世界は変わる。どこまでも。

まっしろ。

文字の大きさ
20 / 21

12-4

しおりを挟む

「…意味わかんない…なによそれ……!」

「落ち着け、ハーマン」

「何言ってるのロベルト!こんなこと聞かされて落ち着けるわけないじゃない!」

「まぁまぁ」

「謝罪の気持ちは手紙で十分伝わった?土地も返してもらった?娘も帰してもらった?ありがとう?バカじゃないのあなたたち!!」


どうして各国の王が今日この場に来たのか。どうしてハーマンの謝罪を耳に入れようとしないのか。
ティナベルにまとめてもらってそれをきちんと頭に入れたハーマンは…憤慨していた。

それもそのはず。確かに手紙で謝罪はしたし奪い取った土地も返したし、妃たちも帰した。だけどそれはハーマンにとって当然のこと。

過去のゼブエラ王が戦争で奪ったのは土地だけではなくその土地に暮らす民もだった。国外に出ることを固く禁じられた彼ら。その日その時たまたまその土地にいたという理由だけで突然家族と引き裂かれ、二度と帰る事を許されなかった者も多い。彼らはそのまま会いたい人との再会が叶わないまま死んでいったはず。
土地を返しました、これでいいでしょう?で終わる話ではないのだ。

妃たちのこともそう。全員を帰せたわけじゃない。生きている妃を帰せただけ。自死をしてしまった妃たち、ゼブエラの王族によって殺されてしまった妃たちがいることを忘れてはいけない。
それに今回帰せた妃たちだってミシェル以外の妃は皆誰かしらに手籠めにされており一生消せない傷を負わせているのだから決して無事に帰せたわけじゃない。


「はっはっは、バカとは言ってくれるなぁ?」

「だってそうじゃない!どうしてアタシを恨んだり憎んだりしないの?!何がお礼よ!あなたたち代々そんなんなの?もしそうならそんなんだから歴代のゼブエラ国王に見下されて戦争ふっかけられて負けるのよ!」

「はっはっは、そうかもな!」


各国の王たちは怒る事なく笑っている。


「なぁ、ゼブエラの国王。俺は”どうしてもっとうまくやらなかったんだ”そう過去の国王を責めた事はないんだ。他の奴らだってそうさ。俺はそんな俺のことが好きだし、そんなこいつらのことが好きなんだが…どう思う?」

「バカな人!って思うわ」


冷めた口調で言うハーマンにも各国の王たちは「はっはっは、そうか」とまた笑うだけ。

各宰相たちもそんな王を咎めることなく放置している。
各国の王が集まっているとは思えないほど、この場に漂う空気はどうも軽い。


「ハーマンは陛下たちに直接会って謝罪をする機会を頂けたら腕の一本や二本、足の一本や二本、もがれる覚悟だったんですよ」


お父様もああ言ってたし、私も気を張るのはやめよう。そう決めたティナベルがハーマンの心中を各国の王に伝えると流石に笑えなくなった王たち。


「もがっ……??!」

「気持ちは分かりますけどね…」


続けてそう言ったティナベルに各国の王が青ざめたのは言うまでもない。
ハーマンだけが「そうよね?!」と目を輝かせてた。


「でもハーマン、私は陛下たちの考えが正しいと思うわ」

「…え?」

「あなたは腕をもがれる必要なんてない。さっき陛下も言ってたけれど過去は過去でしょう?陛下たちが恨んだり憎んだりしていいのは過去のゼブエラの行いであってあなたじゃないわ」

「だけど……!」

「ねぇ、ハーマン。ゼブエラ王国はゼブエラ王国としてある以上ずっと他国から恨まれて憎まれていかなくちゃいけないの?その血が途絶えるまで許されちゃいけないの?それならどうしてあなたは国王になったの?」

「そ、れは………」

「ハーマンはある程度国が整って他国と渡り合えるような教育を今いる臣下たちに引継ぐことが出来たら自分は王の座を降りてゼブエラを終わらせるつもりだったんでしょう?」

「っ……!!!」


どうして?!と驚くハーマンにティナベルは「結局ハーマンは全然私やラッシュの言葉なんて聞き入れてくれてないのよね?」と言って拗ねた顔をした。

ティナベルの読みは相変わらず正解だった。

小さい頃、城を抜け出し街に出たハーマン。
彼はそこで見た光景を忘れたことはない。
ゼブエラ王国にはゼブエラの民であることを誇りに思う者なんて一人もいない。

-こんな国…なくなればいい

その願いにも似た思いを忘れたこともなかった。
そしてその願いを叶える為だけに生きてきていた。
ハーマンは誰よりもゼブエラ王国の終わりを望んでいた。

兄弟たちを殺し自分が王の座に就いたのは…ティナベルが言った通り。

-ゼブエラ王族の血なんて一滴も流れていない者を王とした新たな国が出来ればいい

ハーマンは自分が踏み台になるつもりだった。
新たな王となるべく人物を見つけ育て終え、新たな国の基盤が整えば自分の血を以て全てを終わらせるつもりだった。
先祖がゼブエラ王国を作ったのなら終わらせるのはその血を継ぐ自分だと思って止まなかった。

自分の血を憎み過ぎていたハーマンにラッシュが言ったような王族の血が流れているからこそその血でよい国を作る。そんな大それた熱い思いを抱くことは出来なかったのだ。


「ゼブエラのしてきた行いを償いたいという気持ちを否定はしないわ。だけどゼブエラを終わらせるつもりなら私全力で止めさせてもらうから」

「!どうしてっ?!」

「どうして?それはこっちのセリフよ!どうして一人で全部背負おうとするのよ!」


ハーマンの襟首をつかんでティナベルは自分に引き寄せた。
いつもは小鳥のさえずりのように心地よく入って来るティナベルの声もこの時ばかりは怒りに満ちていた。
ハーマンもアルフレッドもこんなティナベルを見るのは初めてだった。


