戦いの中で無力化しながら成り行きで放置される事になった廃棄寸前の宇宙要塞を再生・再建して盛り返し、周辺宇宙の全域で最強にします。

トーマス・ライカー

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チーム異動…要塞への派遣

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「…了解…しました…」


「…宜しく頼む…このコミュニケーターを使ってくれ…ここに居るメンバーでだけで共有する特別回線がセットされている…艦隊は長く掛かっても15時間以内には帰還行程に入るから…10時間後には、君が選抜した7名と一緒に、またここで会おう…それまでには準備を終えてくれ…では解散だ…」


 小振りな携帯端末をスコット・バウアーに与えた提督は、言い終えて敬礼し…皆も遅れて答礼した。


 一度自室に戻ったスコット・バウアーは、スーツケースひとつで手早く荷造りを終える。


 家族の写真以外で特別な品は持って来ていなかったから、直ぐに終わった。


 みっつのフォト・フレームから写真を外してスーツケースのポケットに仕舞い…そのまま提げて自室を後にすると、情報分析室に入る。


 チームは男女半数ずつとした…その方が色々と都合が良いだろう。


 提督から貰ったカードをスロットに入れて、艦隊人事ファイルを呼び出す。


 3時間を掛けて若手士官の人事ファイルを65人分吟味する。


 そしてその内の20名に対し、艦隊副司令と参謀長の連名でこの情報分析室に集合するように発令して貰った。


 20分後、副司令と参謀長と戦略課長が情報分析室に来た。


「…やあ、特務少佐殿……まだ集まってないんだな……」


「…ええ……30分以内にと指示しましたので、もうすぐ集まるでしょう…」


「…20人から7人か……上手く絞れると良いな……俺達も、この20人はよく観させて貰うよ……」


「…ありがとうございます…宜しくお願いします…」


 それから5分で、召集された20人の若手士官が情報分析室に参集した。


 艦隊副司令と参謀長と戦略課長が円卓の上座に座り、スコット・バウアー特務少佐が副司令の右隣に座る。


 スコット・バウアーから本国首都で勃発したクーデター事件に続いて、この宙域で戦っていた敵艦隊の本国に於いても、同程度の大事件が起こったらしい事が説明される。


 その後を引き取って副司令から、今回のクーデター事件に限らず…古くからこの銀河世界の裏側で暗躍してきた『結社』の存在が示され、歴史も含めて雑駁に説明されると…参集した若手士官達は、静かに色めき立った。


「…『結社』…については耳にした事がありますが…都市伝説ではないのですか? 」


 マーク・アンドリュー中尉が訊く。


「…残念だが中尉…『結社』は古くから実際に存在してきた…そして今も、この銀河の裏舞台で暗躍しているのだ……この『結社』については今後も話が出るだろう…だが、今は君達に頼みたい非公式な任務についてを説明しよう…」


「…なぜ、非公式な任務なのでしょうか? 」


 デニス・アスキュー中尉が訊いた。


「…うん…尤もな疑問だとは思うが……もしも今、仮に…君達に正式な異動を発令すれば、その情報は2日と経たずに『結社』に知られる…それ程に彼らのネットワークは広く、深く張り巡らされているのだ…」


「…まさか…そんな…」


 ハリット・チーワカルン中尉が声を絞り出す。


「…にわかには信じ難いのも解るよ…だがこれが、正しい認識なのだ……もうひとつ言うと、我が第6艦隊の中に『結社』のメンバーはいない……だから…監視カメラだらけの艦内でも、この話ができる…」


「…分かり…ました…」


 マグナス・ハンセン中尉が応える。


「…ありがとう…では、非公式任務について説明しよう…」


 そこでまた、スコット・バウアーから任務の内容が説明された。


「…副司令…もしやしてこのクーデター事件が勃発したのは、我が艦隊がここまで離れた時期を見計らっての事なのでは? 」


「…その通りだ。レジーナ・クラーク中尉…素晴らしい洞察力だな…私と司令官を中心とした調査グループは、もう20周期以上に亘って『結社』の動向を調べ続けているのだが…アンガラーナの正規艦隊の中でも、我が艦隊と第9艦隊だけは…まだ『結社』に侵蝕されていない事が、現時点に於いて確認されている…だから第9艦隊も、我々とはほぼ反対方位の遠方に派遣されている…」


「…では副司令…このまま戻れば、クーデター勢力に包囲されてしまう事も? 」


「…そうだな、ナタリー・ジレット中尉…その可能性はある…罠も張られているだろう…だが我々は戻らねばならない…何故なら我々は市民の信任の基に構築されている…民主制の中での軍隊だからだ…なに…第9艦隊も戻ってくるから、クーデター勢力に対して2正面作戦を強いる事もできるだろう…なんとかなるよ…」


