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しおりを挟む「…意味わかんない…なによそれ……!」
「落ち着け、ハーマン」
「何言ってるのロベルト!こんなこと聞かされて落ち着けるわけないじゃない!」
「まぁまぁ」
「謝罪の気持ちは手紙で十分伝わった?土地も返してもらった?娘も帰してもらった?ありがとう?バカじゃないのあなたたち!!」
どうして各国の王が今日この場に来たのか。どうしてハーマンの謝罪を耳に入れようとしないのか。
ティナベルにまとめてもらってそれをきちんと頭に入れたハーマンは…憤慨していた。
それもそのはず。確かに手紙で謝罪はしたし奪い取った土地も返したし、妃たちも帰した。だけどそれはハーマンにとって当然のこと。
過去のゼブエラ王が戦争で奪ったのは土地だけではなくその土地に暮らす民もだった。国外に出ることを固く禁じられた彼ら。その日その時たまたまその土地にいたという理由だけで突然家族と引き裂かれ、二度と帰る事を許されなかった者も多い。彼らはそのまま会いたい人との再会が叶わないまま死んでいったはず。
土地を返しました、これでいいでしょう?で終わる話ではないのだ。
妃たちのこともそう。全員を帰せたわけじゃない。生きている妃を帰せただけ。自死をしてしまった妃たち、ゼブエラの王族によって殺されてしまった妃たちがいることを忘れてはいけない。
それに今回帰せた妃たちだってミシェル以外の妃は皆誰かしらに手籠めにされており一生消せない傷を負わせているのだから決して無事に帰せたわけじゃない。
「はっはっは、バカとは言ってくれるなぁ?」
「だってそうじゃない!どうしてアタシを恨んだり憎んだりしないの?!何がお礼よ!あなたたち代々そんなんなの?もしそうならそんなんだから歴代のゼブエラ国王に見下されて戦争ふっかけられて負けるのよ!」
「はっはっは、そうかもな!」
各国の王たちは怒る事なく笑っている。
「なぁ、ゼブエラの国王。俺は”どうしてもっとうまくやらなかったんだ”そう過去の国王を責めた事はないんだ。他の奴らだってそうさ。俺はそんな俺のことが好きだし、そんなこいつらのことが好きなんだが…どう思う?」
「バカな人!って思うわ」
冷めた口調で言うハーマンにも各国の王たちは「はっはっは、そうか」とまた笑うだけ。
各宰相たちもそんな王を咎めることなく放置している。
各国の王が集まっているとは思えないほど、この場に漂う空気はどうも軽い。
「ハーマンは陛下たちに直接会って謝罪をする機会を頂けたら腕の一本や二本、足の一本や二本、もがれる覚悟だったんですよ」
お父様もああ言ってたし、私も気を張るのはやめよう。そう決めたティナベルがハーマンの心中を各国の王に伝えると流石に笑えなくなった王たち。
「もがっ……??!」
「気持ちは分かりますけどね…」
続けてそう言ったティナベルに各国の王が青ざめたのは言うまでもない。
ハーマンだけが「そうよね?!」と目を輝かせてた。
「でもハーマン、私は陛下たちの考えが正しいと思うわ」
「…え?」
「あなたは腕をもがれる必要なんてない。さっき陛下も言ってたけれど過去は過去でしょう?陛下たちが恨んだり憎んだりしていいのは過去のゼブエラの行いであってあなたじゃないわ」
「だけど……!」
「ねぇ、ハーマン。ゼブエラ王国はゼブエラ王国としてある以上ずっと他国から恨まれて憎まれていかなくちゃいけないの?その血が途絶えるまで許されちゃいけないの?それならどうしてあなたは国王になったの?」
「そ、れは………」
「ハーマンはある程度国が整って他国と渡り合えるような教育を今いる臣下たちに引継ぐことが出来たら自分は王の座を降りてゼブエラを終わらせるつもりだったんでしょう?」
「っ……!!!」
どうして?!と驚くハーマンにティナベルは「結局ハーマンは全然私やラッシュの言葉なんて聞き入れてくれてないのよね?」と言って拗ねた顔をした。
ティナベルの読みは相変わらず正解だった。
小さい頃、城を抜け出し街に出たハーマン。
彼はそこで見た光景を忘れたことはない。
ゼブエラ王国にはゼブエラの民であることを誇りに思う者なんて一人もいない。
-こんな国…なくなればいい
その願いにも似た思いを忘れたこともなかった。
そしてその願いを叶える為だけに生きてきていた。
ハーマンは誰よりもゼブエラ王国の終わりを望んでいた。
兄弟たちを殺し自分が王の座に就いたのは…ティナベルが言った通り。
-ゼブエラ王族の血なんて一滴も流れていない者を王とした新たな国が出来ればいい
ハーマンは自分が踏み台になるつもりだった。
新たな王となるべく人物を見つけ育て終え、新たな国の基盤が整えば自分の血を以て全てを終わらせるつもりだった。
先祖がゼブエラ王国を作ったのなら終わらせるのはその血を継ぐ自分だと思って止まなかった。
自分の血を憎み過ぎていたハーマンにラッシュが言ったような王族の血が流れているからこそその血でよい国を作る。そんな大それた熱い思いを抱くことは出来なかったのだ。
「ゼブエラのしてきた行いを償いたいという気持ちを否定はしないわ。だけどゼブエラを終わらせるつもりなら私全力で止めさせてもらうから」
「!どうしてっ?!」
「どうして?それはこっちのセリフよ!どうして一人で全部背負おうとするのよ!」
ハーマンの襟首をつかんでティナベルは自分に引き寄せた。
