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「あれは瘴気による炎症だわ。間違いない……」
濃い瘴気を吸い込んだ時に現れる症状だ。身体の一部が薔薇のような模様に爛れてしまう。
ニーナ自身、あのように鮮明な症状を見たのは初めてなのだ。
(放っておくと、じわじわと身体の中に痛みが広がるのだと聞いたことがあるわ)
「ニガナシ草が効くと良いんだけど……とにかく急いで用意しなくちゃ」
ニガナシ草は身体の治癒力を高めてくれる効果がある。
飲ませれば少しは身体が楽になるはずだ。
ニーナがニガナシ草を煎じて部屋に戻ると、ちょうど消毒が終わったところだった。
「旦那様、奥様の上体を起こしてください」
「あ、あぁ分かった」
ニーナが女性の口にそっと薬を含ませると、喉が上下した。
「良かった……薬は飲めるようです」
グラスが空になるまで飲ませると、再び女性を横にさせる。
ニーナがフェルディナンドに目をやると、彼は小さく頷いた。
「きっと明日の朝には目を覚ますでしょう。旦那様もこの部屋でお休みください」
「ありがとうございます! 大賢者様、お弟子様……!!」
男性は目に涙を浮かべながらニーナ達に感謝した。
ニーナとフェルディナンドは部屋を退出すると、すぐに薬草庫へ向かった。
「ニガナシ草の数量の確認を。似たような効能の薬草も」
「そうね。どのくらい必要になるか……」
ニーナは震える手で薬草の残量を確認していく。
(これがルティシアからの攻撃だとしたら……私のせいだ……)
ニーナの手から薬草が落ちた。
手に力が入らなくなっていたのだ。
それに気づいたフェルディナンドは、ニーナの手の上に自分の手を重ねた。
「ねぇニーナ、もしかして自分のせいだって思ってる? だとしたら、それは間違いだよ」
「でもっ……! あの女性が苦しんでいるのは事実でしょう? 私がアレクサンドロス殿下を挑発したせいだわ」
「彼の仕業なのだとしたら、100%彼のせいだ」
フェルディナンドはそう断言してくれたが、ニーナの心は晴れない。
「とにかく今は対策を考えよう。あの症状を見るに、この街はすでに瘴気に覆われてるのかもしれないからね」
「そんな! 匂いもしなかったのに……」
「ルティシアが瘴気をある程度操れるなら、匂いくらい消せるのかも」
フェルディナンドの言葉に、ニーナはさらに心が重たくなっていった。
(もし街中の人が瘴気の被害に合っていたら……)
嫌な想像ばかりがニーナの頭を支配する。
その時、薬草庫の扉がノックされた。
濃い瘴気を吸い込んだ時に現れる症状だ。身体の一部が薔薇のような模様に爛れてしまう。
ニーナ自身、あのように鮮明な症状を見たのは初めてなのだ。
(放っておくと、じわじわと身体の中に痛みが広がるのだと聞いたことがあるわ)
「ニガナシ草が効くと良いんだけど……とにかく急いで用意しなくちゃ」
ニガナシ草は身体の治癒力を高めてくれる効果がある。
飲ませれば少しは身体が楽になるはずだ。
ニーナがニガナシ草を煎じて部屋に戻ると、ちょうど消毒が終わったところだった。
「旦那様、奥様の上体を起こしてください」
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「良かった……薬は飲めるようです」
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ニーナがフェルディナンドに目をやると、彼は小さく頷いた。
「きっと明日の朝には目を覚ますでしょう。旦那様もこの部屋でお休みください」
「ありがとうございます! 大賢者様、お弟子様……!!」
男性は目に涙を浮かべながらニーナ達に感謝した。
ニーナとフェルディナンドは部屋を退出すると、すぐに薬草庫へ向かった。
「ニガナシ草の数量の確認を。似たような効能の薬草も」
「そうね。どのくらい必要になるか……」
ニーナは震える手で薬草の残量を確認していく。
(これがルティシアからの攻撃だとしたら……私のせいだ……)
ニーナの手から薬草が落ちた。
手に力が入らなくなっていたのだ。
それに気づいたフェルディナンドは、ニーナの手の上に自分の手を重ねた。
「ねぇニーナ、もしかして自分のせいだって思ってる? だとしたら、それは間違いだよ」
「でもっ……! あの女性が苦しんでいるのは事実でしょう? 私がアレクサンドロス殿下を挑発したせいだわ」
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フェルディナンドはそう断言してくれたが、ニーナの心は晴れない。
「とにかく今は対策を考えよう。あの症状を見るに、この街はすでに瘴気に覆われてるのかもしれないからね」
「そんな! 匂いもしなかったのに……」
「ルティシアが瘴気をある程度操れるなら、匂いくらい消せるのかも」
フェルディナンドの言葉に、ニーナはさらに心が重たくなっていった。
(もし街中の人が瘴気の被害に合っていたら……)
嫌な想像ばかりがニーナの頭を支配する。
その時、薬草庫の扉がノックされた。
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