世界は変わる。どこまでも。

まっしろ。

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「緊張してますか?」

「してるように見える?」

「いいえ」

「自分でもびっくりするくらい冷静だよ。案外自分で思ってるよりずっと私は冷酷な人間なのかもしれない」

「ある程度の冷酷さは国を治める者としてあっていいものだと私は思いますよ」

「…うん、ありがとう。それより………本当に行くつもりかいっ?!降りるなら今だよ?!」


少しくらい冷酷でいていいと言ってもらえた嬉しさに自然と顔を綻ばせたアルフレッドは慌てた顔で最終確認をした。


今、ノーストン家の案を実行するためアルフレッドはゼブエラに向かっていた。
数十人の騎士に囲まれた馬車はもうすぐゼブエラとの国境に着く。
馬車に乗るのはアルフレッドとティナベルとリードヒル。
なぜティナベルとリードヒルが一緒かというと、あの話し合いの後放たれたティナベルの発言が元になっている。


-------------------------

「陛下、私もアルフレッド殿下に同行してもいいですか?」

「何っ?!」

「この案を言い出したのは私ですし」


驚くラビス国王とアルフレッドとは別にティナベルの性格を熟知している残りの二人はやっぱりこうなったかとため息を吐いた。


「だからティナに発言させたくなかったんだよ…」

「ムキになって止めてたのはそっちが理由だったのか?!それならそうと早く言え!」


親友の娘であるティナベルのことを自分の娘のように可愛く思っていたラビス国王。まさかその子が敵地に…戦地に自ら行くと言うなどとは思わずその動揺は相当なものだった。

ティナベルの言い分としては「戦争屋は前戦に立つべき」というもの。
状況が変わった場合のことを考えると別の道筋を立てられる誰かがいた方がいいに決まっていて、それにはノーストン家の者が適任だとのこと。

代々ラビス国王のノーストン家への信頼は厚い。
ラビス国王も頼めるのなら頼みたいと思っていた。ただ…頼みたいと思っていた相手はいくら大人顔負けの思考を持っていたとしても、まだ子供でも通る年齢のティナベルにではない。


「作戦が失敗した時のことを考えるとノーストン家の頭脳は二つ必要です。一つは戦地に。一つは一番守らなくてはいけないもの、つまり陛下の側に」

「何も君が行くことはないだろう?ロベルトが行って君が残ればいい。なぁ?ロベルト」

「………」

「申し訳ありません、陛下。父はハイとは言いません。ノーストン家として言えるはずがないんです」


ロベルトは過去に数回ゼブエラへ赴いたことがありその際にゼブエラの臣下たちとも接触している。
今のゼブエラの王がロベルトの顔を知っているかどうかは分かないけど、臣下たちに覚えられている可能性はかなり高い。
ロベルトが行けば何か企んでると思わせてしまうかもしれないことを考えると顔がバレていないティナベルが行くのが一番適任だった。

結局、ティナベルに根負けしたラビス国王は作戦が出来るだけ滞りなく実行されるように少しでも高い勝率を確保するためティナベルの同行を許可せざるをえなかった。


-------------------------


「怖くないの…?」


この道はもし失敗すれば良くて死、悪くて捕らわれの身が待ち受けていることはノーストン家の生まれではないアルフレッドにも分かり切っていた。


「私、いやいや同行してるように見えますか?」

「…いや…」

「こんなこと言うと引かれてしまうと思いますが、結構楽しみにしてるんですよ?」

「楽しみ……?」


ティナベルにその思いがなければロベルトはノーストン家の歴史を踏みにじってもティナベルを敵地に送り出すことはしなかっただろう。
最後までティナベルの同行に賛成の意を表すことは勿論なく、かといって反対することなく最愛の娘を見送ったのはティナベルの強い意志を感じたから。


「ふふ、やっぱり引きますよね?でも決して血や首が飛び交う場が好きってことではのでそこは安心して下さい」

「いや、あなたにそんな趣味があるとは思ってはいないけれど…」


アルフレッドには全く分からなかった。
緊張はしていない。恐怖もない。
今こうしてティナベルと向き合ってることがほんの少し楽しいと思っていても、楽しいのはここまでだと思っていた。
この先はティナベルが言った通り血や首が飛び交うだけ。もしかしたら血や首を刎ねられるのは自分たちかもしれない。楽しみなことは何一つないはずだった。


「……私、一度はこの目でそういった状況を見てみたいとずっと思ってたんです」


ティナベルは窓の向こうを見て言った。

-あぁ、そうか… 可愛らしい顔と性格からつい忘れてしまうけれど彼女はノーストン家の人間だったな…

アフフレッドはティナベルの言った楽しみという言葉の意味を唐突に理解した。

王族なら王族、貴族なら貴族、その家に生まれたからには知りたくなくても知らなくてはいけないことがある。
見たい見たくないは関係なく見なくてはならないものがある。

-戦争屋と呼ばれるノーストン家の人間としては見ておくべきことなのかもしれないな…


「そっか… でも、本当に怖くないの?」

「ちっとも」


ティナベルを危険な場に連れて行く以上アルフレッドに出来ることは出来るだけティナベルの周りを騎士で囲み守ることくらい。
だけど出立前の作戦会議で放ったその思いは速攻で却下された。


-------------------------

「私の側にはリー一人いれば十分です」
「ティナの側には俺一人いれば十分」

-------------------------


アルフレッドはその時のことを思い出すと落ち着いていた心が少しモヤっとした。

-彼女がこんなに冷静でいられているのは俺が彼女の存在に冷静さを取り戻せているように、彼女を冷静でいさせる…彼がいるからかな?

アルフレッドは当たり前のようにティナベルの横に座っているリードヒルをチラリと見る。


「…何か?」

「ううん、なんでも?」


ニコッと笑うとフンっと言ってそっぽを向かれてしまうアルフレッド。

リードヒルというライバル、自分の王子という立場。
この恋は一筋縄ではいかないだろうと自覚はしていた。
それでも、やっぱり諦めきれない。アルフレッドはそう改めて思うと二人と同じように自分も窓の向こうの景色に目をやった。

馬車はゼブエラに入った。
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