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第一章
第06話:奇妙な魔導具
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朝目が覚めると見知らぬ天井が見えていた。妙にガンガン痛む頭を振りながら上体を起こす。
「あぁ、そいえばリーフィンドに来てたんだっけか。それで冒険者ギルドに登録して……ギルド長さんとドワーフさんと祝杯を上げて、≪暴風の狼師団≫の人達と……」
痛む頭で昨日のことを思い出す。
「あれ?ルーミィは?」
僕が部屋を見渡すと、小さいな部屋に机とベットと物入れだけしかないこじんまりした一人用の部屋だ。
「あぁ、そういえば別々の部屋だったっけ」
食事会の後半以降の記憶がとても曖昧になっている。うーんと唸って考えていると、部屋をノックする音が聞こえる
「おにーちゃん、起きてる?大丈夫?」
ルーミィの心配そうな声が扉越しに聞こえてくる。
「あぁ、大丈夫……だよ?」
この頭の痛さは大丈夫と言っていいのだろうかと思いながら、扉の鍵を外して開ける。
ルーミィはもうしっかりと外に出れるような格好をしていて、当たり前のように僕の部屋に滑り込んでくる。
「おにーちゃん、起きたばっかだね。お寝坊さんだ」
僕の格好を見たルーミィがコロコロと笑いながら言う。
「もう朝ごはんできているみたいだよ。下からいい匂いがしてきてるから」
ルーミィはそう言うけど、僕は食欲があまりない。どちらかと言うと気持ち悪い。だけどルーミィ一人だけ行かせる訳にも行かないので、ちょっと身だしなみを整えてから1階の食堂に向かう。
「おやおや、若いのに随分と寝坊してたみたいだねぇ?」
席につくと恰幅のいい女将さんが、冷たい水を片手にやってくる。
「ふぅん。結構な洗礼を逃げ出さずに受けたみたいじゃないか。そういう意味では感心だねぇ。そっちのお嬢さんは何も問題なさそうだね。ちょいと待ってな。すぐに用意するからね」
女将さんが僕の顔色を見ながら、色々なことを瞬時に察すると、冷たい水を置いて厨房に戻っていく。
「おーい、アンタ。普通の一人前と、二日酔用一人前頼むよっ!」
「……わかった」
そんなやり取りが厨房とやり取りされる。
しばらくすると、女将が両手いっぱいに料理を持ってやってくる。
「ほらよ。コイツが朝食だ。一杯食べとくれ、そっちのお嬢さんはね。アンタにはこっちだ」
籠に入った小麦の臭いが薫る焼きたてのパンと目玉焼き、後は豆と葉野菜と腸詰めを煮込んだスープが出てくる。僕に渡されたのは、同じスープなのだが、葉野菜がクタクタになるまで煮込んでいるスープだった。
これだったら胃に優しいので、何とか飲むことができそうだ。
ルーミィは元気に朝食食べ、僕は何とかスープを胃に流し込む。不思議なもので、胃に何かを入れた方が、気分が楽になるようだ。
「おにーちゃん辛そうだけど大丈夫?」
「うん。何とか、少しずつ良くなっているかな。もうちょっと休んだら動けそうだ」
朝食を終えた僕は自分の経に戻ると、ルーミィも一緒に僕の部屋に入ってきて、ベッドに腰掛けると、足をぶらぶらさせながら、僕の様子を眺めている。
僕は、昨日帰ってから机の上に置きっぱなしになっていたギルドカードを手に取ると記載内容を確認する。
冒険者ID:2847、名前:ミスティ、職業:侍、ランク:E、所属:リーフィンド冒険者ギルト、発行:リーフィンドと書かれている。
職業:侍って記載されているんだけど、僕はそんな登録をお願いしていないんだけどなぁと不思議に思う。そもそも侍ってなんだろうか?
「えっと、ルーミィの職業は何になってるの?」
自分の職業が勝手に記載されていたので、ルーミィも一緒かどうか気になったので聞いてみる。
「私のはねー。こうみたいだよ」
そう言って首から紐でぶら下げていたギルドカードを手渡してくる。うん、大事なものだから、僕も首からかけておこうと思いながら、ルーミィのギルドカードを見せてもらう。
冒険者ID:2848、名前:ルーミィ、職業:精霊術士(光)、ランク:E、所属:リーフィンド冒険者ギルト、発行:リーフィンドと書かれている。
「ルーミィは職業を精霊術士って言ったの?」
「ううん。でも魔法使いさんが光の精霊術士だーって言ってたよ」
「ふーん。じゃぁ職業は適性検査の結果が入るのかも知れないね」
自分が宣言するものではなかったという事を聞いて、僕はちょっと安心する。
そうこうしている内に、頭の痛みが薄れてくる。
「やっと、頭が痛いのが引いてきたみたいだ」
「じゃぁ、町の中見て回ってみようよ!講習は明日からって言ってたから」
「うん。そうだね。町のどこに何があるのかわかっていないと、色々不便だよね」
「うんうん。こんなおっきな町、色々ありそうで楽しみ♪」
街の散策を提案するルーミィの意見に同意すると、ルーミィは飛び跳ねながら喜ぶ。僕は念の為、刀だけ腰に佩いて部屋を出る。
「おや、お出かけかい?二日酔いは良くなったようだねぇ」
「えぇ、おかげさまで。スープとっても美味しかったです」
「あはははは。そう言ってくれるのは嬉しぃねぇ、後で主人にも伝えとくよ」
1階に降りた僕達を見つけた女将さんが声を懸けてくれる。
「あぁ、北西ブロックの奥にはあまり行かないほうがいいよ。ちょいとガラの悪い連中が多いからね。お勧めは南東ブロック。あそこは商店が多いから、色々なものが見つかるさね」
そして危険な場所とオススメな場所を教えてくれる。
