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第三章

自分勝手に生きる

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「呪い、ですか?」

 あまりにも突然の話だ。殺されかけたことで頭がいっぱいなのに、呪いまで受けていたなんて……頭がパンクしそうだった。

「命を蝕む類のものだ。身体に症状が出ているはずだよ。悪い夢を見たり、息苦しくなったり、足が動かなくなったり……何か心当たりはないかい?」

 ヘルマンさんの言葉に、自分の身体の不調を思い出した。

「息苦しさを感じることがあります。最近は減ってきましたけれど……最初に感じたのは、死刑判決を受けた日でした」

「では間違いないだろう。昔、ゴーシュラン王国では呪術が盛んだったと聞く」

「呪術……噂では聞いたことがあります。昔はよく使われていたと。でも今のゴーシュラン王国では、呪術は忌み嫌われるものです。誰かが習得しているとは思いませんでした」

 聖女とは正反対に位置づけられる呪術師。そう聞かされて育ってきた。呪術を扱う者には破滅が待ち受ける、決して興味を持ってはいけないと。

「そうだろうね……。まずは呪いを解こう。森の妖精の中には呪いを解ける種族がいる。彼らに依頼するしかない」

「分かりました。どのみち森へ行って妖精さんには会うつもりでしたから、丁度良いです」

 ヘルマンさんと話しているうちに、だんだん冷静になって来た。
 聖女の力で寿命が縮まっている。その上、呪いで命が蝕まれている。もう長くは生きられないかもしれない。そう感じても、不思議と怖くなかった。

(もう長く生きられないのなら、自分勝手に生きても良いのではないかしら。命も狙われていることだし、待っていても死ぬだけだわ)

 ふいにそう思えた。これだけ理不尽に攻撃されたのだから、私も自分の好きなようにするしかない。

「リディア? 大丈夫かい?」

 クラウスの声に顔を上げると、三人が私のことを心配そうに見ていた。私はいつもこの人達の優しさに守られてきた。
 この人達に迷惑をかけないように……それだけを考えてきた。だけど今は違う。この人達と一緒に生きていきたい。そう思った。

「大丈夫です! 私、こんなことで負けたくありません。絶対に生き抜いて、幸せになってみせます」

 笑って宣言すると、三人はぽかんとした表情をした。無理もない、今までこんな風に言ったことはなかったから。

(急にこんな事言って、気が狂ったと思われるかしら……どう説明しよう)

 私が考え込んでいると、クラウスが笑い出した。

「ふふっ、リディア、なんだか元気になったね。僕も協力するよ。前も言ったけれど、復讐するなら手伝うし」

「クラウス……じゃあその時はお願いしますね」

 笑いながら返すと、ヘルマンさんもクリスティーナさんも、柔らかい表情になった。

「クラウスだけでは心許ないだろう。私も協力させてもらうよ。復讐の仕方はクラウスよりも良く知っている」

「あら、だったら私にも協力させてちょうだいな。そういうの得意よ」

 二人がおどけた口調で言うものだから、ますます笑ってしまう。
 私にはこんなにも心強い味方がいるのだ。どんな状況だって、乗り越えてみせるわ。




(それにしても、私の命を狙っている人と呪いをかけた人は同一人物かしら? 違うとしても相当恨まれていたのね……。でも死んでやるつもりはないわ。私は自分の人生を生き抜くって決めたの!)
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