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最良の縁談
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ある日、結婚して家を出たいというナタリアの願いが通じたのか、待望の縁談話が舞い込んできた。
「お前はクロード・アルバース伯爵に嫁ぐことになった」
父の口から出た名前を聞いて、ナタリアは驚いた。
「あの、クロード様ですか? どうして私が……」
クロード・アルバースと言えばこの国で知らない人はいないだろう。社交界から離れているナタリアでさえ、名前を知る人物だった。
冷血伯爵、そう呼ばれているのがクロード・アルバースだ。
若くして伯爵となった彼は、自身の領地が隣国から襲撃を受けた際、国軍の力を借りずに領民だけで撃退したのだ。
その時の活躍は目覚ましいものだったという。この功績によって領地は更に拡大され、今や国から侯爵並の待遇を受けているのだとか。
(戦略家であり、統率力も優れている。だけど、気難しい性格をしているという噂があるわ……冷血伯爵という名前の通り)
公の場で表情を全く崩さず、常に能面のような顔をしており、余計なことは一切口にしない伯爵なのだと、ナタリアは聞いていた。
パーティーなどには顔を出さないため人との交流が殆ど無く、普段何をしているか全く知られていない。それなのに王からの信頼が厚く、重用されていることから、他の貴族からは嫉妬や羨望の的となっている人物だ。
その上、裏で暗殺を請け負っているという噂もある。義母やエマはパーティーに出かけてくる度に、クロード・アルバースの話をしていた。
「この間の隣国との交渉には冷血伯爵が活躍したんだとか……。また国王から褒美を貰ったそうよ」
「あの伯爵が? 隣国の大使を脅したのかしら? あぁ恐ろしい」
度々話題にあがる人物について、ナタリアもなんとなく恐ろしい人なのだと思うようになっていった。
そんな冷血伯爵がなぜ自分と婚約することになったのか、ナタリアは不思議に思った。
(我が家とは接点もないしはずだし、国の重要人物である人が、こんな家から嫁を欲しがるかしら?)
「どうも急に結婚相手を探し始めたようなんだが……まぁ、見つからないようでな。うちとしても、あー……伯爵と繋がりができると心強いし……」
歯切れの悪い父親の言葉を義母が遮った。
「ナタリア、あなたって本当に察しの悪い子ね。お父様に皆まで言わせないで。あなたが伯爵家に嫁げば、我が家の利益になるの。あなたは知らないだろうけれど、伯爵に娘を差し出した家には、国王から褒美が出るともっぱらの噂なのよ」
そうでなければ縁談の話なんか来るわけないでしょう? と言わんばかりの表情で、義母はナタリアを睨みつけた。
(なるほど、つまり私は売られるのですね……。上等だわ、この家にいるよりはマシよ!)
ナタリアが心の中で納得していると、話を聞いていた義妹のエマがクスクスと笑いだした。
「まぁ!お姉様、遂に婚約相手が見つかりましたのね。おめでとうございます。しかも有名人ですのね!うふふっ、妹として喜ばしいですわ」
ナタリアが売られるのがよほど面白いのだろう。誰が見ても明らかな嘲笑をしながら、祝いの言葉を口にした。
「エマ……ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
(ここでエマを刺激したって面倒事が増えるだけ。どんなことを言われたって構わないわ。クロード様が、お義母様やエマよりも性格が悪いってことはないでしょう)
婚約相手は予想外の人物だったが、ナタリアは喜びの気持ちでいっぱいだった。ようやく家から出られるのだから当然の感情だ。
「我が家の恥だけは晒さないでちょうだいね」
「今日中に準備をして、明日には出発しなさい」
両親からかけられる言葉には、祝いの言葉はなかった。しかも準備期間も与えられないのだから、ナタリアは失望を通り過ぎて呆れてしまった。
「分かりました……」
(持参金や嫁入り道具は用意してくれない訳ね……。クロード様には常識知らずだと思われるでしょうね。これで婚約解消になったら、この人達はどうするのかしら。本当に何も考えていないのね)