リーフィンドはこの宿屋や冒険者ギルドのある噴水広場を中心に、南北、東西に大通りが走っており、それぞれの大通りによって、北西ブロック、北東ブロック、南西ブロック、南東ブロックに分かれているみたいだ。
僕達は宿を出ると、女将さんがお勧めしてくれた南東ブロックを目指すことにした。
「うーん、かなりの人出だね。土地勘もないしはぐれると大変そうだ」
「そうだね。じゃぁっ!」
僕が人の多さに辟易としていると、ルーミィが嬉しそうにその小さな手で僕の手を握ってくる。
「こうすれば、はぐれないよねっ!」
太陽のような無邪気な笑顔を浮かべるルーミィから、僕は思わず目をそらして、頬をポリポリ掻く。
本当にすごく可愛いのに無邪気にスキンシップしてくるものだから、ドキドキしてしまう。
「わぁーっ。すごいね!すごいね、ミスティおにーちゃん!」
南東ブロックは女将さんの紹介してくれた通り、様々な店が軒を連ねている場所で、生鮮食品から衣服、武器、骨董と様々なものを売っている店があった。
僕達はずっと村から出たことがなかったから、見たことのない野菜や果物、きれいに染められた布、鉄製の数々の武具と、目に入るもの全てが新鮮だ。
ルーミィが可愛いものや綺麗なものを見つける度に、僕の手をグイグイ引っ張るので、ぼくは全然落ち着いて見れないんだけど、ルーミィがすごく楽しそうにしているのを見るだけで、とても幸せだ。
こんな気分になるなんて、村を出なかったら味わうことはできなかった。今の所、この町では、僕は無と嘲られないし、不当な嫌がらせを受けることもなく、心置きなく楽しむことができていた。
「ミスティおにーちゃん、あそこ行ってみたい!」
ルーミィが指差す先には、大きな宝石をはめた指輪の看板を出している店があった。どうやらそこは宝飾店のようで、窓の中からこちらに向けている商品は、色とりどりの宝石が加工したアクセサリーで、陽の光を反射してキラキラ光っている。店の看板には『タリス装飾品店』と書かれていた。
「わかった。でも、見るだけだよ」
「うん」
やはりルーミィも年頃の女の子だし、ああいうキラキラとした綺麗な物が好きなんだろうなぁと思いながらルーミィと宝飾店の中を窓から見てみる。でも何か高級そうで、入るのがためらわれる感じだ。
「ちょっと入りづらいね。きっと高いだろうし」
「うん。光巫女が興味があるみたいだったから入ってみたかったけどね」
僕達は場違いな雰囲気がしたので立ち去ろうとすると、親しげな声がかけられる。
「あら?ルーミィちゃんとミスティ君じゃない。どうしたのこんなところで?」
「お、デートか?ミスティ君やるねぇ」
「いやいやいや。デ、デートとか、そんなもんじゃないですから」
「あら、そう?」
「そうなのか?つまんないなぁ」
突然そんな言葉をかけてきてくれたのは、昨日から散々お世話になっているウルティナさんとウルフェさんだった。
二人も買い物にきていた、昨日のような防具を身に着けた格好ではなく、普段着のようなラフな格好で、ウルティナさんは幾つかの袋を持っていた。
「ふーん。ここねぇ」
「なるほどね。どういう理屈かわからないけど、目が高いじゃない」
「え?そうなんですか?」
「知らないで入ろうとしていたのかよー。だとしたら本当に目が高いかも知れないなー」
頭の後ろで手を組みながら感心した声を上げるウルフェさん。
「この店はただのアクセサリー屋ではなくて、魔法の掛かった貴重なアクセサリーを取り扱うお店よ。冒険者の中には、こういうところで買って身につけたアクセサリーに命を救われた人も多いのよ」
「そ、そうなんですか?なるほど……本当に知らないことだらけだな……」
「じゃぁ、君達をこの店の店主に紹介してあげましょう。ゆくゆくはお世話になるかも知れないからね」
ウルティナさんが、そんな僕を目を細めて眩しそうに眺めると、そんな提案をして、宝石店の中に入る。
僕達もウルフェさんにぐいぐいと背中を押されて、店の中に入れられてしまう。
「いらっしゃいませ。あらウルティナじゃない。この間買った商品に不具合でもあった?」
「いやいや、十分に効果が出ていたわよ。今日はね、今後きっと常連になってくれるだろう有望な若手を紹介したいの」
「アタシもこの子達は、相当やるようになると思うな!」
眼鏡を掛けた優しそうなエルフさんが出てきて、ウルティナさんに親しげに声をかける。そしてウルティナさんとウルフェさんから過剰な評価をもらいながら紹介される。
「へぇ、村から出てきたばかりのミスティ君にルーミィちゃんね。出てきたばかりって言うと森の氏族ドルイドかしら?」
「はい。森渡りとして聖都ユグドラシルに向かう予定です。ですが知識がなさすぎるので、冒険者ギルドの講習会に参加しようと思ってます」
「へぇ?珍しいわね。外界の知識がないのに森渡りとして任命されるなんて……まぁ、余計な詮索はやめておきましょう。私か風の氏族セルフィスのタリス。風に任せて流れていって気がついたら魔工師をしていたわ」
「魔工師?風の氏族?」
「魔工師というのは、武具やアクセサリや薬品などに魔法を付与する職業よ。私は精霊魔法よりこちらの方に適正があったようだから、研究ついでに色々な商品を開発していたら、結構需要があって助かっているわ」
僕が聞くとタリスさんが丁寧に答えてくれる。
「風の氏族って、ここからもっと北に行った先に広大な草原があって、その草原で暮らしているんですよね」
そのタリスさんにルーミィが話しかける
「そうね、ルーミィちゃん。定住するものもいれば、私のように風まかせに度に出るエルフも多いのよ」
