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気がついたら日が傾きかけていた。
フェルディナンドと話すのは思いのほか楽しく、すっかり話し込んでしまったのだ。
「そういえば、ニーナは身体に異常はないの? 200年もその姿でいたのなら、力を失った時に反動とかありそうなものだけど。どこか辛いところはない?」
「今のところは大丈夫よ。不老不死がどうなったかは、死んでみないと確かめようがないけどね」
心配そうにしていたフェルディナンドだったが、ニーナの『不老不死』という言葉に目を細めた。
やはり賢者という職業柄、不思議な現象に興味があるのかもしれない。
「本当に聖女の力というのは不思議だ。浄化や結界だけでなく、寿命をも捻じ曲げる」
捻じ曲げる。ニーナにはその表現がしっくり来た。
本来あったはずの寿命が消え去ってしまったのだから。
「他人の寿命は変えられないのに、おかしな力よね。結局すべての人は助けられないし……」
「でも助かった人もいるでしょう? ほら、そんな暗い顔をしないで……。あのね、ニーナは知らないかもしれないけど、人生ってものすごく短いんだよ? 落ち込んでいたら勿体ない」
暗くなりかけていたニーナに、フェルディナンドのからりとした声が降り注ぐ。
ニーナは自然と口角を上げた。
「そうね。ありがとう、師匠!」
「師匠は止めて。弟子にした覚えはないし、元聖女の師匠だなんて荷が重い」
「えぇー。じゃあ、なんと呼べば?」
「名前で。フェルで構わないよ」
「じゃあフェル、今日はもう遅いので失礼するわ。明日からまた色々教えてください!」
そろそろ今日の宿を探さなくてはならない。
ニーナが帰ろうとすると、フェルディナンドに腕を掴まれた。
「もう暗いから送るよ。宿はどこにとっているの?」
「まだ決めてなくて……。今から近くの宿屋をあたろうと思うんだけど」
フェルディナンドは少し考え込んだ後、ニーナを引き寄せた。
顔が近づき、フェルディナンドの美しい顔がよく見える。
(何? そんな綺麗な顔を近づけないで!)
ニーナの頬がほんのり赤く染まる。
フェルディナンドは気にしていない様子で、ふっと微笑んだ。
「それなら落ち着くまでここにいたら良い。部屋ならたくさん余っているから」
「そ、そんなの悪いわ」
「構わないよ。ここは一人では広すぎる。だから誰かいてくれた方がありがたい。部屋は使わないと、すぐに悪くなってしまうだろう?」
「そうかもしれないけど……」
ニーナにとって非常にありがたい申し出だった。けれど疑念が浮かぶ。
「なぜそんなに親切にしてくれるの? フェルは……大賢者様は、ルティシアが嫌いだって聞いたわ。私はルティシア出身なのよ?」
疑問を投げかけるニーナに、フェルディナンドは不思議そうな顔を向けた。
「分からない? では、ニーナはなぜ人々を助けていたの?」
質問で返されたニーナは言葉に詰まる。
人助けをする理由など考えたことがなかったから。
「それは聖女だったからで……」
「僕を訪ねて来た時、人を救いたいと言ったね。もう聖女ではないのに」
「それはそうだけど……」
「貴女のその姿勢に感銘を受けたんだ。出身は関係ないことだよ」
そう言われては断る理由もない。ニーナは賢者の塔でお世話になることになった。
(誰かに助けてもらうのって、なんだかムズムズする……変な感じね)
フェルディナンドに案内された部屋は、小さいながらも綺麗に整えられた部屋だった。
最低限の家具が揃っており、暮らしやすそうだ。
「今日はゆっくり休んで。長旅で疲れたでしょう? この部屋は好きに使って良いからね」
そう言い残してフェルディナンドは去っていった。
ニーナはベッドに腰かけると、ゆっくりと目を閉じる。
緊張と疲労がじわじわと緩んでいくのを感じた。
(なんだろう、すごくふわふわした気分ね)
ニーナは「ああぁ……」と小さく声を出しながらそのまま後ろに倒れ込む。
「ふかふか……暖かい」
柔らかなベッドに沈みながら、ニーナの意識は落ちていった。
