国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました。もう聖女はやりません。

香木陽灯

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「ニーナ・バイエルン! ルシティア国の聖女という立場を悪用し、民を傷つけた罪は重い。神の裁きのもと、聖女の力を剥奪し、国外追放とする!」

 今日は神への感謝祭の日。そのめでたい日に似つかわしくない宣言が大聖堂に響き渡った。

 ルティシア国の王子、アレクサンドロスの声だ。

 勝ち誇ったような表情で聖女を指さす彼を、聖女ニーナが静かに見つめていた。


 海と帝国に挟まれた小さな国、ルティシア。

 国境付近に瘴気が発生するという難点を除けば、資源が豊富で過ごしやすい気候の国だ。


 この国が他国に侵略されないのは、瘴気と聖女のおかげだろう。

 聖女は国を結界で守り、浄化する。神の加護によって数百年に一度生まれる聖女は、次の聖女が誕生するまで死ぬことはない。


 結界と周囲の瘴気のおかげで、ルティシアは国として成り立っていた。


 現聖女であるニーナは、今年で200年目を迎えるベテランだ。

 この200年間、ルティシアは平穏そのものだった。

 ニーナは毎日瘴気を浄化するための祈りを捧げ、国中の病人や怪我人の治癒をする。移動手段は徒歩しかなく、各地の教会を渡り歩く日々。

 結界が弱まれば修繕をする。都市に戻ってくるのは数ヶ月に一度だけ。


 終わることなく延々と続く日々に、ニーナはうんざりすることも忘れ、ただ淡々と責務を全うしていた。


 それなのに――追放が宣言されたのだ。
 
(ながーく国に尽くしてきたけれど、もう用済みってこと?)

 ニーナは目の前の王子を見つめながら首をかしげた。



「どうした、驚きで声も出ないのか? お前が罪なき人々の治癒を拒み、逆に呪いをかけていることは把握済みだ! これを見ろ! 今まで不当な呪いをかけられた者たちの嘆願書だ。彼らの言葉が何よりの証拠!」

 王子が分厚い紙を掲げると、周囲は驚きと困惑の声に包まれた。

(あの分厚い紙の束が嘆願書? 全国民の声を集めたって、あんなに分厚くならないんじゃない?)

 ニーナにとっては身に覚えのない話だ。だが相手は一国の王子。下手に反論すれば罪を追加されるだけだ。

 どうしたものかと思案していると、王子の隣の少女がウルウルと目を潤ませながら、口を開いた。

「ニーナ様、聖女である貴女が行った悪行は許されません。私も昨日怪我をして、ニーナ様のもとへと運び込まれました。けれど……ニーナ様は私の治癒を拒否したのです! 私がアレクサンドロス様と親しいから、嫉妬なさったのでしょう。醜すぎますぅ。私以外にも被害者はたくさんいます! 聖女様が怖くて言い出せなかったみたいですけど……」

 マリアと呼ばれた少女がぎゅっと王子の腕にしがみつく。王子はマリアの頭を優しくなでた。
 マリアを眺める顔は、ニーナを睨んでいる時とは大違いだ。

「マリアの言う通りだ! ニーナは聖女ではなく、大悪党だったのだ!」

(一体何を見せられているの?)

 ニーナは密やかにため息をついた。


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