本当に村だけで生活しているとわからないことだらけだった。風の氏族があるのも、魔工師という仕事があるのも、僕は知らないことだらけだ。ルーミィは多少知っているみたいだけど。
「まぁ、ここいらの町じゃ一番の魔工師だから、お金が溜まったら色々試してみるといいと思うわ。ということで私達は失礼させてもらうわね」
「じゃーねー」
「色々ありがとうございました」
タリスさんを紹介してくれたウルティナさんとウルフェさんが先に店を出る。
「どうせお客さんも少ないし、ゆっくり見ていっていいわよ」
僕達はタリスさんの言葉に甘えて、魔工師が作ったというアクセサリーを色々眺める。
キラキラ光る宝石や、それに込められている魔法を感じてか、ルーミィが目を輝かせながら、あちこちを見ている。
僕は、精霊に嫌われているだけでなく、魔法の力も感じられないみたいだ。
この店においてあるアクセサリーを綺麗だなぁくらいしか感じられない。だから、これらの商品を感じることができないので、邪魔にならないように隅っこの方に立って、ルーミィが楽しそうにアクセサリーを見ているのを眺めていた。
「ん?こっち?」
綺麗なアクセサリーを眺めているルーミィが突然、僕の方を指さして首を傾げる。そして僕のほうに歩いてくると、僕の身体からちょこんと顔を出して、僕の後ろの棚を眺める。
「これ?」
そして、一本の何も飾り気がなく、少し黒ずんだ銀色の鎖の首飾りを指さす。
「あ!え?それ?」
それを見ていたタリスさんが、目を見開いて驚いた表情を浮かべた後、こっちにやってくる。
「ここの棚は私の魔工師の師匠がくれた魔導具なのよね。いらないから売るなり捨てるなりして構わないと言われていたから、とりあえず品数を増やすために置いていたのだけど。師匠は武骨な魔工師だったから映えないのよねぇ。しかも効果がわからない魔導具がいっぱいあるのよ。その鎖の首飾りも良くわからない魔導具の一つなの」
僕の側にやってきたタリスさんが遠い目をしながら説明をしてくれる。
「ねぇ、ミスティおにーちゃん。これがミスティおにーちゃんに良いって光巫女が言ってるよ」
少し黒ずんだ銀色の鎖の首飾りを指さしながらミスティが言う。非常に細かい捻じれた鎖を繋げた一品だ。値段を見てみると、銀貨2枚と相当安い値段だった。これならばギルドカードを通して首から下げるのに丁度良いかもしれない。
「うん。ギルドカードを首にかける首飾りには丁度良いかもしれないね。じゃぁルーミィも丈夫そうな首飾りを選んでね。予算は銀貨5枚くらいかなぁ。そのくらいの買い物だったら大丈夫だと思うから」
僕がそう言うと、ルーミィが目を輝かせて首飾りを探し始める。
「だったら、これはどうかしら。本当は銀貨15枚だけど、お知り合い記念で銀貨5枚におまけしてあげるから」
タリスさんが銀色のチェーンに、同じく銀の雫型のプレートに細かく模様が彫り込んであり、その一番太い部分の真ん中に紫色の小さな宝石が付いたペンダントトップを持つ首飾りを指さす。その首飾りを見たルーミィが目をキラキラさせて、タリスさんと僕を見比べる。
「これ可愛い!ルーミィこれが良い!!」
そもそも予算の3倍の商品だけに、見た目も相当良いからルーミィも気に入った様だ。
「それでね、これもセットで付いてくるのよ」
その首飾りの横には、長方形の銀のプレートにペンダントトップと同じような模様と紫色の宝石が埋め込まれたプレートが置いてあった。
「これは共鳴の首飾りという商品で、2つで1セットなの。この宝石をつまむと、もう片方がある位置が大体わかるという優れ物よ。街中ではぐれたとしても、もう片方があればすぐに探せるの。ペアのあなた達にはピッタリだと思うわ」
タリスさんがウィンクをしながら、商品の説明をしてくれる。ルーミィの顔を見るとこれで問題ないみたいだ。
「じゃぁ、その共鳴の首飾りと銀の鎖の首飾りをくださいっ!」
ルーミィが元気よく注文すると、タリスさんが笑顔を浮かべて、商品を手に取って会計カウンターに持っていく。
僕は革袋から銀貨7枚を取り出して、カウンターの上の木の器の上に置く。
「じゃぁ、こっちの長方形のは鎖の首飾りに通しておくわね」
タリスさんはそう言うと手慣れた感じで、鎖の首飾りの留め金を外して、ペンダントトップを通す。
「どうする?もう着けていく?」
「うん、着けてく。おにーちゃん、ルーミィにつけてー♪」
僕はタリスさんから共鳴の首飾りを受け取ると、後ろ髪をかき上げて首筋を露出させているルーミィに共鳴の首飾りを着けてあげる。
真っ白な肌に銀の首飾りの銀色が映えて、とても綺麗だ。
「にへへへ。どう、おにーちゃん?」
ルーミィはニコニコと笑いながらくるっと振り向くと、その動きに追従するように首飾りが揺れて、ペンダントトップの紫色の宝石が光を反射して輝く。
「うん。似合ってて可愛いよ」
僕がそう言うと、満面の笑みを浮かべて喜ぶ。
「本当に似合っていて可愛いわねぇ。自分の作ったアクセサリーをこんなに可愛い子が着けてくて、喜んでくれるなんて、魔工師冥利につきるわぁ」
タリスさんがうっとりとした表情で呟く。
「おにーちゃんのは私が着けてあげるー!おにーちゃんしゃがんで!」
僕はルーミィが届くように、その場に膝をついてしゃがむ。それでもルーミィが手を通すのは難しい高さだ。
ルーミィは僕に抱き着くように首に腕を回しながら、鎖の首飾りを通すと、留め金をはめる。
「うん。できたよ」
ルーミィがそう言うので、立ち上がりながら鎖の首飾りに触れる。
バチィッ!!
