『…魔力も魔法も関係ない! 必要無い! 俺は舌先三寸で人を動かして、魔王に勝って魔族を滅ぼす! 』

トーマス・ライカー

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魔法使いなんて、要らないよ!

……凱旋……

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 城市『アガラ』の西門せいもんへと向かって戻るおとりの隊商と2台の乗り合い馬車……ナヴィド…サミール…クヴァンツ…エフロンの4騎で護衛しつつ歩みを進めている。


 あと凡そ300ミルトで門前に到ろうかと言う処で、俺とジングとデラティフとレーナの4騎が追い付いた。


 俺達4騎は、30人の人足達と一緒に速足はやあしで追い掛けていた……疲れている人や走るのが苦手な人も居るから、400ミルト毎に交替で馬の後ろに乗って貰いながら速足で追い掛けていたのだ。


 背後うしろから声を掛けると幌馬車と乗り合い馬車は止まり、4人とも馬から降りて歩み寄って来る。


 俺達も馬の脚を緩めさせて歩み寄り、ゆっくり止めて降りた……人足の皆さんもお互いに駆け寄り、無事を喜び合って抱き合ったりお互いに叩き合ったりしている。


「……よくやったな、シエン……」


「……ああ…よくやったな…クヴァンツ……」


「……人足の皆さん方が、大活躍だったな……」


「……ああ、彼らの働きが無ければ…勝てやしなかったな……」


「……魔族は出なかったのか? 」


 サミールがデラティフに訊いた。


「……出なかった……俺達の戦い方を見ていたんだろう……次にやり合うなら、出て来るだろうな……」


「……今も俺達を見ているだろう……ここまで戻って来れば襲っては来ないだろうが…早く『アガラ』の中に入ろう……」


「……そうだな、シエン……今襲われれば、使えるのは手持ちの得物えものだけだからな……」


「…そうだ…エフロン……人足にんそくの皆さんも、休ませたいからな……」


 そう応えて俺は、愛馬シエナの手綱を曳いて歩き出した……『アガラ』の西門は、すぐそこだ。


 西門を潜ると、先ず隊商長と乗合馬車の御者さんに深く頭を下げて、今回の協力に感謝した……幌馬車と乗合馬車を停車場に止めて貰い、人足さん達にも手伝って貰って車内に仕掛けた様々な罠の仕掛けを取り外す……俺は衛兵の詰所つめしょに行って今日の顛末てんまつを説明してから騎士団の詰所の場所を教えて貰い、そこにも行って顛末を説明した。


 一緒に城代の公邸に行って説明して欲しいと言われたが…後始末を先にさせて欲しいと言って断り、戻る。


 戻ると後片付けと掃除はもう終わっていて、人足の皆さんも帰っていた……改めて隊商長と御者さんに礼を述べてひとまず別れる……旅籠はたごに戻り、馬を繋いで世話をする……水を飲ませて飼葉かいばを食べさせ、丁寧にブラッシングした。


 旅籠に入ると歓声で迎えられる……親父さんも旅人も商人もファーマニアンの皆さんも、口々に労って褒め称えてくれる……全部奢りだと言われて…酒や料理がこれでもかと言う程に並べられる……ジョッキを打つけ合わせての乾杯が終わって廻りを観ると……隊商長と御者さんと…人足頭もいる。


 一皿の料理をエール1杯を吞みながら食べ終えてから、俺は隊商長と御者さんと、人足頭を誘って外に出た。


「……どうしたんです? シエンさん……」


 隊商長が訊いた。


「…うん……帰って来た時に、騎士団の詰所で今日の顛末を説明した時にね……騎士上長が自分と一緒に、城代の公邸に行って…同じように説明してくれって言ったんだけど……後片付けやら馬の世話やらがあるから、ちょっと時間をくれって言ったんですよ……でもさっき旅籠で皆さんの顔を見た時に……ああ…行くなら今しかないなと思って、声を掛けました……」


