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第二章
不治の病
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クラウスと他愛もない話をしながら歩くのは気が楽だった。彼との明るい会話は、時間も疲れも忘れされてくれた。
スカイテルーシ帝国に到着する頃には夜になっていた。
帝国は、王国とは比べ物にならないくらい街が発展していた。
(王都より発展してる……これがスカイテルーシ帝国なのね!隣国なのに知らなかった)
田舎者丸出しでキョロキョロとあたりを見回してしまう。
クラウスはそんな私の様子を面白そうに見ていた。
「ここが僕の家です、どうぞ」
クラウスに連れられて、エルナンデス家へやってきた。
(広い……まさに豪邸ね。入り口の門から屋敷が見えない程、遠かったもの)
クラウスの服装はとても質素だったので、こんな立派な家に住んでいるのは意外だった。
「あ、あれが父と母です」
玄関の奥から出てきた二人がクラウスのお父様とお母様らしい。
「クラウス、帰ったのか? おや、お客様かい?こんばんは」
「遅かったじゃないの! 遅くなる時は連絡くらいしてちょうだい。……あら、お客様もいたのね。ごめんなさい、さあ入って入って!」
「お、お邪魔します……」
優しそうなご両親に出迎えられて、あれよあれよという間に食卓を囲むことになっていた。
(まさか夕飯をご馳走になるなんて……。でも断れる雰囲気でもないし)
「遠慮せずにどんどん食べてね。えっと……」
「も、申し遅れました! リディア・クローバーと申します。クラウスさんとは帝国横の森のはずれで会いまして……」
流されるままにもてなしを受けていて、名前も名乗っていなかった。
「父さん、母さん、彼女は僕の命の恩人なんだ。発作を起こしていた僕を助けてくれた」
クラウスが私のたどたどしい説明に補足をすると、お父様とお母様の顔色が変わったのが分かった。
「まあ……そうだったの? リディアさん、本当にありがとう!」
「お前また無理をしたな? 出かける前にあれ程注意したのに……。リディアさん、本当に助かりました。貴女がいなければ、息子は今頃どうなっていたか……」
お二人が立ち上がって頭を下げるので、思わず私も立ち上がってしまう。
「そんな大した事ではありませんので、どうか頭を上げてください。クラウスさんが無事で良かったです」
なんとかお二人を座らせる。
クラウスはその様子を少し恥ずかしそうに見ていたが、私と目が合うと申し訳なさそうに笑った。
「両親は少し心配性なのです。許してくださいね」
「何言ってるんだ! 死んでいたかもしれないんだぞ? 今だって……ん? クラウス、首の痣はどうした? ……消えてる……」
お父様がクラウスの首を見て、目を丸くした。
お父様の言葉に驚いたクラウスは、慌てて鏡の前で首を確認し、お父様と同じように目を丸くしている。
「え? ……本当だ! リディア、これは?」
(え、痣が消えたらまずかったのかしら……どうしよう)
「申し訳ありません。治癒の力を使った時に消してしまったようです。なにかお身体に影響が出ていますか?」
慌てて謝ると、突然お母様に抱きしめられた。
「謝らないでくださいな。クラウスの病を完全に消してしまわれたのですから! 本当に、本当になんとお礼を言ったらいいのか。クラウスが……クラウスが……」
「そうですとも! 医師にも不治の病と言われていたのに、治るなんて! ありがとうございます」
涙を流して私を抱きしめるお母様に代わって、お父様が言葉を続けた。
クラウスは幼い頃に森で迷子になり、見つかった時には痣が出来ていたらしい。それと同時期から頻繁に発作を起こすようになり、意識を失うこともあったそうだ。
治療法もなく、薬で発作を抑制して対処するしかないという状況だった。
お父様も目を潤ませながら私に説明してくださった。
(長い間苦しんでいたのね。治癒できて良かったわ……!)