僕の指先が鎖の首飾りに触れた途端、静電気が走ったかのように大きな音と共に火花が散る。
「きゃぁっ!」
「痛っ!」
「えぇぇ?!」
急に発生した火花と音にみんなが吃驚する。
「お、おにーちゃん。それ……」
ルーミィが吃驚した表情で僕の胸元を指さす。
「うん?」
僕もその指先にある鎖の首飾りを見てみると、黒ずんだ銀色をしていた鎖の首飾りが白銀色へと変わっていた。
「ちょ、ちょっと……それ白金?いやこの輝きはもっと別の……ちょっと待ってて!」
タリスさんはそう言うと、大急ぎで店のカウンターの裏に走って行く。そして手に小さい円筒形の何かを持ってくる。
「ちょっと調べさせてね」
タリスさんは眼鏡をはずして、その円筒形の何かを目に当てて、鎖の首飾りに近づけていく。
「ま、まさか……オ、神鋼鉱?!」
タリスさんが驚愕の声を上げる。
「神鋼鉱《オリハルコン》?」
「最高の硬度を持ち、高い魔法伝導力、蓄魔導力を持つ最高峰の希少金属よ。その鎖の首飾りに使っている素材料だけで、金貨10枚くらいにはなるわ」
タリスさんが驚きを隠せない顔をして、円筒形の何かを持つ手が震えている。
「そんな貴重なもの……か、返します」
そう言って僕は鎖の首飾りの留め金を外そうとする。
「いや、その必要はないわ。だってすっと私はその価値がわからなかったし、なんでいきなり神鋼鉱《オリハルコン》になったかも不明だし。売った時まではただの銀の鎖の首飾りだったから」
「そう、ですか……」
「それはそうとして、どんな魔法が掛かっているか鑑定させてもらってもいい?」
「はい。どうぞ」
タリスさんは僕の許可をもらうと、何らかの魔法を唱える。
「あ、おにーちゃんに魔法は……」
ミスティが声を上げる。あ、そういえば僕には魔法が掛からないんだった。
「あ、多分。魔法はかから……」
僕がそう言いかけると、タリスさんは魔法を完了させたのか、軽く握った拳を顎に当てながらふんふんと頷いている。
「これは魔法効果を無効化する強力な魔法が掛かっているわね。あれ?じゃぁなんで私の魔法が掛かったのかしら?」
「魔法効果を無効化する魔法……?もしかして、魔法効果を無効化する魔法を無効にしたのかも」
「はい?」
タリスさんの言葉にハッとした僕が呟くと、タリスさんが不思議そうな顔をする。
「えっと、僕の身体は先天的に魔法が掛からないんです。攻撃魔法なんかは僕の身体に着弾する瞬間に打ち消されて……」
「それはまた……奇妙な体質ね」
「なので、本当はタリスさんの使った鑑定魔法は、僕の先天的な体質によって、本当は発動しないはずだと思うんです」
「ふんふん」
「ですが、それが発動して、しかも鎖の首飾りの魔法効果が魔法効果の無効化であるならば、僕の先天的な体質の魔法無効化を無効にしたのではないかと」
「じゃぁ、申し訳ないけど、その首飾りを外してみてくれる?」
タリスさんがそう言うので、僕は首飾りを外して机の上に置く。そしてタリスさんが再度その首飾りに鑑定魔法をかけてみる。
「……なるほどね」
次にタリスさんが、僕の衣服に対して鑑定魔法を実行する。
「はぁ……つくづく奇妙な感じねぇ。机に置いた首飾り。結果は鑑定不能。魔法が発動すると同時に掻き消されたわ。そしてあなたの衣服への鑑定魔法。これも同様に、発動すると同時に掻き消された」
タリスさんが溜息をつきながら、再度僕に鎖の首飾りとそこら辺にあった短い普通の首飾りの合計2本を着けるようにとお願いされたので、言う通りにしてみる。
「じゃぁ……」
タリスさんが鑑定魔法を3度使う。1度目は鎖の首飾り、2度目は普通の首飾りへ、3度目は僕の衣服へ。
「無茶苦茶ね、コレ。結果としては鎖の首飾りへの鑑定魔法は成功、普通の首飾りへの鑑定魔法も成功、衣服への鑑定魔法は失敗。すなわち、鎖の首飾りの輪の中のみ魔法無効化が発生しているってこと」
普通の首飾りを外し手渡すと、タリスさんはコメカミを押さえて唸りながら受け取る。
「なんて意味のない魔導具!首だけのみの魔法無効化なんて、なんて意味のない!!しかも偽装を解除する方法が、魔法を無効化する魔法が掛かている鎖の首飾りの魔法を無効化させることなんて!!なんて捻くれ過ぎた仕様なのよ!!」
タリスさんがダンダンと地団駄を踏みながら叫ぶ。
「これは……結果的にあなた専用の魔導具以外ではないわね。鎖の首飾りの輪の中以外の魔法はすべて無効。鎖の首飾りについている魔法は有効。恐らく共鳴の首飾りの効果は発動するわ。だから、その鎖の首飾りに通せば、魔導具はちゃんと効果を発揮するはずよ。それ以外の部位に関してはあなたの体質によって発動しないと思うけど」
「色々とありがとうございました。僕の体質の事が少し明らかになった気がします」
僕がお礼を言うと、タリスさんは手をヒラヒラさせながらカウンターに向かっていく。
「私は吃驚しすぎて疲れたから、ちょっと休むわね」
そう言うタリスさんにもう一度頭を下げると、僕達はタリスさんの店を出るのだった。
「おにーちゃんとお揃い♪嬉しいなっ♪」
タリスさんの店から出ても、ルーミィがずっと上機嫌で鼻歌を歌いながら首飾りを弄っていた。
「あぁ、そいえばリーフィンドに来てたんだっけか。それで冒険者ギルドに登録して……ギルド長さんとドワーフさんと祝杯を上げて、≪暴風の狼師団≫の人達と……」
痛む頭で昨日のことを思い出す。
