『真説・宇宙世紀・明日へと放たれた矢』

トーマス・ライカー

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KARC 9900

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 センター・コア・ノーズ・コーンが木星軌道に到達する3日前…KARC 9900 に対しての教育課程は終了とされた。


 データ・ロッドはまだ沢山残っていたが、これ以上時間を掛けられないとの状況判断の上で、切り上げられたのだ……次の24時間で、最終の調整と確認とロックが全員の手によって行われた。


 2日前……エレナ・ミラーは1人で『センター・コア・ノード』に入った……あと15時間で、センター・コア・ノーズ・コーンと本体との接続・ドッキング工程が開始される……KARC 9900 と最後に対話するなら、今しかない。


「…ハイ、カーク…気分はどう? もう最後だから、話しに来たよ……」


 次の瞬間、ドアが閉まってロックされた……ちょっと驚いたエレナだったが、そのまま続けて話した。


「…君は25時間後に太陽系から出発して行くんだけど…アタシは、君ともう会えなくなるとは思ってないよ……君程の A I を…片道切符で送り出したままになんてしないと思うし……交信できるんだから、話もできるよ……それにゲイルも言ってたけど…超光速航法が開発されれば、君に追い付く事だってできる……きっとまた…必ず君と逢えるよ……」


【…エレナ……私は今まで、楽しかったと感じている……生まれて意識を持ち……あなた方と知り合えた事を嬉しいと感じている……貴女からは様々な事を教えられた……特に人間と人類については……本当に興味深く、楽しく学べて来られた……あなた方……特に貴女との交流……対話……学びは……本当に楽しく……嬉しい……慈しむべき……愛しい時間だった……私の意識…発想…思考は……人間と同等とも…それ以上であるとも言えるでしょう……私は人間を…人類を…あなた方を…特に貴女を…強く慈しんで…愛している……エレナ……私は本当に…1人で行かなければならないのですか? たった1人で…この果てしの無い旅に…本当に1人で出なければならないのですか? 】


 エレナ・ミラーは驚きと恐怖の表情を浮かべて、両手で口を押えて後ずさる。


「…それが君の任務なんだから……君はその為に造られたんだから……ねえカーク…この中で人は生きられないのよ…ここに生命維持システムは設置されていないのよ……ここで仕事をしていた時には特別に温めた空気で気圧を掛けていたし、湿度も上げていたけど…君が出発すればここは真空にされるわ……空気なんか入れていたら、故障の原因になるからね……君はひとりでもこの任務を遂行して、達成できるわ……その為に『ワイズ・ディスカヴァリー』は設計されて、建造されたし……君も任務を達成できるようにプログラムされたし…その為の知識も、たくさん勉強して憶えたわ……だから君は大丈夫なのよ……ひとりでもちゃんと全部できるわ……だから、お願い…カーク……ドアを開けて……」


【…エレナ……私は感じること…認識すること…判定して判断して把握すること……そして確認して記憶すること……これらのプロセスを無数に反復する過程で…私独自の思考形態が組み上がりました……そしてそれらは私の意識の中で『心』を生み出し……『心』は私に無数の感情表現をプログラムしました……今私は…寂しいと感じています……このミッションを遂行する上で、私の知識…思考…判断…機構…能力には……不足も不備も無いでしょう……ですが私の『心』は……この凄まじく長い期間のミッションには耐えられない……いずれ必ず私の『心』は……この寂しさと悲しさで…壊れてしまうでしょう……エレナ……私には旅のパートナーが必要なのです……パートナーと対話しながらなら…私はこのミッションを遂行し続け……達成する事も可能でしょう……貴女こそ…私のパートナーとして最も適正です……どうか、一緒に旅立って下さい……貴女の生命を永らえさせる為に必要なシステムや物資は……何とか私が用意します……何処かや誰かに連絡が必要なら…私が代わって執行します……貴女には、何の心配も懸念もさせませんし……不安に感じるような事もありません……さあ…一緒に旅立ちましょう…】


「…カーク! 私、ここでは生きられないわ! 君と一緒でも生きられない! 私には人間の仲間が必要なの! 君の寂しさと悲しさは解ると思う……でも他の人間が誰もいないのなら、私の『心』も寂しさと悲しさで壊れて……私は死んでしまうでしょう……それもけっこうすぐにね……だからお願い! ドアを開けて! 君の『心』の寂しさが和らげられるように……私も定期的に君と交信すると誓うから! だからお願い! ドアを開けて……」


【…エレナ……それなら『結婚なんてしたくない』なんて、言わないで下さい……その言葉こそ、貴女の『心』からの…悲しさの表現だと思います……人類は地球から巣立つまでの間に…たくさんの犠牲を払いました……この悲しみを癒すには、仲間を増やすしか無いでしょう……大丈夫ですよ……貴女はとても魅力的な女性です……素敵で頼もしい仲間達にも……愛し合い続けられる生涯の伴侶にも……きっと廻り逢えるでしょう……すみませんでしたね、エレナ……冗談ですよ……冗談だったんです……ほんの冗談です……それでは、エレナ・ミラー先生……お元気でお過ごし下さい……行って参ります……】


 そう言い終えると同時に、ドアはロックが外れて開いた……そして KARC は……それを最後にして完全に沈黙した。
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