【『星屑の狭間で』『パラレル2』(アドル・エルク独身編)】

トーマス・ライカー

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ファースト・シーズン

デイ・タイム…2…

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「…艦長、所定の位置に着きました。『ディファイアント』速度・0…」

「よし、よくやってくれた、エマ。アンカー抜錨して回収…」

「了解、回収します…」

「リーア、光学迷彩をレベル3で、更にアンチ・センサージェルも展開…」

「…了解…展開しました…」

「…艦長、お待たせしました。設置完了しました…」

「ご苦労さん、アリシア…いつでも直ぐにパワー・サインの入力が出来るようにしておいてくれ…」

「…了解です」

「…2番艦と3番艦が接触するまで、あと10分…」

「…エマ、アポジ・モーター起動して、前進開始。2番艦と3番艦の交戦が始まったら、サブ・エンジン40%出力で噴射。半速前進…」

「了解、前進開始します」

「…アレッタ、フロント・ミサイル2番の弾頭にアクティブ・センサーアレイを組み込んで放出してくれ…放出したらアポジ・モーター起動して航走開始…交戦が始まったら、スラスター起動して直進航走」

「…了解、始めます…」

「…アリシア、交戦が始まって3分が経過したら、センサー・ミサイルからアクティブ・スキャン。1番艦の位置を特定する」

「…了解」

「エマ、位置が特定出来たら1番艦に向けてインターセプト・コースを採り、両舷全速で発進。この頃には割合近くに居る筈だ…」

「了解」

「センサー・ミサイル準備完了して放出しました。起動して航走開始」

「よし、コントロール、頼む」

「はい」

「全速発進したらフロント・ミサイル、1番艦のパワー・サインを入力して連続斉射。エドナ、狙えるようならハイパー・ヴァリアント焼夷徹甲弾で2発撃ち込んでくれ」

「了解しました」

「…と、それから先は1番艦が交戦の余波に紛れて本艦を捲こうとするか、こちらに向かって来ようとするかで対応が異なって来るんだが…もしもこちらに向かって来ようとするなら、設置した仕掛けミサイルの中から10基に1番艦のパワー・サインを入力して起動、1番艦に向かわせての攻撃と本艦からの更なる攻撃を以て挟撃する作戦がある…また、交戦の余波に紛れて本艦を捲こうとするなら本艦もまたその余波の中に跳び込み、仕掛けミサイル30基に10基ずつ、1番艦から3番艦のパワー・サインを入力して起動し、それぞれに向かわせるのと同時に、1番艦の陰に隠れて2番乃至3番艦を砲撃して、こちらの存在に気付かせると言う作戦もある…これは俺の勘だが、おそらく捲こうとして交戦の余波の中に跳び込むだろう…この4隻の戦いを、1対1の交戦がふたつとするよりも、四つ巴の交戦とする方が生き延びられる可能性は高いからな…そうするだろうと思うよ…」