クラウスは、しばらく鏡の前で呆然としていた。
「痣が消えた……。すごい、リディアの力は本当に凄い! 本当に僕の命の恩人だ!」
クラウスの明るく輝いた笑顔に、私も心から良かったと思えた。
(偶然の出会いだったけれど、誰かのためになれるってこんなにも嬉しいことだったのね。少し忘れていた気がするわ)
「リディアさんの力? そういえば、どうやってクラウスの病を消し去ったのですか?」
クラウスの言葉にお父様が首を傾げた。
この流れで誤魔化すことは出来ない。聞きたいこともあるし、正直に話さなければ……。
自分がゴーシュラン王国の元聖女であると――
スカイテルーシ帝国に到着する頃には夜になっていた。
帝国は、王国とは比べ物にならないくらい街が発展していた。
(王都より発展してる……これがスカイテルーシ帝国なのね!隣国なのに知らなかった)
田舎者丸出しでキョロキョロとあたりを見回してしまう。
クラウスはそんな私の様子を面白そうに見ていた。
「ここが僕の家です、どうぞ」
クラウスに連れられて、エルナンデス家へやってきた。
(広い……まさに豪邸ね。入り口の門から屋敷が見えない程、遠かったもの)
クラウスの服装はとても質素だったので、こんな立派な家に住んでいるのは意外だった。
「あ、あれが父と母です」
玄関の奥から出てきた二人がクラウスのお父様とお母様らしい。
「クラウス、帰ったのか? おや、お客様かい?こんばんは」
「遅かったじゃないの! 遅くなる時は連絡くらいしてちょうだい。……あら、お客様もいたのね。ごめんなさい、さあ入って入って!」
「お、お邪魔します……」
優しそうなご両親に出迎えられて、あれよあれよという間に食卓を囲むことになっていた。
(まさか夕飯をご馳走になるなんて……。でも断れる雰囲気でもないし)
「遠慮せずにどんどん食べてね。えっと……」
「も、申し遅れました! リディア・クローバーと申します。クラウスさんとは帝国横の森のはずれで会いまして……」
流されるままにもてなしを受けていて、名前も名乗っていなかった。
「父さん、母さん、彼女は僕の命の恩人なんだ。発作を起こしていた僕を助けてくれた」
クラウスが私のたどたどしい説明に補足をすると、お父様とお母様の顔色が変わったのが分かった。
「まあ……そうだったの? リディアさん、本当にありがとう!」
「お前また無理をしたな? 出かける前にあれ程注意したのに……。リディアさん、本当に助かりました。貴女がいなければ、息子は今頃どうなっていたか……」
お二人が立ち上がって頭を下げるので、思わず私も立ち上がってしまう。
「そんな大した事ではありませんので、どうか頭を上げてください。クラウスさんが無事で良かったです」
なんとかお二人を座らせる。
クラウスはその様子を少し恥ずかしそうに見ていたが、私と目が合うと申し訳なさそうに笑った。
「両親は少し心配性なのです。許してくださいね」
「何言ってるんだ! 死んでいたかもしれないんだぞ? 今だって……ん? クラウス、首の痣はどうした? ……消えてる……」
お父様がクラウスの首を見て、目を丸くした。
お父様の言葉に驚いたクラウスは、慌てて鏡の前で首を確認し、お父様と同じように目を丸くしている。
「え? ……本当だ! リディア、これは?」
(え、痣が消えたらまずかったのかしら……どうしよう)
「申し訳ありません。治癒の力を使った時に消してしまったようです。なにかお身体に影響が出ていますか?」
慌てて謝ると、突然お母様に抱きしめられた。
「謝らないでくださいな。クラウスの病を完全に消してしまわれたのですから! 本当に、本当になんとお礼を言ったらいいのか。クラウスが……クラウスが……」
「そうですとも! 医師にも不治の病と言われていたのに、治るなんて! ありがとうございます」
涙を流して私を抱きしめるお母様に代わって、お父様が言葉を続けた。
クラウスは幼い頃に森で迷子になり、見つかった時には痣が出来ていたらしい。それと同時期から頻繁に発作を起こすようになり、意識を失うこともあったそうだ。
治療法もなく、薬で発作を抑制して対処するしかないという状況だった。
お父様も目を潤ませながら私に説明してくださった。
(長い間苦しんでいたのね。治癒できて良かったわ……!)
クラウスは、しばらく鏡の前で呆然としていた。
「痣が消えた……。すごい、リディアの力は本当に凄い! 本当に僕の命の恩人だ!」
クラウスの明るく輝いた笑顔に、私も心から良かったと思えた。
(偶然の出会いだったけれど、誰かのためになれるってこんなにも嬉しいことだったのね。少し忘れていた気がするわ)
「リディアさんの力? そういえば、どうやってクラウスの病を消し去ったのですか?」
クラウスの言葉にお父様が首を傾げた。
この流れで誤魔化すことは出来ない。聞きたいこともあるし、正直に話さなければ……。
自分がゴーシュラン王国の元聖女であると――
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