 ここで参謀長も口を開く。


「…実際、首都機能のどこまでがクーデター勢力に押さえられているのか、判らない…首都にも我々のグループはいるが…連絡が取れるのか、動けるのかも判らない…我々と第9艦隊との間には、非公式なダイレクト・インターリンクがある…だから、お互いに近付けば呼吸を合わせて動けるかも知れないが…それでもクーデター勢力との艦隊戦闘ともなれば、苦戦は避けられないだろう…」


「…それを予想し、フォロー・カバーする為の、非公式任務なのですね? 」


「…その通りだ、ヘルベルト・アルバース中尉…さて…ここまでが非公式任務の概要だ…そしてここで、君達の意思を確認しなければならない…この非公式任務を受けてくれるかどうかのね……」


「…そこにいるスコット・バウアー中尉は、既にこの任務を拝命しているのですか? 」


 ブルーナ・アラガン中尉が訊いた。


「…そうだ…彼は既に、この非公式任務を遂行するグループのリード・コマンダーを担当してくれている…だから今の彼は、スコット・バウアー特務少佐だ…」


 召集されて参集した20名の若き中尉達は、それぞれお互いに顔と目を見合わせて無言で語り合っていたが…それも6.7分で終わる。


 最初に発言したマーク・アンドリュー中尉が立ち上がる。


「…分かりました…私達…20名全員、この非公式任務に志願します…」


「…いや…こちらの説明が、やはり足りなかったのかも知れない…その点については謝罪するが…これは極秘の任務だ…艦隊でも全員には周知しない…承知するのは艦隊司令部でもメイン・スタッフだけになるだろう…公式記録に於いて君達は、戦闘中に行方不明になったとする。ご家族にもそう伝えられる…公式記録に残せば、この布石がクーデター勢力にバレるからだ……クーデター事件が解決して真相が解明されて初めて…君達の身分回復が可能になる……そしてそれがいつになるのかも判らない……それでも受けて貰えるかね? 」


 マーク・アンドリューはもう一度、円卓に着いているメンバーの顔をひとりひとり観る……全員が真っ直ぐに彼の目を見返して、頷いた。


「…変わりません…全員で、志願します…」


「…ありがとう…本当に感謝する…君達の決断と献身には心底から敬意を表する……それでは…君達はたった今から任務中止で離席だ…先ず、可及的速やかに異動準備を終えてくれ……艦隊は3時間後に首都本星に向けての帰還行程に入る……1時間後に全員、コマンダー・ブリッジに集合…司令官から話がある……バウアー特務少佐…君も混えて、ブリーフィングやらミーティングの必要があるのならやっても良いが、1時間後の集合は厳守してくれ…質問は? 」


 発言は無い。


「…無ければ、取り敢えず解散。1時間後に会おう…」


 副司令と参謀長と戦略課長も立ち上がって敬礼すると、彼ら全員も立ち上がって答礼した……そして3人は、そのまま退室した。


「…よし…先ず、サブ・コマンダーを僕から指名したい…マーク・アンドリュー中尉…受けて貰えるかな? 」


「…分かった…僕で良ければ引き受けよう。バウアー特務少佐…」


「…これは僕の予想だけど、君達も全員…特務少佐に昇進すると思うよ…だから形式張った会話はやめよう…これからの任務では、あらゆる面に於いて柔軟で臨機応変な対応・対処が求められるだろうからね…」


「…分かったよ…」


「…うん…じゃあ全員、部屋に戻って荷造りを終えて欲しい…誰かに何か訊かれたら、急な配置転換の発令で…詳しい事は何も聞いていないと応えてくれ…出来るだけ目立たずに終えて、またここに集合だ…僕は参謀長らに、異動準備に於いて何か必要なものがないかを確認する…僕のコミュニケート・コードは 『fox trot』フォックストロット072012だ…何かあればコールしてくれ…親しい友人に会っても、何も言うなよ…じゃあ、解散だ…」


 その後の45分で、再び全員が情報分析室に集合した。


「…何か、あったかい? 」


「…いや、特に何も…」


「…確認したけど、司令官の話をよく聞いてくれ、との事だけだったよ…それじゃ行こう…」


 全員で連れ立ち、情報分析室を後にしてコマンダー・ブリッジへと向かう。


 コマンダー・ブリッジでは既に、艦隊司令…副司令…参謀長…参謀次官…戦略課長…情報部長…情報部参事官…後方支援部長…司令部付き情報事務次官が…丸く並べられた30脚のパイプ椅子に座って待ち受けていた。


