国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました。もう聖女はやりません。

香木陽灯

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「マリアとか言う女に聖女の力を吸い取る水晶を渡したのは、私です。聖女になれば王子と結婚出来ると吹き込んだのは、私です。愚かな彼らは、駒としてよく働いてくれました。王家を崩壊させるための方法としては、最高でしょう?」
「あなた……」
「貴女を追放したのは、神の御慈悲です。この国のために犠牲となった貴女を崩壊に巻き込むのは、神の意思に反しますから。まさか帝国で瘴気の浄化方法に気づき、賢者として働くとは思いませんでしたが」

 ニーナの頭に大司教の声がガンガンと反響する。
 もう耐えられなかった。

「帝国に瘴気をばら撒いたのも、貴方の仕業なの? どうして……」

 ニーナが震えた声で尋ねると、大司教はきょとんと目を丸くした後、高らかに笑った。

「はははははっ! そうです。いやぁ大変でしたよ。瘴気の量を調整するのは、難しいですからね。最初は帝国の平原で密かに実験をしました。人を極力傷つけず、被害を分からせる濃度を探すのは本当に骨が折れた。瘴気の量が濃すぎて周辺生物が毒性を持ってしまうこともありましたね」

 懐かしそうに目を細める大司教を見て、ニーナは嫌な予感がした。

「それはロッカリー平原ですか? ……ハリムカデが出たっていう……」
「おやおや、ニーナ様は何でもご存知ですね。あれはハリムカデではありませんよ。強い毒性を持ってしまった普通のムカデです」

 ニーナはハリムカデ刺されて苦しんでいた男性の顔を思い出す。

(あれも瘴気のせいだったの……?)

「森に瘴気の雨を降らせるのは名案でした。まあ、ここからは少し殿下に任せておりましたがね。まずルティシアの北山脈から瘴気を発生させます。そして水晶をもった人間が森で待機をする。すると……瘴気同士が引き合って、ちょうどあの辺りで雨が降るのですよ。素晴らしい発見でしょう? 最近の異常気象のおかげで、量の調整に失敗しましたがね。慎重になりすぎて薄くしすぎました」
「なんてこと……! あれ以上濃かったら、街中に被害が出ていたわ!」

 ニーナが大司教に非難の目を向けても、彼は酔ったように微笑むばかりだった。

「王族の信頼は揺らぎ、帝国から目をつけていただける最高の作戦でした。ニーナ様に浄化されてしまいましたが、誰の仕業か分かれば十分です。これで帝国がルティシアを侵略すれば、聖女制度は崩壊します! さあ皇帝陛下、ルティシア国はセレンテーゼ帝国の元に参ります。どんなことにも従います。我が国を手にしてください」

 大司教が皇帝の足元に跪く。
 皇帝は満足そうだ。

「陛下は……いつから大司教の企みをご存知だったのですか?」

 ニーナが静かに尋ねた。

「一週間ほど前だ。不法に入国してきたのでその場で処刑しようかと思ったが、全貌を明らかにすべきだと考えて生かしておいた」
「死など恐れることではありません。私は役目を果たし、神のもとにいけるのですから。さあ、どうか侵略のご決断を!!」

(狂ってる……)

 目の前で神に祈りを捧げるものが、同じ人間とは思えなかった。






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