「あれ?ルーミィは?」
僕が部屋を見渡すと、小さいな部屋に机とベットと物入れだけしかないこじんまりした一人用の部屋だ。
「あぁ、そういえば別々の部屋だったっけ」
食事会の後半以降の記憶がとても曖昧になっている。うーんと唸って考えていると、部屋をノックする音が聞こえる
「おにーちゃん、起きてる?大丈夫?」
ルーミィの心配そうな声が扉越しに聞こえてくる。
「あぁ、大丈夫……だよ?」
この頭の痛さは大丈夫と言っていいのだろうかと思いながら、扉の鍵を外して開ける。
ルーミィはもうしっかりと外に出れるような格好をしていて、当たり前のように僕の部屋に滑り込んでくる。
「おにーちゃん、起きたばっかだね。お寝坊さんだ」
僕の格好を見たルーミィがコロコロと笑いながら言う。
「もう朝ごはんできているみたいだよ。下からいい匂いがしてきてるから」
ルーミィはそう言うけど、僕は食欲があまりない。どちらかと言うと気持ち悪い。だけどルーミィ一人だけ行かせる訳にも行かないので、ちょっと身だしなみを整えてから1階の食堂に向かう。
「おやおや、若いのに随分と寝坊してたみたいだねぇ?」
席につくと恰幅のいい女将さんが、冷たい水を片手にやってくる。
「ふぅん。結構な洗礼を逃げ出さずに受けたみたいじゃないか。そういう意味では感心だねぇ。そっちのお嬢さんは何も問題なさそうだね。ちょいと待ってな。すぐに用意するからね」
女将さんが僕の顔色を見ながら、色々なことを瞬時に察すると、冷たい水を置いて厨房に戻っていく。
「おーい、アンタ。普通の一人前と、二日酔用一人前頼むよっ!」
「……わかった」
そんなやり取りが厨房とやり取りされる。
しばらくすると、女将が両手いっぱいに料理を持ってやってくる。
「ほらよ。コイツが朝食だ。一杯食べとくれ、そっちのお嬢さんはね。アンタにはこっちだ」
籠に入った小麦の臭いが薫る焼きたてのパンと目玉焼き、後は豆と葉野菜と腸詰めを煮込んだスープが出てくる。僕に渡されたのは、同じスープなのだが、葉野菜がクタクタになるまで煮込んでいるスープだった。
これだったら胃に優しいので、何とか飲むことができそうだ。
ルーミィは元気に朝食食べ、僕は何とかスープを胃に流し込む。不思議なもので、胃に何かを入れた方が、気分が楽になるようだ。
「おにーちゃん辛そうだけど大丈夫?」
「うん。何とか、少しずつ良くなっているかな。もうちょっと休んだら動けそうだ」
朝食を終えた僕は自分の経に戻ると、ルーミィも一緒に僕の部屋に入ってきて、ベッドに腰掛けると、足をぶらぶらさせながら、僕の様子を眺めている。
僕は、昨日帰ってから机の上に置きっぱなしになっていたギルドカードを手に取ると記載内容を確認する。
冒険者ID:2847、名前:ミスティ、職業:侍、ランク:E、所属:リーフィンド冒険者ギルト、発行:リーフィンドと書かれている。
職業:侍って記載されているんだけど、僕はそんな登録をお願いしていないんだけどなぁと不思議に思う。そもそも侍ってなんだろうか?
「えっと、ルーミィの職業は何になってるの?」
自分の職業が勝手に記載されていたので、ルーミィも一緒かどうか気になったので聞いてみる。
「私のはねー。こうみたいだよ」
そう言って首から紐でぶら下げていたギルドカードを手渡してくる。うん、大事なものだから、僕も首からかけておこうと思いながら、ルーミィのギルドカードを見せてもらう。
冒険者ID:2848、名前:ルーミィ、職業:精霊術士(光)、ランク:E、所属:リーフィンド冒険者ギルト、発行:リーフィンドと書かれている。
「ルーミィは職業を精霊術士って言ったの?」
「ううん。でも魔法使いさんが光の精霊術士だーって言ってたよ」
「ふーん。じゃぁ職業は適性検査の結果が入るのかも知れないね」
自分が宣言するものではなかったという事を聞いて、僕はちょっと安心する。
そうこうしている内に、頭の痛みが薄れてくる。
「やっと、頭が痛いのが引いてきたみたいだ」
「じゃぁ、町の中見て回ってみようよ!講習は明日からって言ってたから」
「うん。そうだね。町のどこに何があるのかわかっていないと、色々不便だよね」
「うんうん。こんなおっきな町、色々ありそうで楽しみ♪」
街の散策を提案するルーミィの意見に同意すると、ルーミィは飛び跳ねながら喜ぶ。僕は念の為、刀だけ腰に佩いて部屋を出る。
「おや、お出かけかい?二日酔いは良くなったようだねぇ」
「えぇ、おかげさまで。スープとっても美味しかったです」
「あはははは。そう言ってくれるのは嬉しぃねぇ、後で主人にも伝えとくよ」
1階に降りた僕達を見つけた女将さんが声を懸けてくれる。
「あぁ、北西ブロックの奥にはあまり行かないほうがいいよ。ちょいとガラの悪い連中が多いからね。お勧めは南東ブロック。あそこは商店が多いから、色々なものが見つかるさね」
そして危険な場所とオススメな場所を教えてくれる。
リーフィンドはこの宿屋や冒険者ギルドのある噴水広場を中心に、南北、東西に大通りが走っており、それぞれの大通りによって、北西ブロック、北東ブロック、南西ブロック、南東ブロックに分かれているみたいだ。
僕達は宿を出ると、女将さんがお勧めしてくれた南東ブロックを目指すことにした。
「うーん、かなりの人出だね。土地勘もないしはぐれると大変そうだ」
