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しおりを挟む「殿下、本日はお招き頂き」
「待って、手紙にも書いたけど堅苦しいのは無しにしよう?さ、どうぞ」
アルフレッドはそう言うと椅子を引きティナベルを座らせた。
リードヒルがティナベルの横に立ったままでいると、「君も座って?」と声がかかる。
「…自分もですか?」
「シュタットネス家の子息を立たせたままには出来ないよ」
「………恐れ入ります」
リードヒルは促されるまま三脚あるうちの一脚に腰を落とした。
シュタットネス家の六男がティナベルの家で働いてると知っている者はティナベルの父とその秘書、そしてティナベルの三人だけ。
他で姓を名乗ったことはないから屋敷の者もそれ以外の外の者も皆リードヒルは身分のないとこの生まれだと思っている。つまり本当にただの使用人だと思っている。
リードヒルにとってそう思われることは貴族でいるよりずっと楽で、今日もそのつもりで来ていた。
「旦那サマはティナの同行者としてリードヒルという男も帯同させるとしか返事をしなかったと思いますが…自分の姓までご存知とは流石王子サマですね」
「手紙には確かにそうとしか書いてなかったけど、君とは夜会で会ってるしね?」
リードヒルはそう言えばそうだったな、と思い直したけどそれにしたってあの時名乗りはしなかったとも思った。
-ティナと踊っている時旦那サマと王子サマが話してるのを見た気がしなくもない。あの時に聞いたのか…
リードヒルの考えは当たっていて、アルフレッドに話したのはティナベルの父。
ティナベルの父はリードヒルが何者なのか口外しないようお願いされていたことから誰に聞かれてもよく分からないで通すつもりだったけど…流石に王子に聞かれたとなれば答える他なかったのだ。
リードヒルもそこを責めるつもりはない。
「そうでしたね。忘れてました。てっきりティナとティナに近しい者について調査されたのかと」
「まさか」
アハハハハ、と令嬢たち顔負けの攻防戦を二人が笑顔で繰り広げてる横でティナベルはどうしてるかというと…
給仕とどのケーキを頂こうか真剣に話をしていた。
「どれにするか決まったのか?」
「うーん…うん!決めた!こちらとこちらを頂けますか?」
「他にも気になるのがあるのなら遠慮せずに食べていいからね?」
「はい、ありがとうございます」
「………!!」
-食べ物に目がない所も真剣に選ぶところも無邪気な子供の様なのに…
夜会の時もそうだった。彼女はふとした笑顔がとても色っぽい。
ティナベルの色香にまだ慣れていないアルフレッドはティナベルの微笑みをずっと見ていられるほど心臓は強くなくて。
無意識にフイっと顔を逸らすと先には漆黒の瞳の色で随分と白けた目をしたリードヒルの顔があった。
ティナベルのお皿に二つのケーキ。リードヒルとアルフレッドのお皿の上には一つづつ乗せられ、全員のカップにお茶が注がれ終わるとアルフレッドは咳を一つ払った。
「…では頂こうか」
「殿下、その前に聞いてもよろしいでしょうか?」
「?うん、何かな?」
「本日、私はどのような罰を受けるんでしょうか?」
「……………え…??」
一番先にケーキに手を伸ばしそうなティナベルがフォークも持たずに投げかけた質問はアルフレッドの時を止めた。
「罰…って?」
「私、夜会で何かミスをしてしまったんですよね?だから本日王宮に呼ばれたんですよね?申し訳ない事に自分ではいくら考えてもあの日どんなミスをしてしまったのか分からないんですが…それは分かります」
「えっと……」
アルフレッドはリードヒルを見たけれど、リードヒルは我関せずとお茶を飲んでいる。
-夜会でミス?罰??
いくら振り返っても楽しかったことしか思い出せないアルフレッド。
「死刑に処される者もその日だけは神に祈る事を許され良い食事を取らせてもらえると聞きます」
「ん?」
「殿下のご慈悲で罰を与える前にこんなに美味しそうなケーキをご用意して下さったのは大変嬉しく思いますが、罰を先にしていただくことは可能でしょうか?」
「え?!」
「あ、勿論無理にとは言いません!ただ…やっぱり嫌なことは先に済ませたいなと…」
「いや、ちょ、ちょっと待って!」
アルフレッドは何が何でそんな行き違いが?!とテーブルに膝をつき片手で頭を抱えた。
「…今日は何と言われて来たの?」
「殿下がお茶の相手に私を望んでいると」
「そうだよね?!」
-手紙には娘さんと個人的にお茶をしたいと書いただけ。
よく…というか、全然意味がわからないけど、彼女は今日飴と鞭を与えられると思っている?いや、もし彼女が夜会で罰せられるような罪を犯していたとしても甘い物を与えた後に痛みを与えるなんてそんな鬼畜な趣味はないよ?!もちろん後にも!もしかしてそんな男だと思われてるの……かっ…?!
アルフレッドは今度は両手で頭を抱えだした。
「あの…もしかして私は腕をもがれるのでしょうか…?腕のあるうちに食べろと言」
「違う!違うから!!」
-腕を落とされるじゃなくてもがれるってどれだけの罪?!
真っ青になって脅えるティナベルをアルフレッドも真っ青になりながら止めた。
この国には盗みを重ねた者には腕を落とすという罰は確かにある。けれどもぐというのは流石にない。
「私はただあなたとお茶をしたかっただけだよ?手紙に書いたことが全てだよ?」
「……何か粗相をしたわけでは…」
「ない!」
「鞭打ちにされたり」
「するわけないよ!!」
「お前……この後鞭打ちにあうんだろうと思いながらあんなに幸せそうにケーキを選んでたのか…?」
今まで傍観していたリードヒルも今回は流石に口を開いた。
個人的にお茶をしましょうと言うのはデートの誘い文句の定番。あなたに気がありますって告白してるのと同じ。
ティナベルがその好意に全く気付かず変な方向に行ってることは知っていたけれど、まさかそんな罰を受けると”勝手に”想像していたとは微塵も思わなかったのだ。
「……よかったぁ…」とホッとするティナベルとは逆にリードヒルはゾッとした。
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