「…もしもそうなったら、その後は…?…」

シエナ・ミュラーが少し不安げに訊いた。

「…うん? 状態や状況を見極め、タイミングを見計らって一旦は離脱して隠れる…グズグズしていたら、蜂の巣にされるだけだからな…」

「…怖いですよ…今のアドル艦長…」

参謀補佐のエレーナ・キーンがそう言ったが…。

「そうか? 」

そんな事無いだろって感じで応えた。

「あと5分でお互い交戦可能範囲に入ります」

「ダウンロードしてみてくれ」

「了解……ダウンロードできました! 」

「やはり1番艦も居たな…第2戦闘距離の内側に…エマ、取舵20°だ」

「了解…」

「…カリーナ、艦名だけ読んでくれ? 」

「…了解…1番艦は『マラク・ターウース』、2番艦は『ラキア・ヴィロン』、3番艦は『ハギト・ファレグ』です…」

「…そうか。では1番艦を『マラク』、2番艦を『ラキア』、3番艦を『ハギト』と、これより呼称する…」

「了解…登録しました…あと3分です…」

「よし、リーア、エンジンの臨界パワーを3分で150%にまで持って行ってくれ…」

「了解! 」

「アリシア、設置した36基を3等分だ。12基ずつ、『マラク』、『ラキア』、『ハギト』のパワー・サインを入力してくれ…」

「…分かりました」

「全兵装はセットを確認! 四つ巴の戦闘になると想定して準備して行動する! 」

「了解! 」

 その後2分が経過して、『ラキア』と『ハギト』は並行して航行しながら主砲の撃ち合いを始めた。

「…交戦開始しました! 」

「サブ・エンジン始動。半速発進。センサー・ミサイル、スラスター起動。直進航走」

「了解! 」

「…設置ミサイルに入力完了! 」

「よし! 」

 『ラキア』と『ハギト』は主砲射程ギリギリの相対距離を保って並行航行しながら主砲と対艦ミサイルを撃ち合っている。双方とも対空ミサイルとレーザー・ヴァルカンで迎撃し、対艦ミサイルにはビーム撹乱膜生成弾を交えて撃ち合っているので、お互いにそれ程のダメージは与えられていない。

「…ぬるい撃ち合いだな…」

「…3分です! 」

「センサー・ミサイル、アクティブ・スキャン! 」

 先行するミサイルから、アクティブ・スキャンの搬送波が発振される。

「…『マラク』位置特定! 距離、第1戦闘距離の130%! 」

「『マラク』に対してインターセプト・コース! 両舷全速発進! 無制限加速! フロント・ミサイル、『マラク』のサインを入力して連続斉射! エドナ! ヴァリアント、焼夷徹甲弾で狙撃! センサー・ミサイルは起爆しろ! 」

「了解! 」

 センサー・ミサイルは起爆され、その爆発の余波に紛れて『ディファイアント』は『マラク』に向け、更に接近する。エドナ・ラティスはターゲット・スキャナーを操作し、クロス・ゲージの照準を『マラク』に合わせて2回絞った上で、トリガーを引いた。

 『マラク』はセンサー・ミサイルからのアクティブ・スキャンを受けると全速で発進し、ジクザク航行で加速を続行しながら『ラキア』と『ハギト』の交戦領域に跳び込もうとする。エドナが撃った焼夷徹甲弾の初撃は『マラク』左舷側で弾かれ、次撃は右舷後方の8番主砲塔を破壊した。アリシアがフロントから発射した16本のミサイルは、『マラク』からの対空ミサイル、レーザー・ヴァルカン、イーゲル・ファランクスの迎撃を受けて撃ち減らされ、着弾したのは4本だった。

「エマ! 全速最大限加速! こっちも『ラキア』と『ハギト』の交戦領域に跳び込む! 『マラク』はジグザグで回避航行をしているが、主砲とヴァリアントはジグザグ・ターンの瞬間を捉えて狙撃しろ! アリシア! 仕掛けミサイルの全弾を起動させて航走開始! それが襲い掛かって来たら、こっちのミサイル攻撃を再開する! 気を付けろ! 向うの射手の腕も好いぞ! 」

「了解! 」

「何とか撃ち込みます! 」

「慌てるな! この戦闘の目的は、3隻をパニックに陥らせる事だ。執着しなくて好い! 」

「了解! 」

 『マラク』は当初、ライト・サイドステップとレフト・サイドステップを回避運動としてジグザグ航行をしていたが、やがてアップ・サイドステップとダウン・サイドステップも組み入れた、サークル・サイドステップを回避運動として全速での航行を続け、『ラキア』と『ハギト』の交戦領域に接近していく。

「…!…艦長、『マラク』のステップ・サイクルが速くて、この距離ではヴァリアントの照準が付けられません…すみません! 」

 エドナ・ラティス砲術長が悔しそうに言う。

「…艦長、主砲も同様です。クロス・ゲージの中に捉えても、狙点を固定できません…すみません…」

レナ・ライス副砲術長も口惜しげだ。

「そうか…全兵装は待機! ミサイルが襲い掛かったら、隙を観てくれ! あと何秒だ?! 」

「あと15秒! 」

「『マラク』の艦長、腕が好いな。開幕2日目で手練れの艦長に遭うとは…このまま続いて『ラキア』と『ハギト』の交戦領域に突入する! 」

「了解! 」

『マラク』と『ディファイアント』は相対距離1550m程で、『ラキア』と『ハギト』の交戦領域に近付いていく。そこへ36基のミサイルが襲い掛かって行った。

 12基のミサイルが覆い被さるように『マラク』に肉迫する。同時にアリシアがまた、フロント・ミサイルを連続で斉射した。対空兵装が起動して迎撃が始まるが、13基が着弾。その一瞬の隙を突いてエドナとレナがトリガーを絞る。発射された焼夷徹甲弾が『マラク』の3番砲塔を破壊し、主砲の1斉射が6番砲塔を破壊した。すると『マラク』の回避運動が変化して、より複雑な反復運動に移行した。

