体育教師の躾と訓練

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仕組まれた厳罰と秘められた厳罰(回想編)〜和彦

スクラム

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「スクラムで紅白戦?」

和彦が聞く。

ストレッチを終え、主催の主将三人組と荒木、和彦の教師二人が集まる。

今日のメニューの段取りのためだ。

「そうですよ。ラグビー部を2つに分けて、荒木先生組と杉山先生組でスクラム対決をやりませんか?」

風間が言う。

つい先日、風呂場で和彦に狼藉したことなど忘れたような顔だ。

「部員達に聞いたらラグビー未経験者が多くて、スクラムを組んでみたいって意見が多かったんですよ。なっ!」

水田が言い、保田が爽やかな顔で頷く。

「それは面白いな。俺と杉山の対抗戦か」

荒木が快活に言う。

「杉山、手加減せんぞ。全力で楽しもう」

和彦に笑いかける。

和彦はぎこちなく頷く。

主将三人は何食わぬ顔をしており、和彦はどう接していいか分からない。

試技だけにしておけば良かった、、、

和彦には珍しいことだがクヨクヨと後悔している。

もっとも、試技だけ参加すると言っても、主将達三人は様々な策を弄し、人の言葉を疑うことを知らない和彦は最初から参加することになっていたであろうが。

「それじゃ、参加したいやつは集まれ、そうだな、背の順で順番に組み分けしよう」

流れるように和彦組と荒木組が決まる。

ラグビー部主将の風間が参加者にスクラムの組み方を説明する。

フォワードの8人が、フロントロー3名、セカンドロー4名、サードローの1名の3列に分かれ、身体を組み合わせる。

互いへの手の回し方、頭の入れ方などを説明していく。

「掛け声はクラウチで整列、バインドで組み、セットで開始だ」

風間はラグビー部の主将なので、どちらかに組するとハンデとなるため、審判とボールを投げ入れる役をすることになった。

「それじゃ、用意っ!」

最初のスクラムでは、和彦は、セカンドロー、2番目の列のロックのポジションとなる。

フロントローの真ん中のフッカーと左右を固めるプロップの後ろから頭を突っ込み、プロップの股から手を回し、ラガーシャツを握り、押すポジションだ。

クラウチ!

バインド!

掛け声とともにスクラムを組む。

腰を落とし、ガタイのいい生徒の間に頭を突っ込むため、挟まれ、結構キツいポジョンだ。

セット!

掛け声とともに、スクラムが始まる。

若い発育の良い16の肉体が密集し、押し合う。

ミシミシと筋肉の軋む音が聞こえるようだ。

両肩に重くのしかかる力が和彦の心を奮い立たせる。

やはり彼もアスリートだ。

対人的には気弱だが、競技に掛ける闘争心は人一倍だ。

グッと腰を下ろし、両足を踏ん張り、フッカーとプロップの腰を支え、ジリジリと前進する。

肩への重み、両脚への負担、フッカーとプロップの腰に耳を千切らんばかり挟まれた頭の痛み、、、

それらを心地よく感じる程に和彦の心は燃え立ち、スクラムに没頭している。

やはり、体育教師だけあって、和彦の身体能力は生徒を凌駕する。

反対側のスクラムの背は波打つこともあるが、和彦の守るサイドは安定している。

じわりじわりと相手のスクラムを押していく。



突然、組み合ったスクラムが崩れた。

勢い余り、和彦は前面に倒れ込む。

どうやらボールを奪ったのではなく相手方のスクラムが崩れたようだ。

「杉山チームっ!一勝っ!」

風間が高らかに叫ぶ。

和彦は、さっと立ち上がり、まだ倒れたままのサイドのフランカー、フロントのプロップらが立ち上がるのを助ける。

「すまんっ!俺のせいだっ!」

男らしい声が響く。

辛そうな顔で立ち上がった直江だ。

「荒木先生っ、みんなっ!申し訳ない!」

「直江、気に病むな!チームは連帯だ!1人の責任じゃない、、、、」

荒木が優しい口調で言う。

「いえっ!違います。自分の不甲斐なさが原因ですっ!」

え?

