国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました。もう聖女はやりません。

香木陽灯

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「殿下、今一度よくお考えください。今は帝国に争いを仕掛けるべきではありません。国中一丸となって、瘴気や病と闘うのです」
「だが……俺は……」

 アレクサンドロスが躊躇していると、皇帝が大きなため息をついた。

「なんだ、つまらん。こちらとしては争っても構わんのだが」
「陛下、民をお守りいただきたいと、以前お願いしましたね。聞き入れてくださったはずです。お守りいただけないのなら、私はもう失礼させていただきますよ」

 ニーナは皇帝にも厳しい視線を向ける。

(約束を違えないでちょうだい。私が納得する判断を下すと言ったのだから)

 皇帝は分かったと言わんばかりに両手を小さく上げた。

「本来の聖女は器が違うな……ははは。安心しろ、争いにもならんだろう。さてアレクサンドロスよ、ひと月だけ時間をやろう。自国の身の振り方をよく考え、ルティシア国王に意思を伝えよ。次はお前からではなく国王からの返事を期待しよう」
「お、俺では不満なのか!? 俺は国王陛下から外交を一任されているのだぞ!」

 大人しくなっていたアレクサンドロスが再び怒り出す。

(もぉー!!)

 ニーナが頭を抱えていると、大司教の笑い声が聞こえた。

「ほっほっほ、陛下は手厳しいですなぁ……。しかし、我が国の代表が取り乱したのは事実。どうですかな、一度この二人には退出いただいて、話し合いを続行しませんか? 私が代理を務めましょう。アレクサンドロス殿下は少し休んだ方が良い」

 大司教が指示すると従者たちがさっと現れ、アレクサンドロスとマリアを出口へと案内し始める。

「おい! 俺なしで話を進める気か!? 大司教なんかに代理が務まるものか!」

 フェルディナンドは最後までわあわあと文句を言っていた。

 一方のマリアは、言われるがままに立ち上がるとふらふらと歩き出す。
 そしてちょうどニーナの目の前を通り過ぎる時、ふらりと転んだのだ。

「大丈夫ですか?」

 ニーナが思わず立ち上がって手を差し伸べると、マリアがそろそろと手を取った。

 そして立ち上がる瞬間――

「大司教には気をつけなさい。貴女、また騙されるわよ」

 ニーナの耳元で無声音が響いた。パッとマリアを見るが、彼女は虚ろな目のままふらふらと立ち上がって再び歩き始めた。

(今の、なに……?)

 ニーナが言葉に気を取られている間に、マリアもアレクサンドロスも退出してしまった。

「さて……邪魔者はいなくなりましたのでお話をしましょうか」

 大司教がゆったりと座り直す。

 ニーナはその姿を見てゾクリとした。
 彼の目つきは、興奮に満ちていたのだ。

 皇帝は大司教を見て喉を鳴らす。

「悪い男だ。これから自らの国を売り払う算段を話すというのに」
「私は神の御心のままに行動しているだけですよ。さて、ニーナ・バイエルン」
「はい……」

 突然名前を呼ばれ、ニーナは警戒した。

「そう構えないでください。今から話すのは昔話です」

 そして大司教が語りだしたのは、ルティシアの秘密だった。





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