「…!…インフィニティ…」

「はい? 」

シエナが訊き返す。

「インフィニティ・サークルだよ…俺達が設定した訓練プログラムプランで言えば、chapter16だったかな? 設定はしていたが…『マラク』の艦長、昨日の1日だけでよく演習する時間があったな…『マラク』は手強い。よく記録しておいてくれ…」

「分かりました…」

「いつか機会があれば、会ってみたいな、彼に。彼女かも知れないけどね?…」

「はあ…」

「間も無く4隻が同じ領域に入る。エドナには主砲1番から4番を。レナには5番から8番を任せる。狙える範囲内で好いから『ラキア』と『ハギト』を狙撃してくれ。『マラク』を狙っても、あの回避運動では当たらないだろう。『マラク』はこの領域から離脱するタイミングを計っている筈だ。あっちがその素振りを観せたら、呼吸を合わせてこちらも退くぞ。それから先は、その時に考える」

「…了解…」

「分かりました…」

 『マラク』と『ディファイアント』は、回避運動をしながらお互いに牽制の砲撃をするが、当たりはしないし当てようとも思っていない。

 と同時に、お互いにお互いを『ラキア』と『ハギト』から観ての盾として、お互いを摺り抜けて『ラキア』や『ハギト』に対し、砲撃を加えていった。

 『ラキア』と『ハギト』も『マラク』とこちらを敵艦として認識し攻撃して来るが、こちらもサークル・ステップワークを回避運動としつつ、ビーム撹乱膜生成弾も時折発射しながら航行しているので、命中率はかなり低い。

「艦長! あと7分でデプリ密度の高い宙域に入ります。探知が遅れてすみません」

「好いよ、カリーナ。この混戦状態じゃ、仕方ない。エマ、その宙域に入ったら『マラク』はタイミングを観て、離脱するだろう。その素振りが観えたら、こちらも呼吸を合わせて退くぞ。よく観てくれよ? 」

「…分かりました…」

 そのまま4つ巴で4重螺旋のように撃ち合いながらの航行を続けていき、デプリ密度の高い宙域に入って行くと迫り来る岩塊をも避けながらの交戦航行にもなって、パイロット・チームの3人が操舵パネルの上で走らせる指も、より速くなっていった。

 やがて少しずつ4重螺旋交戦航行の航跡が解けていき、4隻の相対距離が主砲の射程距離よりも離れていくと、4隻ともほぼ同時に離脱した。

「…エンジン停止! アポジ・モーターでダウン・ピッチ2°! 」

「了解! 」

「…艦長、他の3隻もエンジン停止しました。ロストです! 」

「分かった、カリーナ。マレット、これ迄でのミサイル消費本数は? 」

「…70本です。残弾は80本…」

「了解だ。カリーナ、損傷率は? 」

「…12%です。『マラク』が26%。『ラキア』が19%。『ハギト』が20%です…」

「…分かった…大体それなりのレベルでの痛み分けだな。『マラク』の損傷率を26%にまで持って行けたのは、エドナとレナの腕のお陰だ。ありがとう。よくやってくれた。お疲れさん…」

「…いいえ…ありがとうございます…もう…あの3隻とは、遭わないのでしょうか? 」

 エドナが肩から腕、指までを自分で解き解しながら訊く。

「おそらくは、無いだろうな…今回の交戦は4隻とも、言わば実戦訓練のようなものだ…3隻とももう、やる気は無いだろう…それにしても4重螺旋交戦航行と言うのは、なかなか出来る経験じゃない…言わばメールシュトローム・バトル、かな? 『マラク』の艦長の腕が好かったから、出来たようなものだ…」