「……そうですか……じゃあ、行きましょう……この話は、早い方が良いでしょうからね……報償金の話にも、繋がるんでしょうから……」


 隊商長がそう言ってくれたんで、俺達4人は揃って騎士団の詰所に向かって歩き始めた。


 ちょうど騎士上長がまだ待ってくれていたので、今から行こうと言う事になり…5人で城代の公邸に向かう。


 城代の公邸は、まあ当然なんだが城市の中心にある……着いて門の前に居た衛士に名前を名乗って用向きを伝えると、彼はすぐに門を開けて俺達を迎え入れてくれた。


 衛士は2人居て、若い方のひとりが報せに走って行く……玄関まで30ミルト程だ……玄関に着いて案内を請う……年配の女性に迎えられて、そのまま案内されて行く。


 広めの応接室のような部屋に通されて座って待つように言われ、お茶を供される。


 熱いお茶を三口飲んだあたりで、城代と奥方が入室した……2人とも上座に座る。


「……わざわざよく来てくれた……城代を務めるガマルと、補佐でもあるミルスだ……君が頭目かな? 名前は? 」


「……初めてお目に掛かります……シエン・ジン・グンと申します……」


「……聞けば君達の義勇団は……確か8名……かな? 」


「……左様でございます……」


「……それでは今日の顛末を、最初から聞かせて貰おう……」


「……分かりました……」


 昨日までの流れを掻い摘んで話すと…お茶を飲み干してから、今日の流れを詳細に語った。


 城代は俺の顔を真っ直ぐに観て聞いていたが…戦いの詳細では少し身を乗り出して聞いた……俺は話を誇張せずに、事実の流れを正直に話した。


 時折に城代は隊商長や御者さんや人足頭にも、確認するように問い掛けていたのだが……返される応答には満足したように頷いていた。


「……以上になります……今、仲間達は旅籠の1階で宴会の最中なんですが……私は、今後の為にも今日の顛末てんまつを報告しようと言う事で、お邪魔しました……」


「……いや、シエン・ジン・グン殿……お疲れ様でした……ご苦労様でした……義勇団の働き……戦いと活躍に嘘偽りの無い事は……話を聞くだけでも判る……裏取りなども必要ないだろう……報償金は適正に支払おう……今すぐに必要かね? 」


「……いえ、今すぐにと言う訳ではありませんが……旅籠も含めて色々と支払いもありますので……」


「……分かった……明日の午前中には届けさせよう……金額に希望はあるかね? 」


「……いえ、適正な評価であれば…それで結構です……」


「……うん……時に…『アガラ』には暫く滞在してくれるのかね? 」


「……お許しが頂けるのなら……」


「……そつがないな……話は変わるが、君の義勇団は何がしたい? 何が目的だ? また……魔法使いを仲間に加えないのは何故かな? 」


「……城代様……絡めてお応えしますが……私は敬意の無い者を仲間には加えません……殆どの魔法使いは人に魔法を教えたがりませんし、魔法に適性の低い人間を見下します……そのような者は仲間にできません……魔法になぞ頼らずとも、魔物や魔族と戦う事は充分に可能です……我々の戦いは、その証明でもあるのです……」


「……続けて貰えるかな? 」


「……天の理は地の利に如かず……地の利は人の和に如かず……我々は先ず、戦う相手と相手の数を確認します……次に充全に対抗する為、味方が何人必要なのかを推量します……次に何処でなら……どれだけの武器と得物と仕掛けで勝てるのかを推量し……戦いの段取りと戦いの進め方を詳細に決めます……その上で決めた段取り通りに準備を終えたら、戦いを始める日時を決めて……それまで訓練します……」


「……君は…何処かの軍団か軍隊に所属していたのかね? 」


「……いいえ…そのような事は1度も……」


「……では…君のその見識は、どのように培われたものなのかな? 」


「……旅ですね……連れ合い達と巡り廻った旅の中で……」


「……解った……では、君と義勇団の目的は何かね? 」


「……我々は最終的に、補給などの世話にはなりますが…城市や国の専属とはならない……遊撃旅団のような…自由な軍隊を創ります……そして魔物・魔族の討伐で各地を転戦しながら……最後には魔王城を攻略して、魔王軍を殲滅します……」


「……ほう……なるほど……そなたらには暫く『アガラ』に滞在して欲しいが……そなたらの意志は尊重しよう……何にせよ、そなたらの邪魔はせんよ……そればかりか……そなたの言う『自由旅団』の創設に……『アガラ』としても私としても微力ながら協力したい……受けて貰えるかな? 」


「……感謝申し上げます……願っても無い事です……」


「……希望や要望については、何なりと言ってくれ……可能な限りに応えよう……」


「……重ね重ねにありがとうございます……」


「……今日は本当にご苦労だった……義勇団のお仲間にも、宜しく伝えて欲しい……明日の夕食は、義勇団の皆さんとも共にここで過ごしたい……『アガラ』騎士団の主だった者達を紹介しよう……好いかな? 」


「……ありがとうございます……全員でお邪魔します……」


「……ああ、そちらのお三方も勿論……戦いに参加された方々には、出来るだけ参加して欲しい……『アガラ』挙げての慰労会だ……ここじゃ狭いから、広間を使おう……『アガラ』を挙げて、義勇団の奮闘を労い……戦果と栄誉を称えたい……気軽な恰好で来てくれ……何もかしこまらなくて良いから……」


「……分かりました……お招きに感謝申し上げます……」


「……うん…気を付けて戻ってくれ……外まで送らせよう……」


 そう言って、城代夫妻は立ち上がった。


 騎士上長に送られて門から出た俺達は取り敢えず旅籠に帰り、宴会の輪に戻った。


 ちょっと静かにして貰って公邸でのあらましを話すと、また歓声が湧き起こる。


 一頻ひとしきりに乾杯を済ませてから、皆に言った。


「……どれだけ食っても呑んでも良いからさ……二日酔いを明日の夜まで引き摺るなよ! 」


 皆、大口を開けて哄笑した。

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