聖域で狩られた教師 和彦の場合

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リライト 炙りカルビ

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和彦は最近、軽く不思議に思うことがある。

嬉しい悩みと言って良いのだが、ここしばらく生徒たちとのスキンシップが明らかに増えてきた。

後ろから飛びつかれたり、他の生徒に押されて和彦にぶつかり、そのまま抱きついてハグを続ける生徒もいる。

もともと和彦は、体操競技で鍛え上げられた見事な筋肉質の体躯を持つため、学生時代から友人や初対面の人に「筋肉に触らせてくれ」と言われることには慣れていた。

しかし、最近の生徒たちのお願いは頻度が高く、触れる時間も長くなっている。

汗で湿ったシャツ越しに、筋肉の硬さや温もりを確かめるように触る生徒たちの手。

その感触は、和彦にとってくすぐったく、少し気恥ずかしい。

「すげぇ~!」  

「カッコいい~!」  

「俺もこんな身体に鍛えよう、、、」  

そんな言葉を浴びせられると、和彦は無下に断ることもできず、笑顔で受け入れる。

だが、彼はくすぐったがりで、特に敏感な部分を触られるのは苦手だ。

中でも乳首は特に感じやすく、腹筋を見せてと頼まれてシャツを捲り上げたとき、うっかり露わになった乳首を悪ふざけで摘まれると、ゾワッとする感覚が全身を駆け巡る。

その感覚を生徒の前で抑えるのは一苦労だ。

学生時代、急に乳首を友人に触られ、「ヒャアっ!やめてくれよぉ」と叫んで胸を抑えたら、それを大笑いされ、それ以来、事あるごとに乳首を摘まれたり、抓られたりして、その度にビクンと反応し、声を上げてしまい揶揄われ続けた。