「そうだね。じゃぁっ!」
僕が人の多さに辟易としていると、ルーミィが嬉しそうにその小さな手で僕の手を握ってくる。
「こうすれば、はぐれないよねっ!」
太陽のような無邪気な笑顔を浮かべるルーミィから、僕は思わず目をそらして、頬をポリポリ掻く。
本当にすごく可愛いのに無邪気にスキンシップしてくるものだから、ドキドキしてしまう。
「わぁーっ。すごいね!すごいね、ミスティおにーちゃん!」
南東ブロックは女将さんの紹介してくれた通り、様々な店が軒を連ねている場所で、生鮮食品から衣服、武器、骨董と様々なものを売っている店があった。
僕達はずっと村から出たことがなかったから、見たことのない野菜や果物、きれいに染められた布、鉄製の数々の武具と、目に入るもの全てが新鮮だ。
ルーミィが可愛いものや綺麗なものを見つける度に、僕の手をグイグイ引っ張るので、ぼくは全然落ち着いて見れないんだけど、ルーミィがすごく楽しそうにしているのを見るだけで、とても幸せだ。
こんな気分になるなんて、村を出なかったら味わうことはできなかった。今の所、この町では、僕は無と嘲られないし、不当な嫌がらせを受けることもなく、心置きなく楽しむことができていた。
「ミスティおにーちゃん、あそこ行ってみたい!」
ルーミィが指差す先には、大きな宝石をはめた指輪の看板を出している店があった。どうやらそこは宝飾店のようで、窓の中からこちらに向けている商品は、色とりどりの宝石が加工したアクセサリーで、陽の光を反射してキラキラ光っている。店の看板には『タリス装飾品店』と書かれていた。
「わかった。でも、見るだけだよ」
「うん」
やはりルーミィも年頃の女の子だし、ああいうキラキラとした綺麗な物が好きなんだろうなぁと思いながらルーミィと宝飾店の中を窓から見てみる。でも何か高級そうで、入るのがためらわれる感じだ。
「ちょっと入りづらいね。きっと高いだろうし」
「うん。光巫女が興味があるみたいだったから入ってみたかったけどね」
僕達は場違いな雰囲気がしたので立ち去ろうとすると、親しげな声がかけられる。
「あら?ルーミィちゃんとミスティ君じゃない。どうしたのこんなところで?」
「お、デートか?ミスティ君やるねぇ」
「いやいやいや。デ、デートとか、そんなもんじゃないですから」
「あら、そう?」
「そうなのか?つまんないなぁ」
突然そんな言葉をかけてきてくれたのは、昨日から散々お世話になっているウルティナさんとウルフェさんだった。
二人も買い物にきていた、昨日のような防具を身に着けた格好ではなく、普段着のようなラフな格好で、ウルティナさんは幾つかの袋を持っていた。
「ふーん。ここねぇ」
「なるほどね。どういう理屈かわからないけど、目が高いじゃない」
「え?そうなんですか?」
「知らないで入ろうとしていたのかよー。だとしたら本当に目が高いかも知れないなー」
頭の後ろで手を組みながら感心した声を上げるウルフェさん。
「この店はただのアクセサリー屋ではなくて、魔法の掛かった貴重なアクセサリーを取り扱うお店よ。冒険者の中には、こういうところで買って身につけたアクセサリーに命を救われた人も多いのよ」
「そ、そうなんですか?なるほど……本当に知らないことだらけだな……」
「じゃぁ、君達をこの店の店主に紹介してあげましょう。ゆくゆくはお世話になるかも知れないからね」
ウルティナさんが、そんな僕を目を細めて眩しそうに眺めると、そんな提案をして、宝石店の中に入る。
僕達もウルフェさんにぐいぐいと背中を押されて、店の中に入れられてしまう。
「いらっしゃいませ。あらウルティナじゃない。この間買った商品に不具合でもあった?」
「いやいや、十分に効果が出ていたわよ。今日はね、今後きっと常連になってくれるだろう有望な若手を紹介したいの」
「アタシもこの子達は、相当やるようになると思うな!」
眼鏡を掛けた優しそうなエルフさんが出てきて、ウルティナさんに親しげに声をかける。そしてウルティナさんとウルフェさんから過剰な評価をもらいながら紹介される。
「へぇ、村から出てきたばかりのミスティ君にルーミィちゃんね。出てきたばかりって言うと森の氏族ドルイドかしら?」
「はい。森渡りとして聖都ユグドラシルに向かう予定です。ですが知識がなさすぎるので、冒険者ギルドの講習会に参加しようと思ってます」
「へぇ?珍しいわね。外界の知識がないのに森渡りとして任命されるなんて……まぁ、余計な詮索はやめておきましょう。私か風の氏族セルフィスのタリス。風に任せて流れていって気がついたら魔工師をしていたわ」
「魔工師?風の氏族?」
「魔工師というのは、武具やアクセサリや薬品などに魔法を付与する職業よ。私は精霊魔法よりこちらの方に適正があったようだから、研究ついでに色々な商品を開発していたら、結構需要があって助かっているわ」
僕が聞くとタリスさんが丁寧に答えてくれる。
「風の氏族って、ここからもっと北に行った先に広大な草原があって、その草原で暮らしているんですよね」
そのタリスさんにルーミィが話しかける
「そうね、ルーミィちゃん。定住するものもいれば、私のように風まかせに度に出るエルフも多いのよ」
本当に村だけで生活しているとわからないことだらけだった。風の氏族があるのも、魔工師という仕事があるのも、僕は知らないことだらけだ。ルーミィは多少知っているみたいだけど。