「ゼブエラのしてきたこと、責任を問われなければいけないのならそれはゼブエラの民もでしょう?!国を愛するのは民の義務よ?愛せないのなら声をあげるべきだったの!反乱でもなんでもやるべきだったの!ラッシュはリーダーがいなかったからと言ったけれどそんなのいい訳だわ!ゼブエラの民はただ国造りを放棄してきただけじゃない!そのせいで自分たちの子孫、他国にまで被害をもたらしてるの!」


ハーマンの襟から手を下ろしたティナベルはそのままハーマンに抱き付く。


「責を負わなければいけないのはあなただけじゃない。ゼブエラに住む者全てよ…」


急に小さくなった声。
泣いてるのかとハーマンがティナベルの顔を覗き込むとティナベルはガバっと顔をあげて「なんなら私は他国の責任でもあると思ってるわ!」と涙など見せずに言った。

大きい図体のハーマンが小さい体のティナベルに押されている様子は滑稽なはずなのにどうもしっくりいくものがあった。


「…他国の責任って…それは流石に押し付け過ぎじゃ…」

「ううん。陛下たちもそう思ってるわ。そうですよね?」


ティナベルが各国の王に向き合うと皆うんうんと頷く。


「ハーマンも知ってるでしょう?ゼブエラ以外の国の王族に代々引き継がれる同じ夢があること」

「この大陸に生きる全ての者が幸せに暮らす事…だっけ?」

「そう」


どれ程昔か分からない程遥か遥か昔、一つの大陸が一瞬で消えたという伝承。それはその時代には普通にいたとされるドラゴンの仕業だと言われていた。
だけど大陸全土が争いに傷を増やし始めた頃、減っていく森林、死んでいく民を見た王の中に一人、また一人と紛争が原因で大陸が滅んだのではないかと考え始める者が増えた。
そしてゼブエラを除く平和を望んだ王たちの間で共通の夢が出来た。

”争いはやめよう。この地を大切にしよう。人は地に足を付けれる場でしか生きれないのだから。この地にいくつの国があろうと同じ地に足を付ける者同士だ。他国が困っていれば助け、間違った行いをすれば止める。そうすれば各国が幸せであり台地もまた肥えるだろう”


「私たちは先祖の思想を受け継ぎながら今までゼブエラを野放しにしてきてしまった」

「責は私たちにも十分あるんだよ」

「だから私たちはあなたを責めない」

「あなた一人に責を負わせない」

「この大陸に住まう者全てで大地へ償いをしよう」

「どうかゼブエラを無くさないでくれ。あなたが王となってくれたことでやっと夢の一歩を踏み出せるんだから」

「…あなたたちの平和主義の脳みそにはこれ以上アタシを責めろって言っても無意味そうね…」


ハーマンは諦めたように溜息を吐いた。
王たちの夢を笑うつもりはない。
ただ、彼らのような王をハーマンは初めて見たのだ。ハーマンが知るのは争いごとこそ善だと信じて疑わない王ばかりだったのだ。


「よかったね、ハーマン」


ティナベルがハーマンに笑いかけると腕や足をもがれる覚悟だったハーマンは「え?何が?全然よくないけど?」とどこかまだ不満げだった。


「腕をもがれるよりも、足をもがれるよりも重い、これ以上ない罰を与えてもらったじゃない」

「…………?」


一瞬では理解できなかったティナベルの言葉。
ハーマンは頭の中で何度か復唱してやっと「そっか…」と静かに悟った。

-罰とか償いとか言って……アタシはなんて道を選んでいたのかしらね。
アタシはアタシが”恨んで欲しかっただけ。憎んで欲しかっただけ。そして、死にたかっただけじゃない。そんな一番簡単で優しい道が罰であるはずがないのに…それを償いにしようとしていた。バカね…

生きることは何よりも難しい。恨まれない事も憎まれない事も難しい。
本当に罰を望むなら、償いをしたいと思うのなら、自分にとって一番重い罰である”生き続ける道”しか選択肢がなかったことにハーマンはやっとこの時気付いた。


「前言撤回!アタシ、誰に死ねと言われようと生きてやるわ!」

「お!?」

「辛い事も苦しい事も沢山どんと来いよ!どんなに死にたいと思う時が来たってそんな時が来れば来るほど生きて生きて生きることで償い続けてやる!」

「ふふ、いつものハーマン復活ね!」

「えぇ!アタシ、生きる!」


ガッツポーズを決めたハーマンに各国の王や宰相たちが「その調子だー!」「いいぞー!」などと仰ぎ立てる。
ティナベルはそんな中一人だけ浮かない顔をしている人物に気付いた。


「リー…?」

「あぁ…なんでもない」


心配そうなティナベルの頭をリードヒルはポンポンと叩いた。

ハーマンがいくら罰を受けるために生き続けることを選んだとしても人間の寿命はたかが知れている。
たった数十年頑張って生きれば死ねるのだ。
それに比べ…死ねない体を持っているリードヒル。

-生きることが償いね…

リードヒルが生きる意味、生かされる意味を考えたのは数百年ぶりのことだった。

何百年と食べずにいても生きていた。重力に任せ崖から身を落としても無傷だった。遭遇した人間の剣を無防備に受けても相手の剣が折れただけ。血の一滴さえも流れなかった。

-生きることが償いだってのなら、俺はもう何百年も生きた。いい加減許して欲しいもんだ…

誰に乞う訳でもなくリードヒルは心で思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...