いつもは小鳥のさえずりのように心地よく入って来るティナベルの声もこの時ばかりは怒りに満ちていた。
ハーマンもアルフレッドもこんなティナベルを見るのは初めてだった。
「ゼブエラのしてきたこと、責任を問われなければいけないのならそれはゼブエラの民もでしょう?!国を愛するのは民の義務よ?愛せないのなら声をあげるべきだったの!反乱でもなんでもやるべきだったの!ラッシュはリーダーがいなかったからと言ったけれどそんなのいい訳だわ!ゼブエラの民はただ国造りを放棄してきただけじゃない!そのせいで自分たちの子孫、他国にまで被害をもたらしてるの!」
ハーマンの襟から手を下ろしたティナベルはそのままハーマンに抱き付く。
「責を負わなければいけないのはあなただけじゃない。ゼブエラに住む者全てよ…」
急に小さくなった声。
泣いてるのかとハーマンがティナベルの顔を覗き込むとティナベルはガバっと顔をあげて「なんなら私は他国の責任でもあると思ってるわ!」と涙など見せずに言った。
大きい図体のハーマンが小さい体のティナベルに押されている様子は滑稽なはずなのにどうもしっくりいくものがあった。
「…他国の責任って…それは流石に押し付け過ぎじゃ…」
「ううん。陛下たちもそう思ってるわ。そうですよね?」
ティナベルが各国の王に向き合うと皆うんうんと頷く。
「ハーマンも知ってるでしょう?ゼブエラ以外の国の王族に代々引き継がれる同じ夢があること」
「この大陸に生きる全ての者が幸せに暮らす事…だっけ?」
「そう」
どれ程昔か分からない程遥か遥か昔、一つの大陸が一瞬で消えたという伝承。それはその時代には普通にいたとされるドラゴンの仕業だと言われていた。
だけど大陸全土が争いに傷を増やし始めた頃、減っていく森林、死んでいく民を見た王の中に一人、また一人と紛争が原因で大陸が滅んだのではないかと考え始める者が増えた。
そしてゼブエラを除く平和を望んだ王たちの間で共通の夢が出来た。
”争いはやめよう。この地を大切にしよう。人は地に足を付けれる場でしか生きれないのだから。この地にいくつの国があろうと同じ地に足を付ける者同士だ。他国が困っていれば助け、間違った行いをすれば止める。そうすれば各国が幸せであり台地もまた肥えるだろう”
「私たちは先祖の思想を受け継ぎながら今までゼブエラを野放しにしてきてしまった」
「責は私たちにも十分あるんだよ」
「だから私たちはあなたを責めない」
「あなた一人に責を負わせない」
「この大陸に住まう者全てで大地へ償いをしよう」
「どうかゼブエラを無くさないでくれ。あなたが王となってくれたことでやっと夢の一歩を踏み出せるんだから」
「…あなたたちの平和主義の脳みそにはこれ以上アタシを責めろって言っても無意味そうね…」
ハーマンは諦めたように溜息を吐いた。
王たちの夢を笑うつもりはない。
ただ、彼らのような王をハーマンは初めて見たのだ。ハーマンが知るのは争いごとこそ善だと信じて疑わない王ばかりだったのだ。
「よかったね、ハーマン」
ティナベルがハーマンに笑いかけると腕や足をもがれる覚悟だったハーマンは「え?何が?全然よくないけど?」とどこかまだ不満げだった。
「腕をもがれるよりも、足をもがれるよりも重い、これ以上ない罰を与えてもらったじゃない」
「…………?」
一瞬では理解できなかったティナベルの言葉。
ハーマンは頭の中で何度か復唱してやっと「そっか…」と静かに悟った。
-罰とか償いとか言って……アタシはなんて道を選んでいたのかしらね。
アタシはアタシが”恨んで欲しかっただけ。憎んで欲しかっただけ。そして、死にたかっただけじゃない。そんな一番簡単で優しい道が罰であるはずがないのに…それを償いにしようとしていた。バカね…
生きることは何よりも難しい。恨まれない事も憎まれない事も難しい。
本当に罰を望むなら、償いをしたいと思うのなら、自分にとって一番重い罰である”生き続ける道”しか選択肢がなかったことにハーマンはやっとこの時気付いた。
「前言撤回!アタシ、誰に死ねと言われようと生きてやるわ!」
「お!?」
「辛い事も苦しい事も沢山どんと来いよ!どんなに死にたいと思う時が来たってそんな時が来れば来るほど生きて生きて生きることで償い続けてやる!」
「ふふ、いつものハーマン復活ね!」
「えぇ!アタシ、生きる!」
ガッツポーズを決めたハーマンに各国の王や宰相たちが「その調子だー!」「いいぞー!」などと仰ぎ立てる。
ティナベルはそんな中一人だけ浮かない顔をしている人物に気付いた。
「リー…?」
「あぁ…なんでもない」
心配そうなティナベルの頭をリードヒルはポンポンと叩いた。
ハーマンがいくら罰を受けるために生き続けることを選んだとしても人間の寿命はたかが知れている。
たった数十年頑張って生きれば死ねるのだ。
それに比べ…死ねない体を持っているリードヒル。
-生きることが償いね…
リードヒルが生きる意味、生かされる意味を考えたのは数百年ぶりのことだった。
何百年と食べずにいても生きていた。重力に任せ崖から身を落としても無傷だった。遭遇した人間の剣を無防備に受けても相手の剣が折れただけ。血の一滴さえも流れなかった。
-生きることが償いだってのなら、俺はもう何百年も生きた。いい加減許して欲しいもんだ…
誰に乞う訳でもなくリードヒルは心で思った。
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