「まぁ、ここいらの町じゃ一番の魔工師だから、お金が溜まったら色々試してみるといいと思うわ。ということで私達は失礼させてもらうわね」
「じゃーねー」
「色々ありがとうございました」
タリスさんを紹介してくれたウルティナさんとウルフェさんが先に店を出る。
「どうせお客さんも少ないし、ゆっくり見ていっていいわよ」
僕達はタリスさんの言葉に甘えて、魔工師が作ったというアクセサリーを色々眺める。
キラキラ光る宝石や、それに込められている魔法を感じてか、ルーミィが目を輝かせながら、あちこちを見ている。
僕は、精霊に嫌われているだけでなく、魔法の力も感じられないみたいだ。
この店においてあるアクセサリーを綺麗だなぁくらいしか感じられない。だから、これらの商品を感じることができないので、邪魔にならないように隅っこの方に立って、ルーミィが楽しそうにアクセサリーを見ているのを眺めていた。
「ん?こっち?」
綺麗なアクセサリーを眺めているルーミィが突然、僕の方を指さして首を傾げる。そして僕のほうに歩いてくると、僕の身体からちょこんと顔を出して、僕の後ろの棚を眺める。
「これ?」
そして、一本の何も飾り気がなく、少し黒ずんだ銀色の鎖の首飾りを指さす。
「あ!え?それ?」
それを見ていたタリスさんが、目を見開いて驚いた表情を浮かべた後、こっちにやってくる。
「ここの棚は私の魔工師の師匠がくれた魔導具なのよね。いらないから売るなり捨てるなりして構わないと言われていたから、とりあえず品数を増やすために置いていたのだけど。師匠は武骨な魔工師だったから映えないのよねぇ。しかも効果がわからない魔導具がいっぱいあるのよ。その鎖の首飾りも良くわからない魔導具の一つなの」
僕の側にやってきたタリスさんが遠い目をしながら説明をしてくれる。
「ねぇ、ミスティおにーちゃん。これがミスティおにーちゃんに良いって光巫女が言ってるよ」
少し黒ずんだ銀色の鎖の首飾りを指さしながらミスティが言う。非常に細かい捻じれた鎖を繋げた一品だ。値段を見てみると、銀貨2枚と相当安い値段だった。これならばギルドカードを通して首から下げるのに丁度良いかもしれない。
「うん。ギルドカードを首にかける首飾りには丁度良いかもしれないね。じゃぁルーミィも丈夫そうな首飾りを選んでね。予算は銀貨5枚くらいかなぁ。そのくらいの買い物だったら大丈夫だと思うから」
僕がそう言うと、ルーミィが目を輝かせて首飾りを探し始める。
「だったら、これはどうかしら。本当は銀貨15枚だけど、お知り合い記念で銀貨5枚におまけしてあげるから」
タリスさんが銀色のチェーンに、同じく銀の雫型のプレートに細かく模様が彫り込んであり、その一番太い部分の真ん中に紫色の小さな宝石が付いたペンダントトップを持つ首飾りを指さす。その首飾りを見たルーミィが目をキラキラさせて、タリスさんと僕を見比べる。
「これ可愛い!ルーミィこれが良い!!」
そもそも予算の3倍の商品だけに、見た目も相当良いからルーミィも気に入った様だ。
「それでね、これもセットで付いてくるのよ」
その首飾りの横には、長方形の銀のプレートにペンダントトップと同じような模様と紫色の宝石が埋め込まれたプレートが置いてあった。
「これは共鳴の首飾りという商品で、2つで1セットなの。この宝石をつまむと、もう片方がある位置が大体わかるという優れ物よ。街中ではぐれたとしても、もう片方があればすぐに探せるの。ペアのあなた達にはピッタリだと思うわ」
タリスさんがウィンクをしながら、商品の説明をしてくれる。ルーミィの顔を見るとこれで問題ないみたいだ。
「じゃぁ、その共鳴の首飾りと銀の鎖の首飾りをくださいっ!」
ルーミィが元気よく注文すると、タリスさんが笑顔を浮かべて、商品を手に取って会計カウンターに持っていく。
僕は革袋から銀貨7枚を取り出して、カウンターの上の木の器の上に置く。
「じゃぁ、こっちの長方形のは鎖の首飾りに通しておくわね」
タリスさんはそう言うと手慣れた感じで、鎖の首飾りの留め金を外して、ペンダントトップを通す。
「どうする?もう着けていく?」
「うん、着けてく。おにーちゃん、ルーミィにつけてー♪」
僕はタリスさんから共鳴の首飾りを受け取ると、後ろ髪をかき上げて首筋を露出させているルーミィに共鳴の首飾りを着けてあげる。
真っ白な肌に銀の首飾りの銀色が映えて、とても綺麗だ。
「にへへへ。どう、おにーちゃん?」
ルーミィはニコニコと笑いながらくるっと振り向くと、その動きに追従するように首飾りが揺れて、ペンダントトップの紫色の宝石が光を反射して輝く。
「うん。似合ってて可愛いよ」
僕がそう言うと、満面の笑みを浮かべて喜ぶ。
「本当に似合っていて可愛いわねぇ。自分の作ったアクセサリーをこんなに可愛い子が着けてくて、喜んでくれるなんて、魔工師冥利につきるわぁ」
タリスさんがうっとりとした表情で呟く。
「おにーちゃんのは私が着けてあげるー!おにーちゃんしゃがんで!」
僕はルーミィが届くように、その場に膝をついてしゃがむ。それでもルーミィが手を通すのは難しい高さだ。
ルーミィは僕に抱き着くように首に腕を回しながら、鎖の首飾りを通すと、留め金をはめる。
「うん。できたよ」
ルーミィがそう言うので、立ち上がりながら鎖の首飾りに触れる。
バチィッ!!
