にこの場に居たかった。

「リヒャルト、エレン。ウィルと喧嘩したの?」

「違うよ・・・これからするかも」

どういう事だ?
謎だらけの事に訳が分からなくなる。

ただ言えるのは三人とも苦しそうな表情をしていること。これは師である自分が何とかしなくてはと思い話し合うべきだと彼らに伝えた。



大人しく三人はテーブルを挟んで座った。
お茶を用意した後リリーはソファに座り三人を見る。

「・・・どうやって着いてきたの?何回もいない事を確認したのに」

リヒャルトがウィルフレッドに問うと彼はリヒャルトの足裏に付いていた小さな虫の形をした何かを取った。

「影の爺から貰った魔導具だ。これを使って追跡した」

そんな物があるのか。やられたと眉間に皺を寄せ舌打ちをしたリヒャルト。

爺か、懐かしいな。元気にしてるかな。
今まであまり気にかけなかったのに名前を聞いたら急に気になってしまった。影の皆は元気にしてるかな。誰も死んでないといいけど。

ふと視線を感じた。
ウィルフレッドが眉を上げ瞳を大きく見開き、じっと見つめてくるのだ。どうした?と首を傾げる。見つめ返すと彼はゆっくりと唇を動かした。

「君は妊娠してるのか」

「うん。今八ヶ月」

「誰との子だ」

「・・・・・・。」

言うべきか言わないべきか悩む。チラッとエレンとリヒャルトを見るが二人は何も言わずこちらの様子を伺っているので好きに発言していいのだろう。

「・・・・・・俺の子・・・?」

少し時間を開けて聞こえた言葉にゆっくりと頷いた。ウィルフレッドは眉間に皺を寄せ難しい顔をしている。だがリリーは安心させるべく小さく微笑んだ。

「お腹の子はウィルと血は繋がっているけど、責任を負う必要はない。あの時ウィルは治療してくれただけ。産むと決めたのは私。それにリヒャルトとエレンが居てくれる。あっち見て?結婚したの。凄いでしょ」

過去のリリーを知る人物だったらまさか彼女が結婚するなんて信じられないだろうとドヤ顔で壁に飾られた結婚証明証を指さしたリリー。

えっへん どうだとふんぞり返っていたのだが何も反応が無いので不安になる。閉じていた目を開けるとそこには酷く傷ついた表情をしているウィルフレッドがいた。驚きギョッとするリリーだったが彼の瞳からポロポロと涙が溢れ更に驚く。

お腹の子の責任を取らなくていいと言ったから安心したのだろうか。

取り敢えずティッシュを取り彼の涙を拭いた。大人しく涙を拭かれているウィルフレッドが視線を合わせ、リリーの腕を掴む。

「お腹の子は俺の子なのに、俺のことはどうだっていいのか?あんなに、愛し合ったじゃないか」

「あれは、ただの治療だよ。責任を取って欲しいとか思わない」

「違う!あれは治療なんかじゃない。愛し合ったんだ!・・・俺を、捨てるのか?」

拭いても拭いても涙が止まらない。
どうしてだ?責任を取らなくていいと言っているのに、どうして捨てるという発言をするんだ。

「・・・俺は、全部捨ててきた。仕事も、家も全部捨てて君を追ったんだ」

「え・・・?」

ウィルフレッドは正式な手続きを踏んで騎士としての仕事を辞め、家からも除名してもらったと言う。

「辞表を投げつけた出て行った男や何も告げずいなくなった男とも違う。正式に全部捨てたんだ・・・全部、君に会いたいがために」

ギクッと反応したリヒャルトとエレンは視線を泳がせた。

「どうしてそんなことを・・・」

ウィルフレッドはジョンに気に入られていた。剣の腕も確かで次期隊長候補にもあげられていたのに、その職を辞め更には上位貴族である立場も辞めてしまうなんて勿体ない。

「全てを投げ打ってでも君のそばに居たいからだ」

「・・・ウィル、私には愛してくれる人が二人もいる。だから・・・」

「・・・だから俺は要らないと言いたいのか」

掴まれていた腕に力が加わった。
一時止まっていた涙が再び流れ落ちる。

「俺はもう二度と君と離れない。俺とも結婚してくれるまでこの手を離さない」

・・・意地になってないか?
全部捨ててきてしまったから今更戻れないと思っているのだろう。先走りし過ぎなのである。

「重婚するには二人のサインも必要なんだよ」

「分かってる。二人が拒むなら寝ている間に手首を切り落とすまでだ」

「「恐いよ!」」

リリーは困った。
どうする?とエレンとリヒャルトに意見を求めると二人とも悟ったのか困り笑顔を浮かべため息を吐いた。

「重婚してもいいけど、条件がある」

え、いいんだ。
リヒャルトの意外な言葉に驚いたリリー。
エレンの時はあんなに嫌だと言っていたのにどういう風の吹き回しだ?

「僕も条件があるよ」

「なんだ?」

「お腹の子はウィルフレッドと血が繋がっても僕達の子だ。平等に接する権利がある。ウィルフレッドだけ特別扱いしないし、させないからね」

「・・・わかった」

「俺はリリーに条件がある。ウィルとの間に子供が出来たのはわかってる。でもウィルだけ特別扱いしないで。平等に俺のことも愛して。誰が一番とかそういうのやめて」

え、私?と思ったがリヒャルトの可愛い意見に胸が温かくなる。

こうして重婚をする流れになったのだがリリーは内心動揺していた。

普通に考えて夫三人って・・・ヤバくない?



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