聖職より堕ちた教師 純一の場合

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歪んだ初恋 1 戸惑い SIDE:純一

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純一は悶々とした日々を送っている。

こんなことは生まれて初めてだ。

夜、眠れない。

昼間、学校でも集中力が途切れ勝ちだ。

どうしても周囲に目が行ってしまう。

学生服が目の隅に入ると、つい目をやって誰なのか確認してしまう。

ほとんどの場合、その人物ではない。

彼の空目だ。

その学生服の生徒が全くの別人であることを確認し落胆してしまう。

そして、ウジウジした気分となる。

彼じゃなかった。

彼に会えた訳じゃなかった。

そんなウジウジした気分。

なぜ、そんな負の感情を抱くのか理由は解らない。

いや、本当は解っている。

だが、なぜ自分がそうなっているのか解らない。

そして、そんなウジウジした感情を振り捨てたいのに、振り捨てることが出来ない。

そもそも、振り捨て方も分からない。

解らないのか、認めたくないのか。

今夜も純一はベッドの中で寝返りを打ち続ける。

寝付きが良かったはずなのに、眠れない。

身体が妙に火照っているのが解る。

そして、脳裏から消そうといくら努力しても、唐突にあの生徒の面影が脳裏に浮かび、精神の平穏を失う。

脳裏にその姿が浮かんだとたんに胸が高鳴る。

もう何日続いているだろう。

思い出そうとするとハッキリ思い出せないのに、例えばもう寝ようとベッドで目を瞑ると唐突に彼の姿が脳裏にハッキリと現れ、大袈裟ではなく雷に打たれたような衝撃をえて、その姿を脳裏に追い求めてしまう。

始まりはあの日だった。。。

                               ※

教員室に純一が副担任をしている一年生が3人やって来た。

何か話があるようだ。

緊張した面持ち。

一人が言う。

残りの二人はその子を守るように付き添っている。

3年生の浜田が、2年の生徒と揉めたことは知っていた。

胸ぐらを掴み、2年の生徒の制服の裏地が破れたらしい。

親が厳重に浜田を処分するようクレームを付けてきたと教員会議で報告があった。

2年の生徒がどちらかと言えば目立たず問題を起こしたことがないのに対し、浜田は、学校で勝手放題している札付きだった。

土地の権力者の息子で、学校は腫れ物に触るように対応している。

浜田が授業をサボってもさほど注意されないのは、彼が粗暴なだけでなく、親に対する配慮もあったのだ。

現在、この学校では、モンスターペアレント対策もあり、自分の受持ち生徒以外には、極力関わらないよう指導されていた。

複数の教師が係わることで方針がぶれてしまうというのが表向きの理由だが、要は責任を取りたくない役付き教師達が、理想に燃える若手に余計な口出しされたくないというのが本当のところだ。

そのことなかれ主義が純一には、歯がゆかった。

どうやら、2年の子は以前より近所に住む1年を使いっぱしりのように扱い、ゲームと称してはイジメ紛いのことをしていたようだ。

そして、それを咎めた浜田と揉み合いになったらしい。

3年生の浜田さんが助けてくれたと教え子が涙ながらに言う。

今、学年主任が一方的に浜田か悪いと決め付けて廊下で叱りつけているのを見て、いても立ってもいられなくなり、同級生とともに、純一に相談しようと教員室へやって来たそうだ。