僕の指先が鎖の首飾りに触れた途端、静電気が走ったかのように大きな音と共に火花が散る。
「きゃぁっ!」
「痛っ!」
「えぇぇ?!」
急に発生した火花と音にみんなが吃驚する。
「お、おにーちゃん。それ……」
ルーミィが吃驚した表情で僕の胸元を指さす。
「うん?」
僕もその指先にある鎖の首飾りを見てみると、黒ずんだ銀色をしていた鎖の首飾りが白銀色へと変わっていた。
「ちょ、ちょっと……それ白金?いやこの輝きはもっと別の……ちょっと待ってて!」
タリスさんはそう言うと、大急ぎで店のカウンターの裏に走って行く。そして手に小さい円筒形の何かを持ってくる。
「ちょっと調べさせてね」
タリスさんは眼鏡をはずして、その円筒形の何かを目に当てて、鎖の首飾りに近づけていく。
「ま、まさか……オ、神鋼鉱?!」
タリスさんが驚愕の声を上げる。
「神鋼鉱《オリハルコン》?」
「最高の硬度を持ち、高い魔法伝導力、蓄魔導力を持つ最高峰の希少金属よ。その鎖の首飾りに使っている素材料だけで、金貨10枚くらいにはなるわ」
タリスさんが驚きを隠せない顔をして、円筒形の何かを持つ手が震えている。
「そんな貴重なもの……か、返します」
そう言って僕は鎖の首飾りの留め金を外そうとする。
「いや、その必要はないわ。だってすっと私はその価値がわからなかったし、なんでいきなり神鋼鉱《オリハルコン》になったかも不明だし。売った時まではただの銀の鎖の首飾りだったから」
「そう、ですか……」
「それはそうとして、どんな魔法が掛かっているか鑑定させてもらってもいい?」
「はい。どうぞ」
タリスさんは僕の許可をもらうと、何らかの魔法を唱える。
「あ、おにーちゃんに魔法は……」
ミスティが声を上げる。あ、そういえば僕には魔法が掛からないんだった。
「あ、多分。魔法はかから……」
僕がそう言いかけると、タリスさんは魔法を完了させたのか、軽く握った拳を顎に当てながらふんふんと頷いている。
「これは魔法効果を無効化する強力な魔法が掛かっているわね。あれ?じゃぁなんで私の魔法が掛かったのかしら?」
「魔法効果を無効化する魔法……?もしかして、魔法効果を無効化する魔法を無効にしたのかも」
「はい?」
タリスさんの言葉にハッとした僕が呟くと、タリスさんが不思議そうな顔をする。
「えっと、僕の身体は先天的に魔法が掛からないんです。攻撃魔法なんかは僕の身体に着弾する瞬間に打ち消されて……」
「それはまた……奇妙な体質ね」
「なので、本当はタリスさんの使った鑑定魔法は、僕の先天的な体質によって、本当は発動しないはずだと思うんです」
「ふんふん」
「ですが、それが発動して、しかも鎖の首飾りの魔法効果が魔法効果の無効化であるならば、僕の先天的な体質の魔法無効化を無効にしたのではないかと」
「じゃぁ、申し訳ないけど、その首飾りを外してみてくれる?」
タリスさんがそう言うので、僕は首飾りを外して机の上に置く。そしてタリスさんが再度その首飾りに鑑定魔法をかけてみる。
「……なるほどね」
次にタリスさんが、僕の衣服に対して鑑定魔法を実行する。
「はぁ……つくづく奇妙な感じねぇ。机に置いた首飾り。結果は鑑定不能。魔法が発動すると同時に掻き消されたわ。そしてあなたの衣服への鑑定魔法。これも同様に、発動すると同時に掻き消された」
タリスさんが溜息をつきながら、再度僕に鎖の首飾りとそこら辺にあった短い普通の首飾りの合計2本を着けるようにとお願いされたので、言う通りにしてみる。
「じゃぁ……」
タリスさんが鑑定魔法を3度使う。1度目は鎖の首飾り、2度目は普通の首飾りへ、3度目は僕の衣服へ。
「無茶苦茶ね、コレ。結果としては鎖の首飾りへの鑑定魔法は成功、普通の首飾りへの鑑定魔法も成功、衣服への鑑定魔法は失敗。すなわち、鎖の首飾りの輪の中のみ魔法無効化が発生しているってこと」
普通の首飾りを外し手渡すと、タリスさんはコメカミを押さえて唸りながら受け取る。
「なんて意味のない魔導具!首だけのみの魔法無効化なんて、なんて意味のない!!しかも偽装を解除する方法が、魔法を無効化する魔法が掛かている鎖の首飾りの魔法を無効化させることなんて!!なんて捻くれ過ぎた仕様なのよ!!」
タリスさんがダンダンと地団駄を踏みながら叫ぶ。
「これは……結果的にあなた専用の魔導具以外ではないわね。鎖の首飾りの輪の中以外の魔法はすべて無効。鎖の首飾りについている魔法は有効。恐らく共鳴の首飾りの効果は発動するわ。だから、その鎖の首飾りに通せば、魔導具はちゃんと効果を発揮するはずよ。それ以外の部位に関してはあなたの体質によって発動しないと思うけど」
「色々とありがとうございました。僕の体質の事が少し明らかになった気がします」
僕がお礼を言うと、タリスさんは手をヒラヒラさせながらカウンターに向かっていく。
「私は吃驚しすぎて疲れたから、ちょっと休むわね」
そう言うタリスさんにもう一度頭を下げると、僕達はタリスさんの店を出るのだった。
「おにーちゃんとお揃い♪嬉しいなっ♪」
タリスさんの店から出ても、ルーミィがずっと上機嫌で鼻歌を歌いながら首飾りを弄っていた。
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