『…魔力も魔法も関係ない! 必要無い! 俺は舌先三寸で人を動かして、魔王に勝って魔族を滅ぼす! 』

トーマス・ライカー

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魔法使いなんて、要らないよ!

……開戦……ふたつの囮……

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 囮の商隊の前に、ナヴィドとサミール……後ろにクヴァンツとエフロンが着いて、一緒に走る……街道に出て空を観たが、まだ魔鳥は飛んでいない……まだ向こうに気を取られているようだが…早晩こっちにも気付くだろう。

 街道に出た囮の商隊と4騎は、歩速を緩めて進んで行く……実はこの時点で予め仕掛けて置いた罠は、この囮商隊が今居る場所の前後にあるのだ……だから魔物集団が前に現れても後ろに現れても…奴らを罠に落とし込む事は出来る。

 奴等が前に現れるなら囮商隊と一緒に退がれば罠に落とせるし、背後に現れるなら逃げる素振りを観せて追い掛けさせれば好い。

 歩速を緩めて、ゆったりと進む…見上げれば、飛んでいる魔鳥は2羽だ。

 どっちから来る?

 前だった。

 歩速を緩めて30拍程で前方左の茂みから30 匹弱が飛び出す…ナブィドが右手を挙げて握り、直ぐに開く。

 この合図で囮の隊商は止まり、後退を始める…後ろにはまだ現れないから、後退を続ける…サミールが右拳を挙げて人差し指を立てる。

 隊商の後退が急激に止まり、魔物の群れに向かって7歩進むと、また跳び退さるように後退を始める。

 魔物の群れはこの動きに完全に釣られてダダダっと前に進み、そのまま落し穴に全部落ちた。

 落し穴の底には鋭く尖らせた杭が隙間なく埋め込まれていて、更に油がぶち撒けられている…落ちた魔物どもは総て串刺しになった。

「…火を放て! 」

 ナブィドが叫び、右手の茂みに隠れていた人足達が火種の火を松明に移して、その総てを落し穴に投げ込んだ。

 ぶち撒けられていた油にも火が点いて、巨大な火柱が挙がり…落ちて串刺しになった魔物どもが焼き尽くされる。

 ナブィドが右手の親指を立てて、人足達に合図をすると…彼らはまだ焔を挙げている穴の中に石くれと土を投げ込み始める。

 見届けたサミールが鋭く指笛を鳴らす…それを合図に全員で飛んでいる魔鳥4羽を射落とし、ナブィドとサミールは後ろの2騎と合流した。

 その後30拍で、後方右側の茂みからも30匹が飛び出して来る。

 予期していた4騎が、それぞれ矢継ぎ早に4矢を撃ち込み、そのまま囮の隊商を前進させて後ろに現れた魔物どもも、落し穴に落とした。

 同じように松明を投げ入れて火を放ち、串刺しにさせた魔物供を焼き尽くさせる……これで合計60匹は始末できただろう……間道に残った4騎が何匹の魔物に追い掛けさせているのかは知らないが、向こうは向こうで上手くやるだろう……人足達を呼び寄せ、自分達も馬から降りてまだ火と煙を吹き上げている落し穴に土塊つちくれと石を投げ込んで埋めていく……やがて馬と馬車が通れるくらいに迄は埋めて固めてらせたので…人足達を馬車と馬に分乗させてから、城市『アガラ』へと戻り始めた。

 俺とジングとデラティフとレーナは、それぞれ屈強な人足を自分とは背中合わせに縄で括って愛馬の後ろに乗せ、70体の魔物どもに後を追わせて徐々に険しさを増す隧道ずいどうを駆け登っていく……人足達はそれぞれサチュレーダーから石弓へと得物えものを持ち換え、追い縋る魔物どもの先陣に間断なく石礫いしつぶてを撃ち込み続けている。

 隧道ずいどうの両側を脚の速いケスラックが俺達と並走しながら20拍に1匹の割合で跳び掛かって来るが、右手から来る奴は俺とジングで……左手から来る奴はデラティフとレーナが、すぐさま矢をつがえて射抜いて落とした。

 石礫いしつぶては、まだ充分にある……俺は地形を観ながら脈拍を数えて最初の合図へのタイミングを計る。

 もう直ぐに観えてくる崖の上では、木組みで造った8基のシーソーに30人の人足が張り付いてくれている……彼らに向けて最初の合図を送る頃合いだ。

 火箭かせんを1本取り出して火種から火を移し、引き絞って真上に放つ……彼らへの最初の合図だ……これを観てくれれば彼らは40ギットの砂袋をシーソーに乗せて、油を掛けて染み込ませる。

 崖とこちらの距離を目測で計って…4騎は駆け足を少し強めた……60拍を計って、火を移した火箭かせんをもう1本真上に放つ……2回目の合図だ……これで砂袋に火を点ける。

 焔を纏った砂袋を落とすタイミングは、彼らが計る……俺達4騎は70匹の魔物どもを牽制しながら後を追わせつつ、隧道ずいどうから獣道に入り……左右を崖に挟まれた隘路あいろに、奴らを引き込んでいった。

 燃える砂袋が跳ね上げられて落ちて来る……それに気付いた魔物どもが驚いて、上を観たまま脚を緩める……ここはもう隘路あいろで、左右に逃げ場は無い……俺達は縄を切って人足を降ろすと、愛馬を反転させて奴らに向き直り…石弓で石礫いしつぶてを撃ち込み始める人足達に合わせて、火を移した火箭かせんを矢継ぎ早に撃ち込み始める。

 上から次々に落とされる焔を纏った砂袋は、魔物どもを頭から打ちのめし焼き焦がしながら、奴らの退路も絶っていく……同時に有らん限りの火箭を射込み、石礫も撃ち込み続ける……火箭を使い切ったら、魔物に効く毒にやじりを浸して射込み続ける……石礫を撃ち尽くした人足は、油を魔物の頭上にぶち撒けて引火させた。

 魔物どもは両脇を崖に阻まれ退路も絶たれて、狭い範囲で焼け死に……撃ち斃されていった……俺が右手を挙げて開いた時…火と煙の中で動く影は無かった……更に頭上を飛び回る魔鳥8羽を射落として、崖上の人足達を迎えに登った……魔物どもとの戦いは終わったが、魔族は現れなかった……もう武器が残り少ないし、消耗もしている……ここは早く城市『アガラ』へと引き揚げる方が良い。

 合図が無かったから、囮隊商の方も無事であるようだ……疲れている者を馬に乗せて崖から降り、城市『アガラ』への帰途に着く……城門を潜ったのは、日没まで3時と言った処だった。

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