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しおりを挟む「ごめんなさい、思い出してつい…」
「いや、ハハハ、息子の言った通りだな。あなたと話すのはとても楽しい」
「あら、嬉しい…」
「さて。では休息は必要はないと言う言葉を信じて本題の話をしてもいいかな?」
急に真面目な顔つきになったラビス国王にハーマンは正していた背筋を更に伸ばした。
「ゼブエラの現況については臣下たちから聞いている。想定以上のスピードで復興に向かっていると」
「えぇ。全てはラビス国王に手配頂いた人員、物資のお陰よ」
「それは構わない。困ってる者がいるのであれば国内外問わず助けるのが当然だ」
「…歴代のゼブエラ国王には死んでも理解できない言葉でしょうね。耳をちょん切ってでも聞かせてやりたかった」
「過去は過去だ。あなたは歴代とは違うのだろう?」
「アタシを歴代と違わないと判断した時は遠慮なく殺して頂戴」
まっすぐな視線で返したハーマンにラビス国王はうんと頷く。
そうさせてもらうという意味ではなく、やはり違うな、という意味で。
一方でティナベルは「またそんな事言って…」とプンスカと怒っていた。
「新しく臣下に据えた者たちも中々覚えがいいみたいだな。ろくに勉学を学んできてないだろうに教えたことはきちんと頭にいれていると言っていた」
「毎日毎日夜中まで復習しているから…そういえばあの子たちも最初の頃はリっちゃんに無理矢理寝かされてたわね?」
ハーマンは知らん顔をしているリードヒルを見た。
ハーマンが据えた臣下たちも兵たちも『アタシがお願いしたばっかりに責を負わせてしまったわね…』などというハーマンの思いとは裏腹に学ぶことをとても楽しく思い皆寝ずに勉学に励んでいたのだ。
ハーマンに負けず劣らず皆眠らないのでティナベルのゴーサインと同時にやってきたリードヒルの餌食になった者の数は数十人に及んでいた。
「本当に皆よく頑張ってくれてるわ……でも…一人前になるのはまだ先のことでしょうね…各国の宰相たちが幼少期から教育を受けているのに比べてあの子たちは大人になってからのスタートだもの。あ、でもだからってラビスの人たちにまだまだ手伝ってもらおうと思ってるとかじゃないのよ?誤解しないでね?勉強の仕方とか初歩の初歩は教えてもらっているから後は自分たちでなんとか出来るから。もし派遣してくれてる人が必要ならゼブエラのことは気にせずすぐにラビスに帰してあげて?」
「実は…今回、その件について話したくて来てもらったんだ」
「そう。もう一ヶ月近くも来てもらってるものね」
「いや、そうではない。彼らの話ではなくて…」
少し目を泳がせたラビス国王。視線は一瞬だけティナベルとかち合った。
「うん。単刀直入に言おう。そこにいるティナベル嬢をゼブエラの宰相補佐として置いては貰えないか?」
「!?!?」
ハーマンは驚いてティナベルを見たけれどニコッと笑って返されただけだった。
笑顔を受けたハーマンの心情はとても穏やかなものではない。
-ベルをゼブエラに?!ロベルトもリっちゃんも口を出さないってことは…
「ベル、あなたが言い出したのね?!いくら友達だからってそんなのダメよ!」
「ティナベル嬢は私の依頼を聞き入れてくれただけだ。言い出したのは私だよ」
「ラビス国王が…?」
「悪い話じゃないだろう?彼女の頭脳はこの国に欲しいくらいだ。それをどうぞと言っているんだから」
ハーマンはバンっ!と机を叩いてラビス国王の言葉を遮った。
怒りのまま席を立つと一度心を落ち着け、また着席する。
怒りの沈め方は今までの人生で十分に学んでいるのだ。
「…失礼しました。ゼブエラを、アタシを監視するためにラビスの者を私の臣下に置きたいというのならいくらでも受け入れるわ。だけどベルはダメ。ベルだけは嫌よ」
声のトーンを一つ落として今までで一番真剣な目をしたハーマン。
ラビス国王はその真意を読み取ったのか目を閉じ微笑むとロベルトもその隣でうんうんと微笑んだ。
ティナベルだけがハーマンの言葉に傷つき「…ハーマン…私の事そんなに嫌いなの…?」と青ざめていた。
「ちょっ!違うわよバカっ!!!大体あんたもそんな話やすやすと引き受けてるんじゃないわよバカっ!!」
「リー…ハーマンが私のこと二回もバカって……」
「殺すか?」
「何言ってんのバカ!!」
ラビス国王は三人の様子を「ハッハッハ」と笑って見、「一応、ティナベル嬢ではダメな理由をきちんと言葉にしてもらえるかな?」とだけ言った。
それはまるで他の誰かに聞かせるかの様だったけれど、ハーマンはそんな事にまで気は回らず素直に答える。
「…ベルを国政に関わらせたくないのよ。この子の頭の良さは知ってるわ。そりゃゼブエラにいてくれたらってアタシだって思うわよ?でも…ダメ。だって政治って民の悲しみや痛みに目を向けることでしょう?この子は優しいのよ?この子はアタシが背負ってる悲しみや痛みとかそういうの勝手に半分背負ってしまうくらい優しい子なの。政になんか関わらせたらその悲しみも痛みも半分どころか全部背負うに決まってるわ」
「…私そんなにいい子じゃないよ?ハーマン」
