夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯

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 それから数日間、マリアーヌがラインハルトと顔を合わせることはなかった。
 おかしな態度を取ってしまったマリアーヌは、正直ホッとしていた。

(勝手なことを言ったから、避けられているのかしら? でも……)

 まったく顔を合わせないのは、不安でもあった。


「旦那様はしばらく屋敷を留守にすると伺っております」
「また仕事なの? 晩餐会までに帰ってくるかしら」

 マリアーヌ質問に執事が曖昧に頷く。
 彼もラインハルトを心配しているようだった。

「きっと大丈夫よ。ラインハルト様が不在の間、この屋敷は私たちで守らないと。よろしくね」

 マリアーヌが明るく声をかけると、使用人たちの表情が少しだけ緩む。

(私は私の出来ることをしましょう。ラインハルト様の負担を減らせるように)


 晩餐会のための準備や来客の対応など、屋敷内の仕事はマリアーヌが主体となった。
 使用人たちが異議を唱えることなく従ってくれたおかげで、特に大きな問題も起きることはなかった。

 それでもマリアーヌは毎夜、主人のいない執務室を覗いては、ため息をつくのだった。

(ラインハルト様がいないと落ち着かない……)

「寂しい、のかも」
「それは申し訳ないことをした」
「……っ!」

 マリアーヌが驚いて振り返ると、そこにはラインハルトが立っていた。

「お、おかえりなさい」
「ただいま」

 ラインハルトは楽しげにマリアーヌの手を取った。

「寂しくさせて悪かった」
「聞いていたのですか? もう、忘れてくださいっ」
「妻の可愛らしい一面を忘れるはすがないだろう?」
「なっ……!」

 マリアーヌはラインハルトの顔が見れなかった。

「も、もう寝ます」

 自室に戻ろうとしたが、ラインハルトは手を離してくれなかった。

「一杯だけ付き合ってくれないか?」

 マリアーヌは甘く柔らかい誘いを断れなかった。



 その夜、マリアーヌとラインハルトは寝室でのんびりと酒を楽しんだ。
 そして、会えなかった数日間を埋めるように色々な話をした。

 屋敷であったこと、昔の暮らしとの違い、今がどれほど幸福か……。

「ラインハルト様は聞き上手ですね。私、少し話し過ぎましたわ」
「いいや、俺も楽しかった。もう眠そうだな。ゆっくり休んでくれ」
「でも……まだ、そばに……」

 マリアーヌはふわふわとした気分のまま、その場で眠りに落ちた。

「すまない」

 ソファーですやすやと眠ってしまったマリアーヌには、ラインハルトの声は届かなかった。
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