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しおりを挟むデートの際は男性が女性を迎えにいくのが常。
そんな常識はティナベルにあって、そして、ない。
”迎えに来てもらうのもあれですし待ち合わせをしましょう?”
そう言ったティナベルにアルフレッドは驚きはしたものの、案外待ち合わせというのはいいものだなとティナベルを待ちながら思っていた。
もうすぐ会えると思うだけでいつも以上に自然と顔を綻ばすアルフレッドに街の女性たちが目を輝かせて自分を見ている事など一つも気付かない。
「お待たせしてすみません!」
程なくして現れたティナベルをアルフレッドは心から喜んで迎えた。
「誘ったのは私の方なのに遅れて申し訳ありません」と謝るティナベルをいつも以上に身近に感じるのはティナベルが少し裕福な平民といった格好をしているせいかもしれない。
「あなたに早く会いた過ぎて早く着いてしまっただけだから気にしないで? じゃ、行こうか。お前たちは出来るだけ離れて付いてきてくれ」
「…善処します」
アルフレッドの護衛の一人が苦笑しながら答えた。
今日は騎士の格好をしているとはいえアルフレッドはあくまで王子。離れると言ったって限りがある。
いつでも守りに入れる最大限の距離を取るというのが護衛たちにとっての精一杯の善処。
アルフレッドの視線は当然のようにティナベルの真横に立っているリードヒルにも向けられた。
リードヒルがハイハイ、分かってるって。そう言った感じでシッシッと手を振ったものだからアルフレッドは安心してティナベルと二人歩き出した。
いつもはリードヒルがぴたりとティナベルの真横か真後ろにいるので二人がこうして二人きりで歩くのはほぼ初めてのこと。
そもそもアルフレッドがティナベルと会うのは久しぶりだった。
ティナベルに会いたすぎる…そう思っていた時に二人で街に行かないかと届いたティナベルからの手紙。アルフレッドに断る理由は何一つなかった。
「男性に渡すプレゼント選びを手伝って欲しいんです」その一文には勿論モヤっとはしたけれど…手紙を読み終わったと同時に「是非」という返事を書いていた。
「お仕事大丈夫でしたか?」
「うん。やっと落ち着いてきたところでちょうど外に出たかったんだ」
「殿下は街にはよく出られるんですか?」
「たまにね。こうして隊服を借りて」
「とても似合ってますよ」
「ありがとう。あなたもとても似合ってるよ。って……はっ!違うんだ…!そうじゃなくて!その…」
アルフレッドは自分の発してしまった言葉に途端に焦り出した。
それもそのはず。アルフレッドにそんなつもりは毛頭なくてもその発言は貧しげな格好がお似合いだと言っているのと同じ。貴族の女性が平民と同じような格好をしてそれが似合っていると言われて喜ぶはずがないのだ。
だけれど、当のティナベルはアルフレッドの発言に怒る素振りは全く見せず逆に微笑んでいた。
そして、謎に「ありがとうございます」とお礼まで言って見せた。
「…え?ありがとうございます…?」
「ふふ、私、着飾るの嫌いなんです。作り物みたいで。本当の私じゃないみたいで。だから殿下がどういった意味で言っていようと、私にとっては今日の格好を褒めて頂けるのはとても嬉しいことなんです。だから”ありがとうございます”です」
少しでも貧しい格好をしていれば”あの家は落ちぶれている”と噂されるのだから着飾るということは貴族にとってはある意味仕事でもある。まぁ殆どの貴族は好き好んでやっているのだろうけど。
決して派手なドレスや派手な髪形をしていた訳ではないけれど、ティナベルも例に漏れずいつも貴族の令嬢と一目で分かる綺麗なドレスを纏って綺麗に髪を結うのは家名を傷付けない為。
「……あなたは……本当に…」
-可愛い顔で可愛い事を言ってくれないでくれ…
抱きしめたくてたまらない。
そう思ったアルフレッドだけどそんなことをしてリードヒルがすぐさま駆けつけてきて今日をお開きにされてはたまらないと必死の思いで堪えた。
「決してけなしたわけではないんだ。あなたが言ったように、本当に、素のあなたを見れた感じがして…それがとても可愛いから似合っていると言っただけなんだ」
「ふふ、ありがとうございます。でもあんまり可愛いとか…そう言ったことは言わないで下さい?慣れてないんです」
慣れてないという言葉にアルフレッドはまた驚いた。
-慣れてない…?今まであまり言われてこなかったということか?こんなに可愛いのに?声に出すつもりなんてなくても勝手に出てしまうくらい可愛いのに?
「えと…今日の本題なんですが…殿下だったら何を贈られたら嬉しいですか?」
「ん?!あ、あぁ…えーっと…何だろうな…」
アルフレッドがあまりにも凝視してくるものだから急いで話題を変えたティナベル。
アルフレッドは突然の質問に頭を切り替えフル回転で考えだした。
-プレゼントなんて男から女に贈るもので女性側から貰うなんてことはないからな…
こんなことは彼女には言えないけど身分的にも欲しいと思う物は大抵手に入っちゃうし…
そう考えた時、アルフレッドの頭に一つの物が浮かんだ。
「本…は嬉しいかも」
「本…ですか?」
「うん」
「殿下は本が好きなんですか?」
「嫌いじゃないけど好きって言う程好きでもないかな」
アルフレッドの答えにティナベルは「?」を返した。
「もしあなたのプレゼントの贈り相手が自分ならって考えた時、私だったら本を貰えたら嬉しいなって思っただけ。私が好きそうな本ではなくて、あなたの好きな本を贈って貰えたら嬉しいなって」
本は読み手の趣味が出る。
普段どんな本を読んでいるか知ることでその人がどんなことに興味があるのか、どんなことが好きなのか知ることが出来る。
と言っても、殺人ものばかり読むからといって必ずしもその人が殺人に興味がある人だなんて決めつけは出来ないけれど。
「それ以外には…何かないですか?欲しいもの」
「んー、私はないかな。ごめんね、あんまり役に立てなかったかな?」
「いえ…そんなことは…あ、このお店に入ってもいいですか?」
少し戸惑った様子のティナベルは目の前にある店の前で立ち止まった。
一見普通の民家にも見えるその建物。ドアの横には”本屋”と小さな小さな看板が出ていた。
二人が店に入ると髪も髭も真っ白なもう八十近いだろう老人が一人椅子に座って本を読んでいた。
ティナベルは棚に入っている本を見るでもなくその老人の元に進み、普段より少し大きめの声を出す。
「こんにちわ。ドーソンさん」
「あぁ、ティナベル。こんにちわ。ん?今日はいつもの男の子ではないんだね?予約してた本を取りに来たのかい?」
「はい」
「ほら。ちゃんと包装もしておいたよ」
「ありがとうございます」
ティナベルは本を受け取るとそのままアルフレッドに渡した。
「…え?私に?」
「はい。とりあえず、外に出ましょうか?」
「あ、うん……」
アルフレッドは何が入っているか分からない包みを大事に受け取った。
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