どうにでもなれという気持ちで、ナタリアは最低限の支度を済ませた。
「お前はクロード・アルバース伯爵に嫁ぐことになった」
父の口から出た名前を聞いて、ナタリアは驚いた。
「あの、クロード様ですか? どうして私が……」
クロード・アルバースと言えばこの国で知らない人はいないだろう。社交界から離れているナタリアでさえ、名前を知る人物だった。
冷血伯爵、そう呼ばれているのがクロード・アルバースだ。
若くして伯爵となった彼は、自身の領地が隣国から襲撃を受けた際、国軍の力を借りずに領民だけで撃退したのだ。
その時の活躍は目覚ましいものだったという。この功績によって領地は更に拡大され、今や国から侯爵並の待遇を受けているのだとか。
(戦略家であり、統率力も優れている。だけど、気難しい性格をしているという噂があるわ……冷血伯爵という名前の通り)
公の場で表情を全く崩さず、常に能面のような顔をしており、余計なことは一切口にしない伯爵なのだと、ナタリアは聞いていた。
パーティーなどには顔を出さないため人との交流が殆ど無く、普段何をしているか全く知られていない。それなのに王からの信頼が厚く、重用されていることから、他の貴族からは嫉妬や羨望の的となっている人物だ。
その上、裏で暗殺を請け負っているという噂もある。義母やエマはパーティーに出かけてくる度に、クロード・アルバースの話をしていた。
「この間の隣国との交渉には冷血伯爵が活躍したんだとか……。また国王から褒美を貰ったそうよ」
「あの伯爵が? 隣国の大使を脅したのかしら? あぁ恐ろしい」
度々話題にあがる人物について、ナタリアもなんとなく恐ろしい人なのだと思うようになっていった。
そんな冷血伯爵がなぜ自分と婚約することになったのか、ナタリアは不思議に思った。
(我が家とは接点もないしはずだし、国の重要人物である人が、こんな家から嫁を欲しがるかしら?)
「どうも急に結婚相手を探し始めたようなんだが……まぁ、見つからないようでな。うちとしても、あー……伯爵と繋がりができると心強いし……」
歯切れの悪い父親の言葉を義母が遮った。
「ナタリア、あなたって本当に察しの悪い子ね。お父様に皆まで言わせないで。あなたが伯爵家に嫁げば、我が家の利益になるの。あなたは知らないだろうけれど、伯爵に娘を差し出した家には、国王から褒美が出るともっぱらの噂なのよ」
そうでなければ縁談の話なんか来るわけないでしょう? と言わんばかりの表情で、義母はナタリアを睨みつけた。
(なるほど、つまり私は売られるのですね……。上等だわ、この家にいるよりはマシよ!)
ナタリアが心の中で納得していると、話を聞いていた義妹のエマがクスクスと笑いだした。
「まぁ!お姉様、遂に婚約相手が見つかりましたのね。おめでとうございます。しかも有名人ですのね!うふふっ、妹として喜ばしいですわ」
ナタリアが売られるのがよほど面白いのだろう。誰が見ても明らかな嘲笑をしながら、祝いの言葉を口にした。
「エマ……ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
(ここでエマを刺激したって面倒事が増えるだけ。どんなことを言われたって構わないわ。クロード様が、お義母様やエマよりも性格が悪いってことはないでしょう)
婚約相手は予想外の人物だったが、ナタリアは喜びの気持ちでいっぱいだった。ようやく家から出られるのだから当然の感情だ。
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「今日中に準備をして、明日には出発しなさい」
両親からかけられる言葉には、祝いの言葉はなかった。しかも準備期間も与えられないのだから、ナタリアは失望を通り過ぎて呆れてしまった。
「分かりました……」
(持参金や嫁入り道具は用意してくれない訳ね……。クロード様には常識知らずだと思われるでしょうね。これで婚約解消になったら、この人達はどうするのかしら。本当に何も考えていないのね)
どうにでもなれという気持ちで、ナタリアは最低限の支度を済ませた。
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