 21人はブリッジに入ると、横1列に並んで敬礼したが、立ち上がった副司令が手を振った。


「…堅苦しい挨拶はいいから座ってくれ…時間が無い…」


 その言葉を受けて、全員が静かに座る。


 座った副司令に代わって艦隊司令が立ち上がる。


「…スコット・バウアー特務少佐…これで全員かね? 」


「…はい、全員です。司令官閣下…」


「…了解した…全員、よく決断してここに来てくれた…本当に心から感謝する…私も私達も、君達全員を誇りに思う……当初の目標では、スコット・バウアー特務少佐を含めても…8名が精一杯だろうと考えていた……それが21名だとは、感謝してもし切れない……艦隊司令部としても、出来得る限りのサポートと共に…君達を要塞に派遣したいと思う……君達21名の為に軽巡宙艦を3隻…私物は総て引き揚げて用意した……この3隻は、公式には撃沈されたと記録する……本当はもっと用意したかったんだが、軽巡宙艦を5人以下で操艦するのは厳しいだろうと思ってね……それで次だ。 君達20名の中で、まだ宇宙艦隊戦略・戦術幹部学校に在学中の者が10名いるが、全員を艦隊司令官としての私の権限と、戦時特例登用措置法とを以てこの特別秘密任務への異動とし、同時に幹部学校も11位までの成績席次で繰り上げ卒業とする……戦闘中に行方不明になったとの公式記録だから…名誉卒業証書はご家族に届けられる…同時に全員が、特務少佐に昇進だ……そしてここからが大事な話だから、よく聴いて忘れないでくれ……『アンガラーナ国家機密局』が取り扱う情報の中で…シークレット機密レベル3以下の機密情報に於ける…閲覧・取得・運用を許可する……情報のバーター取引…遣り取り…交換…売買による金銭の取得を許可する……その他にも…殺人…営利誘拐…人身売買…暴力行使…禁止薬物の取り引き以外でなら…どんな商売をやっても良い……とにかく金を稼いでくれ……君達の為の特別秘密口座も3口用意した……稼いだ金を貯蓄してくれ……そしてその金を以て必要なものを購入し…要塞を再建し…人を雇い…組織を構築・運用し…システム・施設を拡充させて、艦隊の受け容れ体制を整えてくれ……この中には、艦隊予備費の3割程度の金も入れて置いた…元手の一部にしてくれ…」


 そう言って艦隊司令官は、内ポケットからピンク・クリスタルで造られた3本のデータ・ロッドを取り出して、スコット・バウアーに手渡した。


「…第6・第9連合艦隊は、クーデター勢力と一戦を交える…勝てるようなら押し切りたいが、苦戦を強いられ苦杯を舐めさせられるようなら転針し…ここに戻るだろう…その時までに、出来るだけ使えるよう…準備を頼む…」


「…了解しました…」


 ここまで話した艦隊司令官は幾分ほっとしたかの様な表情で口許を綻ばせると、内ポケットからもう一本…今度はオレンジ・クリスタルのデータ・ロッドを取り出して、スコット・バウアーに渡す。


「…これは? 」


「…私と副司令を中心とした調査グループはこの26周期の間…『結社』の動向を詳細・精密に調べ上げ…彼らの所業を、その具体的な証拠と言う形で…ファイルに集積してまとめあげた……今、君に渡したそれがそうだ……そしてこの証拠ファイルを、我々が持っていると彼らに伝え、我々の身に何かがあれば…これを直ちに公開すると脅迫したのだ……だから、まだ我々は殺されていない……だが…これからの艦隊決戦の中では正直、どうなるか分からない……もしも私と副司令が死んだとか…行方不明になったようなら、このファイルを自分達が持っていると彼らに伝えて脅迫するんだ……脅迫が効いている間は、彼らの『要塞』への攻撃を止めて躱せるだろう……その間の時間で、更に稼いで君達自身を強化して…何を使っても良いから、力を蓄えるんだ……もしも私達が生きてここに辿り着ければ…更に良い形に構築できるだろう……そう出来るように、祈っていてくれ……」


 そこまで話すと艦隊司令官は脱いだ帽子を左脇に軽く挟んだ。


「…スコット・バウアー特務少佐をリード・コマンダーとし、マーク・アンドリュー特務少佐をサブ・コマンダーとする、特務派遣部隊の成功を祈る……軽巡宙艦3隻から成る特務派遣艦隊は旗艦の右舷に控えている……物資の搬入は間も無く終わる…君達も速やかに乗艦してくれ……健闘・善戦を祈る……死ぬなよ…」


「…司令官こそ…」


 司令官が敬礼し、彼らが答礼する。


「…ランチの操縦もやってくれるなら、返してくれなくても良いよ…とにかく、生き延びてくれ…」


 司令部付き情報事務次官が、ひとりに付き2枚のカードを手渡す……餞別としては、それが総てだった。


 残る者と征く者とで、最後にガッチリと握手を交わした。


「…ランチに搭乗する……行くぞ! 」

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