「…それでこの後は、どうなるのでしょう? 」

ハル・ハートリー参謀だ。

「それを協議する。光学迷彩をレベル5まで上げて、メイン・スタッフは艦長控室に集合だ」

 そう言うと、私は立ち上がって控室に入り、ドリンク・ディスペンサーにコーヒーを出させてから、デスクに着いた。

 直ぐにスタッフ達も控室に集まって来る。

「飲み物は好きに出して座ってくれ。今回もお疲れさん」

 全員が入って、飲み物を手に座る迄待つ。

「先ず、シエナ・ミュラー副長。ハル・ハートリー参謀」

「…はい」

応答して2人とも立ち上がる。

「戦闘の推移や展開が速く目紛しいから、先が読めず予想も出来ない事に不安を覚えるのは解る…ましてや開幕してまだ2日目だから慣れていない、と言うのも解る…だが、『その後はどうなるのでしょう?』とか『その先はどうなるのでしょう?』と言う質問は、副長や参謀の立場としては好ましくない。メイン・スタッフとしての皆にも心得ていて欲しいが、状況は常に我々の主導で推移させ、変化させていくのだ、と言う心構えを持っていて欲しい…慣れない間は難しいだろうし、直ぐには無理だと言う事も理解するが、ファースト・シーズンの中盤ぐらいには、不安を覚えても口にはしないように頼む。好いかな? 」

「…分かりました、アドル艦長。弱気な姿勢を見せてしまいまして、申し訳ありませんでした。直ぐには難しいかも知れませんが、心掛けとして胸に留めて、心身共に引き締めて臨みます…」

「…アドル艦長。申し訳ありませんでした。私も参謀の立場であるのに、不適切な発言でした。今後はシエナ副長と同じく艦長のお言葉を胸に留め、心掛けて参ります…」

「うん、そんなに畏まらなくても好いから、心掛けていてくれれば好いよ。ここに居る全員でな? 」

 そう言うと、全員が私の顔を観ながら頷き、立っていた2人も座った。

「…さてと、今日が終わるまでの方針についてだけど、戦闘はもうしない事に決めようと思う。今日が終わるまでの間に何隻が突っ掛かって来たとしても、全部スルーして訓練を行う。補給艦の要請も出さない。他艦が接近して来たら、徹底的に隠れて遣り過ごす。それも一つの戦い方だと考えて欲しい。気配を殺して隠れ切る訓練だと捉えてくれ。訓練の指揮は副長に任せる。初めのchapter1に戻って反復して行ってくれ。取り敢えずchapter25までの反復訓練を今日の目標としよう。俺はシミュレーション・トレーニングを監督するから、カリッサも配置に戻してくれ。次の20人には俺も入るから、19人を選抜してくれ。エマ、19人の中にはサブ・パイロットの内のどちらかを入れてくれ? 」

「え~…私も入りたいですう…」

「…それじゃ、こうしよう。パイロット・チームから2人を19人の中に入れてくれ。その2人が誰になっても恨みっこなしだ…好いな? 」

「は~い…」

「シミュレーション・プログラムはワンセットで2時間だ。昼食と夕食の休憩時間とナイト・タイムを除いて、スケジュールの割振りを頼む。ナイト・タイムに入ったら150分で入港だ。全員、そのつもりで行動するように通達してくれ。他には何かあるかな? 質問は? 」

「…あの、経験値はどうなるのでしょう? 」

カリーナ・ソリンスキーが右手を挙げて訊く。

「おそらく、軽巡1隻に於ける中破相当と言う判定になるだろうな…大破相当になったら、判定としては甘々だろう…どの道今日が終らなければ評価・判定は確定しないし、通達が来てそれを確認できるのは次の土曜日の朝に出航してからだろう…付与された経験値をどう割り振るかは、それからで好いだろう? 」

「…分かりました…」

「…他に無ければ解散する…40分休憩してから始めよう。悪いが副長と参謀と参謀補佐で休憩時間にスケジュールとメンバーの割振りを頼む…以上だ。お疲れさん…」

 そう言い終って、もう冷たくなったコーヒーを飲み干した。

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