「いいわよ、あなたは勝手にそう思ってなさい!でも自分のことは案外他人が一番よく知ってるものだとアタシに言ったのはあなたよ?アタシのあなたを見る目に間違いはないわ!あなたは天気のいい日は馬に乗って散歩して木陰を見つけたらそこでリっちゃんとゴロゴロ昼寝をしてればいいのよ。雨の日はリっちゃんとおいしいケーキを食べながらおいしいお茶を飲んで大好きなドラゴンが出てくる本を読んでいればいいの!ノーストン家だろうとなんだろうとあなたには自由に気ままに生きるのが一番似合うんだから!あなただってそう思ってるでしょう?」
急に話を振られたロベルトは「まぁ、ね…」とどこか困ったように眉尻を下げて笑った。
「ティナベル嬢が大切だからダメだということだな?」
ラビス国王が今一度ハーマンに確認を取るとハーマンはまっすぐな視線で「そうよ」と返す。
だけどラビス国王はその視線を受け取らなかった。
ラビス国王の視線の先はハーマンの後ろ。今いる部屋と隣の部屋を繋ぐドアの向こうに向かっていた。
流石にどこを向いているのかとハーマンが気になって振り向くと開けられたままのドアからはいくつか顔がのぞいていた。
ラビス国王が「もういいだろ?」と言うと「あぁ、入るぞ」と言う声。
ぞろぞろと入ってきた男性の中から五人が席に着席し、残りの者はその後ろに立った。
「すまない、ずっと盗み聞きさせてもらっていた」
一番最初に口を開いた男性の顔にはハーマンにも覚えがあった。
-ドナの国王……?まさか…まさか他の人も全員各国の王とか言わないわよね…
でもラビスの国王、ドナ国の国王と同じ机を囲んで座れる者なんて…
答え合わせをしたくてティナベルを見ると、ティナベルは「ごめんね、ハーマン、内緒にしてて」と言う。
ハーマンが自分の考えがほぼほぼ正しいだろうことに気付いたのはラビスの兵だと思っていた者たちが隊服を脱いだ時だった。
彼らのシャツには各国の紋章をかたどったバッヂが付いていた。
「いや、ティナベル嬢が謝る事はない。私が隠しておいてくれと言ったから隠させてしまったんだ。すまなかったな」
「待った。ラビス国王が謝る事じゃないだろ?そもそもは俺らが新しいゼブエラ国王をこの目で確かめたいと言って無理言って作ってもらった状況だ。謝るなら俺らだろ。な?」
「いや、一番初めに言い出したのは私だ。謝るのは私一人でいいだろう」
「アホか。私にもちゃんと謝らせろ」
「私一人のけ者にするのはやめてくれよ?」
不思議と謝罪の奪い合いをしている男性たちにやっぱりドナの国王以外は国王ではないんじゃないかと思うハーマンだったけれど「各国の国王様たちだよ。あと各国の宰相さんたち」と決定的な答えをティナベルに耳打ちされてしまった。
ハーマンはその声を耳に入れると直ぐに椅子から立ち上がり床にひれ伏し頭を付けた。
各国の王は驚いて顔を上げるよう諭すけれどそれでもハーマンは顔を上げない。
「ちょ、本当にやめてくれ!」
一人が無理矢理起こそうと試みたけれどそれでも顔を上げないハーマンに全員が困って助けを求めた相手はティナベルだった。
ティナベルは「私?!」と思いながら国王たちの望みを拒否することなど出来ず…しゃがんでハーマンの背に手を置く。
「ハーマン…それは謝罪ではないわ。謝罪をしたいのならきちんと顔を上げなくちゃ」
「……そうね…」
やっと顔を上げたハーマンに「流石ノーストン家の子だ!」という声が聞こえた。
-え…大したことは言っていないしノーストン家は関係ないのでは…?
ティナベルはそう思ったけれど国王たちの言葉を否定するような事を口に出来る訳もなく黙ってその後の成り行きを見ることにした。
「この度」
「待った!私たちが今日ここに来たのはあなたに謝罪をしてもらいたかったからではない」
謝罪を始めようとしたハーマン。その声はひときわ大きな声で遮られた。
あまりの大きな声に驚き次の言葉が出てこないでいると他の王たちが話し出す。
「謝罪の気持ちは貰った手紙で十分伝わったからもういい」
「奪われた土地も返してもらったしな」
「そ。大事な娘も返してもらった」
「やっとお礼が言える」
「お礼……?アタ…私に…ですか?」
「ちょっとー、さっきと喋り方が違うじゃない。私たちにも普通に話してよ!」
一人の国王がハーマンと同じような口調で言ってハーマンの背をバシバシと叩く。
喋り方だけではなく性格もどことなく性格もハーマンに似ているこの国王はラビス国王とそう年は変わらない。ラビス国王がハーマンの喋り方になんの戸惑いも見せなかったのはこの国王と馴染みだったからだった。
ハーマンは頭の中の整理が全く追いつかず「ちょ、ちょっと待ってください…」と焦る。
「普通に話せ!」
ドナの国王に怒られたハーマンは困ったようにティナベルを見たけれどそんな目を向けられてもティナベルも困るだけ。
例え一風変わっていようとここにいるのは紛れもない各国の王たち。そして宰相たち。
ただの宰相の”娘”でしかないティナベルが断りもなく発言することはあまり良い行いではないのだ。
「国王ともあろう方たちが…困った先に頼るのが私の娘とは…本当に困ったものだ…」
娘の助けを受けてロベルトはボソっと呟いた。
「ティナ、言うの忘れたけど、ここは会議室とは名ばかりで陛下や宰相たちが素を出して話し合いをする無礼講の部屋なんだよ。だからティナも楽にして好きに発言していいからね」と言う。
-いや、お父様が話してくれればいいのに…
-いや、旦那サマが話せば…
ティナベルとリードヒルは同じことを思ったけれどロベルトも大概困った時はティナベル頼み。
ティナベルは諦めて事のあらましをハーマンに話し出した。
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