その苦い経験から、乳首に敏感なことを生徒に悟られることだけは避けたいと思っている。

教師として偉そうに振る舞う気はないが、それでも乳首を触られて“ヒャアッ!”というような甲高い悲鳴を上げる真似は晒したくない。

最近は、生徒にせがまれて腹筋を見せる際も乳首が露出しないよう細心の注意を払っている。

しかし、脇腹や尻を触られるのも困りものだ。

乳首まではいかないが、脇腹や尻も触られるとゾクッと感じてしまう。

「鍛えられてるなぁ、、、すげぇ太さだよ」

太ももから内股まで手を這わせる生徒もいる。

内腿まで手が上がり、玉袋や棹の先に手の甲が当たることもある。

股間をギュッと握られて、“デッケエ”と言われたこともある。

「おいおい、そこはダメだよ」

笑いながら生徒の手をどけた。

和彦は子供らしいイタズラと信じている。

掌をいちいち振り払うのは大人げないと思う彼は、生徒たちの下心を疑うことなく、自分の敏感な身体をどうにかしなければと考えている。

くすぐったがりをどうにか出来ないか、、、

自分で触れば慣れるかと思ったこともあるが、自分で触っても全く感じず、鍛錬にはならなかった。

一部の生徒たちが和彦の敏感な部分を探り、反応を観察していることも知らないまま、和彦は純粋に生徒たちとの交流を楽しんでいる。

                                        *
和彦の机は教員室と体育教官室の2ヶ所にある。

生徒の資料作成などの事務作業は教員室で行うが、同僚の体育教師が集まる体育教官室で過ごす時間が多い。

教員室には、ネチッコイ性格で同僚や生徒から浮いた存在の学年主任白川がいる。

学園長の腰巾着と言われている。

彼は和彦が生徒と雑談しているだけでチクチク嫌みを言い、和彦の鍛えられた肉体や気さくな態度に嫉妬の視線を向ける。

生徒達は、その白川の嫌味な態度に敏感に気づき、担任の教師も居る教員室では、和彦との必要以上の接触を控える。

しかし、気さくな体育教師のみが居る体育教官室では雰囲気が異なる。

他の体育教師も和彦と同じくおおらかで、生徒たちを温かく見守る。

和彦を訪ねてくる生徒たちを微笑ましそうに眺め、時には一緒に笑い、歓談する。

汗とトレーニングの匂いが漂う体育教官室は、休み時間になると和彦を慕う生徒たちの溜まり場となっていた。

その昼休みも、体育教官室に生徒たちがやってきた。

一年と二年の生徒たちだ。  

「カズ先生、ゲームしよ!」

元気な声が響く。  

「あぶりカルビゲーム、分かる?」

一人が続ける。  

「知ってるよ。あぶりカルビって、次々言っていくゲームだろ」

和彦は笑顔で応じる。  

「俺、昨日、合同展の打ち合わせのあと、他校のヤツとカラオケボックスでやってぼろ負けで悔しいんだ」

一人が悔しそうに言う。  

「こいつ、始まってすぐに噛みまくって、一人で罰ゲームやりまくりだったんだよ、だから、俺たちは助かった」

別の生徒が笑う。  

「学校のメンツ潰した感じでしたよね、先輩」

一年生がからかう。  

「キツいこと言うな~!」

言われた生徒が返す。  

彼らは美術部で、他校との交流の一環として合同展の打ち合わせに参加していたのだろう。

和彦はそんな生徒たちの様子を微笑ましく思う。  

「だから、カズ先生、一緒に練習しようよ」

茶色のペットボトルを机の上に置く。  

「そのペットボトルは?」

和彦が尋ねる。  

「罰ゲーム用の苦いお茶。マジで苦いんだよ」

生徒が笑う。  

「そりゃ、負けられないな」

和彦もノリよく応じる。  

体育教官室の傍らのテーブルを囲み、和彦と生徒たちはあぶりカルビゲームを始める。

アブリカルビ、、、

アブリカルビアブリカルビ、、、

アブリカルビアブリカルビアブリカルビ、、、

順番に“アブリカルビ”という単語を一つづつ重ね、誰かが噛んで言えなくなるまで続けるゲームだ。

他の教師たちは席を外しており、騒ぎたい放題だ。  

「カズ先生、今、噛んだよね?」

一人が指摘する。  
「おいおい、ちゃんと言っただろう、あぶりキャルビ、、、あっ、、、」

和彦が言い間違える。  

生徒たちが一斉に笑い、部屋に活気が満ちる。  

「ほら、噛んだ!」  

「先生、さっきのと合わせて、二口分イッキね!」  

「うわっ、また俺が飲むのか。勘弁してくれよ、マジで苦いんだから。やだなぁ」

和彦は苦笑いする。  

教師という立場を誇らず、和彦は生徒たちと同じ目線で楽しむ。

発音が少しでも怪しいとアウトにされ、生徒よりも厳しい判定を受けるが、それも親しみの証だとポジティブに捉えている。

なにより、自分を慕ってくれる生徒たちが可愛くて仕方ない。

和彦の前のカップに二口分の茶色の液体が注がれる。

「よし、いくぞっ。躊躇うと苦いから、一気に、、、」

和彦はグイッとコップの中身を飲み干す。

顔をしかめる。

「うわっ、本気で苦い、、、口の中がビリビリするよ」

「カズ先生、ちゃんと噛まないであぶりカルビって言えばいいんだよぉ」

生徒たちが楽しそうに笑う。  

生徒たちは同じペットボトルを回し飲みし、和彦のマイカップには別のペットボトルからお茶が注がれている。

和彦は回し飲みに加わるつもりだったが、一人の生徒が棚から和彦のマイカップを持ってきて、そこにお茶を注いだのだ。

継がれたコップを拒否する理由もない。

そして、生徒が回し飲みするペットボトルと、和彦のカップに注がれるペットボトルが別ということも、さほど気にしなかった。

二本のペットボトルは同じ煎じ茶が入っている。

同じ色の液体。

ただし、一本には薬が溶けている。

もちろん和彦は気づかない。

そんな味のお茶と信じている。

れないよう、別の苦い液体を飲ませているのだ。

和気あいあいとした輪の中で、一人だけが計算高い視線を和彦に向ける。

汗で湿った和彦の首筋、盛り上がる筋肉、シャツ越しに透ける胸筋、、、そのすべてが、強い関心を掻き立てる。

無邪気な和彦の笑顔を見て、馬鹿なヤツと思う。

和彦はそんな企みに気づかず、純粋に生徒たちとの時間を楽しむ。

                                       *
ゲームが続く中、生徒が和彦の身体に触れる機会が増える。

「カズ先生、肩すげぇ!」

肩を叩くふりをして筋肉を揉む生徒や、「腹筋見せてよ!」とシャツを捲らせようとする生徒もいる。

和彦は笑いながら応じるが、乳首が露出しないよう気をつける。

だが、ある生徒の手が脇腹を這い、太ももから内腿へと上がると、和彦はゾクッとする感覚に襲われる。

「おい、そこはダメだよ」と鼠径部を撫でる手を笑いながらどけるが、その感触に身体が反応してしまう。

汗で湿った内腿、筋肉の硬さ、触れ合う瞬間の熱、、、生徒たちの手は、和彦の敏感な部分を探るように動く。

和彦はそれを無邪気なスキンシップだと信じ、自身の敏感さをどうにかしたいと思うばかりだ。

体育教官室の空気は、汗と若い男の匂いで濃厚だ。

その濃厚な肉の匂いが漂う体育教官室で、和彦への罠は確実に狭まっている。
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