和彦の目が丸まる。

直江がいきなりラグビーシャツの裾に手を掛け、さっと脱いだのである。

な、何を、、、、始めたんだ、、、?

和彦が事態を把握する間もなく、直江はラグパンに手を掛け脱ぎ、ケツ割れサポーター一丁となる。

裸に?

和彦は呆気にとられている。

直江は、卒業生で和彦の直接の教え子というわけではない。

しかし、競技で失敗したからといって裸になるなんて、行き過ぎじゃないか?

教師として、指導者として、行き過ぎは止めなくてはならないんじゃないか?

そんな和彦の想いとは裏腹に、直江、この春にこの学園を卒業した“おとこ”と呼ばれていたガッシリとした体格を持つ若者は、躊躇うこともなくケツワレサポーターのゴム紐に手をかけ一気に脱ぐ。

「お、おい、直江くん、ダメだよ。ミスを犯したからといって、裸になるのは行き過ぎだ」

和彦が直江に近づきながら言う。

「カズさん、、、、いや、杉山先生、スクラムを崩してしまったのは俺の根性が足りなかったからっす。俺が自分の根性を直すために初心に戻るために裸になったんすよ。その意気込みをバカにするんですか?」

和彦は動揺する。

“カズさん”と親しく呼んでくれていたのが、“”とよそよそしい呼び方に言い直されたのがまず、ショックだった。

カズさんと親しんでくれていたのに、俺の一言で、直江との距離を開いてしまったのか?

俺の言葉のどこが悪かったんだ?

そして、決して、彼の心根を馬鹿にしたわけではない。

競技で失敗した時に、陰湿な罰を加えることが、学生時代から和彦には許せなかった。

ミスはミスとして反省して、それを糧に高みを目指せば良いと言うのが和彦の考えだった。

だから、“自分のせい”と言って、直江が自身に罰を課し、裸になるのを止めようとしたのだ。

それなのに、俺が何か酷いことを言ったように直江は言い返してきた。

お、俺の何がいけないんだ?

負の感情に襲われがちな和彦。

見れば、直江だけではなく、周りの3年生達も、“何をいい出したんだ?この男は、、、、”というように自身を見ている。

ネガティブな感情が湧き上がってきた和彦には、“教師が偉そうに、、、、”と、自身を責めているように、彼らの視線が見えた。

「なぁ、杉山、今は、生徒達の自主的なトレーニングだぜ?授業中じゃない。ここは、それぞれの自主性に任せるのはどうだ?」

荒木が言う。

「そうっすよ、直江さん、さすが“おとこ”っす」

「応援部の“おとこの中のおとこ”って言われていただけあるっ!」

「かっこいいっすよ!俺たちの手本だ、、、、」

3年生達が口々に続く。

え?

俺が間違っているのか?

そうなのか?

和彦は、直江の行き過ぎた行動を止めたいが、その考えが間違っているのかどうか、もう分からず、口を開くことが出来ない。

「直江っ!シューズは脱ぐな。まだスクラムは続くんだから、裸足になるとケガをする」

シューズも脱ぎかけた直江に荒木が言う。

確かに、荒木の指導は正しい。

これで良いのか?

和彦は、悩む。

「さあ、ローテーションでポジションを変えて、再開だっ!」

荒木が声を掛ける。

「オッスッ!次は、押し勝とうぜっ!」

シューズと靴下のみを身に着けた直江が荒木組のメンバーに声を掛ける。

そこに全裸を晒しているという恥ずかしさはない。

剛毛に覆われ、肉棒と玉袋が露わになった股間を隠すようなことはせず、グラウンドに仁王立ちに近いしっかりと姿勢で立つ。

日焼けした肉体。

大柄、骨太の全身に無駄のない筋肉がつき、まさに、“おとこ”という表現がピッタリの肉体、そして、強い意志を感じさせる顔。

荒木組の生徒達が感嘆の目を向ける。

「杉山先生、時間がないっすから、グダグダ言ってないで、俺たちも用意をしましょうよ」

和彦のチームに配された水田が厭味ったらしく言う。

ふと見れば、和彦のチームの3年生達が、冷たい視線を和彦に向けている(ような強迫観念が和彦の内に生まれる)。

また、俺は、孤立するのか、、、、

和彦の不安が増す。


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