純一が心を動かされない訳はない。

素早く立ち上がり、1年の生徒達に「先生に任せろ」と言い、浜田と学年主任が揉めている廊下に向かう。

ヒステリックに騒ぐ学年主任と、その前でふて腐れた様子の猛者と呼ばれる3年生の姿。

やはり、猛者、浜田が一方的に責められている。

純一は主任に失礼と思いつつ、二人の間に割って入る。

浜田が一方的に悪い訳ではないと上司の教師に、今、教え子が訴えてきた内容を説明する。

きちんとなにが起こったかを把握してほしいと。

一年生に事情を聴いてくれと伝える。

被害者と思われていた生徒のいじめ行為が原因の可能性が高いと言うと、いじめという言葉に敏感に反応した上司は、浜田をほったらかし、一年生のいる教員室に向かう。

そして、純一は、教え子を救ってくれ、その事情を説明せず濡衣を着た猛者に感謝の言葉を述べる。

その時、、、

猛者と目があった。

己を持ったふてぶてしい眼差し。

黒く意志の強そうな瞳。

胸がギュッと掴まれたような衝撃が純一を襲った。

猛者の負けん気の強そうな目、意志の強そうな眉、鼻、顎、がっしりとした体格。

だらしなく着崩した制服の下から、男臭い匂いがムッと立ち上がり、年長で、背も高い純一の身体を包み込み、捉えていくような感じ。

そして、鈍器のような力強さと、鋭利な刃物を思わせる尖った空気。

思わず後ずさるような迫力に呑まれる。

純一が心の奥底で求めている暴力的な男臭さを内に秘めた生徒。

猛者。

弾けるように、猛者の姿が純一の脳に焼き付くような感覚。

猛者が目を反らさなければ、純一の心がどうなっていたか解らないほどの強い揺さぶりが純一を襲った。

純一は、笑顔を無理やり作り、浜田にもう一度、礼を言うと、上司を追った。

急にその場を離れたくなったのだ。

惹き付けられているのに、離れたくなる不思議な感情。

自分自身がなぜそのような衝撃を受けたのか意味が解らない。

しかし、何故か、猛者、、、生徒である浜田の顔を、その後、思い出そうとしても、ボヤけて思い出せない。

不思議な感覚が純一を襲う。

会いたい、、、、

会わなきゃ、、、、

でも、何故、、、

そうだ、、、きちんと礼をしないといけないんだ、、、本来なら自分が気付かなければならなかった、、、副担任である自分がイジメに気付くべきだったのだ、、、それを、彼が見つけてくれた、、、自分の生徒を助けてくれた、、、きちんと礼をしないと、、、

普段の純一であれば、こんな自分自身への言い訳のような考えは巡らさず、直ぐに礼をすべき人の元へ赴いた。

しかし、なぜだか猛者と呼ばれる生徒、、、浜田に会いに行こうとすると躊躇いが生まれる。

行きたい気持ちと行くのを躊躇う気持ちがせめぎ合う。

もちろん、純一は何故、自分がウダウダと考えるのか解らなかった。

浜田の元に行き、相手にされないのが恐い、、、何故だか、恐い。

純一の心はざわめいている。

教員室に帰ると学年主任、生徒達との話は既に終わっており、生徒達は教室に戻り、学年主任と浜田からの被害を訴えてきた二年の担任が、善後策を検討し始めている。

純一の脳裏からは猛者、浜田のことが離れない。

純一はフラフラと立ち上がる。

フラフラ、、、いや、フワフワと言うべきか。

猛者はよく屋上でサボっていると聞いている。

だから、面倒にならぬよう、屋上には行かないようにというのが教師達の暗黙の了解となっていた。

純一は屋上への階段を昇る。

屋上が近付くにつれ、心に澱のようなものが溜まり始め、逃げ帰りたくなる。

何故だか、自分でも分からない。

足取りは重くなるが、早く屋上の扉を開けたい。

そんなアンバランスな気持ち。

足を運んでいれば、当然、屋上への入口には着く。

純一は、心臓の鼓動が激しく高鳴るのを感じながら、扉を開け、屋上に出る。

青空が広がっている。

だが、それだけ。

誰もいない。

拍子抜けだ。

何故か純一は安堵する。

礼を言わなければならない相手がいなかったのに安堵しつつ、居ないことに途方にくれる。

フラフラと当てもなく屋上を歩く。

端まで来て、ふと目を下ろす。

胸がギュッとなる。

柵の下、校舎の裏の姿。

居た。

猛者、浜田だ。

その姿が目に焼き付くようだ。

校舎裏で木に向かい蹴りを入れている。

衝動が純一を動かす。

純一は、踵を返す。

そして、体格のよい教師は、校舎内ではむやみに走らないという校則も忘れ、階段を全力で駆け降りた。
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