フェルディナンドと話すのは思いのほか楽しく、すっかり話し込んでしまったのだ。
「そういえば、ニーナは身体に異常はないの? 200年もその姿でいたのなら、力を失った時に反動とかありそうなものだけど。どこか辛いところはない?」
「今のところは大丈夫よ。不老不死がどうなったかは、死んでみないと確かめようがないけどね」
心配そうにしていたフェルディナンドだったが、ニーナの『不老不死』という言葉に目を細めた。
やはり賢者という職業柄、不思議な現象に興味があるのかもしれない。
「本当に聖女の力というのは不思議だ。浄化や結界だけでなく、寿命をも捻じ曲げる」
捻じ曲げる。ニーナにはその表現がしっくり来た。
本来あったはずの寿命が消え去ってしまったのだから。
「他人の寿命は変えられないのに、おかしな力よね。結局すべての人は助けられないし……」
「でも助かった人もいるでしょう? ほら、そんな暗い顔をしないで……。あのね、ニーナは知らないかもしれないけど、人生ってものすごく短いんだよ? 落ち込んでいたら勿体ない」
暗くなりかけていたニーナに、フェルディナンドのからりとした声が降り注ぐ。
ニーナは自然と口角を上げた。
「そうね。ありがとう、師匠!」
「師匠は止めて。弟子にした覚えはないし、元聖女の師匠だなんて荷が重い」
「えぇー。じゃあ、なんと呼べば?」
「名前で。フェルで構わないよ」
「じゃあフェル、今日はもう遅いので失礼するわ。明日からまた色々教えてください!」
そろそろ今日の宿を探さなくてはならない。
ニーナが帰ろうとすると、フェルディナンドに腕を掴まれた。
「もう暗いから送るよ。宿はどこにとっているの?」
「まだ決めてなくて……。今から近くの宿屋をあたろうと思うんだけど」
フェルディナンドは少し考え込んだ後、ニーナを引き寄せた。
顔が近づき、フェルディナンドの美しい顔がよく見える。
(何? そんな綺麗な顔を近づけないで!)
ニーナの頬がほんのり赤く染まる。
フェルディナンドは気にしていない様子で、ふっと微笑んだ。
「それなら落ち着くまでここにいたら良い。部屋ならたくさん余っているから」
「そ、そんなの悪いわ」
「構わないよ。ここは一人では広すぎる。だから誰かいてくれた方がありがたい。部屋は使わないと、すぐに悪くなってしまうだろう?」
「そうかもしれないけど……」
ニーナにとって非常にありがたい申し出だった。けれど疑念が浮かぶ。
「なぜそんなに親切にしてくれるの? フェルは……大賢者様は、ルティシアが嫌いだって聞いたわ。私はルティシア出身なのよ?」
疑問を投げかけるニーナに、フェルディナンドは不思議そうな顔を向けた。
「分からない? では、ニーナはなぜ人々を助けていたの?」
質問で返されたニーナは言葉に詰まる。
人助けをする理由など考えたことがなかったから。
「それは聖女だったからで……」
「僕を訪ねて来た時、人を救いたいと言ったね。もう聖女ではないのに」
「それはそうだけど……」
「貴女のその姿勢に感銘を受けたんだ。出身は関係ないことだよ」
そう言われては断る理由もない。ニーナは賢者の塔でお世話になることになった。
(誰かに助けてもらうのって、なんだかムズムズする……変な感じね)
フェルディナンドに案内された部屋は、小さいながらも綺麗に整えられた部屋だった。
最低限の家具が揃っており、暮らしやすそうだ。
「今日はゆっくり休んで。長旅で疲れたでしょう? この部屋は好きに使って良いからね」
そう言い残してフェルディナンドは去っていった。
ニーナはベッドに腰かけると、ゆっくりと目を閉じる。
緊張と疲労がじわじわと緩んでいくのを感じた。
(なんだろう、すごくふわふわした気分ね)
ニーナは「ああぁ……」と小さく声を出しながらそのまま後ろに倒れ込む。
「ふかふか……暖かい」
柔らかなベッドに沈みながら、ニーナの意識は落ちていった。
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