【『星屑の狭間で』『パラレル2』(アドル・エルク独身編)】

トーマス・ライカー

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ファースト・シーズン

『フィニアス・ファーヴ』

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 途中で若干の渋滞にも捕まったりしたのだが『フィニアス・ファーヴ』の駐車スペースに滑り込んだ……11:50だった。

 受付でアポイントの上での来訪である事と共に、来訪目的・所属・姓名を告げる……暫く待つと姓名が記載されたゲスト・パスが発行されて渡されたので、首から下げる……イスマイル・ガスパールが先にラウンジで昼食を摂りますと告げる…了承されたので、彼の案内でラウンジへと向かい…入った。

 運転手さんも含めて4人でテーブルに着く……ウェイターがメニューを持って来た。

 よく分からないので、ランチ・セットAにすると言うと、運転手さんも同じA……イスマイル・ガスパールとアグシン・メーディエフは、Bセットにすると言ってそのままウェイターに伝えた。

 もう昼食休憩時間に入ったようで、社員の皆さんが続々と入って来る。

 ウェイターが厨房に退がると同時にドアが開いて、ライト・グレイ・ブラウンのセットアップ・レディース・パンツスーツをピッタリと着こなした、ライト・グリーン・ブラウンのナチュラル・カール・ロングヘアをなびかせた長身の女性が、PADを携えて入って来た……イスマイル・ガスパールが直ぐに気付いて立ち上がる……顔見知りらしい。

「……こんにちは……お早いお着きですね、イスマイル・ガスパール課長補佐……お出迎えも出来ずに、申し訳ありませんでした……」

「……こんにちは…アシュリー・アードランド主任……いえいえ、我々が少し早く出て来てしまっただけですから…お気遣いは無用です……今日の制作会議でも、宜しくお願いします……それよりお昼がまだでしたら、ご一緒に如何ですか? ここが座れますから……」

 そう言ってイスマイルが、左手で使われていない椅子を引く。

「……よろしいのですか? イスマイルさん……ありがとうございます…それでは、お言葉に甘えさせて頂きまして、失礼致します……こんにちは、アグシン・メーディエフさん…今回も宜しくお願いします……え…初めまして…『フィニアス・ファーヴ』にようこそおいで頂きました……広告営業・プレゼンス主任を務めております、アシュリー・アードランドです…宜しくお願いします……」

「……こんにちは…初めまして……ご丁寧にありがとうございます……今日は、ゲイリー・シモンズ係長の代理で参りました……同じ係長のアドル・エルクです……どうぞ、宜しくお願い致します……」

 そう言ってスーツの内ポケットからカードホルダーを取り出し、メディア・カードを1枚抜いて彼女に手渡す。

「……これは失礼致しました……ご丁寧にありがとうございます……こちらが、私のカードになります……」

 そう言いながら彼女も、自分のメディア・カードを手渡してくれた。

「…それじゃ、改めて頼みましょう! この場は私が持ちます! 何でも頼んで下さい! 」

 イスマイルがそう言いながら両手を打ち鳴らして、またウェイターを呼ぶ……彼女は右手を挙げ掛けたが、何も言わなかった。

 彼女もAセットを頼んだ……15分程で料理が出揃う……結構早い。

「……じゃあ、頂きます……」

 食べながら世間話の中で、イスマイルが思い出したように訊く。

「……そう言えば主任……土曜日にひとつ確認しようと思って端末に掛けたんですが…繋がりませんでした……」

「……ええ…はい……申し訳ありませんでした……私用で出ていたのですが、うっかり携帯端末を忘れて出てしまいまして……」

「……そうだったんですか……主任にしては、珍しい……」

「……面目ありません……」

「……大丈夫ですよ……」

 食べながら、アグシン・メーディエフも訊く。

「……そちらで紹介して頂ける女優さんですが……会議にも出席して頂けるのですか? 」

「……はい…その予定です……」

「……分かりました…ありがとうございます……」

「……どう致しまして……」

 何だろう? 土曜日に連絡が執れなかった、と言う話をした時……妙に彼女が緊張したように観えた。

 その後アシュリー主任の心遣いで料理と飲み物をそれぞれ1品ずつ振る舞われた我々は、和気藹々わきあいあいと雑談を交えつつ昼食を進めた。

「……美味しいですね……弊社のラウンジで食べる料理も…かなり旨いと思っていましたけど、同じレベルですよ! 」

「……ありがとうございます、アドルさん……厨房の者にも伝えます……」

 そのまま朗らかに、美味しく楽しい昼食時間を過ごした我々は…美味しかった旨を告げて、ご馳走様でしたと明るく食器を返却した。

「……皆さん、ご馳走様でした……ご一緒させて頂きまして、ありがとうございました……それでは、会議室に近い休憩待機室に、ご案内させて頂きます……アドル係長の弊社ご訪問は初めてですので……宜しければ社内をご案内致しましょうか? 」

「……ありがとうございます…是非、お願いします……」

「……私は、社外員の休憩待機室に行っていますので……」

 運転手さんはそう言って会釈すると、退室した。

「……では、アドルさん…ご案内致しますのて、こちらへどうぞ……」

「……ありがとうございます……恐縮です……宜しくお願いします……」

 イスマイル・ガスパールとアグシン・メーディエフは2人で3階に向かったが、私はアシュリー・アードランド主任の後に続いてラウンジを出た。

「……1階は…このラウンジと厨房と、倉庫と資料室と、受付の事務室だけですから…2階からご案内しましょう……」

「……分かりました……」

「……あの……宜しければお聞かせ頂きたいのですが……ゲイリー・シモンズさんは…どうされたのでしょうか? 」

「……ああ…はい……急な事で…私も今朝聞かされたのですが……彼のご母堂様が倒れられまして……急遽、帰省しました……」

「……まあ……そうだったのですか……心配ですわね……ゲイルさんが戻られましたら…私がお見舞いを申し上げていたと、お伝え頂けますか? 」

「……はい、勿論…直ぐに伝えます……」

「……ありがとうございます……」

「……このフロアには、広告の企画を決定する迄の業務が総て集中しています……」

「……予算や広告の規模に関わらず? 」

「……そうですね……」

「……なるほど…合理的ですね……」

「……ありがとうございます……ゲイルさんの事は、よくご存知なのですか? 」

「……大学と入社で同期でしてね……今も同じ係長です……学生時代はよくつるみました……気の好い奴ですよ……ただ……我に流されやすい面があって……それがちょっと誤解されやすいですね……まあ私から観れば、問題ありません……」

「……そうなんですか……」

 応えながら、笑顔を観せる。

「……なるほど……あいつ…すごく笑顔が好いんです……このひと月…以前よりも遥かに多く、彼の笑顔を観ていたんですが……貴女だったんですね……友人と言う立場からですが……これからも、あいつを宜しくお願いします……」

「……あの……どう致しまして……ありがとうございます……こちらこそ、宜しくお願いします……3階です……このフロアでは、宣伝計画を最終的に策定する迄の業務が総て集中しています……」

「……我々が今日参加するような会議も、ここで行われるのですね……」

「……その通りです……」

 2階でも3階でもフロアの中をゆっくりと観せてくれて…懇切丁寧に紹介・説明してくれた……アシュリー・アードランド主任……率直に素晴らしい人だと思う……4階に上がった。

「……この階にあるのは…撮影スタジオと画像編集室です……スチール静止画でもどのような動画でも撮影できますし、編集できます……ここで総ての宣伝画像・動画の撮影と、編集を行っています……」

「……撮影と編集を外注せずに自社内で行えるのは、すごいですね……素晴らしいです……」

「……ありがとうございます……」

 そのまま5階に上がった。

「……このフロアでは、1度打ち出した広告の効果を様々な側面から検証して確認・把握し、修正が必要であると判断された場合に…新たにversion up したtake 2 の広告作品として、制作します……」

「……なるほど……そのような場合もあるのですね……」

「……はい…概ね…4作に1作は、修正が必要になる傾向があります……」

「……そうなんですか……」

 そして、最上階(6階)に上がる。

「……こちらでは、宣伝事業そのものの見直しが行われます……ある商品・サービスを対象とした宣伝事業がスタートして一定期間が経過すると、稀にその宣伝事業そのものを見直さねばならない事態が発生する場合もありますので……その事態に対処する為のフロアです……」

「……と言う事は…その宣伝事業そのものの監視と、事業からのフィードバックを日々観測しているのですね? 」

「……仰られる通りです……」

「……広告・宣伝事業も、やりっ放しではいられない……様々な側面での影響や、事業が齎すフィードバックの調査・観測も、日々怠れない……大変にシビアなものなのですね……」

「……その通りです……適切に表現して頂きまして、ありがとうございます……」

「……どう致しまして……」

「……それでは、アドル・エルクさん……弊社のご案内ツアーは、これで以上です……3階の休憩待機室にご案内致します……」

「……ご丁寧なご案内をありがとうございました、アシュリー・アードランド主任……レポートは明日、提出させて頂きます(笑)……」

「……ありがとうございます(笑)…参考にさせて頂きます(笑)……」

 そのまま、3階の休憩待機室に案内される。

「……アドルさんは……特に休日には、何をして過ごしていらっしゃるのですか? 」

「……アシュリーさん…こう観えても、ガチのゲーマーでしてね……特段の用事が無ければ…ほぼ、ゲーム三昧です……」

「……それはそれは……どう言ったものを? 」

「……バーチャル・リアリティでの……対艦戦ゲームですね……アシュリーさんは、こう言ったゲームに興味ありますか? 」

「…ええ💦…まあ…💦…無い訳でもありませんが……あまり経験は、ありません💦……」

(……何だ? 急に緊張度が跳ね上がって……狼狽えたように観えたが……)

 更に訊こうとする前に、休憩待機室に案内された。

「……さあ、こちらです…アドルさん……会議の開始まで、あと30分程ですので…申し訳ありませんが、今暫くお待ち下さい……ドリンク・ディスペンサーは、ご自由にお使い下さい……何か他に必要なものは、ございますか? 」

「……いいえ…特にはありません……ありがとうございます……」

「……そうですか……それではごゆっくり……暫く失礼致します……」

 そう言って、アシュリー・アードランド主任は退室した……ドリンク・ディスペンサーにコーヒーをブラックで出させて…イスマイルとアグシンが着いているテーブルに着く。

「……どうでした? 初めて観られて……」

 アグシン・メーディエフが訊く。

「……そうですね……コンパクトな社屋の割には必要な機能が、効果的・効率的に…使い易くレイアウトされているように、観じました……理想的な配置のように感じました……」

「……今のアドルさんの感想も、的を射ていて的確で…適切で分かり易いですよ……」

 イスマイル・ガスパールが応える。

「……ありがとうございます……失礼します……」

 そう言って隣のテーブルから灰皿を取り、煙草を咥えて火を点けた。

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